第百四十五話 すれ違う者達
ブレンくんからの連絡が無くなってから三ヶ月が経過しました。 季節も夏から秋に変わったと言うのに此方の通信にも返信は一切無く、私の不安は募るばかり。何時もの彼なら長期間私の側から離れる事になったら毎日のように連絡をしてくれているのに、今回に限ってはそれがありません。
まだ私が生きているから死んじゃってるなんて事は無いだろうけど、全く連絡をくれないなんてことは初めての事なので心配で仕方無いです。
「はぁ、今日も返信無しかぁ……」
誰かに相談しようにも、この間アリサちゃんに相談した時に『今までがべったり過ぎたんじゃないの?』と言われてから何だか気が引けて相談し辛くて一人で悶々としてしまっている。
思えば、私の側には物心付いた時からブレンくんが居てくれた。ブレンくんが管理局入りしてからはちょくちょく呼び出されて私の側から離れていた事はあったけど、基本的には何時も連絡してくれていたので寂しくは無かった。
しかし、今は寂しくて仕方ない。
お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんもお姉ちゃんもシフちゃんも、みんな揃っているのにブレンくんが居ないだけでどうしようもなく寂しい、まるで自分の心の中に大きな空洞が出来てしまったようだ。
私は、彼に依存しているだけなのだろうか?
私は彼から与えられるばかりで彼に何一つ与えられては居ないのでは無いのだろうか?
私はフェイトちゃんのようにカッコ良くて綺麗でも無いし、アリシアちゃんのように天真爛漫でも無く、はやてちゃんのように特別料理上手な訳でもない、アリサちゃんやすずかちゃんのようにお淑やかでも無い、何の取り柄も無い私が彼に何をしてあげられるのだろうか?
ベットの上で横になりながら首に掛かっているレイジングハートを摘みながら、たった一つだけ自分に取り柄があった事を思い出す。
去年の春私が出会った不思議な力、魔法と言う私の持つ唯一無二の取り柄、この力があったから私はフェイトちゃん達と出会えた、この力があったから私ははやてちゃん達と出会えた。
この力があったから、ブレンくんの死にたがりを治してあげる事が出来たんだ。
(……明日オフだしミッドに行こう。 そして、ブレンくんが今どうしているのかクロノくんに直接聞きに行こう)
翌日、ミッドチルダに出掛けようとしていた私にお父さんから朝一でブレンくんが直接『暫く帰れない』と連絡して来た事を私に教えて貰いました。
何故私には一切連絡を入れてくれないにも関わらず、お父さんには連絡を入れるのだろう?
もしかして嫌われてしまったのだろうか、唯々彼の優しさに甘えているだけの私だから彼に飽きられてしまったのかも知れない。
そう考えた私はいてもたってもいられ無くなり、家を飛び出してミッドチルダに向かいました。
(彼に捨てられるなんて今まで考えた事が無かった、彼は無条件に私を愛してくれる物だと思い込んでいた、会って謝らないと)
この時の私は、ブレンくんに嫌われたく無い気持ちで一杯で、彼が今どんな状態でどれほど苦しんでいるのか全く理解していませんでした。
ミッドチルダに到着した私は直ぐさまクロノくんに連絡を取り、ブレンくんの様子を聞きたかったのですが彼は忙しいからと言って取り合ってくれませんでした。
アポ無しで会いに行っても会えないのは当たり前の話ですが、この時の私は全くその事に気が付いておらず、如何にかしてブレンくんの事を知る事ばかり考えていました。
そんな時、偶々通り掛かったユーノくんが肩を落としている私にブレンくんの現状を教えてくれました。
曰く、ブレンくんは今陸に所属しながら必死になって捜査官になる為のお勉強をしているそうで、ユーノくんは寝食を忘れている彼に何度も勉強に付き合わされていて、今日も徹夜でお勉強に付き合わされた帰りだそうです。
ユーノくんは『あの馬鹿は物凄く追い詰められているみたいだ。寝食を忘れた勉強と言うより、眠るのを嫌って勉強しているようにしか見えない。表情も死人以上に生気の無い顔つきをしていて見てるこっちが辛い、彼は今も自室に篭ってる筈だから会いに行ったらどうかな?』と言って私にブレンくんの部屋を教えてくれました。
何度も何度も彼に頭を下げた後、私は真っ直ぐにブレンくんの部屋の前に向かい、その扉をノックして返事を待ちました。
「……クロノか? それとも、ユーノか? 食事の誘いなら後にしてくれ、今の俺は食欲が全く無いんだ」
「あ、あのっ!! ブレンくん? なのはだけど……」
「…………帰ってくれ」
「えっ?」
「今は…君の顔も…君の声も…見たくないし聞きたくない、そのまま帰ってくれないか?」
「な、なんで!? どうして!? 私が悪いなら謝るから!! 気に入らない所があるなら治すから!! だからーー」
「良いから帰れって言ってるんだよッ!! 今君が俺の側に居ても何の役にも立たないし俺の足を引っ張るだけなんだよッ!!」
「あしで、まとい? 私が? ブレンくんの?」
そのまま、私は覚束ない足取りでその場を離れました。
無自覚の内に私が彼の足を引っ張っていたなんて思わなかった、その事で彼の力になれない事が心の底から悔しかった。
私が弱いから、私が頼りないから、ブレンくんは私から離れちゃうんだ。だったら、今よりもっと強くならないと、もっと頼れるようにならないと……。
私は無意識にレイジングハートを強く握りしめていました。
ブレンはなのはの訪問を涙を流しながら冷たい言葉を浴びせ掛けて追い返した、勿論その口から出た言葉は彼の本心では無いが扉越しのなのはにその事は分からない。
彼の放った一言は彼自身が思う以上になのはの心に大きな亀裂を入れ、取り返しの付かない事態を引き起こす事になる。