シフ「待遇が酷い。そうだ、ちょっと働いて労働の対価とさかて待遇改善を訴えよう!!」
と言った回となります。
第百十七話 目標発見
シフがアリシアを背中に乗せたままターゲットの捜索を始めて三十分、件の闇術師は案外直ぐに見つかった。丁度昼時と言う事もあり、食事処の建ち並ぶ場所を捜索していたのだが、彼はとある専門店の中に居たのだ。
その店の名は『灼熱地獄』扱っている料理、それは『麻婆豆腐』
そう、何を隠そうこの闇術師は生粋の辛党だったのだ。
唯の麻婆豆腐専門店と侮るなかれ、この店の特徴は何と言ってもその辛さ、店先の看板には辛さの段階表が描かれており、その内容からもこの店の異常性が伺える。
『甘口・小一時間取れない辛さ、初心者にオススメ。 中辛•二時間程もがき苦しむ辛さ、辛党にオススメ。 辛口・三時間口呼吸が出来ない辛さ、命知らずにオススメ。特辛・死ぬ程の辛さ、リアクションで昇天したいお方にオススメ。 地獄・世界中のありとあらゆる香辛料を一皿の麻婆豆腐に凝縮致しました。確実に味覚破壊される辛さですので、これを食べたらもう他の食べ物は口に出来ません』
そして、目標の闇術師はこの地獄コースを選び、赤い刺激物をオープンテラスで食している。 このコースまで至ると辛い(からい)と言うより辛い(つらい)レベルであり、しかもこの一皿からは周囲の通行人を抹殺する刺激が放たれている。
此処まで辛いと当然口の中はおろか、空気すら辛い、とてつもなく辛い、具体的には狼であるシフが店先から数百m離れている地点でひっくり返って気絶する程辛いのだ。 尚、彼の背中に乗っていたアリシアもそのあまりの辛さに涙と鼻水を流している。
シフは気絶する前に念話を使い、ブレンに対して『奴は、辛味処で恐ろしい辛さのナニカを黙々と食している』と報告して力尽きる。
「うっ、うぅぅ……。 何でこんなに離れてるのに目が痛いのさ、と言うかあの店の周辺にはコンビニすら無いってのが異常だよ異常、なんでこんな店がこの街では平然と営業してんのさ〜」
泣き言を言っていたアリシアだったが、彼女の真横を野良AMIDAがカサカサと排水溝から出入りしている事や警察のパトカー代わりの量産型ファンタズマが公道を走り回って居る事に疑問を抱いていない時点で彼女も大概異常なのだが。
この街でも異常なこの店なのだが、二十年後の未来では企業連の重役を軒並みノックアウトしてしまい、彼らの怒りを買ったこの店は支店も含めて全ての店舗が物理的に潰されている店であり、生粋の辛党の中では一種の伝説となっている程の店であった。
取り敢えず、アリシアは伸びてしまったシフを運びながら何とか安全圏にまで退却する。彼女は近くの自動販売機から水を購入してシフの目と鼻を洗浄する事で何とか辛さによる刺激を緩和、彼の目を覚まさせた後に闇術師の監視を共に続けて行く。
闇術師は黙々とその兵器を完食していき、一皿、二皿、三皿と皿を積み重ねながら幾つも山を築き上げてからその店を去って行った。 ブレン達の準備がまだ終わらない為、見失わないように尾行を続行しなければならない、歩く刺激臭と化したあの闇術師を、である。その事実に思い至った二人は辟易しながら尾行を続行して行った。
次に彼が足を運んだのは麻婆専門店という名の兵器生産工場から1km離れた場所に位置する甘味処、『一気糖千』 この店の売りは『吐いても甘い』カロリー計算を度外視したスイーツを提供する店である、辛党の癖に甘党とは……。
元来、闇術とは深淵の力を使う物であり、深淵の邪神その物が欲望の塊な事からも分かるように、闇術師とは自分の欲望に忠実な者である。それが食欲にしろ性欲にしろ、闇術を扱う者達にはありとあらゆる欲求を抑えるタガが常に外れているのである。そう言う意味ではこの男は非常に闇術師らしい男と言えよう。
メニューの端から端までを注文してそれを次々平らげてゆく彼に胸焼けを覚え始めたアリシアは、吐き気を堪えながらも携帯電話を利用してブレン達に目標の行動を八つ当たり気味に逐一報告して行く。
早くやる事済ませて増援に来いと言う感情が籠っているように感じるのだが、そもそも彼女は待機組であり、デバガメしてこの件に首を突っ込んでいるのだから自業自得と言う物ではなかろうか? そんな疑問を、自分が乗っているシフの視線から察したアリシアは、拳骨を一発振り下ろしてシフを黙らせる。
「いい? シフは割とのんびり屋だから報告すべき物としなくていい物の区別が付かない事があるんだから、其処を私がフォローしてあげてるんだよ?」
「…………わぅ(別にのんびり屋じゃないんだけどなぁ)」
「しゃらっぷ!! シフはのんびり屋なの!! 幸せそうに蝶々と戯れてたり、色んな人から美味しいお菓子とかごはん貰って尻尾振ってたり、幼稚園くらいの子供にお手とかお座りを教え込まれてる狼はのんびり屋でいいでしょ!!」
シフの鼻先に指をビスビスと突き付けて説教をしていたアリシアだったが、偶々出掛けていたアリサとすずかが彼女の声に反応し、興味本位でアリシアの元へと来てしまった。
「往来のど真ん中で何を騒いでんのよ、あんたは」
「こんにちはアリシアちゃん、シフちゃん」
「アリサ? と、すずかも?」
この瞬間、呑気に構えていたシフが突如として三人の足を払って転倒させた。
