たとえ、世界を滅ぼしても ~第4次聖杯戦争物語~   作:壱原紅

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※注意

こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。
尚、しっかりとこの場で警告をさせていただいているので、受け付けないという方は無理に入る必要はございません、どうかブラウザバックしてくださいませ。


今回は麻婆神父とドラグーンの会話(第一回目)となります。
完全オリジナル話ですので、カァッ!気持ち悪い!!という方や。
視られるかこらああああああああああ!!な方はこの場をもって退避をよろしくお願いいたします。

それでも大丈夫という方のみ、ご覧くださいませ。


愉悦矛盾(邂逅約束)

人の違いと、自身の違い。

それは、【彼】の生前の苦痛とよく似ていた。

 

己の心の在り様に、自分自身が耐えられない。

他者と己の違いに絶望し、その痛みでまた心が擦り切れていく。

どうして、何で、自分だけが。

 

それでも、全ての善悪が、【絶対】ではないように

その()が、許されない事だというのなら

 

何故、貴方は【幸せになりたい】と、願うのでしょうか――――――?

 

どうか、その願い(祈り)を、その手で殺さないで。

その想い出を、失くしたくないと願う貴方自身を、消さないで。

 

もしかしたら、コレはただの同情だったのかもしれない。

ただの、傷の舐めあいだったのかもしれない。

 

 

それでも――――――――手を差し伸べたいのは、この身がその【狂気】を知っているから―――――目の前の男の嘆きを否定したくなかった、そしてただ……諦めないで、ほしかった。

 

さあ、その現実の苦痛すら、見つめられる想いを教えてあげよう。

死せる者の誘惑に、彼が惑わされないように。

 

願わくば……生ける者が、その生き様を示す歩みを止めないように。

 

 

*******************************************

 

<SIDE/ドラグーン>

 

目を伏せる。

祈るはその死の穏やかな終着を。

自らに挑み、散って逝った命へ、その勇猛さを認めよう。

剣を掲げられないのが申し訳ないけれど―――――どうか、この祈りだけでも届いてくれればいい。

 

 

「……お前は、アサシン達の死を、汲み取ってやるのか。」

「…どんな理由と形であれ、俺が殺した命だ、俺がその魂が静かに眠れるようにと祈る事の何が悪い?」

 

後ろからかけられた声に、くるりと振り返って溜息を吐く。

ただ静かに切株に座ってこちらを見る男の姿に、ドラグーンは待たせすぎたかなと頭をかいた。

 

 

――――――――ほんの数分の諍いの後に、アサシンのマスターはドラグーンへ会話をしたいと申し入れてきた。

ドラグーンとしては、正直帰ってほしかったのだが、その真剣な雰囲気とアサシンを1人残して再び警戒に追いやった行動に押されたともいえる。

気がつけば、池の付近にある2つの切株に腰掛けるような形で、神父とドラグーンは隣り合って座るような状態になっていたのだった。

ちなみに、残ったのは女アサシンであり、アサシンのマスターでもある神父のすぐ後ろに霊体化している。

何かあればすぐにでも神父を抱えて逃げるつもりなのだろう…もっとも、その心配は無用なのだが。

 

ドラグーンは血塗れ状態だったのを、一度霊体化する事ですぐに元の状態に戻った。

流石に人と話す時に、全身血達磨状態でする程、無神経ではなかったのだが……若干、それを残念そうにしている神父に呆れたのは彼だけの秘密だ。

 

 

そして――――――――ドラグーンが、自分が殺したアサシン5人の魂へ、追悼をしたいと言い出し、それを神父が了承してから冒頭へ至るのだ。

 

 

「解せんな、お前にとっては他のサーヴァントは敵でしかないだろう?なのにその死を悼むのか、その死をお前は尊いとでも言うのか?」

「違うな、俺がもし【死を悼む】としたらそれは、【巻き込まれて死んだ命】に対してだけだ。

男女なんて関係ない、老いていようと幼かろうと知った事か、【俺】はなアサシンのマスター。

………【敵】として向かってきたのなら、その覚悟を悼むなんて、相手に対する侮辱の様な真似は絶対にしない。」

 

