と言っても大層なフラグではありませんが。
第百四十一話 名探偵アリシア?
『…………よって、犯人は貴方以外にあり得ないんですよ!!』
五月晴れと言う言葉が似合う土曜日の朝にて、アリシアはフェイトと並びながら最近密かにハマっている探偵アニメを視聴していた。
このアニメは通学途中に偶々事件現場に居合わせた高校生が、犯人断定に至る決定的な証拠を見つけてしまい、何故か有能な探偵と勘違いされ、その際に知り合ったへっぽこ刑事に数々の怪事件難事件に半ば強制的に巻き込まれて行く物で、初めは的はずれな推理や証拠の見落とし、犯人に言いくるめられるなど、探偵にあるまじき姿を度々見せるものの、回を追う毎に積み重ねられる経験が彼を徐々に一流へと押し上げて行く。
平均視聴率50%を記録した『企業戦士 アクア・ビットマン』と言う伝説的番組の後釜として不安視されていたのは遠い昔、全くの素人が名探偵に成り上がる姿が何処かの誰かとそっくりだと言う話をなのはが語り、フェイトと共に視聴した所、気が付けば二人ともこの作品に引き込まれて行った。
「しっかし、この主人公は毎回毎回ハラハラさせてくれるよね、単純なトリックに引っかかるし、犯人に論破されそうになるし」
「成長しても変わらない物があるって事なんじゃないかな? 姉さん」
「……お母さん達みたいに?」
「リニス、今度の授業参観に着て行くドレスはどれが良いかしら?」
「私服で結構です」
「貴女はフェイトとアリシアに恥をかかせる気なの!?」
「むしろそっちの方が恥ですよッ!!」
「本当、毎回飽きないよねお母さん達」
「あ、あはは」
引きつった笑いを零すフェイトを余所に、アリシアはアニメのエンディングソングを聞きながらブレンから借りたシフを枕にしつつ、何か面白い事が起きないかと暇を持て余していた。
(何かしら事件を引き起こすブレンはミッドだし、アリサとすずかは習い事、なのははお店のお手伝い、お母さん達の喧嘩も何時もの事、シフで遊ぼうとも思ったけどそれはこの間やったばかりだしなぁ)
フェイトに意見を聞こうにも、彼女は既にアクア・ビットマンDVDBOXを取り出しており、完全に鑑賞モード、余程の事がない限り画面の前から動きそうに無い。
暇だからフェイトを連れて翠屋にお手伝いしに行くか、はやてと共に何か悪巧みでもしようかと思っていた所、ふと先ほどまで見ていたアニメの内容を思い出す。
「そうだ、探偵になろう!!」
「えっ!? 姉さん今なんて?」
「よーし、行くよシフ!! まずは事件探し、れっつごー!!」
「姉さん? 姉さん!?」
フェイトの静止も虚しくアリシアはシフを連れて走り去る、後に残されたフェイトは姉の行動力を思い知りながらも、プレシアに報告しようとしたのだが既に彼女は居らず、『アリシアを撮影してきます』と言う置き手紙が残されているだけだった。
さて、勢い良く飛び出したアリシアだったが、完全なノープランだったので何かアテがある訳も無く、茶色チェックの帽子と伊達眼鏡、玩具のパイプを咥えて探偵風の格好をしながらシフの背に乗って街中を徘徊していた。
「シフ、事件の匂いを嗅いでこの名探偵(予定)アリシアに知らせなさい」
胸を張りながら自分の事を名探偵と言ってのけたアリシアに、やれやれと言わんばかりの態度で付き合うシフは持ち前の嗅覚と神狼としての聴覚をフル活用してアリシアでも解決出来そうな事件を探し始める。
鼻と耳を動かして数分、近くではやてとシャマルが何やら困っているようなので問題が解決される前に駆け付ける事になった。
「う〜ん…、どないしたもんかなぁ」
「本当にどうしましょうかはやてちゃん」
「ふっふっふ、何やらお困りの様子だね!! そんな時は名探偵(予定) アリシアにお任せ!! 遠慮なく事件の内容を話してよ」
「なんや猛烈に不安やけど……、実は財布を落としてもーてな? これからザフィーラ呼びに戻ろかと思っとったんよ」
「でもここからザフィーラを呼んでも大分時間が掛かるし、待ってる間にはやてちゃんもスーパーの特売に間に合いそうに無くて……」
「……じけ、ん?」
落し物探しや迷子探しなどは探偵物の定番とも呼べる仕事なのだが、もっと難事件に出会うだろうとワクワクしていたアリシアには肩透かしも良い所だったが、軽い落胆の息を吐きながらも友人が困っているのを見過ごす事も出来ず、シフにサイフを探させる。
どうせ直ぐに見つかるだろうと高を括るアリシア一行だったが、事態は思わぬ展開を迎える事となる。
捜索を開始して数分後、シフが財布を見つけたと言うのだが位置が移動して行っているらしい。 しかも、明らかに車に乗った速度を出している、はやて達は徒歩でスーパーに向かっている最中だった為、バスやタクシーなどの交通機関は利用していない。
つまり、誰かが財布を拾ってバスなり車なりに乗っていると言う事となる、その人が何者かは分からないが世の中は善人だけでは無い、財布を持ったその人が真っ直ぐ交番に向かってくれるならともかく、ネコババされてしまう可能性だってある。
こうなっては探偵云々等と言っている暇は無く、早く財布の持ち主に追い付かなくてはならないが、闇雲に追っていては埒があかない。シフに本気を出させれば話は別だが、それでは否が応でも目立ってしまい、面倒事が増えてしまう。
それを避けるには最短ルートを通って相手の先回りをする必要があるのだが、アリシアは最短ルートこそ割り出したもののその肝心の先回りをする方法を思い付けない。
こうしている間にも相手は刻一刻と離れて行く、悩んでいる暇などない。自分の浅はかさに唇を噛みながらシフによる強行手段に出ようとした時に、はやての携帯電話が音を鳴らす。着信相手はアリサ、こんな状況だったがはやては通話に応じ、その内容に耳を傾ける。
『もしもしはやて? 丁度今習い事終わったんだけど、道端にあんたの財布落ちてたわよ?』
「アリサちゃんが拾ってくれたんか、ありがとうな?」
『さっきまでバスに乗ってたから連絡遅れちゃったけどね、これから家の方に向かうつもりなんだけど』
「もし良かったらスーパーの方に来てもらえんやろうか?」
『オッケー、すずかも連れて行くわね?』
大事にならずに済んだものの、アリシアは遊び半分で事件を探すなどと言った自分が恥ずかしくなりはやてに頭を下げた後シフの背中に乗ってとぼとぼと帰宅するのであった。
この件以降、アリシアの向こう見ずやトラブルメーカーな面が少しは改善されたらしいです(白目)