第二十九話 決意と覚悟
あの後、アリサちゃんとすずかちゃんが其々用事があるからと帰宅したので私達は暇になってしまいました。 ユーノくんは息を切らせて横たわっているシフちゃんの上で一緒にお昼寝してます、その顔は凡ゆる苦痛から解放されたような賢者みたいな安らかな表情をしていました。
うーん今日はジュエルシード探しはお休みだし、ユーノくんを起こすのも悪いしなぁ、ってあれ?これってブレンくんとデート出来るチャンス……だよね?
ゆっくりと味わいながら紅茶を飲んでいるブレンくんを見る限り特にやる事も無さそうだし、誘ってみよう…かな?
「ね、ねえブレンくん、もし良かったら、その、二人で何処かに行かない?」
「なのはからのお誘いなんて珍しいね。 うん、勿論喜んで君をエスコートさせて貰うよ」
分かりきった返事ではありましたがそれでも私は内心でガッツポーズをし、あわよくば昨日できなかった告白をしようと考えていたのですが、それは次の瞬間に吹き飛んでしまいました。
近い位置から感じたジュエルシードの発現。慌てて私達は現場近くに行ったのですが、地面から巨大な木の根がアスファルトを捲りながら私達を貫こうと生えてきました。
「危ない、なのは‼︎」
「えっ?」
ユーノくんの叫び声を聞いた私は自分の心臓に向かってくる槍のような木の根を眺め、半ば他人事のように『私、此処で死んじゃうんだ』と思い、呆然として居ました。
ですが木の槍は私の心臓を貫く事は無く、ブレンくんの振るった一筋の銀閃が槍を斬り払って私を助けてくれました。 助かったと言う安堵感からか、腰が抜けてしまいその場にへたり込んでしまいました。
「危なかったねなのは、傷がなくて何よりだ」
「あ、ありがとうブレンくん、死んじゃうかと思ったよ……」
「どういたしまして。 それよりも、この周辺は危険だ一旦退こう」
そう言ってブレンくんは私を横抱きにし、次々と際限無く生えてくる木の根から逃げるために塀を足場にし、鞭のように振るわれるそれを避けながら民家の屋根を転々と飛び移っています。
「ぶ、ブレンくん⁉︎色んな人のお家がとんでも無いことになってるよ‼︎」
「所謂コラテラルダメージって奴さ、戦闘における致し方ない犠牲だから気にしても仕方ない」
「そうだよなのは、気にしたらきっと負けなんだ、ブレンの辞書には『周囲への被害』が抜け落ちてるから何言っても無駄なんだ、あははっ見て見て、僕たちの通った跡が次々瓦礫になって行くよ〜、あっ車が煎餅みたいになってるや凄いな〜、今度は電柱が引っこ抜かれてるね〜」
「ちょっ、ユーノくん⁉︎」
「二人とも、シフが丁度町の全体を見渡せる場所を発見したみたいだ、シフの背に乗ってそこに向うからしっかりつかまっててね」
ブレンくんがそう言った瞬間、周囲の建物を足場にしながら、シフちゃんが流星のように私達を攫い、目を回すような速さでとある廃ビルの屋上まで連れてこられました。
この鳴海の町を見渡せるビル、其処から私の目に飛び込んできたのは、絵本に出て来た『混沌の苗床』のような姿をした大木でした、先ほどまで現実逃避気味だったユーノくんも驚いた表情を浮かべています。
「うそ、だろ?ジュエルシードはあの『混沌の苗床』すら再現出来るって言うのか?」
「ど、どうしよう、このままじゃあ……」
その時でした。 私達の戸惑いを余所にブレンくんは感心したかのような表情を浮かべ、あの大木を眺めている事に気が付きました。
「ブレン、くん?」
「へぇ良くできてるね、本当に瓜二つだ」
「ブレン、君は如何してそんなに平然としてられるんだ‼︎」
「アレは混沌の力を宿していない唯の樹木だからね、別にやろうと思えば何とでも出来るさ。 それよりも、あの樹木の中心に人が居るのが見えるんだけど、コレは如何したら良いのかな?」
そう言われた私は、ユーノくんから教えて貰った『エリアサーチ』と言う魔法を使用してその場所を詳しく調べ、あのジュエルシードを持っていた子だと気が付きました。
私は思わず血が出るほど唇を噛み締め、自分の認識の甘さを痛いほど実感させられる。
「……私の、所為だ…私、あの子が持ってるのに気付いてたのに…」
「なのはの所為じゃ無い‼︎元を正せば、ぼくが……」
私が自分の迂闊さを呪っていると、ユーノくんが慰めて来れました。 ですが直後にブレンくんからキツイ一言を浴びせられました。
「いや、アレに気が付きながら見過ごしたと言うならば、コレはなのはの所為だ」
「ッ‼︎ブレン、なのはだって頑張ってるんだ、そんな言い方は無いだろう‼︎」
「黙れよユーノ・スクライア、努力が免罪符になると思うな、なのはの見通しや認識の甘さがこの事態を生んだならその責任から逃げる事は許される事では無い」
そう言った彼の気迫にユーノくんは威圧されてしまって動けないようでした。その後ブレンくんはユーノくんを一瞥しながら私の前に立ち、『さあ、君はどうしたい?』と言いました。
「全てを忘れて日常に戻るも良し、このまま何の覚悟も無しに流されるままに力を振るうのも良し、その選択は君次第だ」
「……………ねぇ、ブレンくんは私がそんな事できると思っているのかな?」
「正義感の強い君なら覚悟を決めるとは思って居るよ? ただ、無理に戦う必要は無いと言いたいんだけどね」
ブレンくんは優しい声で優しい言葉を投げ掛けてくれましたが、私はその言葉に甘える事はせず、レイジングハートを真っ直ぐに構えます。
「……ブレンくん、これが私の答えだよ‼︎」
私の叫びに呼応するように、レイジングハートが私に一つの魔法を教えてくれました。
「ディバイィィィンバスタァァァァァア‼︎」
私の叫び声と共に、レイジングハートの先端から収束された桃色の魔力が放たれ大木へと一直線に向かって行きました。
あの大木は両手を重ねるようにディバインバスターを防ごうとしたのですが、私の放った砲撃はそれらを容易く貫通し無事にジュエルシードを封印しました。
「ブレンくん、これからの私はユーノくんのお手伝いなんかじゃなく、自分の意志で、自分の覚悟で戦います、だから手伝って?」
私が自分の抱いた思いを素直に彼に伝えると、彼は優しく笑って『喜んで』と言ってくれました。
その時の彼の笑顔は何よりも美しく、自分が心の底から魅了されたのを実感しました。
「…………あの大木を力尽くでブチ抜くなんて……、なのはも気が付かない内に非常識に片足突っ込んでたんだね……あれっ?常識の範疇に居るのってぼくだけ?」
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