ドラグーンは追悼を終えると、すたすたと神父の隣に歩み、同じように切株に腰掛けた。

そのまま自分を見ているだろう事を理解しながら、静かに月を見上げて話し続ける。

 

「【敵】として向かってきて、逃げる事無く最期までこの身に挑んできたというのなら、俺はその覚悟を讃えよう。

その魂の安らぎを望むのは、彼等が得られただろう名誉を奪い去った事への悔いからじゃない、その終わりを理解して尚、挑んできた勇敢さに対してのモノだ。

少しは自分のサーヴァントを信頼したらどうだ?彼等はお前を守る為に死んだんだ…感謝こそすれ、その死を悼むのはむしろお前というマスターの務めだろう。」

「…」

 

ドラグーンの言葉に少し考え込む神父の気配、そして若干その背後から微かな殺気を感じながらも、ドラグーンは言い続ける。

 

「もし、お前に俺が悼んでいるように見えるとしたら――――――それは、少なからず血で穢してしまった、【この地】に対しての申し訳なさからだろうな。」

「…お前は、土地に罪悪感を抱いているというのか?」

 

戸惑うような声に、ドラグーンは小さく笑って「そうだ」と答える。

 

「本来なら、穢される必要のなかった場所。

俺のせいで、俺が此処にいたせいでお前達がやってきて、そして何も聞こうともしないで殺しあったからこうなった。

必要のない穢れをぶちまけて、こんなに魔力を垂れ流しにするような事をして…汚してしまった。

この場所は、そもそもこの町は、そして此処に生きる者達は、そんな事望んでなんてないのにな。

―――――――この戦争そのものが、町や土地、そして住まうモノ全てからすれば、いい迷惑でしかないだろうに……そう、子供達の誘拐事件のように。」

「…それは」

 

ちらり、と横目で見ると、苦悩するような表情で神父が眉間に皺を寄せていた。

その様子に、おや、と胸の内で首を傾げた。

明らかに、何か不満があるといった様子だ。

まるで……何か理由があって、反論できないとでも言いたげな。

 

(…もしかして、この神父、アーチャーのマスターと折り合いが悪いのか?キャスターのマスター達を止めようとした…とは考え辛いが、行動を起こす前に諌められた、とか?)

 

 

―――――――ドラグーンは、彼なりに街の状況を把握していた。

キャスターの児童誘拐事件も、しっかりと調べて検討している最中だったりする。

最も、自身のマスターの事を優先している為、子供達の命をそこまで優先している訳ではなかったのだが、

土地の管理人でもある【アーチャーのマスター】の何時まで経っても行動を起こさない、その無責任さに辟易していた。

そしてドラグーンは、その同盟者も勿論、キャスターのマスターとそのサーヴァントを分かってて放置しているのだと、そう思っていたのだが……

 

「…そっか、お前はアイツ等が【正しい】とは、思ってないのか。」

「…奴らの行動は幾らなんでもおかしい、もはやアレは放っておいてはならない罪悪だ。」

 

確認するように、主語を入れないで仄めかす様に問い掛けた内容を、しっかりと汲み取って返事を返してくるその声に確信を得た。

このアサシンのマスターは、まだそこまで外道には【堕ちていない】、と。

そうして、彼等は事の【本題】に入る事にした。

会話の内容は一つ、言峰綺礼がドラグーンに対して聞きたい事があるとの事だけだ。

 

「で、お前は俺に何を聞きたいんだ。」

「…私は、【答】を知りたいのだ。」

「…【答】?」

 

言われた言葉に、ドラグーンは当初、神父が何を言いたいのか分からなかった。

しかし、次に紡がれた声に、顔を顰めずにはいられなかった。

 

「私は―――――――妻を愛せなかった男だ。」

「…それは、どういう意味でだ?」

「言葉通りだ、私は妻を愛せなかった。

その死を看取った時も、妻が病で苦しんでいる間も、ただの一度も涙は流れなかった。

当たり前の家庭を築こうとした、真っ当な幸福を得ようとした、だが…それは出来なかった。

妻は私を愛した、私も妻を愛そうとした――――しかし、私は彼女を愛せなかった、ただそれだけの話だ」

 

