今回は色々あって短めです。
第九十七話 邪神の誘惑
デバイスを杖代わりにし、脱出の糸口を掴む為に足を引きずりながらあても無く彷徨い歩くクロノ。そんな彼の前にいきなり現れた怪しげな扉、あまり良い予感はしなかったが辺りを見渡しても他に何も無い為、多少迷ったものの、その扉を大きく開け放ち、中を確認しようとしたのだが、彼は扉を開けたと同時に中に吸い込まれてしまった。
気がつくと、僕は自宅のリビングに立っていた。しかも自分の身体は小さく、壁に掛けられていたカレンダーの年度は11年前、しかも日付は父さんの命日だ。何を意図して居るのかを察するのに時間は掛からなかった。
随分と悪趣味な事だな。時間を見ればもうそろそろ父さんが殉職したとの報告が入るはず、泣き崩れる母さんを見せて僕の心でも折ろうとしているのだろうか? だがその程度では僕の心は折る事は出来無いよ。
だがクロノの予想は外れ、待てども待てども父の訃報は届かなかった。 キッチンで料理を作っていたリンディは嬉しそうに食卓に食器を並べ、父の帰りを心待ちにしている。クロノはリビングのソファーに座り、自分の記憶の中の出来事と食い違いが出ている事に疑問を抱いていたのだが、次第にこの世界が夢なのか、それとも現実なのか、その境界が曖昧になっていった。
胡蝶の夢と言う説話がある。夢の中で蝶としてひらひらと飛んでいた所、目が覚めたが、はたして自分は蝶になった夢をみていたのか、それとも今の自分は蝶が見ている夢なのか、という説話である。 これと同じ事がクロノの身にも起きていて、自分の記憶に自信が持てなくなっていた。
そして、夢か現かと悩んでいた所に玄関から扉の開く音が聞こえ、クロノの手をリンディが引き、玄関に出迎えに行く。 半ば引きずられるように連れて行かれたら先には父、『クライド・ハラオウン』が立っていた。
「ただいま」
「お帰りなさい、あなた。 ほらクロノも」
「……………」
「ん? どうしたんだ、クロノ?」
「父さん、ですよね?」
「ははっ、いきなりだな。 そうだよ、父さんだ。 足もあるだろう?」
「そう、ですね……」
煮え切らない態度のクロノ、それもそのはず、死んだはずの父親が何事も無かったかのごとくに帰って来れば、嬉しい反面、誰だって困惑するものだ。
その後、クロノは父の話を聞きながら食事を取り、共に風呂に入る。 色々と疑問を抱えながらも数日間親子水入らずの時を幸せに過ごしたクロノはその生活の中である決断を下し、父をリビングへと呼び出す。
「どうしたんだクロノ? 改まった話しだなんて」
「父さん、やはりこの世界は夢です。 ここでの暮らしは非常に楽しく幸せで、まるで天国のようですが、僕には俗世の方が肌に合っていますよ」
「…………そうか。 だが向こうではお前を恨む者も少なく無い、下手をすると暗殺される可能性もあるんだぞ?」
「知っています」
「お前の身体もデバイスも、共にボロボロじゃ無いか」
「分かっています」
「このままだと、陰謀渦巻く世界に足を踏み入れる事になるぞ?」
「元よりそのつもりです」
クライドとクロノの睨み合い、気付けばクロノの身体は元に戻っていて、デバイスも破損したままだが手元にある。そしてクライドの背後には新たな扉が出現している、そして先ほどまで自宅だった空間は漆黒の闇に塗り潰されていく。
「クロノ、大きくなったな」
「はい」
「母さんを頼んだぞ」
「……はい」
砂のようにサラサラと崩れ始めたクライド、彼は消えて行く手の平でクロノの頭を撫でると、満足したような笑顔を見せて消えて行った。 後に残されたクロノは感傷に浸りながらも涙を流す事はせず、再び目の前に現れた扉を開け放った。
一方、二人掛かりでマヌスから主導権を奪い返していたはやて達は、粗方の仕込みを終わらせ、後は脱出するだけという手筈まで漕ぎ付ける。 問題は外で戦っている少女がマヌスを一撃で沈める火力を持ち合わせているのか? と言う点であったが、邪神の目を通して見える光景に心配無用だったと悟る。
桜色の砲撃が結界内部の建造物を根刮ぎ瓦礫に変え、砲撃の余波だけでマヌスの体勢が崩れている。何もしなくても勝てるのでは? と錯覚しそうな戦いだったが、マヌスの攻撃も熾烈さを極めていて、空一面が黒い闇の弾丸に覆われている。その状態から対峙している少女に対して雨のように絶え間無く闇の弾が降り注いでいた 更に其処へマヌスの近接戦が加わっており、戦局は厳しい状況だった。
はやては一時的にマヌスの身体の支配権を奪い取り、その自由を封じて動きを止める。 邪神はここに至って漸くはやて達に主導権を奪われた事に気が付いたが、既に手遅れ、動きが止まったマヌスの身体にカードリッジをロードしたなのはのスターライトブレイカーが叩き込まれる事となった。
不死の英雄伝 〜舞台裏〜
NGシーン お父さん?
リンディ「クロノ、もう直ぐお父さんが帰って来るわよ」
クロノ(……まさか本当に今までの事が夢で、今が現実なのか?)
リンディ「あっ、帰って来たわ」
クライド「オープン……、セサミ」
クロノ「 」
クライド「家族諸君、留守番ご苦労、お疲れ様だ」
クロノ「は、はい」
クライド「時にクロノ、現実での戦いの愉悦の具合はどうだったかな? 執務官殿」
クロノ「 」
クライド「たぎったかね? 赤黒く燃える炎を見ることは出来たかな? 股ぐらがいきり立っただろう?」
クロノ「 」