第二十一話 災厄の種
塾では結局あのフェレットを如何するかと言う話で俺たちは持ちきりとなり、一旦なのはが士郎さん達に聞いてみると言う話になった。
帰宅後、食事前になのはが士郎さんや桃子さんに聞いた所、『シフの世話もしっかり出来ているし、大丈夫だろう』と言う言葉を無事に頂き、あのフェレットを預かる事で話が纏まった。
そして、事が起きたのはその夜だった。
就寝しようとした際に聞こえた助けを呼ぶ声、その声になのはが反応しコッソリと家を抜け出したのだ。それに対して俺は酷い胸騒ぎを覚え、シフを連れて彼女の後を追う。
彼女が向かった場所は例の動物病院。其処へ到達した俺の目に入って来たのは、なのはが妙な物体に襲われている瞬間だった。
反射的に身体が動き、ゴーの大弓を取り出してハルバードを射出する。
炎の軌跡を残しながら一直線に目標に向かって行くハルバード、その切っ先を身体に直撃させた妙な物体は、花火のように爆散し周辺に散らばって行く。
「ブレンくん?えっと、どうして此処に居るの?」
「なのはの後をシフと一緒に追ったからさ。そんな事よりも、……仕留め損ねたか」
なのはに被害を与えない為にハルバードで爆散させる方向で行ったのだが、どうやらアレは実体の無い存在らしく、散らばった破片が一点に集まりながらその身体を再生させて行く。
小ロンドの亡霊のような存在なのだろうか?、シフへ視線を合わせ彼に目の前のアレを斬って貰う。
俺の意思を察した彼は、周辺の塀や屋根を足場にして再生速度を超える連撃を叩き込んだが、この物体を倒し切る事が出来なかった。
だが、その代わりある一つの事を発見した。
それはあの物体の再生の正体は中心にある宝石の魔力による再構築であるという事だ、そうと分かれば話は早い、その核となる宝石を破壊すれば良いのだ。
殺し続けていればその内魔力が枯渇して再生にも回復にも追い付かなくなるだろうが、時間をかけ過ぎると面倒事が増えるだろうから、此処はサッサと終わらせた方が良い。
射出したハルバードを拾い、シフに合図して彼の核を剥き出しにさせる。
全身の至る場所から触手を生やしながら俺たちを襲おうとするそれをシフの神速が斬り払いながら、再びその宝石を露わにさせた。
その一点にハルバードの刺突を放った瞬間だった。
「待って下さい!!、ジュエルシードは魔力の塊です、無闇に破壊したら周囲にも深刻な被害が及びます!!」
その言葉を聞き、咄嗟にハルバードの切っ先が振れる寸前にソウルに戻しシフを呼び戻す。
声の主はあのフェレット、彼は攻撃を取りやめた俺に胸を下ろしながら対処法を語り出した。
「アレを止めるには核となるジュエルシードの力を封印する必要が有ります。そして、これがその為の物です」
そう言って彼が見せたのは、首に掛けていた宝石。
「これが僕たちが魔法を行使する為の『デバイス』と呼ばれる代物です。無茶苦茶な頼みなのは重々承知しています、御礼はします、必ずします、ですからこれを使って僕の代わりにアレを封印してくれませんか?」
そう言って、彼は頭を下げている。
なのはの性格を考えるときっと彼に手を差し伸べるだろう、ならば俺は彼女の騎士としてその思いを守る事にしよう。
予想通りシフがあの物体を足止めしている間に彼女はその宝石を手に取った、俺はそれに合わせて鎧を纏い、一度だけ彼女へ忠告をする。
「なのは、一つだけ良いかな?」
「いきなりどうしたの?ブレンくん」
「それを手に取ると君の日常は必ず変わる。それが良い方向へ向かうのか、はたまた悪い方向へ向かうのかは分からないが、確実にこの闘争の世界に、血で血を洗うような世界に足を踏み入れる事になる、君はそれを理解しているかい?」
此処で彼女に覚悟を問う真似はしない、そんな物は戦いの中で見つければいいからだ。 そして、そんな事よりも今必要なのは、この魔法という力が決して正義の力などでは無く、誰もを幸せにする物でもない、唯の力でしか無いことを理解しているかが重要なのだ。
もしも夢見がちな感覚でこの世界に入るくらいなら、その手にある宝石を奪い取り、俺とシフでこの件を解決するつもりだった。 だが、彼女の答えは俺の心配を他所にしっかりした物だった。