言峰綺礼(アサシンのマスター)は語る。

己とその妻の過ごした日々の事を、その中での穏やかな日常を、

しかしその温もりを得ても――――――――――やはり、妻を愛せなかったのだと。

そして、その女が、未来の無い女だったのだということも。

 

 

「難病に侵された女だった、日に日に弱っていく姿を見ていた、最後の最期に私が泣いていると言って笑いながら死んで逝った。

だがその時、私の中には妻が笑いながら死んで逝く姿に、【どうせ死ぬなら、この手で殺したい】という、異常な精神が宿っていた。

これを狂気といわずに何と言えばいい?私は――――ただ、この手で妻を殺したかった、あの時は確信出来なかったが、私は初めて【愉悦】を感じていたのだ。」

 

 

目を伏せる、その姿に深い懺悔を垣間見た気がした。

真っ当に生きようとしたこの男は、なんていうことはない、自分自身の内の本能に、裏切られたのだ。

 

本能とは、衝動だ。

人間が当たり前のようにもっている、ソレ。

大半の人間は、生きる事にその衝動をみせるのに、この男はそれが【真逆】だったのだ。

自らの生を望みながら、他者の死を望み…ソレを、歓喜として認識してしまう。

明らかに、それは周囲の人間からすれば【狂気】であり【異常】でしかないものだ。

 

 

しかし目の前の男を見る限り、自分がそのような類の人種なのだと、今の今まで認める事が出来なかったのだろう。

服装を見る限り神父という役職なのだろうし、この話し方や落ち着き具合で分かるが、苦しみながらも【生きてきた】のだ。

 

誰にも気付かれないまま、その胸の内を晒す事も出来ず、たった1人で、ずっと独りで、自らの異常性に気付かないまま―――――――孤独に。

 

それなのに、気付いてしまった。

自分自身のその明らかな違和感の正体に、他者の不幸を望む本能に。

切欠がなんなのかは知らないが、恐らく、トドメを刺してしまったのはこの自分(ドラグーン)なのだとも、分かってしまった。

 

 

 

だからこそ、気付いた事が―――その【矛盾】があったのだけれど。

 

 

「馬鹿だな…お前はちゃんと、彼女を【愛せていた】だろうに。」

 

 

―――――そう言うと、ドラグーンは躊躇う事無く、その隣にいる男の右手をおもむろに取り、強く握りしめていた。

驚いたのか、伏せていた顔を上げてこちらを見る神父を気にする事無く、ドラグーンは握った手を見つめた。

もう成長する事も無い自分自身の手より、ずっと大きくてしっかりした神父の手を。

 

「…凄い手だよな、大きいし、骨も堅い。

豆が何回も潰れたのだって分かる、でも傷はパッと見ただけじゃ分からない。

どれだけ苦労したら、こんな手になるのか…ちょっと想像できないな。」

「何を…」

「【頑張った】から、これだけの傷を背負っても、苦しんでも、頑張ってるからこうなった。

凄い事だと思う、でも、それだけじゃ駄目だろう…なぁ、何で言わないんだ?

お前を心配してくれる奴は本当に誰もいないのか?お前に幸せになれって、そう祈る奴はもういないのか?―――――――――お前の妻は、お前に【独りでいてくれ】って、そう頼んで死んだのか?」

 

問い掛けを遮り、逆に問い掛けた内容に神父の視線が揺らいだ。

いない、という訳ではないのだろうその反応に、少しだけ安心する。

そして、神父の妻がそんな残酷な望みを託した訳では無い事にも、安堵した。

良かった、なら、まだこの男は間に合うのかもしれない―――――

 

「そもそも、どうして…そんな自分に関わる大切な事を、ずっと黙って生きていたんだ。

聞いてくれない奴ばっかりだったのではないだろう、そんなに薄情な連中しかいなかった訳じゃなかったのなら尚更だ。」

「私のこれが…こんなにも醜い気持ちが愛だと…本当にそう言えるのか…今でも分からないからだ…。」

「でも、それがお前の偽らない気持ちなんだろう?その気持ちはどうしても変えられないと感じているんだろう?」

「こんなに強い独占欲が、か?相手を労わるよりも先に、相手の【絶望】こそ望むような、そんな欲望を暴走させるこの感情がか。」

「…不特定多数の人間が決めた「一般論」なんて、関係ない。」

 

