私には彼が必要だった。
ひとりぼっちが辛くて壊れてしまいそうな程に追い込まれていた私を彼は救ってくれた、私をひとりぼっちにする事なく、常に側に居続けてくれた。それが当たり前の事だと思っていたし、これからも一生彼は側にいてくれると信じていた。
だから、彼の拒絶の言葉を聞いた時に私は自分が悪いのだと思い込んだ、彼に依存しきっていた私は全て自分が至らないばかりに彼に嫌われてしまったと思ってしまった。
言葉の裏に隠された彼の悲鳴にも気付かず、私はひたすら彼に見捨てられないように強さを求め続け、ーーーーこの雪の日にその愚かさを痛感する。
第百四十七話 雪の日
地面に積もった雪が赤く染まって行く、深雪の中に横たわる私をヴィータちゃんが涙を流しながら必死に呼び掛ける、その表情から多分私は重傷なんだろうと言うことは理解出来た、視線を胸の辺りに持って行けば心臓付近を見事に貫かれているのが見える、背中が焼けるように暑く頭痛が酷い。ブレンくんに強化して貰った筈のレイジングハートも何故か中破していて、私はバリアジャケットが解除された状態だった。
何故か自分の事なのに何処か他人事で、ブレンくんならこんな時如何するんだろう? と場違いな事を考えていた。
ブレンくんから貰ったネックレスがあるから暫くすればちゃんと元通りだよ、とヴィータちゃんに告げたのだけど彼女は更に泣き出し、私を抱き抱えるとそのまま部隊の医療班の元へと連れて行こうとする。
大袈裟だよ、大丈夫、私は大丈夫だからと口にしたくても、何時の間にか声が出なくなっている。 仕方ないので朦朧とし始めた意識の中、ネックレスに魔力を流し込んで傷を塞ごうとしたのだけど肝心のネックレスが見当たらない、それどころか今まで感じられていた自分の魔力が一切感じられ無くなっていた。
全力全開で医療班の所に向かっていたヴィータちゃんが私の動きに気が付いたのか、震える手でポケットから完全に砕け散った私のネックレスを取り出し、私の手に握らせてくれた。
ーーーー私、壊しちゃったんだ、ブレンくんから貰った、大切な宝物だったのに。
この日、高町なのははヴィータと共にとある科学者が過去に使用していた施設を破壊する任務に着いていた。
それは期待の新人であり、才気あふれる彼女には些か簡単な任務、更に同行者には知り合いである守護騎士が付いている、事故など起こりようは無かったし、ブレンのように不眠不休でオーバーワークを繰り返していたなのはに息抜きをさせる意味合いを込めた単純で重要性の低い仕事だった。
しかし、事故は起きた、偶然では無く起こるべくして。
粗方施設の重要箇所を破壊したなのはは深く息を吐く、彼女はブレンの拒絶以降無茶を繰り返し溜まる疲労を誤魔化し自分は大丈夫だから、ちゃんと休む時に休んでいるからと笑顔を振りまいて周囲を騙し続けていた。
彼女の首に掛かっていたネックレスは原始結晶の欠片を削り出した物、それに秘められた神秘の力は凄まじく彼女の負う傷や病などを完全に回復してしまう。
どれだけ魔力を使っても、どれほどの重傷を負おうと、一晩眠れば必ず全快したし、魔力を流す事で回復速度を加速させる事が出来るので、彼女は事あるごとにこの力を使っていた。
だが、このネックレスは『傷を負う』『病に罹る』と言う二つの行為がキーとなってその力を発揮する代物、傷を負っている最中や病気の初期症状の時点では発動せず、疲労は蓄積する一方なのだ。
それを知らない彼女の度重なるオーバーワークで蓄積していた疲労がこの任務を終えた瞬間に一気に噴き出し、その感覚を大きく鈍らせる事になる。
砲撃を撃ち終えると同時に全身の力が抜け、猛烈な脱力感と共に思考が朦朧として纏まらなくなり、その時が訪れる。
強烈な疲労感に襲われていたなのはの意識が覚醒したのは自分の胸元から生える鉄の爪、それは最近各地に現れ始めた『ガジェット』と呼ばれる物の兵装の一つだった。
しかも、このガジェットにはステルス迷彩が搭載されており、目視での発見は不可能、感覚を周囲に広げる事が出来るなのはならば接近に気が付けた筈なのだが、彼女は疲労感によってそれに気が付かなかった。
赤く染まった鉄の刃、なのははそれを見つめながらも極めて冷静にレイジングハートで殴り付けようとするも、彼らの持つその凶刃に阻まれてしまう。その際に、何故か異様にこの刃が硬く、レイジングハートが損傷してしまう。
炎派生されているレイジングハートの炎が刃を溶かし始めた瞬間、ガジェットが自爆しその爆風によってなのはの身体が地面へと叩き付けられ、その衝撃で突き刺さっていた刃が彼女の身体を抉りながら貫通する。
この時に彼女のネックレスは破損し、紙一重で即死は間逃れたものの、ほぼ致命傷だった。
中破したとは言えまだ多少なりとも機能が生きていたレイジングハートの救命措置によってギリギリ生きながらえて居るものの、早急に本格的な治療が必要な状態となる。
これが、高町なのは撃墜の一部始終である。
この様子を心底愉快そうに笑いながら眺める男が居る、その男の名はジェイル・スカリエッティ、史上最悪の犯罪者にしてブレン・シュトッフに世界の癌と称されたマッドサイエンティスト。
彼は自分の作品達ですら知らない部屋で財団と共に高町なのは撃墜の瞬間を鑑賞していた。
「いやはや実に面白いショーだったね、財団殿」
『相変わらず君の趣味は悪趣味だねドク、僕では君と言う人種に対しての理解が及ばないよ』
「悪趣味? 財団殿は中々辛辣だね、私の個人的な趣味にケチを付けられるとは思わなかったよ」
『僕は君と同じ穴の狢だと思われたくないだけさ、ところで次はどうするつもりなんだい? また例のサンプルを使うのかな?』
「実を言うと彼女達を使うのにも飽きてしまってね、この間一部を除いたサンプル達を大量に処分した所なんだよ」
『ふーん、で? その一部は何に使ったんだい?』
「そう言う趣味の管理局高官に半年前に高く売り付けたさ、勿論英雄殿にもこの情報はリーク済みだよ、但しこの情報は数日前に送った物だから今頃陵辱の限りを尽くされ女性としての尊厳を全て無くした彼女達と対面しているだろうね、サービスとして必ず妊娠する様に彼女達は細工しておいたから彼は罪も無い胎児迄も殺す事になる」
そう言って、彼はモニターの映像を切り替える、其処には惨殺死体が転がりどれが誰だか分からない状態になっている中で、彼女達を買った高官の首に混沌の刃を突き立てるブレンの姿が映っていた。
「ふむ、私の予想では既に彼は殺されていると思っていたのだがね、流石は英雄殿と言ったところか」
『とは言え、サンプル達は原型を残さない程に惨殺されているところからも彼自身の限界も近いみたいだ、次は僕にやらせて貰うよ?』
「私は一向に構わないよ、財団殿」
この雪の日に始まった惨劇は高町なのは撃墜に止まらず、彼女の騎士にも狂気の牙が襲い掛かる。
ーーーー高町なのは撃墜。