邪神編も完結、後は子供達と戯れてからSTSまでの空白期を数話やります。
第百三十三話 決着の時
ブレンは月明かりの大剣に魔力を流し、その切っ先をマヌスに突き付けながら彼を睨み付ける。対するマヌスは面白くなさそうな顔をしながらも右手に持っている斧槍『憤怒の斧』を同じように突き返し、潰された左腕を後ろに下げる。 未だに彼の体内が毒に蝕まれてはいたものの、捻られた左腕から流れ出る血によって大分緩和されていた。
その証拠に苦しそうに肩で息をしていたのが一変し、深呼吸を繰り返しながら呼吸と心臓の鼓動を整えている。利き足を潰されてしまっているブレンからすればこの状況は最悪と言っても過言では無く、マヌスの体制が整う前に斬り掛かりたい所だが、先にも言った通り彼の右足は粉砕されており、満足な踏み込みは望めない。
今は砕け去った骨の代わりに混沌の刃を突き立て、それを鉄芯にしながら立っている状態だ。 不死人であった嘗てならば、エスト瓶を使用する事でこの程度の怪我は治療出来たのだが、現在の彼は最早不死では無く一介の人間。 不死の身では薬であったエストが普通の人間にも薬足り得るとは限らず、仮に薬であったとしてもどのような副作用が起こるか分からないのでこの様な応急処置をするしか無い。
一応、エリザベスの秘薬はまだ残っているのでそれを使えばこの状態は打破出来るのだが、今はまだ生命の危機に瀕しておらず、寧ろシステムU-Dと交戦して負傷し、重傷を負ったヴィヴィオとアインハルトにこそ使用するべきだろうと彼は考えている為、やはりこのまま戦うしか無い。
ブレンは月明かりの大剣を一閃し、光波を放つ。 自分でも持て余し気味な莫大な魔力を力尽くで捩じ込みながら放たれた光波は、通常の三倍の大きさとなってマヌスへと襲い掛かる。
聖剣の中の聖剣、大王グヴィンですら死を覚悟した月明かりの大剣による光波は闇の化身であるマヌスにとって一撃必殺の力を持っている。 闇を祓い、穢れを浄化する絶対的な光の力、当たり所によっては掠るだけでも惨事と化す、しかしこの光波の前では生半可な盾は無力、盾越しの爆風で塵も残さず消し飛ばされてしまう。
その事を十分に理解しているマヌスは敢えて後退する事無くブレンへと向かって走り出し、光波の真下をスライディングする事でそれを回避、同時に憤怒の斧をソウルにしまい、『渇望の弓』を取り出して電光石火の三連射をブレンに返し、潰れた左腕に括り付けた杖から闇の飛沫を発動させる。
正中線に沿って額、喉、心臓を狙った三連射、左右への逃げ場を無くす為に放たれた闇の飛沫、ブレンはこれらを回避する事をせず、黒竜の大剣を取り出してその力を解放する。 此処で下手に回避や防御などの行動に出てしまうと、奴の追撃によって命を落としかねない為、彼は迎撃を選んだ。
地面に突き立てられた黒竜の大剣から黒い炎が溢れ出し、炎の津波となってブレンへと迫る全てのものを焼き尽くす。マヌスは闇術『反動』を利用して自分に襲い掛かる炎を防ぐ、この闇術は一瞬の間だけ凡ゆる攻撃から自身を守る代物なのだが、先程の月明かりの大剣のように光波に付いている爆風等による体勢崩しには無力であり、非常に使い所が難しい、しかしこう言った回避不能な面制圧攻撃を受けた場合などには有効であった。マヌスは渇望の弓の能力を使用し、太陽の光の槍に見立てた矢を番え、炎の津波の中から飛び出して来るであろうブレンに狙いを定める。
こう言った場合の時、ブレンは必ず炎を目くらましにして奇襲を仕掛けてくる。これは常に格上の敵と戦い続けてきた彼の癖であり、彼の記憶を全て所有しているマヌスにとっては決定的な弱点とも言える。
案の定、炎の津波の中心部から上空に人影が飛び上がる、その人影の背中には邪神ですら無意識に怯んでしまうような圧倒的な存在感と神聖さを放つ聖剣が背負われているのが見て取れる。 眩しく忌々しいその聖剣を暴発させ、落下による加速と爆風による急加速を合わせた一撃を見舞うつもりだったのだろう。
