第十三話 初めてのおつかい
あの殺し屋を返り討ちにした後、平穏が続いたので日常生活にも慣れ、なのはの手を借りずに済むようになった。
何時までも彼女の手を煩わせる訳にはいかなかった為、箸で小豆を摘んだり、一人でお風呂に入るようにしたりと特訓をした甲斐があったと言うもの。
なのはの世話になるのは堪らなく幸福だったのだが、頼ってばかりは居られないし、なんでも、テレビを見て学んだ事だがこう言う男を『ヒモ』と呼ぶらしい、情け無い男の称号らしいので早々に返上したかった。
そんなある日の事、士郎さんからあるプレゼントを頂いた。
そのプレゼントとは左腕に付ける義手で、彼がボディーガードをしながら世界中を飛び回っていた時の伝手を使って入手してくれたらしい。
早速左腕に装備して見るがかなり高性能なようで、まるで本当の手足のように動いていた。
「その義手はまだまだ試作品らしくてね、テスターの一人として意見をくれれば格安で譲っても構わないとの事らしいんだ」
手のひらを閉じたり開いたりとしていた俺に士郎さんから声が掛かり、義手の譲渡条件を教えて貰った。
要するに、普段の生活の中で思った事をそのまま伝えれば良いと言う事。
そしてこの義手ならば、隻腕だから出来なかった家事の手伝いも可能だろう、その中で意見を出して行けば一石二鳥だ。
「と、言う訳で桃子さん、何かお手伝いする事は無いでしょうか?」
洗濯物を取り込んでいた桃子さんに話しかけ、何か手伝える事は無いかと聞く。
「うーん、お手伝いねぇ……」
彼女は頬に指を当てながら目を瞑り、俺が出来ることを考えてくれているようだ。
「ブレン君はこの辺りの土地はもう大丈夫だったかしら?」
「シフの散歩で色々と歩き回ってますから、迷子にならない程度には」
彼女はその言葉に頷き、
「お醤油とお出汁がもう直ぐ切れそうだから、近所のスーパーまでおつかいを頼みたいのだけれど、構わないかしら?」
と言って、おつかいする物のメモを俺に手渡した。
そんなこんなで、俺は今なのはと一緒にスーパーの前に居る。
何故彼女が一緒にいるかと言うと、俺一人では何かヘマをしてしまったとしても気付く事が出来ないため、彼女に同行を願ったのだ。
…………ヒモに片足を突っ込んでいるような気もするが、ミスを防ぐ為だ仕方ない。
「ブレンくん、おつかいのメモには何が書かれているの?」
そう言った彼女と共に、義手の手の平に広げたメモを確認する。
メモには以下の通りに書かれていた。
『お醤油とお出汁をお願いします、それと余ったお釣りでなのはとお菓子を買っても構いません』
ちゃんと平仮名が振ってあり、買う物の商品名も書かれている為迷う事は無い。
それに、家を出た際に美由希さんが後をつけてきているので、最悪彼女に頼るのも手だろう。
張り切っているなのはとはぐれないように手を繋ぎながら店内に入り、目的のブツを探して商品棚を見て行く。
義手のテストな訳なのだから、極力左腕を使いながら商品を一つ一つ調べて行く。
「ねぇ、なのは」
「ほえ?、どうしたのブレンくん?」
「家で使ってる醤油って、濃口?薄口?、それとも減塩?」
目的の醤油はあったのだが種類が多く、違いが分からない俺には当たりが三分の一と言う状況だ、どうしたものか。
なのはもどれを使っているのか分からず、両手の指をこめかみに当てながら『むむむ』と悩んでいる。
もう一度メモに目を通して見るが、どうやら書き忘れてしまったみたいなのであまり役に立たなさそうだ。
後ろの美由希さんも教えようかどうか悩んでいるのか、行ったり来たりとその場で右往左往している。
あんまりやりたくは無い手だが、聞きに戻っていては時間が掛かるので彼女の反応を利用して判断させて貰おう。
徐に濃口醤油をカゴに入れ、彼女の気配を探ると物凄く慌てて居るのが分かったので、濃口醤油を棚に戻す。
そうすると、胸を撫で下ろしたような気配になったので、今度は減塩醤油に手を伸ばすと、『惜しい‼︎けど違う‼︎』と言うような動きをしている、これもハズレだな。
残る薄口醤油をカゴに入れ横目で彼女を覗くと、うんうんと頷いていた。
次は出汁を見に行ったが、こっちは特に何も問題は無く、なのはが見つけた出汁をカゴに入れて精算に向かう。
レジに居る店員にお金を渡し、お釣りを義手で受け取ってなのはと一緒に買い物袋を持ちながら家路に着く。
無事におつかいも終了したので、お釣りをどう使った物かと悩んだが、近くに自動販売機が有ったのでジュースを買う事にした。
ラインナップは以下の通り。
ヤシの実サイダー。
きなこ練乳。
ウインナーソーセージ珈琲。
ガラナ青汁。
ハバネロパイナップルジュース。
濃縮栄養飲料SURVIVAL+1。
いちごおでん。
AMIDA汁。
ユニークな名前の代物ばかりで非常に目を引く物だったのでこの自販機にしたのだが、美由希さんがとんでもない勢いで首を振っている、何故だろうか?
二人分のお金を入れ、先ずはヤシの実サイダーを背伸びして購入する。
何事も無く出てきたサイダーをなのはに渡し、俺も同じ物を買おうとしたのだが、何せ幼児の身体だ。
背伸びの際に足が震えてしまい、指が隣の商品のボタンを押してしまった。
出て来た商品はハバネロパイナップルジュース。
缶には『喉に絡みつく飲みごたえ』と書かれている、どのような飲みごたえなのだろうか。
美味しそうにサイダーを飲むなのはを見て、俺もプルタブを引き、ハバネロパイナップルジュースを飲もうと口を近付けたのだが。
「ストォォォォォォップ!!」
物陰に隠れていた美由希さんがいきなり飛び出してきた為、思わず一気に飲んでしまった。
その後の事は思い出したくもない………。
ただ一つ言える事は、これ以降俺は辛い物が苦手になったと言う事だ。
ハバネロのおかげで苦手な食べ物ができたね(白目)