そう。

世間で一般的に言われていることなんて関係ない。

【お前】がどう思っているのかが重要なんだ――――――――

 

「お前は『妻』を自分の手で殺したかったと言ったな。

だが、それでもお前は殺さなかった、自分の殺したい女を、結局最後まで殺さなかった。

だから、お前はその女を【愛せなかった】と思ったんだろうが…

本当は――――――自分の手の届かないところに、自分の手で追いやるのが嫌だったからじゃないのか?」

 

その言葉に、ひゅっ、と息を呑んだ音がした。

思った事も無かったのだろうか、死んでいると感じる光の無い両眼が見開かれる。

酷い事を言っているのだろう、無関係の他人が、何故相手を分かった風に口にする権利があるのだろうか。

 

それでも、先程聞いたこの神父の静かな独白を、無視したくはなかった。

 

だって、悲しんでいるのだろう?

だって、苦しんでいるのだろう?

【自分】が分からないという痛み、楽しみも何もない、そんな人生。

【知っている】とも、その苦痛も悲しみも、かつてこの身は背負った事があるのだから――――

 

「今から紡ぐのは、俺の意見であり、そして俺の気持ちだが、それが【絶対】だなんて間違っても思い込むな。

死者は所詮、死者だ―――――――俺達(死人)の言葉に、お前達(生者)の人生を左右する重み(権利)なんてないんだよ。

それを聞いて結局決めるのは………お前だ、コトミネ(生きる者)。」

 

ドラグーンは一度目を伏せて、そして真正面から神父を見据えると、その光の無い黒い瞳を見つめた。

どうか、この死霊の言の葉の一欠片でも、その胸の内に届いて欲しいと望みながら。

 

 

 

「死んでしまえば、もう言葉を交わせない。

死んでしまったら、もう一緒にはいられない。

そんな単純な事を、お前が本当は恐れていたんだとしたら?

殺したい程愛している…でも、どこかで一緒にいたいとも願っていた。

彼女は……多分、お前のその感情に気付いていたんだろう。

お前を愛して、お前の事を想って、だから傍に居続けて―――――――そして、コトミネになら殺されてもいい(・・・・・・・)と、思っていたのかも、知れない。」

 

 

だが…言峰綺礼は、結局自分の妻を殺さなかった。

ただ静かに看取っただけで、その死体を引き裂く事もしなかった。

苦しめて辛い思いをさせたいなら、【生きている】間にすればよかった。

それが本能による衝動だったというのに、この神父はそれを、妻の最期まで無意識にでも抗ったのだ。

 

――――――なら、それがきっと、【答】なのだろう。

 

 

「笑っていたんだろう?最期の時に。

苦しいのに、辛いのに、笑っていたのは【幸せ】だったからだ。

彼女はお前の愛情が自分に向けられていると【確信】していたんだ。

愛しているから殺したい………でも、【愛しているから、殺せなかった】。

現に今も、その死を惜しんでいるぐらいに。

その命を、自分で奪えばよかったと悔いる程に。

どんな形でも……お前は確かに、その女を【愛して】いたんだよ。」

 

呆然としているその表情に、少しばかり悲しくなった。

ああ、この男には――――――そんな事も、【教えてくれる奴】が、いなかったんだと。

それは本人にも責任はあるだろう、しかし、こうして自身の異常を告げるのは勇気がいる。

なら、周りにも当然問題があったのだ。

気付かせようとしなかった男でも、絶対に誰とも話さないという訳ではなかった。

……………【コイツなら大丈夫だ】、という、周囲の人間の楽観的な視点が、余計にこの男を孤立させたのだろう。

全く無関係な存在である、こんな曖昧な存在にしか、言えなかったというのが――――――この男の、孤独を証明していた。

 

 

「所詮は憶測でしかない、でも、可能性は少なくないだろう。

お前はさ、何だかんだ言って結局、自分を慕っている人間を蔑ろに出来ていない。

本当に周りの不幸が嬉しいなら、今この町を騒がせている殺人鬼と同じ事をしてればよかった。

他の人間の周りをかき回して、誰かが事故にあったり病気になる姿を目にして笑っていればよかった。

でもお前はソレを、別にしたいとは感じていない。

今も苦しみながら、それでも【当たり前】の感性を手に入れたいのだと足掻き続けてる。

どこかで……【コトミネキレイは、その堕落を拒んでいる】。」

 

