第百十五話
目の前の金髪の女性が自分の娘だと告げられたブレンはそのあまりの突拍子の無さに暫くその言葉の意味が分からず唖然としていたが、なんとか事態を飲み込もうとしたものの、やはり飲み込めるものでは無かった。
「お、面白い、ジョークだね、君が、俺の娘?」
「ま、まぁ、色々とありまして……」
「じゃあ俺の名前と正体は?」
「えっと、名前はブレン・シュトッフ、正体は不死の英雄。 好きな食べ物はなのはママの料理(本当はなのはママ以外にもフェイトママ達の料理や私達の料理も大好きなんだけど……)、嫌いな食べ物はトマトと辛い物(カレーだけはレヴィの大好物だから頑張って食べてるみたいなんだけど、トマトだけは結局克服できなかったんだよね)、実は囲碁とか将棋に強かったり、全く手加減ができなかったり、後はカナズチだから泳げない事とお酒に酔うと凄い事になる事かな?」
「……ああ、うん、分かったもう良い」
「ヴィヴィオさんのお父様って、意外と苦手な物が多いんですね」
「パパは完璧超人に見えるけど、案外苦手な物とか出来無い事があるんだよね。 なのはママには頭上がらないし、家事出来ないし、お金使いも結構荒いし、ママ達居ないと生きて行けないんじゃ無いかな?」
「わ、私の中での不死の英雄のイメージが大分崩れてしまったのですが……」
「現実はそんな物だよ、アインハルトさん」
………未来の俺は大分駄目人間みたいだ、確かに俺は戦い以外に物事知らないけどさぁ、未だに料理も洗濯も掃除も出来無いし、買い物もどんぶり勘定でやってるけど……、これから少しはその辺を頑張ろう。 話が逸れたがとにかく、目の前のヴィヴィオと言う女性が自分の娘である事に納得しておき、彼女達の目的を知った俺は『元をたどれば俺の後始末が甘かったのが原因か』と悩みながらも日が暮れ始めたので彼女達を連れて一旦帰宅する。
それと、その途中で彼女は義理の娘だと聞いた。普通はその辺の事は言い辛いと思うんだけど、逆にやたらと『義理』の部分を強調していたような気がする。小声で『私って一応聖王だから跡継ぎ問題もあるっぽいし』とか、『アインハルトさんは女性だから結婚出来ないし、となるとパパしか居ないよね?』とか『アインハルトさんも一緒に貰って貰おう』言っていたような気がするが気の所為な筈。
どうやらこの二人は行動拠点の事を考えていなかったらしく、最悪野宿も検討していたと言う。贔屓しなくても美人な二人が野宿となると変人ばかりのこの街では何をされるか分かった物じゃない、それに義理とは言え未来の娘を野宿させるのはどうかと思うしね。
ヴィヴィオから未来の俺への不満を聞き、二十年後の自分のアホらしさに若干凹みながら帰宅した俺を出迎えてくれたのは、なのはらしき少女だった。
「お帰りなさい、お父……、げふんげふん。 お帰り、ブレンくん」
「いや、確かになのはに似てるけど。 君、誰?」
良く似ているが表情が違うし何より雰囲気や気配が違う、ヴィヴィオからは何も感じなかったが、この娘からは若干の神性を感じる。存在も俺やなのはに近いようだから恐らくこの娘も俺の娘の一人なのだろう。
「ちっ、賭けはお母さんの勝ちですか、どうも初めまして、貴方の娘の高町シュテルです。 ウイッグ付けて服もお母さんの物を来ていた筈なのに、何故ばれたのですか? 愛の力と言う奴ですか? 私にもその愛を下さい」
「うん、まあ、その通り愛の力とかその辺かな? と言うより離れない? 半端じゃないくらい近いんだけど、吐息が掛かる程近いんだけど? 絶対親子の距離じゃないんだけど?」
「いえ、これで良いんです、寧ろこれが良いんです」
「は、ははは、そ、そうだ、なのはとの賭けって何?」
「賭けの内容ですか? 私がお母さんに変装してお父さんにバレるか否かを賭けていました。 因みにチップは今晩のお風呂の入浴券でした、勿論お父さんとの入浴ですよ?」
「……ああ、そう」
この娘、びっくりするくらいキャラが濃い。今もさりげなく腕を絡めて来ているし、胸も押し付けて来ている。 実の親子な筈なんだが、この娘の取る行動は恋人にするそれである。 未来の俺よ、子供の教育を間違えてるんじゃ無いのか?
