たとえ、世界を滅ぼしても ~第4次聖杯戦争物語~   作:壱原紅

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※注意

こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。
尚、しっかりとこの場で警告をさせていただいているので、受け付けないという方は無理に入る必要はございません、どうかブラウザバックしてくださいませ。

今回はオリサヴァ陣営はお休みです、皆大好きライダー陣営のお話し。
彼らが原作とは違った道筋をたどり出しますよ!


決断主従(葬涙連鎖)

―――――――繰り返される悲劇。

嘆きの声は止まず、奪われた肉親が祈る。

 

【どうか、無事で】

 

しかし祈りは届く事無く。

彼等の愛し子は、帰らない。

 

 

(泣いている姿に心が動かされたのは必然で、その悲痛な表情に怒りを抱いたのは当然だった。

愛する者を奪われて、涙を流し、今もその身を求めて叫び続ける民草よ。

お前達の声は、確かにこの王の耳に届いたぞ。)

 

―――――若き主よ、その嘆きの声を聴け。

そして、己が【敵】を見据えよ。

 

 

 

(お前達の涙は、確かにこの王の眼に映ったぞ―――――――――――――――だからこそ、たとえ余の民ではなかったとしても、見捨てはしない。)

 

 

その決断が降される時、御身は【運命】に反旗を翻す事となるだろう。

 

 

*****************************************

 

<SIDE/ウェイバー>

 

「あー…見つからないなぁ…」

 

外国人が多く住んでいる、冬木の中でも特殊な場所。

その住宅街の一軒家で、ウェイバーは使い魔を使役しつつ集中していた精神を休ませていた。

 

――――――土地の霊脈を辿る事で、敵のマスターとサーヴァントを発見する。

 

その方法を重視して探索していったウェイバーは、【始まりの三家】でもある遠坂邸と間桐邸に眼を付けながらも、手を出す事は出来なかった。

元々土地に根付く魔術師の家は、強力な結界を張り巡らせており、まず罠が予想される。

そもそも下手に戦いを挑むのは自殺行為だと分かっていた。

だからこそ、作戦を立てる為にもと、他のマスターとサーヴァントの位置を把握しようとしていたのだが…それも、事態の急変により変更される事となった。

数時間前に、言峰教会で監督役に伝えられた【ルール変更】、その内容によって。

 

 

(キャスターのサーヴァント…神秘の秘匿もせずに、誘拐事件を多発させている殺人犯がマスターだって?なら、僕やライダーが考えている【サーヴァント】は、8人目のイレギュラーって事になるじゃないか…っ!くそ、どうなってるんだよ!?この聖杯戦争は!)

 

だが、ウェイバーはそこまで考えると、眉を顰めたまま溜息を吐いて手元の資料を睨み付けた。

それは、ライダーに指摘されてからずっと考えていた事、この聖杯戦争の大まかな情報が知るされた資料だった。

少し調べれば分かる程度の知識、冬木の聖杯、7組のマスターとサーヴァント。

敵を探している間も、ウェイバーは自分の考えを元に何回か見直していた。

すると、何処か違和感を感じる箇所が幾つかあったのだ。

 

(この冬木という土地に聖杯が造られたのは、もう500年以上も前の事だ。

この間に、既に3回も聖杯戦争は行われているのに、誰一人として聖杯に辿り着けていない―――どうしてだ?最後の1人になれば勝手に現れるって書いている。

必ず聖杯を造った御三家も参加していたにも関わらず、その家の者が誰も至っていないなんて、おかしくないか?

【住み着いている土地】というアドバンテージがある遠坂や間桐は尚更だ、外からくる魔術師に対しての対策なんていくらでも打てるんだから。

下手に呼び出せば、必ずマスターを自滅させるような【バーサーカー】のクラスの設定も意味が分からない。

そんなのわざわざ作る必要性何てなかった、それならいっそ別のクラスで安定したモノを用意すればよかった……自分達で考えていたのなら、出来た筈。

それに、そもそも【選定条件】がおかしいんだ…聖杯が選ぶ人間って、魔術師だけだと思ってたけど―――キャスターのマスターでもある殺人犯は、魔力があるだけで、魔術の秘匿も出来ない素人じゃないか。

そんな奴を選んだり、イレギュラーのサーヴァントがいるかもしれない時点で、此処の聖杯って…本当に大丈夫なのか?)

