久々の連投、昔はコレを毎日やってたのか……(困惑)
第二百十六話 死ぬのが怖いから
拳と拳が衝突し合う音。赤い髪の戦闘機人とスバルは正面から殴り合いを行っていた。
––––ブレンが自身のクローンと交戦を開始した少し後、副隊長が制空権を確保する為に空へと向かい、新人達は隊長達にデバイスを渡す為に内部へと足を踏み入れていた。
その際にRDはOW装備の自分は団体行動に向かないからと言う理由で先行し、彼女達とは別行動を取っている。
ラインの乙女による襲撃によって騒然とする内部。それだけでなく戦闘機人やMTによる襲撃によって鮮血に染まっている。
敵味方入り混じる亡骸。内臓やどこの部位とも知れぬ肉片が床にぶち撒けられ死臭を放っている。
人体が焼ける異臭や物言わぬ人形に成り果てた局員を見て吐き気を催す少年少女。ティアナは咄嗟に口元を抑え、目を瞑って気を静めて冷静さを保ち、ルーテシアは吐き気を飲み込む事でその恐怖を乗り越える。
背後ではキャロ、エリオ、スバルが胃の内容物を戻して居る。ルーテシアはキャロの背中を摩りながらゆっくりと言い聞かせる様に震える彼女を落ち着かせて行く。ゆっくりと呼吸を整え、震える体を抑えた彼女は静かに涙を流しながら犠牲となった人に手を合わせてその冥福を祈る。
スバルやエリオは吐くだけ吐いた後は顔を叩いて気合いを入れ直して自力で立ち上がる。全員の覚悟がある程度固まった事を確認したティアナは隊長達の元へ向かって走る。
暫く走った後、何の障害も無く無事に隊長達との合流を果たした彼女らは六課の本陣が襲撃されたと言う報告とギンガとの連絡が取れない事に不安を覚え、彼女の元へと走り––––––今に至る。
元々の戦闘機人技術に加え、財団が齎したリンクスや強化人間の技術によって性能を底上げされたナンバーズはまさに強敵だった。
銀髪の右目に眼帯をした小柄な少女『チンク』。燃える様な赤髪の少女『ノーヴェ』。濃い桜色の髪を後ろで纏めた少女『ウェンディ』。彼女ら三人はギンガと交戦したらしく、血溜まりの中に沈むギンガは微動だにしていなかった。
その光景をスバルが見た瞬間、彼女の中の何かが崩壊。瞳の色を黄金に輝かせながら戦闘機人に向かって殴り掛かる。
隊長達は本陣の防衛に向かい、RDは別行動。ローラー移動によって機動力のあるスバルは一人で先行しており、今この場にスバルの怒りを止める事が出来る物は居ない。
「よくも、よくもギン姉をッ!! お前らァァァァァア!!」
絶叫と共に振り抜かれた拳。怒りの籠ったそれは速く重い。マッハキャリバーのローラーによる加速を合わせた拳は正面に立って居たチンクに向けて振り下ろされる。
彼女は腕を交差させてその拳を受け止めようとしたが、横合いから何かを察したノーヴェが割り込み、スバルの拳を迎撃する様に自分の拳を合わせ打つ。彼女の放ったカウンターはスバルの顔面に突き刺さり、その身体を弾き飛ばす。
しかし、怒りに燃える彼女は弾き飛ばされる一瞬で足刀の一閃を放ち、ノーヴェの腕を
打撃を受けた筈なのに殴り抜いた腕を斬り落とされたノーヴェは舌打ちをしながら背後へと跳びのき、魔力弾を発射。
スバルに向けて放たれたそれは彼女の身体を貫く威力を持っていたが、彼女が振るった拳によって塵と消える。
目を見開きながら彼女の能力に慄くノーヴェ。再びローラーによる加速を付けた拳が振るわれる。
型も何もない怒り任せの拳。しかし掠るだけでも切断されるその拳を回避する為に背後に引いたノーヴェ、徒手空拳な以上近接型のスバル相手なら距離を取れば何とかなる、そう思っての行動である。
だが、その瞬間にスバルの拳からディバインバスターが放たれ、ノーヴェに直撃する。
残った腕でバスターを殴り付ける事で無理矢理軌道を逸らしたが、足を止めた瞬間に一瞬で踏み込まれ、その拳が胴に突き刺さる。その衝撃でノーヴェの全身がズタズタとなり、殴られた反動でボールの様に点々と転がって行った。
