「はぁ、はぁ、はぁ……」
走る、走る、走り続ける。
人気の無い路地裏に身を隠しながら遮蔽物の影を転々とする。
呼吸が荒くなり痛みを伴い始め、髪が汗でベタ付き不快感を覚えるが棒のようになった足を只管動かし続け、それからあらん限りの力を振り絞って逃げ続ける。
自分が今死力を振り絞り逃げている者は、キロ単位で離れているにも関わらず針の穴を通すような精密さで槍のような矢を放ち、音も姿も無く背後に忍び寄り、四方から笑い声の様なものを放ちながら此方を追いかけてくるのだ。
彼女はソレに捕まってしまったらナニをされるのか分かりきっており、自分の未来は逃げ切った先にあると理解している為、死ぬ気で逃げているのだ。
しかし、そんな思いも虚しく逃走劇は呆気なく終わる。
不意に上空から顔へ差した影に気を取られ、足を止めると目の前にソレが立っていた。
身体が霧になったように透けたソレ、ソレは一切の音を立てずに高所から飛び降り、自分の前に立っていた。
「あ、あぁ……」
絶望が隠せない、疲労しきった体ではソレの隙を突く事はできず、此れから自分は彼に辱めを受けると知ったからである。
ルーテシア「ぎゃぁぁぁあ!! 暴力反対!! 近隣住民の皆さーん、変質者ですー!! 助けてー!!」
ブレン「人聞きの悪い事を言うな馬鹿者さあ帰るぞ、今回はおいたが過ぎたな、お尻ペンペン百回だ」
ルーテシア「いぃぃぃやぁぁぁぁあ!!」
肩に担がれる形で連れ戻されるルーテシア、ジタバタと抵抗し、ブレンの背中をぽかぽかと叩いているが、兄の足は止まらない。
ルーテシア「通行人の皆さん!! 誘拐です!! 拉致です!! この男はロリコンです!! こんな超絶美少女が白昼堂々攫われてますよ〜!!」
力尽くでは止まらないと判断した彼女は風評被害待った無しの言葉を吐きながら通行人に助けを呼ぶものの、この凸凹兄妹の喧嘩はプレシアのストーキング並みに見慣れた光景なので誰一人振り向く事は無かった。
ルーテシア「神は死んだッ!!」
ブレン「諦めてお仕置きを受けるんだな」
ルーテシア「や、優しくしてね?」←上目使い
ブレン「残念だが、俺の辞書に手加減と言う文字が記されていなくてね」
ルーテシア「ちきしょー!!」
第百六十七話 妹様とお師匠様
「ーーと言う事があったんですよししょー!!」
壮絶な鬼ごっこを終えた翌日、ルーテシアはお仕置きによって痛めたお尻をさすりながらテスタロッサ家に転がり込んでいた。 それと言うのも、ちょっと無機質な兄の部屋を劇的ビフォーアフターしただけで可愛い可愛い妹のお尻を百叩きするあんまりにもあんまりな仕打ちをしてよこした兄に対する抗議としてプチ家出を敢行したのである。
ししょーと呼ばれて慕われているアリシアは、テーブルの向かい側でもう三時間は兄に対する不平不満を捲し立てている妹様を微笑ましく眺めながら紅茶を啜っていた。今日はフェイトとブレンのデート日であり、そのままホテルに一泊するらしいので、安心して悪巧みに移ることが出来る。
余談だが、ブレンはなんだかんだで全員と関係を持ってしまったので週六のローテーションで自分の彼女達と肌を重ねており、日に日に窶れて行っている。
なにはともあれ、なんだかんだで仲の良いこの兄妹は普段から些細な事でこうして喧嘩しているものの、数日もすれば仲直りし、再びルーテシアは兄さん兄さんと言ってその背中をアヒルの子の様に追う事になるのでアリシアは特に不安視しておらず、寧ろどうやって面白おかしく弟子と最愛の人の兄妹喧嘩に茶々を入れるかを考えていた。
(我が弟子よ!! その兄妹喧嘩、私がもっと面白おかしく発展させてやろう!! 昨日は散々ベッドの上で甚振られたし、やられっ放しは癪に触るからね!!)