しかし、背中に背負われた聖剣の威圧感によって奇襲は失敗、落下に合わせて引き絞ったその矢を放ち、その胸を貫いた瞬間、マヌスは違和感を覚える。
あのようにあからさまに目立つ奇襲をあの男が実行するだろうか? という疑問、確かにブレンは捨て身の奇襲を得意とし、敢えて下策を取ることで相手の動きを先読みするような男であるが、その場合ギリギリまで聖剣に魔力を充填する事はせず、剣を振り下ろす直前になって乱暴に魔力を流し込む筈、しかし今回は予め魔力を込めており、迎撃されると分かっていながら飛び上がっている。
何故そのような真似を、マヌスがそう考えた直後、彼は今戦っている男がどのようにして大王グヴィンを討ったのかを思い出す。 目を凝らせば自分が撃ち抜いた物は下級騎士の鎧一式、まんまとダミーに引っかかり決定的な隙を晒してしまっている、これをあの男が見逃す筈がない。
後悔は一瞬、その場から無理矢理身を引いたが間に合わず、炎の津波の中を燃えながら斬り掛かってきたブレンに弓ごと両腕を斬り落とされる。 彼の手に握られている剣はアルトリウスの大剣、この剣の力によって彼の身体はアルトリウスのように満身創痍ながらも突き動かす事が可能であり、邪神の反応速度を超えた常人離れの一閃を放つ事が出来たのだ。
だが両腕を斬り落とされたからと言って戦えないと言う泣き言を抜かす程邪神は甘くはない、すぐさま切断された両腕の代わりを深淵の泥で代用し両腕で渇望の鎌を握りながら斬り掛かる。
邪神は両腕を失ったものの、天敵である聖剣は空高く放り投げられている、落下まではまだ時間的猶予があるので剣を振り抜いた体勢のブレンを攻めるには今しかない。
更に、彼は知らなかったが、先ほど投げた聖剣にはこの奇襲を悟られ無いようにと、ブレンの持っている魔力を根刮ぎ込められていて、今の彼には魔法も魔術も使用する事が出来無いという点からも攻めるには好機だった。
彼が斬り掛かろうと渇望の鎌を大きく構えた所でマヌスの胴体がずり落ちる、見ればブレンの手には先ほどまで握っていたアルトリウスの大剣は無く、右足に突き刺していた混沌の刃が握られていた。
彼はマヌスの反撃に備え、その両腕を斬り落とした直後にアルトリウスの大剣を投げ捨てながら右足の混沌の刃を引き抜き、マヌスの胴を一閃したのだ。
鉄芯代わりにしていた混沌の刃を引き抜いた所為で立つことも侭ならなくなったが、彼は上空から落下してくる聖剣を掴み取り、そのまま倒れ込むようにマヌスの心臓へと突き立てる。
両腕と胴体を泣き別れにされた彼に突き刺された聖剣、最早邪神にはその力に争う事は出来ず、その身体を浄化されて行った。
「二度も……、敗北するとはな……」
「当然だ、何故なら化け物を殺すのは何時だって人間なのだから」
「クククッ、まあ良い……、月並みな言葉だが、我を討った所で人間に感情が有る限り、何度でも我は復活する……」
「勝手にするが良いさ、私の死後ならば貴様が復活しようと知った事か」
「……不死の英雄とは、思えん台詞だな」
「もう私はこの世界の神では無い、それ以前に私は自分を英雄などと自称した事はない、今の私は私の思うままに剣を握っているんだ」
「……傲慢だな、それではいずれ我のように新たな英雄に討たれる日が来るかも知れんぞ?」
「討てるものならば討ってみろ、私はどんな手を使ってでも勝ち残って見せる。…………無駄話は終わりだ、消えるが良い邪神マヌス」
そう言ってブレンは月明かりの大剣に込めた魔力を解放し、マヌスを消し飛ばす。
それと同時に結界が晴れ、なのは達が心配そうに駆け寄ってくる。ブレンは満足そうにそれを眺めながら自分の身体を子供の身体に戻し、聖剣に凭れかかりながら身体の怪我が治るまで安静にするのだった。
マヌス「何度でも蘇るさ!!」
人間の負の塊である以上この世界での奴は不滅です、完全に人間の感情を平坦にしてしまえば復活出来ないんですが、それはこの世界とは真逆ですからね(白目)