アリシアとアリサが文句を言おうとした時、頭の上を闇の玉が通過して行くのが分かり、慌てて頭を伏せる。
見れば闇術師が杖を此方に向けており、周囲にはご丁寧に結界も貼られていた。
「灰色の大狼、だったか? 気高い神狼が俺のストーカーってなぁ中々愉快な話じゃねぇか。 嬉しいぜ? お返しにちゃんとファンサービスしてやるよ」
戦いとは無縁の三人の少女達にもはっきりとわかる悪意、純粋な彼女達はその悪意に身体の底から震えてしまって居たのだが、シフはそんな三人の様子を見て、順番に顔を優しく舐める事でその震えを収めて行った。
一通り少女達を落ち着かせたシフは、普段のおっとりした雰囲気を四散させ、威嚇する様に気高い遠吠えを放った後、ソウルからアルトリウスの大剣を取り出し、口に咥える。 この時、主人に対して『目標の襲撃を受けた。 アリシア、アリサ、すずかが巻き込まれたのでこれより交戦に入る』と念話で連絡を入れる事を忘れない。
今、此処にに立っているのは彼女達の知らないシフである。深淵歩きアルトリウスの墓を守護し、その指輪を守り続けて居た『灰色の大狼』それが今、この瞬間の彼であった。
不死の英雄伝 〜舞台裏〜
番外 父の日 〜娘の場合〜
ディアーチェ「さて、来週はいよいよ父の日だ。今年は珍しく父上も休みが取れるらしく、家でゆっくりするつもりのようだ。 そこで我等も父上に何か御奉仕したいと思うのだが、何か意見は無いだろうか?」
ヴィヴィオ「うーん、パパが喜びそうな事かー」
レヴィ「プレゼントとかかな? でも折角お父さんが帰って来るのに市販品ってのも味気ないよねぇ?」
ディアーチェ「うむ、オーダーメイドすると我々の小遣いでは足らぬし、かと言って並みの品を渡すのも気がひける」
シュテル「御奉仕……性的にですか?」
ディアーチェ「(無言の拳骨)……さて、我は至って真面目に話しておるのだ、おふざけは無しにして貰うぞ? シュテル」
シュテル「(さすさす)痛たた、ほんのお茶目ですよ。 おつまみ程度の料理と肩揉みなどはどうでしょうか? お母さん達が良さげなお酒を用意しているようでしょうし、その当てを作って差し上げれば、と」
ヴィヴィオ「め、珍しく……」
レヴィ「シュテるんがまともだ……」
シュテル「えっへん、なんならもっと褒めても良いんですよ?」
ディアーチェ「お主の場合、父上絡みの時と普段の時で落差が激しすぎて、まともな意見が言えた事に戦慄しておるだけだ、褒めておらん」
シュテル「残念ですね。こほん、では気を取り直して、料理をするとしたらですが、役割分担としてはディアーチェが料理、姉さんとレヴィが買い出し、私が皿ですね」
ディアーチェ「は?」
ヴィヴィオ「あのー、シュテル? もしかしてシュテルの料理って……」
シュテル「? 勿論女体盛りですよ? 私のこの身体では対して需要が無い事は分かっていますので、大人の玩具である『十年後のあなたは!?』と言うお薬をお母さんの名義で購入しておきました、セットで『十年前のあなたは!?』と言う薬も付いてくるようですね。 因みに効果は一時間です、効能はその名の通り、一定時間年齢を増減させる薬のようですね。購入履歴を見ると皆さんちょくちょく買ってる見たいでした」
ディアーチェ「」
ヴィヴィオ「な、何とも言えない気分なんだけど……」
レヴィ「?」
ディアーチェ「ええい、却下だ却下、普通に皆で料理を作れば良かろう!! アホな事を申すな!!」
シュテル「そう言うと思いましたので、この場に居るみんなの分も注文しておきました。これでディアーチェも姉さんもお父さんを誘惑出来ますよ?」
ディアーチェ「……………わ、我がそのような事を考える筈が無かろう」
ヴィヴィオ「わ、私もそんなことしない、ヨ?」
シュテル「二人とも面白い位に動揺してますね、良く考えて見てください。欲望でも野望でも、お父さんはそれを貫き通す人種が大好きです。 つまり押せ押せで行けばきっとーーーー」
レヴィ「なんでも良いけどさぁ、みんな僕やお母さんみたいに時間を止められる訳じゃ無いんだから早く何作るか決めようよ。 それと、殆ど半年ぶりに帰って来るのに料理だけじゃ何だかあっさりし過ぎてるしやっぱり他の事も必要だと僕は思うなぁ」
ディアーチェ「す、すまぬ」
ヴィヴィオ「ご、ごめんね?」
シュテル「すみません」
レヴィ「うん、じゃあどうしよっか、取り敢えず僕はネクタイ辺りをプレゼントしたいんだけど? ほら、僕らで一人づつ裏に刺繍を入れたりしてさ。 こうすれば態々オーダーメイドしなくて済むでしょ?」
ディアーチェ「ふむ、成る程な。 それならーーーーー」
シュテル「それも良いですが、此処はーーーー」
ヴィヴィオ(みんなパパの事になるとどっかネジが外れちゃうけど、半年ぶりにパパが帰って来るから今日はいつも以上に張り切ってるや)
その後は真面目に会議が進み、父の日には無事に娘達のサプライズが成功する事になった。
尚、シュテルの注文していた大人の玩具は会議の翌日なのはに見つかり、淡々とお説教をされていたと言う。
シュテル「せめて、せめてお説教役をお父さんと変わってください!! お母さんは笑顔が怖いんです」
なのは「だ〜め、それだと敢えて怒られに行くでしょ? そんなこと許しません」