「なんだかんだで手加減してくれるかと思ってたら鎧のガントレット付けて全力で振り抜くんですよ!? うが〜!! 思い出したら又腹が立ってきたぁぁぁあ!! ちきしよー、必ずやり返してやるかんね〜〜!!」
「さっすが我が弟子!! そう言うつもりなら一つ良い案があるよ!!」
「ほほ〜う、その良い案とは何でしょう?」
「実は近々体育祭があってね? 今年はブレンと私は同じ白組なんだけど、なのは達は紅組なんだよね」
「ほうほう、それでそれで?」
「超可愛らしいロリータファッションを着て、滅茶苦茶猫被って、猫撫で声で只管ブレンだけを応援するのだ!!」
「な、なるへそ、流石はししょー」
ふっふっふ、くっくっくと互いに悪い笑いを浮かべながらブレンに対するイタズラを考える二人、ルーテシアはちょっとしたイタズラでお尻を百叩きされた怨みから、アリシアはコンパクトな身体を一方的に散々甚振られた仕返しに、彼女達は普段からこの様なノリでブレンを揶揄っており、その度にブレンにやり返されている。
今回も例に漏れずにやり返される事になるのだが、その場のノリとテンションに命を賭けている二人には些細な事であり、ぶっちゃけるならばその仕返しを含めたブレンの反応を楽しんでいる。
口ではブレンをボロクソにこき下ろしているルーテシアだが、別に彼女はブレンの事が嫌いと言う訳では無い。
彼女が悪戯をする理由も彼女なりの愛情表現と言う点が大きく、身寄りの無かった自分を引き取ってくれた兄に対する信頼感がある為にやり過ぎなイタズラになりがちなのだ。
生活面は丸っきり頼りにならないものの、不思議とその背中には頼り無さは無く、なんだかんだでその背中を追いかけたくなる兄の事は好ましく思っていた。尤も、ルーテシアに恋愛感情は無く、ブレンの事を『恋人にしたい人種では無い』とバッサリ切って捨てている。
一通り悪巧みを終えた師弟は互いに一息付きながら紅茶を啜っていたが、ルーテシアが思い出したかの様に口を開いた事で再び姦しくなる。
「ししょー、そう言えば一つだけ聞きたい事があったんですよ」
「ん〜? なに?」
静かに紅茶を啜っていたルーテシアは、好奇心が前面に出た様な表情でアリシアに向かって詰め寄り、常々思っていた疑問をぶつけ始めた。
「兄さんの何処が好きなの?」
「…………へっ?」
思わぬ質問をぶつけられて一瞬の間が空いてしまったが、ルーテシアの目が完全に師匠の恋話に興味を示しており、真っ直ぐにアリシアの瞳を射抜いている。
「な、なんでいきなりそんな事を?」
「だってさ、兄さんって料理ダメ、掃除ダメ、洗濯ダメ、買い物もダメ、朝は弱い、トマトが嫌いな子供舌、服だってししょーやなのはさん達が買わないと着たきり雀になっちゃうし、ポケットに入れっぱなしにして洗濯しちゃうくらいデバイスの使い方も雑、こんな駄目人間の何処に惹かれたのさ?」
「あ、あはは、良く良く思えばブレンは結構私生活がダメダメだよね……」
付け加えるならば酒に酔った時に口説き魔になったり、ベッドの上ではドSでドMだったりとそっち方面でも問題児である。
「なのはさんに聞いたら『全部好き、何もかも愛してる、嫌いな所なんて何一つ無い』って即答されたし、フェイトさんは『色々と頼りになる所?』とか言う曖昧な答えだし、はやてさんは『あの駄目さ加減がええんやんか』って返されたし、アリサさんは『彼奴は私らが居ないと生きてけそうに無いでしょ?』とか言ってツンデレてるし、すずかさんは『身体の相性も最高だし、色々と私好みだから』ってなんか怖かったし、後聞いてないのはししょーだけなんですよ」
「うーん、何処が好きって言うより一緒に居て楽しいし、幸せだからかな?」
「なるへそなるへそ、なんだかんだで皆んなちゃんと兄さんが好きなんだね、ちょっと安心」
ぐでーっとテーブルの上に垂れるルーテシアは気になっていた疑問が解決した事で満足したのか、時計を見やり『今日は帰れそうに無いかなー』と言って、すっかり温くなった紅茶を一気に飲み干す。
「ぷはっ、まあ私も兄さんの事は好きだけど、あくまで兄さんは兄さん、兄妹愛はあっても恋愛感情は無いかなー」
「意外だねぇ、てっきりブラコンが進んでると思ってたけど(最近の五歳児は進んでるなぁ)」
「私は兄さんのダメな部分ばっかり見てるから、ししょー達の様にカッコいい兄さんを知らないから仕方ないかなぁ、寧ろ私の好みは家事育児全てパーフェクトにこなしてくれる人かな」
『目指せ勝ち組ニート!!』と言って高らかに拳を突き上げるルーテシアの姿に、さしものアリシアも涙を禁じ得なかった。
不死の英雄伝 〜舞台裏〜
NGシーン 体育祭
ルーテシア「フレー、フレー、に い さ ま (はーと」←超絶猫被り+超絶猫撫で声
ブレン「…………」ジェスチャー:呆れる
ルーテシア(カチーン、やろー、妹様を何だと思ってるんだ)←丸文字で『兄様頑張って(はーと』と書かれた旗を振りながら
ブレン「…………」ジェスチャー:天を仰ぐ
ルーテシア「(#^ω^)ピキピキ」←ダクソ世界の煽りモーションの効果は抜群の様である
ブレン「…………」ジェスチャー:さあどうした!!
ルーテシア「むきー、無言で人を煽るなぁぁぁあ!!」
ブレン「…………」ジェスチャー:天を仰ぐ→呆れる→下を指す→さあどうした!!
ルーテシア「もー怒ったもんね、煽りのフルコースをこの超絶美少女にした事、ひいては台所に入れる人間に喧嘩を売った事の恐ろしさを教えてやるからね!!」