あからさまなスカリエッティの挑発、彼は人間の可能性を信じるブレンへ見せ付けるように人間の闇を見せ付ける。
第百四十三話 世界の癌
俺が施設を壊滅させてそこに居た全ての研究員を皆殺しにした後、俺のデバイスに一つの通信が入った。
『やあ、初めまして不死の英雄殿、君に出会えて歓喜の極みだ。私はジェイル・スカリエッティ、君が生み出した負の産物だよ』
通信映像には薄ら笑いを貼り付けた白衣の男が映っている、感に触る一言を浴びせられてしまい、思わずデバイスを叩き斬ってしまいたかった。
この男は俺の理が生み出した世界のガン、彼自身が言っていたように俺自身が作ってしまった負の産物。
『クククッ、その様子だと私のプレゼントは気に入って頂けたようだね、私も作った甲斐があると言う物だよ』
「…………」
『怒りのあまり何を言えば良いのか分からないのかね?』
「…………貴様が、あの子達を」
『その通り、態々君の上司にこの施設の情報をリークしたのもこの私、研究成果を真っ先に君にお披露目したかったのだが、その反応に大満足だ』
「何が、目的だ?」
『目的か、人工の神を製造する、君の毛髪から入手した細胞を用いて最強の兵士を作り上げる、世界の根底を覗き始まりの火をこの手で作り上げる、どれが良いかね?』
「目的など無いと言う訳かッ!!」
『目的? それは愚問と言うものだ、細々とした目的はあるものの、極論してしまうならば私には目的など存在しないのだよ』
スカリエッティは薄ら笑いを浮かべて俺に向かってはっきりと目的など無いと言い放ち、俺の顔に張り付いた驚愕の表情を見て愉快そうに狂った笑い声を上げる。一頻り笑い終わった後、『すまないね』と謝罪した後、更に続けて行った。
『良いかね? 君は仮にも管理局の士官ならば知っておくべきだ。世の中には手段の為ならば目的を選ばないと言う様などうしようもない連中も確実に存在するのだよ。つまりは、とどのつまりは私のような』
そう言って彼は指を鳴らす。
その直後、俺の真後ろの扉から桜、黄、白の三色の閃光が俺に向かって一直線に放たれる。
アルトリウスの大盾を構え、その襲撃を凌ぎ切ったのだが、俺の目の前に現れた襲撃者は予想通り最悪な者達だった。これならまだ、大王グウィンや本気のアルトリウスと戦った方が圧倒的にマシだ。
アルトリウスの大盾を構える左手が震える、襲撃を受けたと言う事は目の前の者達は味方では無いと言う事、戦わなくてはならず、この手で斬り捨てなければならない者達だ。
『お近付きの印に、まだ私の手元に残っていたサンプル達に君の討伐を命令しておいた、愛する者達のパーフェクトクローンと思う存分殺し合ってくれたまえ』
「貴様ッ!! スカリエッティ!!」
俺と対峙する者達、それはスカリエッティの名前が刻まれた首輪を付けたなのは達のクローン。目に生気が無く、人形として俺と対峙しているのであれば目を瞑って斬る事が出来たかも知れない、だがこのクローン達の目には理性の色が見えている。 俺は、斬らなくてはならないのか?
『お気に召してくれて何よりだ、君だって感情の無い人形を相手にするのではつまらないだろう? だから記憶を転写し、首輪型の洗脳装置で意識を残したまま君を討つように仕向けている。 それともう一つ、彼女等の体内には君の細胞から創り上げた遅効性の薬が既に投与されている。仮に君が彼女等を殺す事を良しとせず、甘んじて敗北を受け入れたり、首輪を破壊して彼女等の洗脳を解いたとしても、後三十分もすれば彼女達の自我と体組織が崩壊、以前の数倍の苦しみを味わいながら死亡する事になる、実に良心的だろう? では失礼するよ、私もこう見えて多忙なのでね』
そう言って奴は通信を切り、それとほぼ同時になのは達が俺に襲い掛かる。
幸いな事になのはとフェイトのデバイスは未強化のレイジングハートとバルディッシュ、はやての夜天の書も酷似した性能を持ったレプリカのようだから、殺すだけならば其処までの苦労は無いだろう。
…………殺すだけならば。
「ぶ……れん…くん、おね…がい」
「……なのは」
「ぶれ…ん、わたし…たちを」
「……フェイト」
「わ…たし…ら…を」
「……はやて」
『ころ…し…て』
奴は言った、この三人には記憶を転写してあると、遅効性の薬を投与してあるから残り三十分足らずの命であると、彼女達は言った、『殺してくれ』と、三人ともが口を揃えて俺に自分を殺せと。
首に付けられた洗脳装置に抵抗しているのか、杖を構えた彼女達の手が震えている、もしかしたら死ぬ事への恐怖、殺される事への恐怖によって震えているのかも知れない。
俺は、腰に差した混沌の刃を引き抜いた、カタカタと音を立ててゆっくりと鞘から引き抜かれた混沌の刃は切っ先が酷く震えており、これでは斬られた側は必要以上の苦痛を強いられてしまうだろう。
一瞬、大王の大剣を使えば彼女達を救えるのでは? と言う考えが浮かんだが、直ぐにそれは出来無い事だと思い至る。
それをしてしまえばこの研究が明るみに出てしまう。そうなれば、神秘の細胞とやらの存在が知れ渡るだけでなく、完成されたクローンであるこの娘達の処遇も人間以下のモルモットとなる事は火を見るよりも明らかだ、ならばいっそのこと、今ここで俺の手で殺してやる方が良い。
(落ち着け、落ち着けッ!! 相手はなのは達じゃない!! 人形、人形なんだ!! なのは達を斬る訳じゃない、本物の彼女達を殺す訳じゃない!! 非情になれ、何も考えずに作業的に刀を振り下ろすんだ!! ここでこの娘達を斬らないと、この娘達を斬れないと、俺はあの男に対して何も出来ずに大切な物を蹂躙されるんだ!! だから、だからッ!!)
荒い息を無理やり整え、固く目をつぶりながらクローン達の前に歩み寄り、両手で刀を握って上段に構える。
目を閉じていても、目の前のクローン達が死に怯えているのがはっきり分かる、特になのはに関しては、泣いているのが嫌でも察してしまう。
だが、何時までも固まってはいられない、俺が殺さなくとも彼女等は悶え苦しみながら死んで行く運命なのだから。
こうして、俺はそのまま刃を振り下ろし、一人一人、首を落として行った、フェイトも、はやても、怯えながら、泣きながら死んで行った。
地面に転がった三つの遺体、呆然と立ち尽くしていた俺だったが、急に身体に力が入らずに膝から崩れ落ちる。 ロートレクの時以来であろうか? 気が付けば俺は膝をつき、溢れ出る涙を只々流しながら斬ったクローン達に詫びていた。
クローンとは言え、自らの命よりも大切な者達をその手で斬ったブレン、何時に無く彼の手の内に生々しく残った手応えが彼を責め立てる。
クローン達を救う手立てを持ち合わせていたにも関わらず、彼の理性が救ってはいけない者達として彼女達を斬った。
そして、平和と幸せに浸っていた彼にとってこの三人を手に掛けた事は何よりも辛く苦しい重りとなり、大切な者達とのすれ違いを生む事になる。