俺は横から唇を狙っていた彼女を腕から引き剥がし、デコピンを一発かましてなのはの元へと真っ直ぐ向かう。今後の子供達の教育方針について早急に話し合わないといけなくなったからな。
「……もう少しだったのですが、やはりお父さんに隙は無かったですね」
「シュテルはブレないね……(その思い切りの良さと素直さが普通に羨ましいと言えば羨ましいかな?)」
「何時もよりも生き生きしてますね、シュテルさん」
「今のうちに籠絡しておけば未来に帰った時も私を意識して下さるに違いありません、姉さんも今のうちにその大きな胸を使ってお父さんを誘惑しては如何でしょうか?」
「…………そ、そんな事しないよ」
「ヴィヴィオさん、目線を逸らすって事は図星何ですか?」
「あ、あははは、やだなーアインハルトさん、パパはパパだよ?」
「その割には声が震えていますが……、まあ良いでしょう。 (ディアーチェと同じようなその痩せ我慢もどうせあと数年しか持たないでしょうしね。 二人とも好みの男性の特徴がお父さんな時点で恋人を作るのが絶望的ですね、そもそも恋心を抱く事が出来るのかどうかも怪しいですし)」
そもそも、と内心でシュテルは前置きしながら呟く。
お父さんは一時期殆ど家に居ませんでしたしね、当時は親と言うより近所のお兄さんに近い状態でしたから一種の憧れにも似た感情を抱いても不思議ではありませんよね、うん、私は正常です。
シュテルは一人で自分を正当化しながら、子供の教育方針を話し合っている両親の代わりにヴィヴィオ達を連れて桃子の手伝いに向かった。
不死の英雄伝 〜舞台裏〜
NGシーン 子供の不満 4
ブレン「でさ、未来の俺に何か不満とかある? 本人には言い辛いだろうし、俺に言ってごらんよ」
ヴィヴィオ「不満? うーん、色々自重して欲しいかな〜」
ブレン「自重?」
ヴィヴィオ「授業参観にベンツやフェラーリみたいな高級車で乗り付けたり、体育祭の父兄参加型の競技で本気出してぶっちぎったり、大会でVIP席から見てるのは良いんだけど、部下の人を使ってあらゆる角度から私を撮影したり、もっと自重して欲しいかなぁ」
ブレン「…………善処する」
大人ブレンの日記
新暦79年 ○月X日
明日は授業参観日、普段家に帰れない日が多いから何かの行事の時ぐらいは参加しなくてはな。 去年はなのは達がドレスを来て参席したので私もタキシードで参席したのだが、ヴィヴィオが恥ずかしそうにしていた為今年は目立たないようにして行こう。
と言うわけで目立つ銀髪が隠れる大きめなニット帽と顔を覆える程度の大きさのサングラス、口元を隠す為に大きなマスクを装備し、ダウンジャケットを着込んで参席しようと思う。
これなら派手では無いし誰も俺とは気が付かないだろう。
新暦79年 ○月□日
警備員に捕まった、私の素顔を見て即座に土下座したのだが、つい貴様らの謝罪などという下らない物は心底どうでもいいのでとっととヴィヴィオの所へ連れて行けと一喝してしまった。 反省しているし大人気ないとも思うのだが、本日は家族についての作文が発表される日で、私はそれを死ぬ程楽しみにしており、出鼻を挫かれた為に気が立っていたのだろう。
案内された教室に入ると非常に静かだった。
何があったのだろうかと首を傾げていると、フェイトから『さっきブレンの物凄い殺気と威圧感が学校中を駆け巡ったからだよ?』と耳打ちしてくれた、慌てなのはの顔を見ると『後でお説教だよ?』と笑顔で言っていた。 ヴィヴィオも膨れっ面で『後でお説教だからね!!』と怒っていた。
次からは素直にいつも通りタキシードとベンツにしようと思う。