 

もはや、ウェイバーの中ではこの地の【万能の聖杯】という言葉は、嘘くさいとしか感じられなくなりつつあった。

英霊という規格外の存在を呼び出せるのは確かである以上、その力は絶大なるモノだと理解は出来る。

そしてその彼等が求める願いを叶えうる【奇跡】、それすら叶えるであろう事も、分かっている。

 

 

しかし―――――――ソレが、本当に【完全】なモノかは、別の話だ。

 

 

(……でも、それでも、その聖杯を造ったのが【人間】なら……異常が起こっていても、不思議じゃない、かもしれないな…)

 

「おう!坊主見ろ!この冬木ヴェルデの展望レストラン2時間バイキングというのは面白そうだぞ!

今は西洋の料理が勢ぞろいだと言っておるわ!!」

「ってお前ーっ!人が真剣に考えてる時に何テレビ見続けてんだよぉぉぉっ!?」

 

…その真剣な考えも、同じ部屋で何故かテレビを見続けているライダーこと、イスカンダルの一言によって木端微塵にされてしまった。

食い入るように見続けているライダーの背中をどついてやろうかと、ギリギリ歯を食いしばりつつ睨むが、止めておいた……決して、自分はデコピンが怖かったからではないと内心言い訳をする。

 

「大体なぁ、お前こうして待機してる時はいっつもテレビばっか見てるけど、何か意味あるのかよ?そんなに面白いのか?」

「―――それだけだと思うか?坊主。」

「えっ?」

 

僕にばっかり働かせて、という嫌味を込めてそう言い放ったウェイバーだが、そのライダーの意味ありげな言葉と振り返った真剣な表情に言葉に詰まる。

明らかに、別の意図があるという言い方だ。

 

「坊主、よいか?まず【キャスターのサーヴァント】を倒せと言うのが教会とやらの意見なのであろう。」

「あ、ああそうだ。

キャスターのサーヴァントとそのマスターは、手当たり次第に子供達を攫っている。

魔術を大っぴらに使いながら、その秘匿も碌に行っていない為に、一般人に完全にマークされてる状態かな…。

新聞でも、その記事で持ち切り状態だっておじいさんも言っていた―――――聖杯戦争を、完全に無視している状態だ。」

「連れ去られた幼子達については、未だ行方も知らぬ状態である…成程のう、やはりそうなると隠しきれなくなるか。」

 

ウェイバーの言葉に、ライダーはうむと頷くと、その大きな拳でこつりとテレビに触れた。

 

「少し考えてみよ、奴らは自らの行いを隠そうともしておらぬのであろう?

ならば攫われている幼子達の家族が黙ってはおるまい、何とかして我が子を取り戻そうと奮起するであろう。

その為に彼等が必要とするのは何だ?そう、手掛かりになるモノなら何でも欲しがるであろう。

そんな中で、お主の言う新聞とやらを待っている時間は彼等には苦痛でしかない。

そして……この時代は随分と、余達の時代とは違う【利器】が増えているのもある――――そうなれば、やはり自然とこうしたモノで奴らの【情報】をいち早く手に入れようとするであろうな。」

「っ、そうか……テレビのニュースで、少なくともその日何処で事件が起こったのかがすぐに分かる。

 其処から奴らの行動範囲を特定する事も出来るって事か!」

「……だがな、坊主。

こやつ等は聖杯戦争を【全く理解していない】訳ではないようだぞ。

このテレビとやらを見ていた際に幾つかニュースとやらが流れたが、この【冬木】という場所でしか被害は出ておらぬ。」

「…この土地に、聖杯が降臨するって分かっているから、か?」

「そこまでは分からぬ、余はキャスター共ではないからのう。

だがこうして見ている限り、やはり奴等は子供達しか用が無いといった様子だ。

坊主の使い魔でも拠点を見つけられんというのならば――――――――そろそろ、直接街に打って出ねばならぬかもしれんぞ。」

「お、おい……でもまだ――――」

 

試してみたい方法があるのだ、とウェイバーが口にしようとしたその時。

 

 

―――――ガシャンッ!!