全身がボロ雑巾の様になったノーヴェは何をされたのかを考え、答えに至る。
戦闘機人はISと呼ばれる固有技能を所持している。つまり先程の現象はスバルの所有するISによる仕業。
接触すれば碌な事にならない。ぽたぽと滴り落ちる血の雫と全身の筋肉やフレームがズタズタとなっている事からもその斬れ味、破壊力を証明している。故に触らずとも戦闘が可能なチンクがスバルの相手をしようとした。
しかし彼女の頬を銃弾が掠める。スバルの勢いに置いて行かれていたティアナ達が合流したのだ。
横たわるギンガを回収し、負傷したノーヴェを撤退させようと自身のISを起動していたウェンディ。しかし彼女の前にはルーテシアの召喚魔法によって背後を取っていたエリオ、ガリュー、フリードリヒが立ちはだかる。
彼らの出現に鑪を踏んだウェンディ、その一瞬を逃さない様にエリオが加速、子供故の身長の低さを利用して下から潜り込み、血溜まりの中に横たわるギンガを回収し、キャロとルーテシアに治療を任せる。
「チェックメイトよ、大人しく投降しなさい」
ギンガの奪還と同時に行なわれるティアナの降伏勧告。古竜の末裔による威圧感と怒りに燃えるスバルの殺気。冷や汗を流しながら絶体絶命の危機に生唾を飲み込む。
ジリジリと後退するノーヴェとウェンディ。無意識に一歩二歩と下がる二人は遂にチンクの背にぶつかってしまう。
退路は無い。頼みの綱のセインからは先ほどラインの乙女を回収して一時撤退を行っていると言う一報が入っている。引くこと等出来はしなかった。
そんな時だった––––––男の声が聞こえたのは。
「なーにやってるっすか? 予定と違うっすよ〜?」
状況にそぐわぬ明るい声色とそれと共に放たれる青白い閃光。其れ等はティアナ達を背後から強襲する。
爆風に薙ぎ倒されるティアナ達。ブレンによって徹底的に状況把握能力を鍛えられていたルーテシアですら気が付かない程の気配遮断。完全な不意打ちによって吹き飛ばされ壁に叩き付けられた彼女達の目に映ったのは自分達が良く知る男だった。
「……R、D?」
「流石のティアも味方からのバックアタックは想定外だった見たいっすね〜。いやぁ楽に終わって良かったっすよ」
へらへらと笑うRDは自然体。味方を撃ったと言うのに全くの動揺も無く悠々と安堵しているチンク達の元へと歩いて行く。
「おせーぞRD!! 危うくやられる所だったじゃねーか」
「ノーヴェの言う通りっスよ!! もちょっと早く来てくれたらこんな目に合わずに済んだんっスよ!!」
「オレだって色々危ない橋渡ったとこだし、時間には間に合ってるんだから問題無いっしょ? まぁしっかし、久々にチンクの顔見たっすけど、相変わらずちっこいっすねぇ」
「う、うるさい!! 今は身長の事は関係ないだろう!!」
笑うRDと親しげに話す戦闘機人達。否が応でもティアナは悟ってしまう。彼が敵になったと言う事を––––。
RDの裏切り、怒りに飲まれていたスバルが一気に正気に戻る程の衝撃が六課メンバーに襲い掛かる。
「RD? 嘘、だよね、きっと此奴らに何かされてッ!!」
身体が上げる悲鳴を無視してRDに縋るスバル。しかしRDの口から発せられた言葉は彼女を絶望の淵に突き落とす物だった。
「『此奴らに何かされて?』捕らえ
RDの目は、底冷えする程冷たい。
「オレは何者にも命を受けずに此処に立っている。オレはオレとして立っている。『レイ・RD・ドミナート』として此処に立ってるんだよ」
そう言って、彼はスバルを蹴り飛ばしティアナへと直撃させ、その一撃で戦闘機人故の頑丈さを持つスバルを昏倒させた。
飛来するスバルを抱き留めながら壁に背中を打ち付けるティアナ。彼女は咳き込みながらもRDを睨みつける。
「…………理由は聞かないわ、察しが付くもの。 それで、何時からそっち側に?」
「無論、初めからっすよ」
RDがナンバーズと接触し、彼女らとパイプを持ったのは六課設立よりも以前の話。