 

 

憶測でも、信じたいと思ったのは、その死んだ瞳に微かに宿る光を感じたから。

哀しい少女、蟲蔵で蹂躙され心を失くしかけていた少女と重なる何かを感じたから。

生きているのに、死んでしまったようなその【生】は、余りにも無残だ。

どんな生であれ、そこに未来がある。

 

ならせめて、その【生】に意味を見出してほしい。

 

死んでしまう前に、手遅れになる前に、そんな単純な理由だけれど――――

 

 

「生きていれば、そこに、【希望】は残るように。

お前自身がまだ、自分の未来を信じていたいんだと、俺は思う。

温かい場所で、誰かと一緒に笑いあえる、そんな優しい明日を。 

こうして、本来なら殺しあうだけの存在でもある相手と話したいと望んで、行動した理由なんてそれぐらいでなければ説明がつかない。

 自身の存在理由を、誰かに問いたいという衝動は、生半可な気持ちでは止められないからな。

 そして、それはきっと――――お前が、自分自身の【人間としての幸せ】を、まだ諦められないからじゃないのか?」

 

――――――静寂が、その場を支配した。

 

暫く、お互いに何も言わない時間が過ぎる。

動く事も無く、ただ繋がれた手だけが、互いの存在を伝えている。

何を思っているのか、何を考えているのかは伝わらないまま、それでも、その手を放そうとはしなかった。

 

そうして、おもむろに神父は口を開くと、淡々と声を発した。

 

 

「私は、人の不幸を愉悦と捉えてしまうような、狂った人間だ。」

「それは決して、お前だけの衝動ではないだろう。

不特定多数の人間でも、破壊衝動や他者の不幸に昏い歓びを感じる者も存在している。」

 

「娘を孤児院へ置き去りにしてきてしまった、私の様な妻を見殺しにした愚かな男が、あの子を育てられるとは思えなかった。」

「今からでも、遅くはないだろう。

お前も少女も【生きて】いるのなら、いくらだって時間はあるんだから、もう一度やり直せるし前に進める。」

 

「―――私は、妻が目の前で死んでも、泣く事が出来なかったような、どうしようもない男だ。」

「…泣けないなら、無理に泣く必要は無いだろう。

涙なんて、望む望まないに関わらず、ふとした拍子に勝手に出て来るものなんだから――――お前の涙腺が壊れてるわけじゃないんだろう?」

 

「…妻は、泣いていない私を見て、私が泣いていると言った―――――――それは、もう目が見えていなかった女の錯覚だと、私は思う。」

「…なら、視えなくても、お前は泣いていたんだろうな。

最期に、そう信じてくれた人がお前を想って言ったなら。

その信頼を向けられていたコトミネ自身が信じないで間違いなんだって否定したら……それは、とても寂しいよ。」

 

 

投げかけられる声に、一つ一つ返事を返す。

静かな問いへ、思った事を返すだけ。

その問いに―――どんな想いがあったかは、分からない。

でも、それでも、この男を狂人として扱うのだけは…………出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「私は―――――彼女を、愛せていただろうか。」

 

 

 

 

 

 

最後に―――――――目を伏せて、嘆くように、祈るように、問いかけられた言葉へドラグーンは一瞬だけ考えた。

 

 

真っ当とは、言えないだろう。

所詮自分は他人で、この男の全てが分かる筈も無い。

けれど、零された言葉に籠っていたその感情に、ドラグーンは覚えがあったのだ。

 

【殺したい程愛している】のと、【愛しているから殺したい】という感情が、似ているようで似ていないのと、同じように。

 

かつて、狂おしい程の愛情を抱き、狂おしい程の愛情を向けられたからこそ分かる、その【狂気】を。

 

【彼という英雄】は、誰よりも理解していたから。

 

 

だから、彼は

 

 

 

「ああ―――――――【コトミネキレイ】は、確かに自分の妻を愛せているよ。

今も、昔も、そしてきっとこれからも…お前が、彼女の【死】を無駄にしたくないと願う限り。」

 