「………なんとなくだけど、分かってる。この宝石を取ればブレンくんと同じ世界に足を踏み入れる事になるんだなって、そう思うと正直ちょっと怖い、かな?」
『でもね』と彼女は続け真っ直ぐ、強い光の篭った瞳で俺を見つめ返す。
「此処で困ってるこの子を助けないと、私は私で無くなっちゃうから、『高町なのは』で無くなってしまうから、私はそっちの方がもっとずっと怖いんだ」
「………そっか、分かったよなのは」
彼女のその言葉を聞き、俺はソウルから月明かりの大剣とアルトリウスの大盾を取り出して彼女の前に立つ。
「君のその決意と気高い魂は君の騎士である俺が守る、だから後悔しないように常に全力全開で好きなようにやるんだ。辛くなったら必ず俺が支えるし抱きとめるし肩を持つ。泣きそうになったなら絶対に側にいて涙を拭って笑わせる。 俺は何があっても君の味方だ、だから君は後ろを向かずに真っ直ぐ前を見るんだ」
その言葉を言い切った後、フェレットがその『デバイス』とやらの使い方をなのはに教えるまでの時間を稼ぐ。
シフも被害を最小限に止めようとしてくれているのだろうが、目の前の物体は周辺の瓦礫等を取り込み、触手に纏う事で武器としている。 アレが暴れる程その武器は増えて行き、被害が拡大して行くのだ。
月明かりの大剣を硬化させ、シフに気を取られているその物体まで一気に踏み込んで横合いから殴りつけて動きを止め、触手に付着している瓦礫を光波で消し飛ばす。
光波によって触手が消し飛ばされた彼の身体が蠢き、俺に向かって何時の間にか取り込んでいた電柱を射出する。 かなりの質量を持った物体なので、受け止めるような行為はやめておくべきだろう。
なので俺に射出される勢いを利用し、電柱をパリィする事でその攻撃を受け流し、病院のブロック塀に激突させる。
その衝撃で粉砕された大きな破片が周囲に散在し、目の前の物体がその破片を触手に取り込もうと気を取られた瞬間だった。
「リリカル、マジカル、ジュエルシードシリアルXXI、封印!!」
なのはの声と共に背後から目の前の物体に絡みつくピンク色のリボン状の魔力、それはあっという間に彼の身体を包み込み、核であった宝石へ封印を施したのだった。
番外編 なのはの誕生日
※時系列は原作手前の年
カレンダーの日付を確認しながら、俺はなのはへの誕生日プレゼントをみんなに隠れて密かに製作していた。
シフの散歩と称し、彼と二人で誘拐騒ぎのあったあの廃墟へと足を踏み入れる。 此処は何故か医療器具以外にも様々な設備があるので、作業場として使わせて貰っている。
其処に到着した俺は、先ず竜狩りの槍を取り出し切っ先をコンセントに突っ込んで廃墟全体に電力を供給する。
作業をするにしろ照明を使うにしろ何かとこの時代では電気が必要らしく、発電器具として竜狩りの槍を使って見たのだが中々塩梅が良かった。
竜狩りのオーンスタインが草葉の陰で泣いている気がするが、そんな些細な事よりもなのはへの誕生日プレゼントの方が重要だ。
俺が現在製作しているのは、原始結晶の欠片を加工した少々大振りなネックレスだ。
コレは白竜シースの不死身の象徴。破壊された今は僅かな魔力を持った欠片程度の代物だがそれでも傷の治りを早くする程度の力は残っている、御守りには丁度良い。
黄金の残光を使って結晶の角を落として形を整形した後、装飾部分の製作にかかる。
アルトリウスの大盾を取り出し、その裏にロードランで手に入れた金の硬貨を置いて下からハルバードの炎で炙る。
ハルバードの火力では生半可な金属は原型が残らない程とろけてしまうので、これに耐えられる盾を鍋代わりに使わせて貰っている。しかしシフがさっきから俺の頭をかなりの強さで噛んでいる、じゃれつくのは後にして欲しい今から加工の工程に入るため気が抜けないんだ。
ドロドロになった金を冷まし、少しづつ形作りながら原始結晶に絡めて行く。 固まった金に刻み込むレリーフは『千日紅』この花の花言葉は『変わらない愛情を永遠に』若しくは『永遠の恋』だ、俺が彼女に贈るには最適な物だろう。
その後一月半掛けて納得の行く出来のネックレスを製作し、なのはの誕生日に彼女へと手渡ししたのだが、手作りだと聞くとみんな渇いた笑いをこぼすだけだった、何故だろう?