まあ、苦悩していきながらもその分最終的にはきっと良い女に成長しますよね。
第百三十二話 英雄の娘達
暴れ回るシステムU-D、彼女は目に付く物体を片端からその魄翼で粉砕して行く。巨大な翼で暴風を巻き起こし、身の丈を超える大剣や大鎚を作り出して縦横無尽に振り回す。
そんな彼女に斬りかかって行ったのはやはりレヴィ、切り込み隊長として時間停止能力を使用しながら嵐のような攻撃の合間を縫って背後に回り込み、先ほど自分が斬りつけた場所を寸分違わず切り開く。
背中に走る痛みが強くなった事でレヴィの存在を認識したシステムU-Dが彼女へと襲い掛かる。魄翼を使って火の海となった大地から熱を収束し、それを砲撃として撃ち出そうとレヴィに向かってその翼の先を向ける。
しかし、その直後システムU-Dのこめかみへと一本の矢が直撃し、着弾によって巻き起こった爆炎と衝撃で彼女の軽い身体が吹き飛ばされる。 この矢の名は『シュツルムファルケン』 シグナムが放った物だ。気休め程度の効果しかないエンチャントアイテムとは言え、この一撃は彼女の持つ技の中でも最も火力の高いものだった事もあり、一瞬だけシステムU-Dの意識を刈り取る。
ただ、暴走状態の為か直ぐに回復してしまったのだが、脳へのダメージは抜け切っていないらしく身体がふらついている。その隙にヴィータが懐へと潜り込み、デバイスを振り上げてシステムU-Dの顎を弾き上げ、空中に浮いた身体に向かってシグナムと同じく自身の持っている最強の技を繰り出す。
一旦彼女から距離を離し、身の丈程もあるグラーフアイゼンのギガントフォルムを数十倍にまで巨大化させた後、それを真っ直ぐに振り下ろす。フェイントも何も無い愚直な振り下ろしは当然の如く魄翼で容易く防がれたものの、その重量と衝撃によって彼女を釘付けにする。
そして、魄翼と両手を上げてグラーフアイゼンを支えているシステムU-Dの胴体に向かってはやての放ったソウルの奔流が叩き込まれる。
この魔術は四発のソウルの槍を拡散気味に放つ事で執拗に敵を追尾させる魔術であり、ドラングレイグでは最高峰な代物だ。 更に、彼女が使っている魔術はブレンの使用していた魔術と同じ原初の魔術であり、使用している杖も最高の触媒。いくらシステムU-Dと言えど無傷で済む威力では無く、それを無防備な身体に叩き込まれた彼女は血を吐きながら地面に膝を付くも、痛みによる恐怖と怒りによってグラーフアイゼンを魄翼で握り潰す。 彼女は魄翼の翼を広げて熱を収束、ルシフェリオンブレイカーを形成し、その膨大な熱量を持った砲撃をヴィータに向けて発射する。
ヴィータに迫る熱線は容易くその身を蒸発させる力を持っていたのだろう、砲撃の余波だけで地面が熔解し蒸発して行っている。
だが、その砲撃はヴィータまで届かなかった。
ヴィータの前に割り込んだのはシュテル、彼女はルシフェリオンで熱線を防ぎ、満身創痍の身体に鞭を打ちながら自分のそれを遥かに凌駕した熱量の砲撃を全て吸収して見せた。 彼女自身の意地とそれを支えるルシフェリオン、シュテルの両腕は火傷で焼け爛れ、ルシフェリオンも全身に罅が入り、所々が大きく融解していた。そして、こんな状態にも関わらず、シュテルは『一矢報いましたよ?』と不敵に笑いながら空を指差す。
その直後にシステムU-Dは信じられない程の魔力量が自分の上空に収束して行く事に気が付き、シュテルの指が刺す場所を見上げる。 其処には、もう一つ太陽が出来たと錯覚する程の砲撃魔法が二つ展開されていて、そのすぐ側にはなのはがレイジングハートを天高く掲げながら発射態勢を整えていた。
高町なのは自慢の魔法、『スターライトブレイカー』 不死の英雄を一撃で沈黙させた力を持ったこの魔法に、彼女は更に混沌の大火球を混ぜ合わせ混沌の炎を内包した砲撃へと仕立て上げる。 そして、周囲から音が消える程の轟音と共に放たれた二つのスターライトブレイカーは、発射の直前に無理やり掛け合わされ火力を倍でなく累乗した威力を持ってシステムU-Dへと襲い掛かる。
この超火力の前では流石の魄翼も耐え切ることが出来ず、盾として扱った翼や刀剣達は混沌の炎に焼かれながら消し飛ばされ、システムU-Dの全身が業火の中へと叩き込まれる。
反撃に出ようにも、先程から立て続けに浴びせられる魔法や技に身体が反応してしまい、強制的にそれらを覚えてしまう。頭の中には幾つもの魔法や技の情報が渦巻き、整理する事を優先しなければ頭がパンクしてしまう。整理する時間としては一秒にも満たないだろう、だがしかしその一秒にも満たない時間こそが致命的な一瞬だと言うことを彼女は知らない。
情報を整理しようと一瞬だけ周囲から意識を逸らした彼女の全身をまるで鉄の処女のようにザフィーラの鋼の軛が貫き、彼女の身体を空へと突き上げる。
