取り敢えず、今回はAs編のエピローグ的な物です。
次回から空白期と言えば良いのか、その辺りにはいります。
第百四話 新たな一歩
あの後、なのはが目を覚まし、約束通り関係者全員に俺の正体や今までの目的の全てをありのまま包み隠す事無く打ち明けた。反応は人それぞれであったが、皆なんとか飲み込んでくれていた。守護騎士、と言うより鉄槌の騎士ヴィータだけが何故か喜色満面になったり顔面蒼白になったりと一人百面相をしていたのが印象的だった。
俺はこの事を好きに報告して良いと言ったのだが、クロノから『こんな情報を上に回せるか!!』とキレられてしまった。 カルシウムが足り無いのだろうか? 病み上がりの身体で興奮するのは身体に毒だぞ。それと、何故か守護騎士、特にヴィータが親の仇を見るような目でクロノを睨み付けている、一体如何言う事なのだろうか?
本人に聞こうにも慌てて顔を俯けて目を合わせてくれない、仕方ないのではやてに話を聞いた所、要するに不死の英雄の熱狂的なファンらしい。 成る程、だから俺に食って掛かったクロノに敵愾心を持ったと言う事か、俺も随分偉くなったものだな。 張り切り過ぎだよソラール……。
取り敢えず今回の事件も無事に解決したので、俺達は各々帰宅する事になった。
何時の間にか日も暮れていて、辺りを街灯の光が照らしている、始まりの火を人の身で無理矢理使用した反動か、俺は指一つ動かせない状況のなのはを背負い、二人で家までの道をゆっくりと歩いて行く。
深々と降り積もって行く雪、息が白くなる訳だな。 だが、俺もなのはも其処まで寒く感じない、何故なら触れ合っているだけで暖かく、心の底から満たされて行くのが分かるからだ、何がとは答え辛いが兎に角お互いの中の何かがゆっくりとだが確実に満たされて行く。 だから俺となのはに会話は無い、黙って雪の降る道で帰路に着いている。
この沈黙の時間が堪らなく幸福だったが、途中で如何しても寄りたい場所があり、帰る前に一言なのはに断ってから寄り道させて貰う事にした。
「なのは、少し…寄りたい所があるんだ。 良いかな?」
「寄りたい、所?」
「うん、君と俺が初めて会ったあの公園に寄りたいんだ」
なのはが頷くのを感じ、そのまま俺達が初めて会った公園に足を踏み入れる、流石に時間が時間だった為か、人っ子一人居なかった。 なのはをベンチに座らせ、デバイスから混沌の刃を取り出す。 何をするのかと怪訝な表情を浮かべているなのはに一度笑いかけ、俺は伸ばし放題にしていた長髪を一纏めにして一気に斬り落とした。
「えっ!! ちょ、ブレンくん!?」
「俺はね、なのは。こんな物まで殺しの道具にして戦って来たんだ、笑えるだろう?」
「……笑わないよ」
「そうか、笑わないか。そう言えば全部見てたんだったね。 でも、もうこれで『不死の英雄』だった時の俺とは決別だ、常時戦場の心得の象徴だったこの髪を斬った今この瞬間に『私』は死んだ」
「…………うん」
「改めて、『ブレン・シュトッフ』として宜しくね?」
「……うん!!」
「それと、今日から騎士として君を守るのは辞めだ、一人の男として君の側で君を守る。 愛しているよ、なのは」
「うん!!」
斬り落とした髪の毛の束をそのままゴミ箱へと放り込み、今度こそ家に帰った。 予想外だったのは、思った以上に姉さんが俺の長髪を気に入っていたのか玄関で号泣されてしまった事だ。しかもその後、斬った髪をどうしたのかと鬼気迫る表情で聞かれ、素直に公園のゴミ箱に放り込んだと告げると泣きながら走り去ってしまった。 ……………髪は女の命と言うが、自分の髪以外も該当するのだろうか? 一緒に風呂に入って居ても自分の髪以上の時間を掛けて洗っているし、よく分からんな。
姉さんが肩を落として帰って来た所でみんなにアースラで話した内容と同じ話をし、そこに髪を切った理由も付け加えた後、土下座して謝罪する。隠していた事もそうだが、結局俺はなのはを自分の目的の為に道具として利用した事に代わり無い。 謝罪しなければならないだろう。
どの位頭を下げていただろうか? 不意に父さんが俺を立たせ、ゲンコツを一つ振り下ろした。 鈍い音と頭が割れたと錯覚するような痛みに目を白黒させていると、父さんは俺の肩に手を置き、目を合わせながら口を開いた。
「これでチャラだ。 もう不死の英雄じゃ無いんだろう? だったらこの話は此れで終わりだ」
「…………ありがとう、父さん」
「一つ約束だ、なのはを幸せにしろよ?」
「はい、必ず」
この日、この瞬間から俺はブレンとして新たな一歩を踏み出す事となった。
思い返して見れば、俺は今まで自分以外の為に剣を振るってきた、別にその事を後悔はしていないしやり直したいとも思わないが、そろそろ自分の欲とやらの為に剣を振っても良いのかな?
惚れた女を守る為に、支える為に剣を振って側にいる、これ以上に贅沢な事は無いし幸福な事は無いだろう。 願う事なら、彼女と所帯を持ち、子宝に恵まれ、人並みの幸せと言う物に浸っても良いのかな?
答えを返してくれる者は居ない、しかし俺は彼女と歩いて行くと決めた、誰が何と言おうと彼女と生きる。
なのは、やはり君に惚れて良かった。
ブレンの日記
新暦65年 ○月X日
色々と憑き物が落ちた記念に今日から日記を付けようと思う。
こう言った事は初めてなので何を書けば良いのか分からないので取り敢えず今日の出来事を書いておく。
まず身体の欠損が治った事で学校で一悶着があった、取り敢えず企業連のお陰と言う事にしておいた。 皆それに関しては『やっぱりかぁぁぁぁぁぁあ!!』と叫んでいた、何でも今有名な解体屋の口癖らしい。
しかし、身体の欠損が回復した事より髪を斬った事の方が心配されるとは思わなかった。 皆口々に『失恋か!?』『高町にフラれたか!!』など好き勝手に言っていたな。 そんな失礼な事を言った奴らは引っ叩いておいた。
昼休み、なのはが作ってくれたお弁当をるんるん気分で開けたのだが、あの赤い悪魔(トマト)が入っていた。 涙目でなのはを見ると、『好き嫌いはだ〜め』と笑顔で言っていた。その笑顔に逆らえず、渋々この赤い悪魔を泣きながら食べる事になった。
乱雑に斬った所為でざんばら頭になっていた髪をなのはに切り揃えて貰った。 姉さんが切りたそうにしていたのは申し訳ないが、こう言った事はやはりなのはに頼りたかった。
こんな所かな? 明日はアリシア主催の雪合戦をする予定だ。