 

 

無意識であろう、自らの左手を強く握りしめて、

縋り付いて動こうとしない男へ、静かにその気持ち()を口にした。

 

*******************************************

 

<SIDE/言峰綺礼>

 

 

静かな問いを投げかけて、ただ同じように静かな答えが返される。

否定も肯定もない、ただの思った事を連ねているのであろう声に、懐かしい【誰か】を思い出した。

 

 

 

―――――声が、聞こえる。

 

 

『―――――貴方は私を愛しています。』

 

 

儚い声、消えゆく命の、最期の祈り。

 

 

『だって…ほら、貴方、泣いているもの』

 

 

小さい笑み、優しい微笑み、最後の最期に幸せだと言った、彼女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は―――――彼女を、愛せていただろうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬だけ、ほんの一瞬だけ空気が止まる。

考えもせずに、殆ど吐き出すように告げたその、声に―――――――

 

 

 

 

 

 

「ああ―――――――【コトミネキレイ】は、確かに自分の妻を愛せているよ。

今も、昔も、そしてきっとこれからも…お前が、彼女の【死】を無駄にしたくないと願う限り。」

 

 

 

 

――――ぎゅっ、と、強く己の右手を握り返して。

その青年は、その声に、確かに肯定を返したのだ。

 

静かに、まるで道に迷った迷子に手を差し伸べるように、綺礼の縋り付いた右手を、サーヴァントの左手が握り締め続ける。

何故だろう…ただ、その掌が今は無性に温かいと感じた。

 

 

(―――――私は、どうしたかったのだろう。)

 

 

とりとめのない会話を交わす相手など、今までいなかった気がする。

失くしてしまった(ヒト)と、自分はちゃんと話せていただろうか。

努力はした、愛そうという努力は、しかし目の前の青年はそれこそが【愛情】だと言った。

 

妻は笑って逝った、その通りだった。

 

死に至る苦しみの中、それでも微笑んで自分を見つめてその愛情を説いた聖女。

彼女は夫の本性を知りながら、それでも心からその狂気も全て理解した上で愛していた。

しかしその愛情を向けられながらも、やはり自分は彼女を愛せなかった――――そう、思っていた。

 

だが、その根本的な考えを、目の前の青年は打ち崩してきた。

 

なら、どうして殺さなかったと。

何故、今まで諦めなかったのだと。

 

言峰綺礼は、本当に――――それでいいのかと。

 

鮮血の色に喜びを感じ、引き裂かれていく者達の姿に愉悦を覚えた。

それでも、その思考を受け入れられないと思う己の意志は、一体どこから芽生えたのか…?

 

 

そも―――――自分が欲しかったのは、【何だった】のだろうか?

 

 

 

「はい、ストップ。」

「…っ!?」

ぺち、と軽い音を立てて額を叩かれた。

その事に自分が叩かれた事と、叩かれるまで気付かなかったという事に、二重で驚いた。

叩いた本人はと言えば、ひらひらと片手を振って口の端だけあげて笑っていた。

「考えるのは良い事だけど、ちょっと迂闊にも程がある。

そういうのは自分の安全を確保してからするべきだろう?……俺が、お前の絶対的な味方ではないんだって、分かってるなら尚更だ。

いつか殺しあうんだから、今はこうして話せてよかったと俺は思うし、お前が敵にならないなら…また話したいと思うけど、きっと無理だろうな。」

「私は…」

 

いつの間にか、繋がっていた手は離れていた。

ふらり、と立ち上がって距離を置いて離れる青年に、この刹那の交流が終わりを告げようとしているのだと察した。

それを、どこか心残りがある気がして、声を上げようとするのを穏やかな微笑みが遮った。

 

「いいんだよ、それで。

お前が、俺のマスターを害さないなら、別に俺がお前を殺す理由はない。

どうせ、教会の監督役にも、アーチャーのマスターにも黙ってきてるんだろう?

