追記 7/30
何か違和感があると思っていたら隊長の他人称が間違ってましたので修正しました。
第百四十九話 守りたかったから
俺が目を覚ますと、病院のベットの上だった。
カレンダーの日付けを確認すると、あの日から一ヶ月が過ぎていた。
ベットの側には俺の部隊の隊長『ゼスト・グランガイツ』がパイプ椅子に座りながら黙々と読書に勤しんでいた。
「……隊長?」
「起きたかシュトッフ、医者には二度と目を覚まさないかも知れないと言われていたのだが、意外に早かったな」
「…………あのお二人は?」
「アルピーノとナカジマは置いて来た、お前も病み上がりの身体であの二人に絡まれるのは嫌だろう?」
「…………病み上がりで着せ替え人形にされるのは御免ですよ、隊長」
「安心しろ、あの二人には暫く見舞いには行かせん」
『メガーヌ・アルピーノ』『クイント・ナカジマ』二人ともゼスト隊長の部下であり、俺の今の上司なのだが、姉さんのように猛烈な勢いで俺の事を猫可愛がりするので少々苦手なのだ。
一通り世間話をした後、隊長はなのはの病室を俺に教えて席を立った、そして去り際に俺へ言い聞かせるように一つアドバイスをしてくれた。
「シュトッフ、世の中には言葉だけでは伝わら無い事も数多く存在するが、言葉にしなければ伝わらない事も同じだけ存在する、身体が動く様になったら早い内にお前の大切な人と良く話し合うといい」
振り向かずにそう言った隊長は、言う事は言ったと言わんばかりに今度こそ病室から去って行った。
内心を見透かされた様な気分だったがお陰で少し気が楽になり、真っ先に俺がやらなければならない事を知る事が出来た、何時の日かこの恩は返すとして、今は兎に角なのは達の下に向かう事が先決だ。
思い立ったら即実行、そう思って立ち上がろうとしたのだが、身体に力が入らず立つどころか起き上がる事すら儘ならなかった。
冷静に考えれば全身に火傷を負い、内臓剥き出しの状態で、鎧越しとは言え急所を含めた各種臓器にチェインガンの掃射を浴びた後に下水道に落下、我ながら良く生きていた物だ、動けないのも納得だ。
ベットの側に立て掛けられている月明かりの大剣の加護を受けて尚、一ヶ月間は寝たきりだったのだから余程重傷だったのだろう。
部屋を見渡す限り車椅子や松葉杖は無い、仕方ないので寝返りを打ってベットの上から転がり落ちる、落下と共に全身に激痛が走ったが、ベッドの足を支えに無理矢理立ち上がり、壁にもたりかかりながら一歩づつ部屋の外を目指して歩いて行く。
自分に当てがわれた部屋を出た俺は、腕に刺さっている点滴や胸に貼り付けられた電極を剥がし、デバイスを杖にして身体を支えながらなのはの病室を目指して突き進む、途中で医師や看護師に連れ戻されないように隠れながら移動するのは中々骨だったが何とか辿り着いた。
なのはの病室前にはフェイトとアリシアが立っており、二人は唖然とした表情で俺の顔を見つめていた。
「どうしたんだい? まるで死人が生き返った見たいな表情だけど?」
「え? ブレン、なの?」
「姉さん、これは夢なんじゃないかな? ちょっと私のほっぺた抓ってみて?」
「う、うん」
「あ、いふぁい、ゆめひゃなひ」
「二人とも、なのはと二人だけで話し合いたいから少し席を外してくれないかな? 後で何でも言う事を聞いてあげるから」
「それは良いけど……、私達以外にも全員分聞いてもらうからね!! 行くよフェイト」
涙目のアリシアが事態の飲み込めていないフェイトを連れて去って行く、医者から二度と目を覚まさないかも知れないと言われて不安になっていたのだろう、フェイトの手前泣くのを堪えていたようだが、あの分だと姉妹揃って泣き合う事になるだろうな。
どうやら一ヶ月間眠りっぱなしだった所為で思った以上にみんなに心配を掛け過ぎたようだ、これは後でユーノやクロノに一発殴られるな。
阿保な事を考えて気を楽にした後、なのはの病室前で一旦深呼吸し、ドアを開ける。
先ほどの会話が聞こえていたのだろう、ベットの上で横になっているなのはは、酷く怯えた様子で俺の姿を見ていた。その目には様々な恐怖が入り混じっていたものの、その中でも色濃く感じたのは孤独に対する恐怖、出会った時のように一人になる事に怯えているようだった。
