明日100話記念に何かしよう(震え声)
第九十九話 世界の底
まるで私の事を招き入れようとしている大扉、天高く聳え立つ器の中の火柱、目まぐるしく状況が変化して行った為、色々と上手く飲み込めては居ませんでしたが、扉の先に見える階段以外に道が無かったので、戸惑いながらも先に進む事にしました。
何故先に進もうと思ったのかは分かりません、ですが何故か『進まなくてはならない』と言う使命感のような物が私の中に渦巻いていて、その衝動に突き動かされるように足が動いて居ました。 不思議な事に、火柱の立っている器を横切った時にその炎が私を包み込み、それまで私の身体を支配していた倦怠感や痛み等の不調が無くなり、コンディションが万全な状態になりました。
真っ白な空間を、手摺も何も無い階段だけを頼りにしながら一段一段降りて行く。もし足を踏み外してしまったら、今度こそ奈落の底に落下してしまうでしょう。 転落に気を付けながら慎重な足取りで中腹まで降りた辺りでしょうか? 目の前を真っ黒な鎧を全身に纏った騎士が私の目の前を横切って行きました。
咄嗟にレイジングハートを構え、多重障壁を展開しながら突然現れたその騎士の動きを警戒しながら様子を伺う。 左右には足場になるような場所は無い、足場らしき足場と言えば私が今立っている階段だけ、出来れば交戦はしたく無い。 レイジングハートを構えはしましたが、変に刺激したくは無かったので魔力を込めてはいません。 目の前の騎士は私の事など眼中に無かったのか、そのまま白い空間の中へと溶けて消えて行きました、彼は幻影だったのでしょうか?
騎士の幻影を越え、階段を下り切った私の目に飛び込んで来た光景は一面が灰に包まれた大地でした。そして、この大地は奥から放たれている押し潰されそうな威圧感と、息が詰まる程の存在感によって支配されていました。
震える身体に喝を入れ、生唾を飲み込みながら歩き出して行くと、私の足が地面にあった血溜まりに触れました。重量感を持った威圧感と存在感に気を取られていた私は、足元のそれに気が付かなかったようで、ブーツとスカートの裾にその血液がベッタリと付いてから初めてそれに気が付きました。
「よう、遅かったじゃねぇか? 挨拶回りに時間でも食ったのか? 暇すぎて此処の黒騎士を全滅させちまったじゃねぇかよ」
足元の血溜まりに触れた瞬間、私の目の前に旅人のような服装をした金髪の男性が現れ、先ほどの騎士を椅子代わりにし、骨で構成された大剣を担ぎながらそう言いました。 彼からは濃密な殺気と闘気が放たれていて、今にも斬り掛かって来そうな雰囲気でした。 私はレイジングハートを構える事も出来ず、死を覚悟しましたが、良く見れば彼の視線は私の背後、先ほど降りてきた階段に向けられていました。
そして、其処からも声が聞こえました。
「準備に手間取っただけだよ。それに、別れを告げる者はもう居ないさ」
振り向けば、騎士の鎧に身を包んだ銀の長髪で左右の瞳の色の違う男性が、『大人になったブレンくん』が同じく殺気と闘気を放ちながら見下ろすように階段から降りてきました。その際に彼は私の身体をすり抜けたので、これも幻影のようでした。 もしかしたら別人かもしれませんが、他人の空似とは言えない程に似ていた為、私は漠然とそう思ったのです。 目の前の二人は私の困惑を他所に会話を続けて行きます、お互いがお互いを殺す為に、戦いの作法だと言わんばかりに。
「私は……、いや、俺は。俺は今、生きている‼︎ 故に滅びろ‼︎、勝つのは俺だ‼︎ 新世界開闢と散る華となれ‼︎」
「吐かせよ、散るのはどちらか知るがいい!! 俺は今、生きている!! 故に滅びろ!! 勝つのは俺だ!! 闇の時代を産む礎となれ!!」
其処からは、言葉に出来ないほど熾烈な争いが繰り広げられました。 生物のように動き回る蛇腹剣、その合間を縫って放たれる月明かりの大剣の光波、地面から天を貫くように生える幻影の刃、真空の刃が銀髪の騎士に襲い掛かる。攻撃の余波で地面が抉れ、地形が徐々に変わって行く。 旅人の使用した炎の嵐が大地を焼き、溶岩を産み出す。
此処まで見て、私は昔ブレンくんが語ってくれた『不死の英雄伝』を思い出し、その中で語られた一場面と全く同じ場面である事に気が付きました。その証拠に、ブレンくんはその長髪を鞭代わりに振るって旅人に目潰しを放った後、その髪の中に隠していた短剣で彼の心臓を潰していました。其処で彼らの幻影は消え、辺りに静寂が戻る。
今の光景とブレンくんから語られたお話を合わせると、此処は『始まりの火の炉』で間違い無い、と思う。 じゃあ、この奥で待っている人は………。
その事に私が気が付いたと同時に、私の脳裏に一人の青年の生涯が雪崩れ込んで来ました。
自分の人生に絶望し、自ら命を絶った一人の青年が居ました。 彼は何者かの手によってロードランと呼ばれる地へと転生、自らの栄光を信じて疑わなかった彼は恨み言を吐き、世界を恨みながら長い間自分の殻にこもっていた。その内に、その胸に刻まれた不死の呪いによって数々の事を忘却して行った。 自分の名前、数少ない友人の名前、家族の名前、友人達の顔、家族の顔、普通ならば忘れる筈の無いそれらを忘却して行った事に恐怖を覚えた彼は、自分の殻から抜け出し、生きる事を決意して戦っていった。
始めは、死にたく無かった。我を忘れた亡者などになりたく無かった。不死の使命の為に自分よりも遥かに大きなデーモンに立ち向かい、鐘を守るガーゴイルを破壊し、下水道に居たドラゴンと死闘を繰り広げ、下半身が蜘蛛となった女性を討つ。二つの鐘を鳴らし、目を覚ました世界の蛇に自らの身を捧げる事で世界を救えると吹き込まれ、その為に戦っていた。聖女を救う為に三人羽織を殺し、神の国を守るアイアンゴーレムを粉砕し、四騎士の長と処刑者に惨殺されながらも友と力を合わせて勝利を捥ぎ取る。 王女に謁見し、狂気に飲まれた白竜の元で自らの運命についてのカラクリを知り、神に対して反旗を翻す事を決意する。 白竜を討伐し、聖剣を手に入れた彼は、過去へと旅立ち深淵の邪神を征伐する。 神獣を殺し、闇に堕ちた四人の公王を祓い、始まりの死者を浄化し、さっきの旅人と共に混沌の魔女を討つ。最後は世界を支配していた神をその座から引き摺り下ろし、人間による人間の為の世界を作る為に戦った。
死んで、殺して、殺されて、絶望に飲まれながらも折れる事の無かったその青年、彼は遂に始まりの火を手にし、世界を創造した。此処で彼の一生は終わり、私の意識は現実に引き戻される。
この先に不死の英雄が居る、その事を確信した私は一歩踏み出す度に濃くなって行く威圧感と存在感に耐えながら始まりの火を目指して進んで行きました。
ブレン→( ・ω・ ) 何も思い残すことはない
(====) ボコボコにされてやんよ
______( ⌒) )
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