本格的な戦いでは無く小競り合い程度です。
どうせマヌス戦がとんでも無いことになるんだから良いよね(白目)
第百十八話
剣を咥えて目の前の敵と睨み合いをしていたシフだったが、彼自身はこの場で決着を付けるつもりは無い。護衛対象が居なければ即座に縊り殺してやったのだが、少女達にトラウマを刻み込むような事は控えて、時間稼ぎに徹するべきだろう。 昔の主人のように御構い無しで殺戮するほどシフは非常識では無い。それともう一つ、奴には割れたペンダントがある為、逃がさない為にそれを奪還、もしくは生かさず殺さずを心掛ける必要がある。
その事を念頭に置き、シフは目の前の男へと斬り掛かった。踏み込みによる神速の斬撃は常人には捉えられない一閃、シフはこの一撃で彼の首に掛かっている割れたペンダントのチェーンを切断し、切り離された本体を奪い返すつもりだった。
だが目の前の男はまるで見えているかのようにその一閃を回避、それに続けてシフの脇腹へと膝蹴りを突き立てて蹴り飛ばす。
思わぬ反撃を受け、弾き飛ばされたシフであったが、半ば予想していたので落胆の気持ちは無い、寧ろこの程度は当然と言った表情を浮かべていた。空中で体制を立て直して着地したシフは割れたペンダントの現在の性能を、おおよそだが推測する事が出来た。
(時間停止でなく未来視を選択したって事は、時間の加速、停滞も使えないって所かな? その二つを使用されて蹴り飛ばされたにしては威力が無さ過ぎる、時渡りが使えるからその辺りも使えそうな物だけど……、まあ壊れてるし中途半端な性能なんだろうね、思ったより楽に終わりそうだ)
シフはあっさり大した事は無いと言う判断を下したのだが、シュテル達はこの未来視による先読みに幾度も辛酸を舐めさせられており、時を止められるレヴィですら打点を読まれてしまって傷を負わせる事が難しい程厄介な物のはずだった。
仕切り直しだと言わんばかりに聖剣を一振りすると、再び彼に向かって踏み込んで行く。今度は未来視をされている事を前提に速く鋭い突きを放ち、敢えて回避と反撃に移らせる。先ほどと同じように足癖の悪い反撃に見舞われたものの、来ると分かっているならば耐えられるのでそれを無視して前足による右フックを顔面に打ち込んで弾き飛ばす。
シフが取った行動は至って単純、彼の反撃に被せるように回避不能な速度でカウンターを叩き込む事。 未来視によって攻撃が見えていると言うならば、それを利用して回避先を誘導し、そこに攻撃を捻じ込んでしまえば良い。
地面に着弾する前に落下地点に先回りし、飛んで来る闇術師の顎をアッパーでカチ上げ、左ストレートで一気に吹き飛ばす。 アスファルトの上をバウンドしながら転がって行く闇術師に追い討ちを仕掛け、攻撃に気を取られた隙に彼の首に掛かっているペンダントを奪い返そうとしたのだが、追撃に向かおうとした第一歩目で闇の飛沫がシフへと襲い掛かる。
すぐさま横っ飛びし、飛来する泥の礫達を回避しながらアリシア達の前にまで戻りながらシフは歯噛みする。
(流石に其処までは甘くないかぁ、力に頼るだけの三流なら自分一人でどうにでもなるんだけど……、殴った時の手応えも軽かったしそこそこ腕は立つみたいだね。 彼程度の腕なら負けはしないけど、守りながら戦って殺さずに捕まえられるかって聞かれると怪しそうだなぁ、ご主人ももう直ぐ到着するみたいだし無理はしなくても良いかな?)
