第百二十三話 地力の違い
裸になっているヴィヴィオにバリアジャケットのコートを受け渡し、その矢面に立ちながら混沌の刃の切っ先を闇術師へと突き付ける。
「随分と私の娘が世話になったな、しっかりと礼を返さなくては行けないかな?」
「ヒーローは遅れてやって来るってか? ハッ、そいつはご苦労な事だが、俺が何の準備も無しにテメェを此処に誘い込むと思ったのかよ」
彼が指を鳴らすと、周囲の部屋から生気の無い顔をした人達がぞろぞろと現れた。 数は二十人、各々手に斧や包丁等の刃物を持っている、数の暴力で押し切るつもりなのだろう。
「そういやこの中に生きてる人間がいたんだったわ、せいぜい気をつけるんだな、迂闊に生者まで斬っちまわねぇようにな」
「…………この、外道がッ!!」
「アインハルトさん、あの人は死者を爆弾に変えるような人です、いざとなったら生きてる人を盾にしかねません、どう、しましょう……」
中々に上手い手だ、優しいこの二人だけならばその一言だけで正気の無い顔をした人々に対する攻撃を制限する事が出来ただろう。だが、今や元が付くとは言え私は神だ、生者と死者の違いくらい見分ける事が出来る、斬りかかってきた一人を迷う事なく斬り捨て、相手は死人であると示しながら皆殺しにして行く。容赦無く死者達を斬り捨てて行く私の様子に目の前の闇術師は面白くなさそう表情を浮かべて舌打ちを零していた。
(あの野郎、俺のハッタリもお構い無しに皆殺しかよ……、普通の神経なら生きてるかも知れない一般人を斬れる訳ねぇだろうに、気でも触れてんのか此奴)
血払いをしている英雄には何の迷いも感慨もみられない、あの野郎は斬り捨てた死人を一瞥するどころか、斬った身体を踏み付けながら此方へと向かって来やがる。 やはりこの男の本質は修羅、斬った敵に対しての情など持ち合わせてはいないのだろうよ。
良く戦場で人を斬った奴が『殺した奴の分まで命を背負って生きる』とか抜かしてるが、此奴はそんな奴らとは全く違う目をしてやがる。死者に対する責任くらいは感じているだろうがそれも義務感から来る物だろう、斬った事や殺した事を気にも止めていない、英雄と狂人は紙一重って事かよ。
(まともに勝負したらこっちが殺されちまう、邪神復活の為の肉体にしたかったが、仕方ねぇなこりゃ)
死者の活性を応用して動かしていた死人共で英雄を取り囲み、斬殺された死者を含む全ての死者を爆破する。爆破の衝撃で拠点にしていたこの廃墟が半壊しちまったが、奴を殺せれば十二分にお釣りが来る。
幾ら不死の英雄と言えど、二十発もの死者の活性を浴びればひとたまりもあるまい。 一発一発が命を喰らって炸裂する闇の炎だ、逆に喰らって立っていたら本物のバケモノだよ。
女共が悲鳴を上げているがこっちはそれどころじゃない、真一文字に深く斬り裂かれた背中の痛みも全く気にならない、そんな事よりも奴の生死が重要だ。
(クソッ!! 完璧に決まった筈なのに冷や汗が止まらねぇ、何なんだよこの感覚はッ!!)
爆煙が晴れるのを待つしか無い俺は、渇望の鎌を背中に背負い、憤怒の斧を両手で構えて最悪の事態に備えておく。 渇望の鈴で大回復辺りを使用して背中の傷を塞ぐべきなんだろうが、如何やらそんな暇は無かったようだ。
「見た事も聞いたことも無い闇術だな、中々強力だったがアルトリウスの大盾と、長らく私と共にあったこの鎧で十分耐えられる代物だ、深淵の力が込められていた事が少々厄介だったが、そいつは聖剣の加護でなんとかなった」
爆煙の向こうから傷だらけの鎧を身に纏い、左腕に三角の大盾と背中に聖剣を貼り付けた英雄が、無傷で俺の前に現れやがった。
「は、ははっ、このバケモノがッ!!」
「バケモノ呼ばわりとは心外だな、だが化け物は化け物らしく貴様を惨殺してやろう」
この宣言の直後、ブレンは一気に闇術師の懐にまで踏み込み、混沌の刃を一閃する、しかし狙ったのは首では無く、足癖の悪い彼の足だった。カウンターとして放たれた右の膝蹴りに合わせ、混沌の刃を縦に一閃、膝から下を一刀両断し右足を使い物にならなくする。
片足が斬り裂かれた所為でその場に崩れ落ちた彼はその体勢からも背中の渇望の鎌を左手で抜いてブレンの首を狙って一閃、そしてブレンの視線が鎌に向かった隙に彼の死角になる角度から憤怒の斧をブレンの心臓目掛けて突き出した。
絶妙なタイミング、片方に気を取られれば片方によって命を落とすと言う攻撃なのだが、血で血を洗う修羅道を歩んで来た不死の英雄には子供騙しにしかならず、結果として彼は経験の差をありありと見せ付けられることになった。 ブレンは右手に握った混沌の刃を一閃して闇術師の左腕を刎ね飛ばし、迫る憤怒の斧を左手の大盾でパリィし、脇腹を全力で蹴り飛ばす。
重い上級騎士の鎧に全体重を乗せて蹴り上げたその一撃によって、闇術師の肋が容易く粉砕され、廃墟の壁に彼の身体が叩き付けられる。 右足を斬り裂かれた上に左腕を跳ね飛ばされた彼は、砕かれた脇腹を抑える事も出来ず、流れ出る血を止める事も出来なくなっていた。 そして、壁に叩き付けられた衝撃によって咳き込んでいる彼の頭に振り下ろされる混沌の刃の鞘、本気で振るわれた鞘による打撃は彼の額を叩き割り、その顔を鮮血に染め上げる。
ブレンは自らの娘に手を出された事に腹を立てているのか、簡単には殺すつもりは無く、彼の全てを真っ向から叩き潰して首を刎ねる気であった。
(…………今、の、一撃で、頭、が、割れた、か。 ……こりゃあ、決定打、だな、実力が、違い、すぎる。最早、最後、の、手段を、取るしか、無い、か)
彼はある決意をすると震える右手で憤怒の斧に残った魔力を必要最低限だけ残して全て流し込み、その力を解放する。それにより至近距離に居たブレンは解放された魔力に吹き飛ばされ、彼から距離を離される事となった。
そして、闇術師は最後の死力を振り絞って邪神の撃破地点へと転移し、自らの肉体を生贄として予めデバイスに登録しておいた邪神降臨の儀式魔法を発動し絶命する。
今此処に邪神降臨の準備は整った、最悪が肉体を得て復活するまであと僅か。
今回はNGもブレン日記もお休みです。
マヌス=サンに復活して貰わないとネタが無いんです(白目)