第二百九話 狂気の産物
Dr.スカリエッティが神の細胞を手に入れたのは丁度今から十年前、当時はソレを持て余し、碌な研究を行う事が出来ていなかった。
湯水の様に消費されて行く莫大な研究費と時間、一向に成果が上がらず悉く失敗に終わる実験、二、三年もあれば実用化出来るだろうと当初は思っていた。
しかし、己の予想に反して全くと言って良い程何も得られない日々は彼の探究心、ひいては''己の所有して居ない未知の知識を得たい''と言う渇望に火をつけた。
寝食も忘れてソレを研究し、失敗し、まるで常人の様に頭を掻きむしりながら、周りに八つ当たりをしながら研究し尽くした結果、一人の少女が産まれたのだ。
彼が行った事、それは神の細胞から精子と卵子を作り出し、人工授精させる事で
他者と混ざる事でダメになり、純粋なクローンでは自壊してしまう細胞、ならば新たな生命として新生させてはどうか?
目論見は成功し、様々な神を作り上げる事は出来たのだが、しかし結果的には失敗だった。
何故なら産まれたそれらは一切の例外無くオリジナルの性質を受け継いでおり、死への渇望から皆自害する様になったのだ。
その対策として感情を抑制したとしても生きる気力が無い為病死が相次ぎ、スカリエッティをして挫折と不可能の二文字を口に仕掛けていた程彼は追い詰められ、同時にそれ以上に興奮していた。
ーーーー戦闘機人も、聖王の器も、最早どうでもいい。
ーーーー眼前のコレは、これこそが私の求めていた未知だ!! 嗚呼やはり私は世界の根底、根源を覗き見なくてはならない!!
ーーーー細胞一つでコレなのだ!! 其処へ至った時、私は何度挫折と絶頂期を味合わされるのだろう!!
情熱、狂気、渇望、不撓不屈の理が敷かれたこの世界、死者蘇生すら可能としてみせるこの世界において、彼のその思いは遂に成就してしまう。
単に制作するだけでは死んでしまう、感情を殺しても同じ事、断崖の果てを望む渇望を止める事など出来はしない、だがその方向性を曲げるのならばどうだろうか?
ーーーーそれが、狂気の産物を生み出した。
生み出した神の個体、不死の英雄の細胞を元に作られた其れはただ只管自分を貫き通す、故に今までの個体は死の運命に囚われていた、ならば確固たる意思を持つ自分と言うものを
彼は作り上げた白銀の少女に他人の半生の記憶を植え付けた、それも一人二人と言った量では無く。
ーーーー時空管理局、並びに聖王教会の両組織に所属する者全員の記憶と半生と言う途方も無い量の記憶と人生だ。
それを為すのは筆舌に尽くしがたい苦労であったが、お陰で人造の神が完成した。
思い通り自分を見失い、憎悪によって断崖への渇望を無くした少女が出来上がった。
「彼女は私の十年の結晶だ、漸く実った挫折と苦悩の成果だ、君達に勝てるかな? 新人諸君」
ーードクターは言った、自分が分からないのなら自分の中に居る者を皆殺しにすればいい、そうすれば最後に立っている者が君自身だと。 滅尽滅相、何一つ残さず塵にしてしまえば残る物は一つ、それが道理だと。
そして目の前には私が討つべき敵が居る、私の頭の中に、心の中に巣食っている有象無象が居る、消えろ、消えろ、消えろ!! 私の前から!! 私の中から!! 私は私で満ちているッ!!
「私を返せぇぇぇぇぇえ!!!!」
喉が張り裂けそうな程に吠える、それだけで連中は鑪を踏みながら一歩後ろへと移動する、その瞬間踏み込みと同時にOBと二段QBを駆使して一番手前に居た男に殴りかかる。
コンクリートの足場が粉砕されるほどの超人的な踏み込み、OBとQBによる超高速と言う言葉が生温い程の爆速。常人ならば反応出来ない速度の筈だが、才能か本能かこの男はそれに反応し、腕を十字に構えて私の拳を待ち受けようとする、だがそれがどうした。
私は再び地面を蹴り付け、慣性を無視した動きで跳ね上がり、天井に激突する間際に身体を反転、天井を再び蹴って男の背後を取ると、そのまま頭部を殴り飛ばす。
その際に忘れずQTを掛けて全身の体重と回転の威力を加える、殴り飛ばされた男は多重障壁を展開した上に打点をずらす事で死を免れた。呆れる程の生存本能だが、それまでだ。
男は轟音と共にコンクリートの柱を砕きながら下水道の壁に直撃し、老朽化によって崩落した瓦礫の下敷きとなる、計算して其処に殴り飛ばしたのだから当然だ。
怒り狂って殴りかかって来る二人の女とその隙間から槍を構えて此方に向かうガキ、そんな攻撃が私に通用するとでも思っているのか?