ブレンの部隊では人死にが当たり前。その様な何時死ぬか分からない様な部隊に配属された彼は財団やスカリエッティが残す僅かな痕跡を辿って彼らに接触。以降は適度に情報を売り渡しながらスパイの真似事を行っており、現在スカリエッティが何処に潜んでいるのかも知っていた。
尤も、ラインの乙女に関しては完全に秘匿されていた為、そうとは知らずに交戦し、返り討ちにあった事による彼女への怒りはまだ心中にあるのだが。
話は終わり、トドメの一撃と言わんばかりにヒュージキャノンをスバルとティアナへと構えるRD。しかしそれよりも先に彼の身体が鎖で縛り上げられる。
召喚魔法と無機物操作を組み合わせたバインド。それは召喚士の二人が全力を込めて発動した物。そして正面からはフリードリヒのブラストフレア。左右からはガリューとエリオによる一閃が放たれた。
ニヤリと不敵に笑うRD。その瞬間彼の展開していたヒュージキャノンが換装され、代わりにマルチプルパルスが展開。全方位を焼き払うパルスキャノンがフリードリヒ達の攻撃よりも一瞬早く放出される。
辺りを焼き払う閃光。それは彼を拘束していた鎖を焼き払い、その場に居た全ての者に降り注ぐ。
後に残ったのは発射した本人であるRDとその後ろに隠れていたナンバーズのみ。他の六課メンバーは全て沈黙。辛うじて古竜の血を引くフリードリヒは立っているがその場は死屍累々。
「やっぱし残ったっすねフリード」
息も詰まる程の威圧感と殺意。流石のRDも足が震える、しかし彼は頭を横に振り、フリードに向けて取引を持ち掛ける。
「ここいらでオレ達を見逃してくれたら、これ以上キャロ達に手は上げない。虫の息だけどまだ其奴らは生きている、尻尾巻いて退くんだな」
睨み合いは一瞬。フリードリヒは一旦目を伏せ、鼻先を動かして『行け』と言うサインを送る。
それを見たRDは『良い判断っすよ』と言ってノーヴェを横抱きにし、ナンバーズと共に去って行った。
不死の英雄伝 〜舞台裏〜
第二百十六話・裏 運命の分岐点
ラインの乙女が襲撃を行う少し前、RDは思い詰めた顔で空を見上げていた。
出撃前の緊張にしては複雑な感情が浮かんでいる、思い詰め、悩み抜いている彼は何を思うのか。
「RD、どうしたのよ?」
不意に、声がした。
直後に背中を小突かれる、振り向くとティアナが拳を突き出し、背中を叩いて居る姿がRDの目に映る。
「あぁ、ティアっすか、何でもないっすよ……そう、何でも無いんすよ」
「いや、そんな訳無いから。 全然何か有るから」
断言するティアナ、ジト目で睨む彼女はRDの悩みの内容は分からなくとも悩んでいる事は分かるので、如何にかして励ましたいと思っている。
沈黙、普段の軽口は鳴りを潜め、瞼を閉じながら何かを思案するRD、ティアナはその沈黙に何も言わず、彼が口を開くのを待つ。
「––––––ティアは、怖くないんすか?」
「……死ぬのが?」
「……」
「そりゃ怖いわよ、私だけじゃない、スバルもエリオもキャロもルーテシアも、それこそ隊長達だって、誰だって死ぬのは怖い」
「…………オレは、死ぬのはイヤなんすよ」
「うん」
「死ぬのだけは、死んでもゴメンなんすよ……」
「……うん」
そう言って、RDは再び空を見上げ、重い息を吐く様にボソリと呟いた。
「––––––––––ティアは、オレの事を信じてくれるっすか?」
何の脈絡も無い一言、しかしRDの放つ雰囲気は無意味な質問では無い事を示す様に重い物である。
「勿論よ」
「––––––っ」
即答、どう言った意味か、などと言った返しも無しにティアナは即答し、RDは思わず息を詰まらせた。
「と言うより重い空気の割りには当たり前の質問過ぎてちょっと肩透かし貰っちゃったじゃないの」
「……当たり前、っすか」
「?」
この直後に、ラインの乙女の強襲が起こり、この会話はティアナの頭から抜け落ちる。
しかし、この会話こそが紛れもない彼の分岐点だった。
–––––生と死の分岐点、彼は選んだ自身の運命を、そしてその結末は如何なる物となるのだろうか。