彼女は背負った物の重さで押しつぶされそうだった俺の心を救ってくれた。
掛け替えのない、俺の命よりも大切な女性。
俺はそんな彼女の優しさに甘える事で戦えなくなる事を恐れたのだろう、俺は取り返しの付かない事をしてしまった事に気が付いて居なかった。
第百四十八話 紅き熾天使
惨殺したなのは達のクローンを踏みにじり、命乞いをする屑に刃を突き立てながら、この場で斬り捨てたい衝動を死ぬ気で抑え込む。
目の前の男は聞くに堪えない言い訳を繰り返しているが、奴らと直接の面識を持っている貴重な人物だ、軽々に殺す事など出来はしない。
「ふ、ふははは、もう儂は終わりだ、奴らは初めからこのつもりだったのか……」
「…………何を言っているのだ貴様は、今はーー」
『殺しはしない』そう告げようとした時、部屋の壁が吹き飛び、其処から現れた赤い影が俺の捉えていた男の首を刎ね飛ばした。
地球のアニメ、漫画で見たようなその機体は俺も良く知っている物だった。
俺がその機体を警戒していると、その機体から財団の声が聞こえた。相変わらず人を見下した声のトーンで彼は俺に信じられ無い事を言った。
『やあ英雄殿、元気かな? 今日は君に一つニュースがあるんだ』
「財団か、何の用だ」
『そっけない態度だね、まあ僕も君と馴れ合う気は毛頭無いから要件だけ手短に、高町なのはが撃墜されたよ』
そう言って、奴は空中ディスプレイを起動し、なのはが撃墜される迄の一部始終を流し始めた。その光景が俺の心に大きな罅を入れ、剣を下ろしてしまった。
「なの…は…?」
『彼女はミッドチルダの中央病院に緊急搬送されたようだよ? 尤も、君がそこにたどり着くにはナインボール・セラフを退けないといけないけれどね』
『全システム、チェック終了』
「……ナインボール・セラフ、だと?」
『戦闘モード、起動、ターゲット確認、排除、開始』
『じゃ、頑張ってね』
そう言って財団は通信を切り、セラフはノイズ混じりで無機質な声で俺を敵だと認識すると、背中のブースターを起動し左腕のレーザーブレードを展開し、斬り掛かって来た。俺は鎧とアルトリウスの大剣と大盾を展開し、目の前のセラフを迎え討つ。
アルトリウスの大剣の力によって、俺は彼の反射神経を使用出来るので、限界まで攻撃を引きつけその腕を一閃しようとしたのだが、セラフは俺のカウンターに合わせて急旋回し、遠心力を乗せた回し蹴りを俺の頭に捻じ込んだ。
鉛の爪先が俺の側頭部に突き刺さり、そのまま蹴り飛ばされて頭から壁に激突する、追撃をされる前にアルトリウスの大盾を構える。その瞬間、彼のレーザーブレードから月明かりの大剣の光波に良く似た物が盾に直撃する。
何とか追撃を凌いだので体制を立て直そうとしたのだが、視界が赤く染まり、額が割れている事に気が付いた。頭痛も酷く、どうやら頭に罅が入っているようで、吐き気も催してきた。
月明かりの大剣を展開し、背中に背負いながらその力を使って回復を図りながら立ち上がる、安静にして居なくては十分に効果を発揮しないが血が止まれば今は問題無い。
痛みを堪え、アルトリウスの大剣と大盾を構えながら突進、踏み込みと共に光波を暴発させて更に加速、人間離れした速度で刺突を放つ。
しかし、俺の放った刺突は緑色の粒子に阻まれ、そのボディーを傷付ける事が叶わなかった。
恐らくコジマ粒子を模した何かだろうが、聖剣の一撃を止めるほど分厚く、もう一度光波の爆風を使って刃を押し込もうとしたのだが、腹部に焼きごてを押し付けられたような猛烈な痛みが走る。
見れば、セラフの左腕に備え付けられたレーザーブレードが俺の鎧の隙間に捻じ込まれており、俺がその手を払いのけようとした瞬間にその刃が爆発する。
地面に横たわる俺をセラフは見下し、背中のオービットを展開しながら胸にコジマ粒子を収束、ゼロ距離で光波の爆風を浴びた所為で身動きの取れない俺は、背中に背負った月明かりの大剣の刀身を透過して自分の前に持って来ると、今度は刀身を硬化させて盾とする。その直後、無数の閃光が俺を襲い、その周囲一帯ごと吹き飛ばされた。
緑色の爆風に全身を焼かれながらも俺は大王の大剣を取り出し、地下の下水道まで道を繋げて落下、その際に追撃を防ぐ為に開けた穴を塞ぐ。
下水をクッションにしたものの、腹には風穴を開けられ、頭にも罅が入っている、更に駄目押しとして全身を爆風で焼かれているので満身創痍も良い所、落下の際にマシンキャノンの掃射を浴びた事もあり、今の俺は剣を杖代わりにしなくては立ち上がる事すら儘ならず、大量の出血と重度の火傷によって意識が朦朧とし始めた。
なのはが撃墜された瞬間に側にいてやる事が出来ず、その身を守ってやる事が出来なかった事が完全に俺の心を折っており、どうにも意識を保つ事が出来そうに無かった。
最後の気力を振り絞り、俺はなのはの居る病院まで空間を斬り裂いて何とか其処まで到着する。
空間を斬って辿り着いた場所は集中治療室の前、何時ものメンバーと父さんや母さんは勿論、兄さんや姉さん、忍さん達やプレシアさん達も集まってくれていた。
俺が覚えているのは此処まで、元々薄れていた意識の中で身近な人の姿を見た俺は緊張の糸が途切れてしまい、その場に崩れ落ちた。
とある研究所の一室、其処で財団とスカリエッティは今回の成果について話し合っていた。
『どうかなドク、僕の作ったナインボール・セラフの実力は? 聖王教会が大量に抱え込んでいる折れた直剣を君と僕の技術で溶かし固めた合金を使った装甲だから、プライマルアーマーが無くとも早々堕ちはしないよ?』
「AIの人格のモデルがモデルだからねぇ、それが無くともあの機体は強いと言うのに、いやはや流石は財団殿だ」
ナインボール・セラフ。
この機体の装甲は、聖王教会が各地から回収した神の時代の武器を裏取引で財団が手に入れ、スカリエッティと共に合金として作り変えた物を使用している。
この折れた直剣の中には派生強化された代物も混ざっており、火、雷、神聖、魔法の四つに対しても非常に防御力が高く、カタログスペックでは月明かりの大剣の一撃にも耐える事が出来る力を持っている。
更に、この機体に搭載されているAIはブレンと全く同じ対応力を持っている為、どの様な状態からでも最善の一手を打つことが出来るのだ。
欠点としてはまだこの機体は試作機であり、これからまだまだ手を加え無ければならない事が沢山存在する事が上げられる。
ナインボール・セラフの改良点を上げる二人は、病院で力尽きたブレンを見て賭けを始める。
その内容は『彼らがあの状況から再び立ち上がれるか否か』財団は否と答え、それでは面白くないと言ってスカリエッティは再起する方に賭けた。
賭け金は世界、全てを滅ぼした後、その後始末を何方がするかという物。この時点で、狂っている二人はくだらない賭けの対象とする程に堕とした二人への興味を失っていたのだったーーーー。
ーーーーブレン・シュトッフ撃墜。