新たに加わった魔法に思考が遮られる、ぐちゃぐちゃになった彼女の脳内に追い討ちを掛けるように英雄の娘達の全身全霊を込めた攻撃が叩き込まれた。
まず初めに動いたのはシュテル、満身創痍の身体で同じく満身創痍の愛機を操り、形態を内蔵された炎のハルバードへと切り替える。炎の鍛冶師が特殊な種火を使って鍛え上げた神の時代の炎、この豪炎の前では凡ゆる物が灰燼に帰る。それだけに飽き足らず、この斧槍の先端は深淵の力によって黒炎の力を宿し、黒い炎に触れたものを爆破する。
そんなハルバードを渾身の力を込めてシステムU-Dへと突き刺し、吸収し続けていた熱の全てを放出する。
次に動いたのはレヴィ、竜狩りの槍に施した太陽の光の剣が切れない内に自分の周囲に雷で出来た無数の剣を作り上げる、その数は何と四十。 そしてその青い雷の剣には一本一本、太陽の光の剣が纏われており、彼女はエンチャントが途切れないうちにその全てを射出する。
最後に動いたのはディアーチェ、母の持つ夜天の書を元に自作した紫天の書を掲げ、その中でも最強の火力を持つ魔法の一つを呼び出す、自分の迷いを振り切るように、己の全身全霊を込めた叫びを上げながら、その魔法の名を叫ぶ。
「疾れ明星!! 全てを灼き消す焔と変われ!! 真・ルシフェリオォォォオン!! ブレイカァァァァァア!!」
「本日二度目のパワー極限!! 雷刃封殺爆滅剣!!」
「紫天に吠えよ!! 我が鼓動!! いでよ巨重!! ジャガーノート!!」
シュテルの熱線がシステムU-Dの硬さを打ち砕き、其処へレヴィの雷の剣が殺到、四十本の剣が突き刺さると同時に爆散し、衝撃によって抗うことができなくなったシステムU-Dの身体にディアーチェによる漆黒の砲撃が叩き込まれる。
しかし、恐るべきはシステムU-Dのタフさである。これほど熾烈な総攻撃を浴びながらもまだ二本の足で立ち上がり、魄翼を再び展開しようとしていのだ。
「全部……覚えたッ!!」
全員の技と魔法を全て習得し、魄翼を使ってその全てを再現しようとする。 天にはスターライトブレイカーが、真・ルシフェリオンブレイカーが、雷刃封殺爆滅剣が、ジャガーノートが、魄翼の側にはシュツルムファルケンの弓矢が、ギガントシュラークが、地面には鋼の軛が、その場にいる全ての人を飲み込もうとしている。
一刻の猶予も無くなったその時に、ディアーチェは月明かりの大剣を構えて突き進む。 彼女の道を塞ぐ物はシュテルが焼き払い、シュテルが撃ち漏らした細かな障害をレヴィがその神速で排除する。 ディアーチェの前に壁は無く、背中を預けた者達の切り開いた道のみが真っ直ぐに続いている。
破壊衝動に苦しみながら頭を抱え、いやいやと左右に振っているシステムU-D、彼女のその瞳からは大粒の涙が零れ落ち、心の底では助けを求めている事が見て取れる。
(聖剣よ、今だけ、今この瞬間だけで良い。その力を我に貸せ!! 我が未熟なのは重々承知しておる、だがこの娘をなんとしても救ってやりたいのだ!! もしも、貴様がこの後に及んで我に力を貸さず、彼奴を救えないなどという結末に至るのならば最早貴様なぞいらん!! 炉にくべてやる!!)
ディアーチェの思いが通じたのか、はたまた聖剣の気まぐれだったのか、燻んでいた聖剣は嘗ての輝きを取り戻しその力を完全に解放する。
ディアーチェは内心で素直に聖剣へ感謝の意を示すと、渾身の一突きを放ち、深々とシステムU-Dの胸に聖剣を突き立てる。
すべての力を完全に解放した聖剣は、システムU-Dの中に巣食っている深淵の波動と邪神の呪縛を完全に断ち切り、それらを一つ残らず浄化する。
システムU-Dの暴走が止まり、彼女の理性の回復と共に破壊衝動が徐々に収まってゆく。 完全に破壊衝動が消えた訳ではないものの、辛うじて自分の理性で堪えられるレベルまでに収まった事に安堵したのか、彼女はディアーチェの腕に倒れ込み、安らかな顔で眠りに落ちる。
何時の間にかシステムU-Dから抜け落ちた聖剣は再び燻んだ色合いになってしまったが、ディアーチェは何処か晴れやかな気分でそれを拾い。
その場にへたり込んだ。
(な、なんとかなったか……、最早魔力は一滴も無い。 見れば我以外の皆もその場に座り込んでおる、例外はシグナムとザフィーラか……、まああの二人は当然と言えば当然かもしれんが)
かくしてシステムU-Dの暴走は止まり、残す脅威はマヌスのみとなる。それは同時にディアーチェ達の長い長い旅の終わりと、過去の両親達との別れが迫っているという事であったーー。
取り敢えずユーリちゃんの方はこれで決着、後は溶接機(大王の大剣)で破壊衝動を緩和すれば解決です。