一方の闇術師であったが、彼は盛大にイラついていた。
何故なら、未来視と言う強力なアドバンテージが全く役に立たず、シフ自体の動きも全く見えない為、殆ど言いように遊ばれているからである。しかもシフはまだまだ余裕綽々と言った表情を浮かべており、自身に対して値踏みするような目をしているのである。
(ちっ、神狼の名は伊達じゃねぇってか? 折角のファンサービスもこのままじゃあ無駄に終わっちまう、この犬畜生と言い、あのガキ共と言い、悉く俺様のファンサービスを拒否りやがって、イライラしてしょうがねぇ)
それに、シフから放たれる一撃一撃はそのどれもが重くて速い、先ほどの一撃もかなり威力を殺したにも関わらずボールのように道路を跳ね回る事となった。
彼にとって幸いな事に、先ほどの一撃を受けてもまだ身体がしゃんとしていると言う事だ。 首を引っこ抜かれたような衝撃だったがインパクトの瞬間に身を逸らした事が功を奏したのだろう、ならばまだ戦える。
しかし、そんな彼の思いを打ち砕くように結界を斬り裂いて侵入して来る者が居た。
侵入者を察知し、その対策として追うもの達を展開しようとしたのだが、それより先に彼の目の前の空間が裂け、其処から一閃された銀閃に割れたペンダントのチェーンを斬り落とされ、空間の裂け目から現れたブレンにペンダントを強奪される。
「此奴は返して貰うよ、お兄さん?」
「ッ!! くそっ、空間を斬り裂くなんて芸当、英雄だなッ!!」
「大当たり。取り敢えず俺の不始末みたいだし、さっさと片付けさせて貰うよ?」
「……ムカつくぜテメェらァ!! 俺のファンサービスを悉く拒否りやがって!! なんでもっと俺に気持ち良くデュエルさせねぇんだよ!! 俺はお前達が苦しむ顔を見ていたいってのによォ!!」
流石に分が悪いと察した彼は、捨て台詞を吐きながら拠点まで転移して行った。
不死の英雄伝 〜舞台裏〜
番外 父の日 〜息子の場合〜
オルステッド「さて、来たる父の日なのだが、どうやらディアーチェ達が色々とサプライズを用意しているらしい。 其処で、普段から父上にご迷惑をお掛けしている我々も何か企画したいのだが?」
カイム「何か、と言われてもな、我々は父上に似て家事が不得手だ」
真改「…………三対一で父さんを斬ろう」
オルステッド「待て、どうしてそうなった?」
真改「…………父親と言うものは息子に越えられる事を望むのだろう?」
カイム「成る程、確かに父上は我等の相手をする際は嬉しそうだったな」
オルステッド「だからと言って問答無用で斬り掛かって良い訳でもあるまい、ストレイボウから聞いた話だとこう言った日はウイスキーやネクタイを贈ったりするのが良いとーー」
真改「貴様は良くもあんな男と付き合っていられるな、まさか貴様の母を見た際に言った第一声を忘れているのではなかろうな?」
オルステッド「…………良く覚えている」
カイム「確か、『アリシアさん、俺と不倫して下さい!!』だったか? 確かにあの人はコンパクトだが、一応人妻なんだぞ……」
真改「そんな阿保の意見など却下だ、三対一で今日こそ父さんを討つ」
カイム「まさか『妖怪首置いてけ』がまともな意見を出すとは思わなかった、前にシュテル達とやった肝試しではレヴィと組んで出てきた幽霊の首を叩き落としたそうじゃ無いか」
真改「アレはレヴィが『多分真改なら行けるよ!!』と言って来た物だから、試しただけだ。 俺も多分斬れると思っていたが斬れて驚いた」
オルステッド「斬らせる方も斬らせる方だが、要求通りに斬った方も斬った方だな……、と言うかもう三対一は決定事項なのか?」
真改「そもそも殺戮狂いのカイムもシュテルと組んでゾンビ狩りしていたではないか」
カイム「最近は犯罪者のダニ共が大人しくてな、欲求不満だったんだ、良いストレス発散となった」
オルステッド(だから私とディアーチェの番になった時に紛争地帯みたいになっていたのか……、気苦労話で盛り上がっていたから気にも止めていなかったが)
オルステッド「…………頼むから話を聞いてくれ。 あぁ、胃薬と頭痛薬が欲しい」
後日、彼らは父の日に本当に斬り掛り、仲良く素手で捻られた。
そしてこの一件は、全く手も足も出なかった事に憤慨した二人が武者修行と言う名前の家出を決意するきっかけとなるのであった。