第百六十話 妹様と高町家
「という訳で、妹が出来たから帰って来ました。ルーテシア、眠い所悪いけど挨拶しなさい」
「…………ん、るーてしあ・あるぴーのです」
「……突然向こうで一人暮らしを始めたかと思っていたら帰って来るのも突然だな」
あの後、生活能力が皆無の俺は父さん達の所に再び厄介になる事に決め、ルーテシアが遊び疲れて寝てしまったのを見計らって地球に帰って来た。
一応事前になのはを通して連絡を入れてはあったが、出迎えてくれた父さんの第一声はなんとも言え無いコメントだった。…………とは言え、俺自身が好き勝手にやってるから当たり前と言えば当たり前か。
「俺に生活能力が無い事は知ってるでしょ? 一人暮らしなら兎も角、この娘みたいな幼子には悪影響しか無いと思うんだ」
外食ばかりだと偏食になりそうだし、周辺のコインランドリーも全て出禁になった、俺一人では到底この娘を育てる事が出来そうに無いので父さん達に頼ろうと言う結論になった。
序でに半年以上疎かにしていた学業に戻らなくてはいけない、前にみんなが泊まりに来た時に『このまま中退でも良いや』と零した時に『いやいや、小学校中退はあかんやろ!?』とはやてに突っ込みを入れられた後にみんなに説教された、特にフェイトは涙目になりながら身振り手振りで必死に説得しようとしていた、なのはは…………怖かった。
「にーさん、ねむい……」
考え事をしていると背中の上にいるルーテシアが船を漕ぎ始めた、時計を見てみれば既に子供が寝る時間、なのはもリハビリで疲れていたらしく、既に寝てしまっているらしい、仕方ないので取り敢えず積もる話は明日にすることにて自分の部屋に向かうと、ルーテシアをパジャマに着替えさせてベットに寝かせる。
ルーテシアは横になった途端に電池切れを起こしたかのごとくに静かな寝息を立てて眠りに着いた、その様子に一段落着いたと安堵の息を漏らしたものの、彼女は俺の手をしっかりと握っていて離してくれそうに無い。
何が此処までこの娘に気に入られているのか分からないが、もしかすると本能的に親を亡くしてしまった寂しさを埋めようとしているのかも知れないな。
今振り返って見れば今日一日中この娘は俺に引っ付いてはなれなかった、食事の時は膝の上、移動中は背中の上、自分の足で歩いていても今みたいに決して俺の手を離さなかった。
今現在、側には俺しか頼れる相手が居ないのでこの娘も俺に頼っているのだろう、そう考えると地球に連れて来た事は正解だったかも知れない。
「…………この娘もこの先色々不安なんだろうけど、地球はその不安が吹き飛ぶ星だから、安心してくれ」
俺はソウルから太陽のメダルを取り出し、寝ているルーテシアの空いている手に握らせて眠りに付いた。
翌日、目を覚ましたルーテシアが不思議そうに手の内にある太陽のメダルを眺めている、子供の手には少々大きな代物だが、そのメダルから伝わる暖かさは気に入ってくれたようだ。
本来ならば、サイン召喚した太陽の戦士に渡す名誉の証なのだが、時空のズレが修正済みなこの世界では霊体召喚どころか闇霊の侵入すら不可能なのでこうしたプレゼント位にしか使い道が無い。
そういえば、友情の証にユーノとクロノにもコレを渡したのだが、クロノは普通に受け取ってくれたのに対してユーノはえらく引きつった顔をして受け取っていた、彼曰く『こんな往来のど真ん中で世間話感覚でコレを渡されるとは思わなかった』との事、どうやらこの時代でも最高の名誉である事に変わり無いようだ、今度守護騎士達にも渡して見ようか。
少し考え事をしてしまったが、まだ寝惚け眼なルーテシアを着替えさせた後、洗面所で顔を洗わせて父さん達の待つダイニングに向かう。
「こほん、詳しい事情や経緯については後で説明するけど、この娘が昨日から妹になったルーテシアで、彼女を俺一人で育てる自信が無いから帰って来ました」
「にーさん、ごはん」
「……この娘は少々自由奔放だから気を付けてね?」
今のこの娘は目の前の美味しそうな食事の事以外眼中に無いのか真っ直ぐに朝食をロックオンしている、なんとも言え無い沈黙がテーブルの上に訪れるが、気を取り直した姉さんがルーテシアを俺の膝の上から抱き上げ、自分の膝の上に座らせた。
「始めましてルーテシアちゃん。私の名前は高町美由希、ブレンのお姉さんだよ? だから私の事おねーちゃんて呼んでね?」
「…………」
「えっと……あれ?」
「……なにか、ちがう」
「へっ?」
ルーテシアは一言そう言うと、姉さんの膝から降りると俺の元に戻り、膝の感覚を確かめながら満足そうにその上に座っている。
「見事に振られたな、美由希」
「まあ、ブレンはあったかいからね〜」
兄さんに茶々を入れられた姉さんは笑顔で俺の頬っぺたを突いている、昔は良く頬っぺたを引っ張ったり頭を撫でくりまわされたり、なのはと共にお風呂に連行されたり、抱き枕にされたりと散々だった事を思い出したので、突き出された指を手の甲に向けて捻っておいた。
人差し指を抑えて悶絶している姉さんはさて置き、ルーテシアに改めて高町家のみんなを軽く紹介して行き、名前を覚えさせる。
「ーーで、最後のあの娘が高町なのは、俺の大切な人で高町家の末っ子さんだ」
「よろしくね、ルーテシアちゃん」
「……ん」
「…………妹様? せめて自己紹介の時くらいは人の目を見ようね」
「……ん」
「だめだ、ご飯の事で頭が一杯だ……」
「ある意味お前に相応しい妹だな、ブレン」
「兄さん、流石に俺は此処まで手が掛からなかった筈だよ?」
「…………ブレンくん、それ大ブーメランだよ」
「そんな馬鹿な、俺は品行方正だったはず……」
「…………ブレンは確かに大人しかったけどね、それ以上に常識が無かったから」
「後にも先にも食事と言う行為そのものと食べ物と言う存在を知らなかった人間はお前以外に居るものか」
「いや、しかしーー」
「まあまあ、ルーテシアちゃんもお腹空いてるみたいだし、早くご飯にしましょ?」
不毛な言い合いになり掛けた所に母さんが止めに入ったので、みんな話を切り上げ手を合わせる、不思議とみんなの視線が暖かかったがなんなんだろうか?
この時、ブレンは気が付いていなかったが今日この日は彼が高町家の居候になった日だった。
当時の彼は比喩抜きで戦いに関する事とそれに連なる旅路、そして自分の目的以外の全てを忘却していた、常識はおろか生物としての必要最低限の機能ですら。
だからこそ、人形のように無感情で無表情だった彼が多少なりとも感情的になった事が、皆嬉しかったのだ。
………………尚、彼の妹様はこの間も食事にしか興味が無かったようで、手を合わせた後、黙々と朝食を摂っていた。
ブレンはこう言った記念日がある事は分かっていますが、この世界に来た当時の彼は時間や日時と言った物を覚えていなかった為、正確な日時までは覚えていません。
そんなレベルだった子が口答えするようになったんだからそりゃあ嬉しいよね。