その姿を見て、俺は下手に声を掛ける事は逆効果と判断し、デバイスを使いながらも立つことすら儘ならない身体でなのはの前まで歩み寄る。
俺が一歩近付く毎になのはの怯えは強くなり、遂には目を瞑って耳を塞いでしまう。
俺以上に追い込まれてしまっている彼女を落ち着かせる為に、俺はそっと彼女を抱き締め、その耳元で謝罪の言葉を告げる。
「ごめん、俺が強情だったばっかりに君に辛い思いをさせてしまったね」
「……ブレン、くん?」
「大丈夫、もう大丈夫、俺は側にいるから、君を一人にしないから」
優しく、宥めるようになのはを抱きながら慰める、今の彼女は俺が意地を張った結果なのだろう、思い込みでなければ出会った時のように孤独に怯える彼女を作ったのはあの拒絶の言葉が引き金の筈、声にならない声を上げながら俺の胸に顔を押し付けて泣きじゃくるなのはを見て、あの一言が致命的に彼女を追い詰めてしまった事を酷く後悔する。
そして、俺はもう一つ、重大な事に気が付いた。
それは、なのはから魔力が全く感じられなくなっているという事、ざっと調べて見ると彼女のリンカーコアは完全に粉砕され、修復不可能となっているようだった、詳細を聞くためになのはが泣き止むのを待ってから再び優しく語りかける。
「…………もう、飛べないのか」
「…………うん、もう、飛べないんだって」
絞り出すような声で、俺に抱きつきながらなのははそう言った。始まりの火を使えば、簡単に元に戻す事が出来るだろう、しかし、なのはの性格では決してそれを認める事は出来無いはず、追い詰められている今の状態でも始まりの火を使った治療を認めはしないだろう。
だからーーーー。
「…………なのは、君の壊れたリンカーコアと、俺の無傷なリンカーコアを交換しよう」
「ダメ、だよ」
「それは、自業自得な結果でそうなったから?」
「うん、これは私の責任だから」
そう言って、乾いた笑いをしながら俺の提示した案を却下するなのは、しかし俺はそんな彼女の言葉を無視して押し倒し、大王の大剣を取り出して始まりの火を右腕に纏い、自分のリンカーコアを引き抜いた。
「良いかいなのは、俺にとって魔法は手段の一つであって絶対の代物じゃないんだ。 だから、俺のリンカーコアを使う事に抵抗を持たないでくれ、今回の件は全面的に俺が悪かった。何もかもを一緒に背負うと言い切った君に隠し事をした俺が悪かったんだ」
「でも、私だって無茶をしたんだからおあいこだよ? それに、そんな事をしたら今度はブレン君がーー」
「少し、静かにしてくれないかな? 気が散って集中出来ない」
本当はまだまだ空を飛びたいのに、俺のリンカーコアを奪うような真似をするのが怖くてあれこれ難癖を付け始めたなのはの唇を奪い、口の中に舌を侵入させて無理やり黙らせる。ムードも何もないファーストキスとなってしまったが、そのお陰でなのはと俺のリンカーコアをスムーズに入れ替える事が出来た。
「ぷはっ、取り敢えずこれでなのはは問題無く魔法が使える筈だ、後は身体を治すだけだけど……って聞いてる?」
「………………」
「心此処にあらず、って奴かな? 取り敢えずフェイト達を呼んで洗いざらい全部話してしまおう、その間になのはも帰って来るだろう」
リンカーコアを交換したので念話が使えなくなった俺は、なのはの病室に来るようにみんなの持つ各デバイスに連絡を入れ、未だに放心状態のなのはを抱き締めて同じベットに横になるのだった。
新暦67年 ○月×日
長らく日記を書いていなかったが、久々に筆を取ることにした、色々書きたい事はあるものの、洗いざらい全部ぶちまけたら色々楽になった。
全員がなんとも言え無い表情や反応を返してくれていたが、スカリエッティと財団への警戒心を高めてくれたようだった。
代わりにユーノとクロノには本気で殴り飛ばされてしまった、奴ら怪我人に容赦が無さ過ぎる。
『心配掛けた分をこれでチャラにしてやる』と言っていたのでこれ以上の事は無いだろうが、クロノは当たり前の話だがユーノの拳にも意外に腰が入っていて痛かった。
それと、隊長には奴らの事を世間話に交えて全て話したのだが、俺の話を聞き終えた後『…………今度の機人プラント調査はもう少し慎重に行くべきかも知れんな』と言っていたので暫くは俺も羽を伸ばしておいた方が良いの知れない、あと3日もすれば俺は動ける様になるし、その時が来れば俺も参加する事になるだろうからね。