まあ前座だし仕方ないね(白目)
第九十八話 解放
マヌスに直撃したスターライトブレイカー、聖剣の魔力が込められたその一撃はマヌスの力を大幅に弱体化させる物であった。 そしてその瞬間を狙っていたはやてによって彼の邪神は闇の書から引き剥がされ、取り込まれていた二人は闇の書と邪神の分離によって解放される。
満身創痍なクロノと、闇の書と邪神の分離に全神経を集中していたはやて、二人は解放されたものの消耗激しく戦闘に参加できそうでは無かった。 特にはやてはこれから守護騎士達の蘇生も行わなくてはならない為、余計な体力を使用出来なかった。
なのはにマヌスを任せようにも、彼女は脂汗を流しながら肩で息をし、その顔には疲労の色がありありと浮かんでいる。 クロノは指揮官として一時撤退する事を決意、闇の書の主人であるはやてとなのはに念話を飛ばす。
はやてはクロノの提案に乗ったのだが、なのははその提案を蹴って追撃をする旨を伝える。 闇の書から切り離された邪神は見るからに不安定、確かに退くならば今だろうが、畳み掛けるのも今なのだ。 此処で退けば体勢を整えられるだろうが、それは同時に不安定となっている邪神の体勢をも立て直す時間を渡してしまう事となる。
なのははクロノの返事も聞かずに一方的にそれらの事を伝えると、カートリッジをロードしながら一直線にマヌスへと飛び込んで行く。 クロノはそれを見送る事しか出来ず、歯噛みしながらはやてと共に一度結界の外へと撤退して行った。
闇の書から切り離され、身体の維持が出来なくなり、ボロボロと泥人形のように崩れ始めたマヌス。 闇の書を通じて存在を作り上げていた彼は、先の一撃でリンクを強引に断ち切られてしまった上、その際に『夜天の魔道書』を『闇の書』へと陥れたバグデータ全てを押し付けられた。 更に強制的に魔力を消費させられ、その所為で身体を構成する為の魔力が不足、結果として身体が崩壊し始めていた。だが、マヌスは腐っても邪神である。 五分もあれば深淵の泥で代用品の肉体を作り上げる事も出来る為、この時点では彼に焦りの色は無かった。 何故なら彼はクロノ達はこの期に乗じて撤退する筈だと読んでいたからだ、精神的にも肉体的にも疲労を見せているなのはとはやて、虫の息のクロノ、頼みの綱の英雄も姿を見せていない為、此処は撤収以外に無いとマヌスは踏んでいた。 そしてその隙に仮初めの肉体を再び作り上げるつもりであった。
だが、その予想はなのはの襲撃によって裏切られる。
深淵の泥を固めようとしていた所へ放たれた桜色の閃光、それはマヌスの鼻先を掠め、固まっていた泥を全て消し飛ばし、その余波によってマヌスは大きく弾き飛ばされる。 その際にマヌスは両腕を交差させ、衝撃波を防いだのだが、代償として両腕の崩壊を加速させてしまい、そのまま腕を失った。 それを見たなのはは、マヌスが体勢を立て直した直後を狙ってバインドを放ち、彼の身体を何重にも拘束する。
逃がしはしない、一撃で仕留める。 そんな決意の現れか、なのはは再びスターライトブレイカーの発射体勢に移る。 持っているカートリッジを全て使用し、そこに自身の魔力を全て上乗せする。その後この地域一帯の魔力全てを根こそぎ収束、スターライトブレイカーは一撃で全てを塵に変える力を持ち、なのははそれを射出した。
発射の際の衝撃で空気の壁が破裂し、爆音と閃光によって周囲から音と光が消える。彼女の放った砲撃は射線上の全ての物を消し炭に変えながらマヌスに着弾。 しかし、邪神は不敵な笑みを浮かべながら何も抵抗する事無く桜色の砲撃の前に露と消えて行った。
不完全な復活だったとは言え呆気ない邪神の幕切れ、もし此処にブレンが居たらその事に対して違和感を感じていただろう。だがこの場にその違和感を覚える者は居ない、なぜなら邪神の執念、恐ろしさ、悍ましさを直接その身で味わっているのはブレンだけだからだ。
それを知らないなのはは、辛くも勝利を収めた事に胸を撫で下ろし、慌ててブレンを探しに彼が取り込まれた結界の元へと向かおうとする。『全てが終わったのだからブレンくんに加勢しなきゃ』なのははそう思っていた。
彼女は疲弊した心身を気にも止めず、ブレンが囚われた結界の元へ向かおうとする。 大切な彼を、自身にとって唯一無二の彼を助ける為に。
だがその瞬間、彼女の脳裏に声が聞こえた。
ー否、まだ終わってなど居ないー
その声は、彼女がよく知る少年『ブレン・シュトッフ』の声に良く似ていた。
彼女がその声に気を取られていると、世界全てが炎の津波に飲み込まれ、時が止まる。停止した世界の中に取り残されたなのはの足元に大きな穴が開き、彼女は虚数空間へと引き摺り込まれて行く。
虚数空間とは次元断層によって引き起こされる次元空間に空いた穴、魔法は全てキャンセルされてしまうため、飛行魔法や転移魔法が使えない。そのため、落ちたら二度と上がってくることは出来ず、重力の底へと落ちるのを待つばかりである。なのはもその例に漏れず、只ひたすら降下して行くだけとなる筈だった。
降下して数十秒後だろうか、何の前触れも無く様々な色が渦巻いていた空間から全ての色が消え去り、周囲が真っ白な空間に切り替わる。その直後、気が付けば彼女は以前に見た祭壇の前に立っていた。
巨大な器に燃え上がっている火柱、その器の裏にある巨大な扉、それはまるで彼女を出迎えるように大きく開いているのであった。
なのはちゃんが世界の根底に辿り着きましたね、後は殺し愛に挑んでもらいます。