同盟相手が裏切り行為をしているなんてバレたら―――――――だから帰ってくれ、【俺】のせいで、他人が死ぬのはもう嫌だ。」

 

 

 

………その一瞬だけ、彼が浮かべていたのが【微笑み】では無かったような気がしたのは、どうしてだったのだろう。

 

 

「…話しすぎたな、すまなかった。」

「いいさ、こっちもお前に会えて、少し楽しかった。

他人と話すなんて、随分と久しい行為だった…ありがとう。」

「―――――」

 

確かな微笑と、小さな声で告げられた感謝の声。

それに、言峰綺礼はただ思う。

 

【自分にはない幸福感】の、その在り方を伝えてきた。

そしてそれを、垣間見せてくれたそのサーヴァント。

理解出来ないと投げ出すのではなくて、【理解したい】と言ってくれた、その言葉に――――――確かに、どこかで安堵した気がしたのだ。

 

 

 

「…また、会えるだろうか。」

 

ただ、もう会えないというのが、嫌だった。

こんな事を言える自分がいるのに、内心驚いたがそれでも、叶うならこうしてまた話したかった。

まさかこんな切り返しが来るとは思ってなかったのだろう、言われた青年も驚いたように眼を見開くと、戸惑うように視線を泳がせた。

 

「…そうだな、もし…もしも、だが。

俺のマスターが【誰】なのか、それが分かって、尚且つ俺のマスターを助けてくれるなら…また、こうして話をしたいと思うよ。」

「それは――」

 

少し迷うように告げられた内容は、どう聞いても今の遠坂との同盟を破棄するのを望んでいる――――そして、裏切れと唆しているような内容だった。

しかし、静かに首を横に振ると、青年は無理強いはしないと言い切る。

 

「ああ、勝手な取引だ。

お前がアーチャーのマスターを優先するなら、無視してくれても構わない。

だが、もし……その同盟を破棄してでも、また【会いたい】と思ってくれるというのなら。

見付けてみろ、アサシンのマスター…俺の、【ドラグーンのサーヴァント】のマスターを。

そして知れ、何故俺がそこまでしてその人に従うのかを、我がマスターの【祈り】を知れ。」

 

話はここまでだ、と言って青年は背を向ける。

もはやこれ以上は無理だろう…会話は終わってしまった。

話そうにも、それ以前に何と言えばいいのか綺礼には分からない。

だから――――――そのまま立ち去ろうと、ドラグーンに背を向けて、綺礼は一歩足を踏み出し……

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――またな、キレイ。」

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

はっ、とその声に振り返る。

けれど既にその場に姿はなく、ただ静かな水面が広がっているだけだ。

 

それでも―――その声は、確かに己に届いていた。

 

「…ドラグーン」

 

イレギュラーのサーヴァント。

最後に、一度だけ【キレイ】と、呼んでくれた青年は、どんな顔をしていたのだろう。

 

(お前は…【また】、逢えるのを望んでくれるというのか…?)

 

銀の異端者、縋った己の右手を握り返したおかしな青年。

英雄王が告げた綺礼の【異常】を、静かな微笑みを浮かべて【愛情】だと言った【彼】。

 

 

 

≪死者は所詮、死者だ―――――――俺達(死人)の言葉に、お前達(生者)の人生を左右する重み(権利)なんてないんだよ。

それを聞いて結局決めるのは………お前だ、コトミネ(生きる者)。≫

 

 

「―――――――アサシン。

ドラグーンのマスターを探し出せ、師と父、そしてアーチャーに気取られるな。」

「…よろしいのですか?」

「構わない、私にとって、あのサーヴァントとの対話は【意味】があった。

衛宮切嗣もそうだが…あのサーヴァントにはやはりまだ【何か】がある。

私は、ただそれが知りたいのだ――――――無理を言っているが、頼む。」

「!――――――いいえ、我等は貴方のサーヴァントです。

少しだけお時間をください、必ずや探し出してみせます。」

 

命ずる時に、ふと思い出された、【従者を信じろ】というその言葉。

その言葉に引っかかるものを感じながらも、静かに控えていた女アサシンに、最後に小さく謝罪した。

小さくだが揺れた気配に、アサシンが少なからず動揺したのだと気付くが、すぐにその場から掻き消えた姿に確認は出来なかった。

 

――――――――いつの間にか、月は天高くに在り、白銀へと輝いていた。

 

 

 

「――――【また】」

 

 

最後にそう言うと、黒衣の神父は池に背を向けて歩き出す。

寺の境内に向かい、そのまま山門の外へと出ていくまでの間、彼は一度も振り返らなかった。

 

池の畔、舞い降りた一羽の梟が、【ホゥ】と鳴く。

 

 

その背を優しく撫でながら、最後に【彼】は微笑んだ。

 

 

「ああ、待ってる――――【キレイ】。」

 

 

静かに笑って、そう言った。

 

 

*******************************************

 

 

歩んできた道を切り捨てて、新たな道を模索するのはいいだろう。

 

しかし、ソレで本当にいいのだろうか?