二人の拳を真っ向から受け止める。衝撃で足元が陥没したが私は無傷。怒りの表情のまま拳を押し込もうとする短髪と、逆に冷静になった長髪。私は二人を鼻で笑い拳を握り潰す。私と貴様らとでは純粋なスペックが違うのだ。
それでも尚殴りかかって来る短髪、首を刎ねてしまおうかと思ったがガキの槍がソレを許してくれず、背後に引こうにも黒くてデカイ人型の虫が立ちはだかっている。所謂召喚獣の類だろう、術者はどれだ?
雨の様な刺突の嵐を避けながら後ろ脚で瓦礫の破片を蹴り飛ばし、背後の虫の体勢を逸らさせる。その後二種のブーストを使用しながら床を蹴って天井に張り付き、加速を込めた踵落としを振り下ろす。
虫はそれを回避し、落下中の私に鉤爪付きの拳を突き出してきたが、首を逸らしてそれを避け、長く鬱陶しい自身の長髪を鞭の様に振るって目潰しを敢行。そのまま抜手で心臓を貫いた後心臓を引き抜こうとしたのだが、私が抜手で胸を貫いた所で強制送還された様で、空を掴んでしまった。
動いたのは紫色の長髪、親の仇でも見るような目で私を睨み付けながらナイフを展開、同時に周囲にスフィアを展開しつつ其処からショートバスターを発射、避けようのないナイフの面制圧攻撃も相まって並みの者なら撃墜されるだろう、非殺傷設定も切ってあるようだしな。
だが、全て遅い。圧倒的に遅すぎる。私の持つデバイスはドクターがネクストの技術を応用して私の為だけに作り上げた特製の物。管理局と聖王教会に登録されている全てのレアスキルを再現する事ができる。そして全身に備え付けられたブーストは全てプロトタイプネクストのそれだし、OBも四門付けられており、その全てがVOBと呼ばれる強襲用のバックパックと同じ速度を叩き出せる代物だ。
全身のブーストをフルに使って私に向かう攻撃を全て叩き落とす。その際に生意気な少年のデバイスを粉砕し、彼の柔らかな腹を全力で蹴り上げる。骨が砕ける感覚と内臓が破裂した手ごたえ。爪先に付着した血液から今の蹴りが皮膚を突き破り、そのまま肉を抉ったのだと把握する。
少年は致命傷、そのまま下水に叩き込まれ、取るに足らない腐肉の一つになる運命だったが、間一髪で長髪の召喚士が受け止め、同時に治癒魔法を使いながら荒い応急処置を施して行く、無駄な事を……どの道全員此処で朽ち果てるのだから多少余命が伸びただけでは無いか。
残るは脳筋の短髪と長髪、それと桜色の短髪だ。会話から判断するにこの二人は姉妹なのだろう。妹の方は仲間が二人もやられた事に腹を立てて此方に向かおうとしているが、姉がそれを諌めている。
一々そんな事に付き合ってやる筋合いは無い為、下水道内部に流れる汚水を電気分解し、酸素と水素に分離させ、それを一点に収束。この周囲の区画ごと吹き飛ばそうとしたのだが、桜色の短髪が何かを召喚すると同時に、背後から一番初めに殴り飛ばした男が飛びかかって来た。
「んの、クソアマァァァァァア!! 良くもやってくれやがったなァァァァァア!! グチャグチャにしてブチ殺してやるッ!!」
額から少なく無い量の出血。左腕もあらぬ方向に曲がっており骨が見えている。足も石片が深々と刺さっており、見る限り立つ所か生きている方が不思議だ。これが執念と言うやつか。
ーーーーだがもう遅い、全ての仕込みは終わった。
自分の周囲に収束、圧縮していた水素と酸素の化合物に発火。瞬時にPAを展開して爆炎を回避。地下の閉塞感溢れた空間が跡形無く消し飛び、焦土と化した周囲の中で青空を見上げながら重要な事を忘れていた事に気が付いた。
「あっ、ドクターのお使い忘れてた。…………その辺の石で誤魔化せないかな?」
みんなぶっ壊す事だけ考えててうっかりドクターのお使い忘れる乙女ちゃんマジで天然(震え声)
ラインの乙女は不死の英雄の細胞を利用して産まれたデザインチャイルドです、本来なら才能皆無なのですがスカさんの手によって後天的に天才にされ、且つ神族なので六課メンバーでも恐らく本気フェイトくらいしか歯が立ちません。
やったねブレンくん!! 本気が出せるよ!!(白目)
ps
新人達は間一髪でルーテシアが転移したお陰で生きてます、爆風浴びて大なり小なり火傷と裂傷を浴びてますが。