妹様万歳が終わればマグリブ解放戦線を壊滅させてSTSへ向かいます。
第百六十二話 妹様と迷子
俺が軽い臨死体験を終えた後、妹様はジュースを飲んで満足したのか、既に外の景色へと興味が移っているようで、なのはの膝の上に座る彼女は暇そうに足をぷらぷらとしている。
色々と言いたい事はあったが、口の中が魔女の釜の底のように混沌としている為、口を開く事すら辛く、仕方ないので出入口を指差して外に出る様に促した。
ルーテシアは素直になのはの膝の上から降りたのだが、彼女はなのはの車椅子に興味が湧いたのか、その周りをぐるぐると回りながらペタペタと触り出した。
なのはの使っている車椅子は企業連謹製の一品で、肘掛けに操作レバーや階段の上り下りが出来るボタン、その他の生活が楽になる機能が搭載された多機能車椅子なのだが、どうやらそれがえらく気になったらしい。
彼女はそのまま車椅子に座り、操作レバーを動かしてゆっくりと車椅子を動かして店の外へと向かって行く、レバーを動かすだけでその向きに動く車椅子が余程面白いのか、店の外で楽しそうに八の字を結びながら遊んでいる。
俺はその様子を微笑ましそうに眺めていたなのはを背負って店の外に出ようとしたのだが、ルーテシアが車椅子に搭載されている変速ギアを操作したのか、俺達が店の外に出た瞬間に何処へ土煙りを上げながら爆走して行った。
後に残された俺達は唖然とするしか無く、妹様が走り去って行った方向を眺めたまま二人揃って硬直するのだった。
ブレン達を振り切って爆走するルーテシアは少々困っていた、楽しく車椅子で遊んでいた所徐々に車椅子が加速して行き、操作不能となってしまい止まるに止まれなくなってしまったのだ。
自動的に車椅子が障害物を避けてくれているので事故は避けられているものの、土地勘が無いルーテシアはこの時点で迷子になってしまっている。
適当に操作していたら徐々に減速して行ったのでルーテシアは一息つきながら周りを見渡した。
明らかに見覚えの無い街並み、ミッドチルダから地球に来た際も半分寝ていた所為でこの場所が高町家の近くなのかすら分からない。
結局、車椅子のバッテリーが切れるまで三時間程辺りを闇雲に走り回った彼女は見知らぬ場所に来てしまった事に不安を覚え、車椅子の上で膝を抱えて固まってしまった。
「ねぇ、その車椅子なのはの車椅子よね?」
そんな彼女が不意に声を掛けられる、なのはと言う自分の知り合いの名前を聞いたルーテシアは顔を上げ、声の主の方へ顔を向ける。
彼女に声を掛けたのは習い事帰りのアリサ、鮫島の運転する高級車に乗っていた彼女は信号待ちの際に偶々ルーテシアを発見し、困っている様子の彼女に声を掛けたのだった。
「迷子、で良いのよね?」
「…ん」
「その車椅子の持ち主と知り合い?」
「……ん」
「取り敢えず、翠屋に行きましょうか?」
「………ん」
アリサはルーテシアと車椅子を車に乗せると、鮫島に翠屋に向かうように指示すると、縮こまっているルーテシアに話し掛けて行き、少しづつルーテシアの緊張を和らげて行った。
その甲斐あってか、ルーテシアはアリサに対しての警戒心を無くし、彼女の不安は取り除かれたのだが、代わりに持ち前の好奇心と奔放さが顔を出し始めた。
と言っても車の中では出来る事は限られているので、ルーテシアは高級車のシートの肌触りを堪能したり、車内に積まれているアリサのヴァイオリンを触ったり、窓の外を流れる風景に目を取られたりと首や手を忙しなく動かしていたが、やがて暇そうに足をぷらぷらと動かし始めた。
兄の知り合いに迷子の所を助けて貰ったのは良かったのだが、車での移動というものが幼いルーテシアには退屈で仕方無く、窓の外に見える街並みには明らかにミッドチルダでは見た事の無い施設や建造物が山ほどある、車に乗る前に彼方此方見て回っておけば良かったと後悔している彼女の興味は既に車の中には無かった。
そんな退屈な時間を過ごしていたルーテシアだが、気が付けば翠屋の前に着いていた。
「ほら、着いたわよルーテシア」
「……ありがと」
ルーテシアはアリサに礼を言って車を降りた後、翠屋には入店せず、アリサの乗った車がその場を去るのを待ち、冒険家のような顔をしながら来た道を戻り始めた。
この街には彼女の知的好奇心を擽る未知が溢れる程存在しているので、迷子になった事などそれに比べれば些細な事なのだろう。
姉の車椅子は既に玄関先に立て掛けられているので気にする必要は無い、お金に関しても兄の財布をそのまま持って来ている、後は先程のような迷子にならないようにするだけなのだが、ルーテシアには一つ名案があった。
それは兄の財布の中にある小銭を目印として道にばら撒き、それを目印に帰り道が分かるようにする事だった。
ルーテシアがブレンの財布を開けてみると、10000と書かれた紙が十五枚、5000と書かれた紙が十枚、1000と書かれた紙が五枚、後は500と書かれたコインが二十枚、後は10、5、1、と書かれたコインがまばらに入っている。
これは昨日店内全ての洋服を買わされたブレンが同じ様な事が起きても大丈夫な様に用意していた物であったのだが、その事が彼にとって金銭的悲劇を生む事になる。
ルーテシアは五百円までは価値を理解出来たのだが、それより大きな札の価値をいまいち理解していなかった為、必然的に個数の少ない十円以下の貨幣を目印にするより数の多い紙を目印に選んだのだった
取り敢えず数の多い一万円札から目印として様々な所へ結び付けて行き、周辺の探検を堪能して行ったのだが、これが後々に『二十万五千円バラ撒き事件』と言う未解決事件にまで発展し、海鳴市の伝説的都市伝説となるのだった。
そんな事になるとはつゆ知らず、ルーテシアはスキップしながら自分の行動範囲を広げて行く、公道を走るファンタズマ、空を飛ぶ変態飛行の航空機、ダニのような謎の生物、想像のつかない味のジュースが陳列されている自動販売機、彼女は空腹と疲労感を覚えて翠屋に帰るまで街を見て回って行った。
不死の英雄伝 〜舞台裏〜
NGシーン 妹様の御帰宅
ルーテシア「……(もきゅもきゅ) 」 妹様、翠屋にてケーキ類を堪能中
ブレン「…………(涙目)」 兄様、財布の中身を確認して落涙
なのは「ぶ、ブレンくん? ほら、無事にルーテシアちゃんも見つかった事だし、ね?」
ルーテシア「にーさん、えーがみたい」
ブレン「妹様、お金がありません……」
ルーテシア「じゃあ、ゔぁいおりん?とか、ぴあのならないたい」
ブレン「勘弁して下さい……」
なのは(……私もこんな風に我儘言えたらなぁ)