苦労人ユーノの戦いや如何に?
第六十三話 時の庭園攻略作戦 第二戦
唸る拳を障壁で受け止めたユーノは障壁に阻まれたその拳を掴み、足払いを仕掛けながらアルフを背負い投げる。 体格差はあったものの、彼の投げは綺麗に決まり、アルフは床に叩き付けられた。
そのままユーノは彼女を床へと固定するつもりだったのだが、アルフは叩き付けられた状態からも身を仰け反らせてユーノの顔面を足の裏で蹴り飛ばした。
狼を素体としている彼女の力は凄まじく、彼の華奢な身体は軽々と部屋の壁側まで吹き飛ばされて行く、さして頑丈では無い彼は半ば意識を持って行かれながらも、このまま壁に激突すれば容易く気絶してしまうと察し、急いで薄い障壁を幾重にも背後に展開して緩衝材代わりにしながらなんとかブレーキを掛ける。
しかし、彼が気を失わなかった事に安堵する暇も無く、蹴り飛ばすと同時に踏み込んで来ていたアルフの拳がユーノの腹に突き刺さる。 胃液がせり上がり、肺の中の空気と共に胃の内容物をぶちまけるユーノ、痛みと吐き気、呼吸出来ない苦痛が彼に容赦無く襲い掛かり、思考回路を鈍らせる。 揺れる視界の中、彼はゆらゆらと迫ってくるアルフの手の平を見てもそれが何を意味するのか理解出来なかったのだが、それに触れられては不味い、と漠然と考えつき、自分の手首と天井をチェーンバインドで繋げて一気に身体を吊り上げる。
死に体の身体が彼女の動きに反応したのは彼にとっては幸運だった。 道中の罠を回避する為にチェーンバインドを多用していたのもあり、そちらの魔法行使については淀みなく行われたのだが、それを実行に移せるかが難点だったのだ。
だがそれによって、彼を転移させようとしていたアルフの手は空を切り、勢い良く吊り上げられた際に意識を覚醒させる事に成功したユーノはそのまま天井を伝ってアルフから距離を取る。
単純な殴り合いでは彼女には勝てない、かと言って守りに入ったとしてもジリ貧になる、彼は使える物を工夫して戦うしかないと思い、天井に逆さまに張り付いた状態からアルフの手首と自分の手首をチェーンバインドで縛り付ける。 本来なら魔法陣などから展開する物なのだが、それでは細かい操作が出来ない上に、満足に振り回す事も難しい為、敢えて体の一部を使用した。
アルフは手首に巻かれた魔力の鎖を鬱陶しく思いながらも綱引きのように力任せにユーノを引っ張り返す。 当然の話だが、彼は自分の身体を天井に固定しているため、彼女の力を受け流す事の出来ない彼の肩は鈍い音と共に外れてしまい、力無く垂れ下がってしまう。 しかし、彼は外れた肩を気にも止めずに更に彼女の手足にチェーンバインドを重ね、反対側の腕からもチェーンバインドを展開して彼女の全身を縛り上げる。
身体の自由を奪われたアルフは、天井に張り付くユーノを迎撃する為にフォトンランサーを展開するも、命中精度の悪い彼女の魔弾では中々ユーノを撃ち落とす事が出来ない。
ユーノは外れた肩をバインドで固定しながら無理やり彼女を天井に叩きつける、そして引き上げた彼女を直ぐさま頭から床へと振り下ろす、この動作を彼は体力のあらん限りを尽くして行った。
何度叩きつけたが分からない、だが途中でユーノの気力が尽きたのかアルフの拘束が外れてしまう。
彼女は倒れ伏して身動き一つしない。 やり過ぎたか? 彼がそう思い、焦りながらアルフの元へ歩み寄って行くと、突如顎を殴り付けられ身体を宙に浮かされる。
見ればアルフの瞳には野生の本能が見えており、彼女はユーノの足を掴むと怒りのまま力任せにユーノを地面に叩きつける、どうやら彼女は気絶する間際に見えた自分の血と、アリシアの蘇生が最終段階に入ったと言う念話が送られてきた事から、何としてでも敵を足止めしなくてはいけないと言う一心で、一種の暴走状態に入ったようだった。
だが、傷を残してはいけないと言う縛りは辛うじて覚えているようで、倒れたユーノの脇腹を蹴り飛ばし、肋を何本かへし折りながらもボールのように転々とする彼に追い付き、治療を施す。
野生の本能と怒りが剥き出しになった彼女は証拠となる傷さえ残さなければ後はどうしたって構わないと判断し、やられた分を倍にして返そうと、彼の身体を壁に押し付けサンドバッグのように殴り付け、その度に負傷した彼の身体を元通りに治療する。
気が済むまで一方的に彼を殴り続け、漸く正気を取り戻した彼女は完全に沈黙したユーノを見て、正気を失っていたとは言えやり過ぎたと後悔しながら治療設備の整った施設へと彼を自分ごと転送する。
回復用の医療カプセルの中に彼を放り込み、ついでだからとそれまで自分が殴り倒してきた局員達も同様に放り込んで行く。
本来なら次の防衛地点にまで向かわなければなら無いのだが、見るからに戦闘経験の無い少年を意識が無くなるまで甚振っていた訳だから、このまま何もなしと言うのは非常に後ろめたく、一言謝罪をしておかなくては彼女の気が済まなかったのだ。
『あ〜フェイトにリニス、聞こえるかい? アルフだけどさ』
『どうしたのアルフ?』
『すまないね、頭に血が上ってちとやり過ぎちまってさ。 相手さんを治療してる所で、暫く動けそうに無い』
『そっか、アルフは大丈夫?』
『しこたま良いようにやられたけどね、まあ大丈夫だよ』
『…………どうやらなのはが来たみたいだ』
『そっか、頑張んなよフェイト』
『…………申し訳ありません、リニスです』
『リニス?』
『どうしたんだい?』
『お恥ずかしい話ですが、執務官と相討ちとなりました。 監視の手も緩みませんし、手首を手錠で拘束されていますので抜け出すのは難しいです。 真っ先に脱落したのが私とは……なんと言ったら良いのか』
『大丈夫だよ、私達がリニスの分も戦うから。 ね、アルフ?』
『勿論さ!!』
『………………お願いします』
アルフが念話を終えると同時にユーノが目を覚ましたので、彼女はすぐさま彼に謝罪の言葉を送ると返事を聞かずに次の防衛地点にまで転移していった。
不死の英雄伝 〜 舞台裏 〜
NGシーン 禁煙ですよ
リニス「こほん、時の庭園は禁煙です」
クロノ「ああすまない、すぐ消すよ」
リニス「それと未成年の喫煙は身体に悪影響を及ぼします、早々に禁煙なさった方が……」
クロノ「実は今日まで禁煙してたんだが、禁煙を辞める良い機会になった」
リニス「……(無言のジト目)」
クロノ「それにだ、煙草が健康に悪いんじゃない」
リニス「は?」
クロノ「健康が煙草に悪いんだ」
リニス「寝言は寝てから言ってください」