 

その過程で何も得られなかったと、本当にそう思うのだろうか。

 

何一つ残らなかったという、証明には成りえるのか。

 

完全に孤立した人間は…存在しない。

悲しんでいる人は、他人の事も悲しむ事が出来るから。

 

自ら切り捨てない限り、その温もりはちゃんと傍にあるのだから。

願わくば、今一度の邂逅の機会が訪れる事を――――――――どうか望んでほしい。

 

そして

 

この運命の鍵を握るのはただ1人、竜殺しと狂戦士を束ねる【マスター】、その人である。

 

NEXT




【後書き】

神父と竜殺しの邂逅編、これにて一幕終了です!
シンプソンとアサシンの全力捜索隊が結成されました!(シャキーン!)
雁夜おじさん逃げて超逃げて(笑)

この行動によっていったい何が生まれるのか?次回の更新もご期待くださいませ。
ここまでの閲覧、ありがとうございました!


今回は、【「MOON PHASE」 Suara】をBGMにしました。


※感想・批評お待ちしております。





【補足】
ドラグーンが何故あそこまで的確な指摘をしてきたのか?そしてどうして諭すような事を言ったのか?
それは彼の生前によるものが大きかったりしますが…それはまた後々語られていきます。

また言峰綺礼という人物については、良くも悪くも極端な人物という点が、作者はある気がします。
父親のような人格者を目指す余り、自分自身を痛めつける方向性へまっしぐら。
でもそれでも自分の中の違和感を消す事は出来ず、誰にも言えないまま聖杯戦争まで来てしまった。
そして―――英雄王に愉悦覚醒講座を受けて、ああなりました。

見ようによっては、英雄王のせいだ!と思う方もいるかもしれませんが、
それも【言峰綺礼】という人物が、今まで天秤にかけていたモノを、
一気に振り切るような性格をしていたのが、原因だったのかもしれません。

…ぶっちゃけるなら、今までクスリを知らなかった一般人が、
いきなりハイリスクのドラッグを一気に使用したようなモノでしょうか。
そりゃテンションあがりますよ、周りの眼なんて気にもしませんよ、
うっかり貴族ぬっころしてサーヴァント横取りだって出来ますよ、もう何も怖くないんだから・・・orz

でも、誰かが彼の胸の内を聞いて、少しでもその気持ちを理解しようとしていたなら。
今回のドラグーンのようにとまでは言いませんが、分からなくても、支えにはなれた筈です。


だからドラグーンは悲しみました―――――――綺礼の苦しみを【誰も分かろうとしてくれなかった】事に。


この小説の言峰綺礼は、現在まだ迷っています。
英雄王の言葉もそうですが、ドラグーンの言葉も信じたいと揺れている状態です。
これから先、彼がどのような【答】を得るのか…?その未来を、どうか見守ってあげてください。









★オマケ


ちなみに、今回の話と前回の話の間に、こんな会話がありました♪


「………………で?結局、お前は俺に何を聞きに来たんだ、アサシンのマスター」
「…言峰綺礼だ。」
「…は?」
「【アサシンのマスター】では長いだろう、それならいっそ名前で呼んでもらった方が早いだろうと思った。」
「……あー…ま、いいか、コトミ・ネキレ・イだな。」
「違う。」
「………コト・ミネ・キレ・イ?」
「言峰綺礼。」
「…コトミネ・キレイ」
「…それで、いい。」


…ちょっとだけ、ズレた会話をしつつも、ドラグーンが何度も「コトミネ」と呟いていましたとさ。(笑)


お粗末様でした!(爆発オチ)
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