今回はNEETしてるシフくんの回です。
……ペットは飼い主に似るって言うよね(白目)
第百八話 シフの平凡な一日
灰色の大狼シフ。彼はその昔、深淵歩きアルトリウスの墓を守護していた。来る日も来る日も暗い森の奥地で侵入者の血の匂いと断末魔の声を聞きながら墓を暴こうとする者を鏖殺してきた。 そんな彼からすれば、今の平和な毎日は何事にも代え難い代物であった。
だが、今の彼にも一つ不満があった、それは現在の自分の主人となっている男の事である。
「シフ、食事だ」
そう言って差し出された食事の量が明らかに少ない、すっかり食いしん坊となってしまったシフは不満気な視線を主人にぶつけるのだが、彼は何処吹く風。 そればかりか『嫌なら食事を抜いても良いんだぞ?』と脅しを掛けてくる始末、使い魔をなんだと思っているのか。
最近堕落し過ぎているから、と言うのが彼の言い分らしいのだが、シフにもシフなりの主張と言う物がある。
そもそも古今東西使い魔と言う物は未熟な主人を守りサポートする存在だ。 しかし、今の自分の主人は明らかに自分よりも強い、頭脳面に関しても同様で守る必要は愚かサポートすら必要としていないのだ。 転生者探しにしても、最早探すべき存在はこの世に存在しない、つまり自分は呼び出されているにも関わらず仕事が無いのだ。
だったら別に平和を堪能しても良いではないか、美味しいごはんに雨風の凌げるあったかい寝床、元気な子供らに囲まれて遊び呆けて居て何が悪い、これがシフの主張であった。
丸一日食事制限を掛けられたシフは意を決してこの主張を主人へとぶつけ、食事の量を元に戻せと抗議する、この要求を認められなければバニングス家、八神家、テスタロッサ家のいずれかに家出する事も辞さないと脅しを掛ける事も忘れない。 しかし当の主人は天を仰ぎながら『お前と言う奴は……』と何故か呆れていた。
シフの抗議が効いたのか、それとも根負けしたのかは分からない、ただ主人はある条件と引き換えにシフの怠惰な生活を認めると約束した。
その条件とは3mクラスの熊と猪、6mクラスのワニ、400kgクラスの鮪、現在世界最大級と言われているこれらの生物を自力で探し出して無傷で生け捕りにして来いと言う物だった。しかもタイムリミットは12時間、一秒でも遅れれば即失敗、楽園のような毎日はお預けとなってしまう。
条件を聞き終えたシフは即座に行動に移り、ターゲットを探す為に風のように駆け出して行った。 シフは水面を走りながら海を渡り、まず初めに向かった場所はアマゾン、ワニは熱帯や亜熱帯の地域に生息しているのでこの地から捜索を始める。
しかし物の大きさの分からないシフにはどれが最大級の代物なのか分からない、なので取り敢えず一匹づつ順番に大きな奴を傷付けないように気絶させて行き、その地域で最大のモノを割り出して行く。 たった数分でその一帯のワニを粗方仕留め終えたシフは、その中で最大級の物を持って一時帰宅、自分の主人の部屋へ換気の為に開けていた窓から生きの良いワニを放り込む、中で暴れている音が聞こえるが気にしない。
次のターゲットは熊、以前子供達が何かの雑談でホッキョクグマとやらが熊の中でも最大級と言う話を聞いた。 取り敢えず北極に居る熊を全部仕留めれば良いだろう、思い立ったら直ぐ実行。
北極に着いたシフが見た物は、『キサラギ生体研究所』と書かれた廃墟で暴れ回している白い熊だった。 この熊は他の白い熊に比べて二倍程の大きさをしている異常個体のようだ、天然の動物でなければならないと言う縛りは無い為、シフはこれ幸いとその熊を生け捕りにし、再び主人の部屋へと叩き込む。 窓をブチ抜き、巨大な身体を頭から部屋へと突き刺さった熊は、中でドタバタと主人と交戦しているようだった。
二つの目標は達成した、だが残る猪と鮪の居場所が分からない、仕方ないのでシフは世界中のキサラギの施設を虱潰しに探し回り、異常に大きな猪を手に入れ同じように放り込む。部屋の中では珍しく声を荒げて自分の名を呼ぶ主人の声が聞こえるが残り一つなので無視、鮪は確か魚だった筈。
シフは海に飛び込み、片端から巨大な魚を取っては放り込み取っては放り込みを只管繰り返した、途中から部屋の中がやけに静かになってしまったのが気になったが、取り敢えずこれで目的は達成出来ただろう。
やり遂げた達成感と満足感に包まれたシフは、誇らしげな表情を浮かべながら帰宅すると門の前で最近の温和な主人が、昔のように近寄れば斬れるような並々ならぬ殺気と威圧感を放ち、混沌の刃を抜いて立っていた。
如何したの? とシフが聞く前に問答無用で斬り掛かってきた、しかも次元を斬り裂き斬撃を飛ばしてくると言う程の本気ぶり。 何故? 如何して? と言う疑問を抱く前にシフは逃走を決意する、と言うか今の鬼気迫る彼と戦って勝てる気が全くしない。
全力疾走したシフは主人の視界から即座に離れ、彼の追跡を振り切ろうとしたのだが、次元を超えた斬撃が容赦無くシフの身体に襲い掛かる。 結局、シフはバニングス家、八神家、テスタロッサ家に転々と逃げ込み、なんとか次元を超えた斬撃をやり過ごす事に成功した。
後日、シフの食事がレーションや山盛りの鰻のゼリー寄せ等の料理になり、シフの自堕落な生活は暫くお預けとなるのだった。
ブレンの日記
新暦65年 ○月X日
シフのアホが俺の部屋の床をぶち抜きやがった。
思わず言葉が荒くなってしまったが、ともかく其れ程大変だったのだ。
あのアホを運動させようと無理難題を押し付けたのだが、奴は馬鹿正直に世界最大級の生物ばかり取ってきてよこした、それは良い、問題じゃ無い。
問題なのはその悉くを俺の部屋に放り込んでよこした事だ、おかげで部屋の中はぐちゃぐちゃ、床も抜けて大惨事だった。
しかも6mクラスのワニ、熊、猪、が立て続けに襲い掛かって来るは、それを仕留め切ったと思えば計測するのも馬鹿らしい大きさのホオジロザメやらカジキマグロやらを次々放り込んでくる。
思わず抜刀して奴を追い回した俺は悪く無いだろう。
それと自分の部屋が使えなくなったので、なのはの部屋で此れから暫く生活する事になった。
嬉しい反面、少し気恥ずかしい。