 

 

下の階から、何かが割れるような音が響き渡った。

 

 

「っ!?ライダーっ!」

「うむ、下だな……しかし敵の気配は感じぬぞ、ご婦人が何か割られたか…?」

「とにかく、ちょっと行こう!」

 

急に響いた音に、ウェイバーは焦った。

基本的に静かなマッケンジー家に、このような物音は珍しい……何か、あったのかもしれないという不安からライダーを急かすと階段を駆け下りた。

 

 

「っおばあさん?どうしたの大丈夫?」

「っ…あ、ウェイバー、ちゃん…」

 

そこには、テーブルの傍に落ちた割れたティーカップと。

そしてグレンに背をさすられながら、涙を流すマーサの姿があった。

 

「これはご婦人、何か…あったのですかな?」

「アレクセイさん、すみません…今はそっとしておいてやってください…」

「いいのよ、貴方…ウェイバーちゃん達にも、知っておいてもらった方がいいわ…もう、この町は危険かもしれないもの…」

「―――――どういう、こと?」

 

 

「ウェイバーちゃんは知らないと思うけど………家にね、よく遊びにくる子がいたのよ。

可愛い子でねぇ…ちょっと深い栗毛の女の子よ、大人しくて、きっと大きくなったら素敵な女性になるって分かるくらい良い子なの。

でも最近、誘拐事件が相次いでいて、だから暫く遊びに来たらいけないって、言って……少しの間だからと、あの子も分かったと、言っていたの。

なのにさっき電話があって……!あの子、【私達が寂しいだろうから、会いに行くんだ】ってご両親に……出て行ったのはお昼過ぎだって………それなのに……ッ!」

 

最後まで言い切ろうとしたのだろう、だが、途中で言葉を詰まらせて、マーサはボロボロと涙を零した。

しかし、それだけで十分だった。

 

恐らく――――マーサ達に、会いに行くのだと言った少女は、攫われた可能性が高いのだと。

他の誘拐事件と同じように、同一人物(キャスター達)の手によって。

そして、その命は…確実に、脅かされているのだと。

 

涙を流すマーサと悲しそうなグレンの姿に、ライダーが眉を顰め、ウェイバーの方を向く。

その視線にウェイバーは、掌を握り締めて強く歯を噛みしめた。

 

『おい坊主、こりゃぁ…』

『ああ――――キャスターのサーヴァントだ、まさか、真昼間からそんな事をしでかしていたなんて…』

『ふざけた事をしているのう…余達や他の参加者に見つからぬようにではなく、完全に挑発しているのではないか?』

『まさか、キャスターのサーヴァントは前も言ったように陣地に籠るタイプなんだ、きっと魔力を温存してるんだよ。

 早く見つけないと……どれだけ攫っているのかは知らないけど、急がないとキャスターはどんどん力を増していく――――』

『何をいっとるか坊主!そんなの【どうでもいい事】であろうが!!お主、この2人の姿を見て何とも思わぬのか!』

『っ…!』

 

ガンっ!と頭を横殴りにされるようなパス越しの怒声に、ウェイバーが思わず身を竦める。

その様子を見ながらも渋面のままで、ライダーはパスを通して語り掛ける。

 

『住居に住まわせてもらい、食を提供してもらい、自らの力になってくれている存在になんたる無配慮!キャスターの暴挙により、この者達の大切な【宝】が奪われたのだと言うておろうが!!このように嘆いている姿を無視する等、恩知らずも甚だしいぞ!!』

 

その声に、ハッ、とウェイバーの視線が老夫婦に向けられた。

 

「どうして…どうして…あの子がこんな目に…っご両親、あんなに大切にされていたのに……酷過ぎるわ…」

「マーサ……」

 

寄り添う2人、特にマーサから零れる嗚咽は悲痛なモノだ。

それは、確かに攫われた少女に対する、その身の心配と無事であることを願う悲鳴だ。

 

きっと、それこそ魔術で成りすましているとはいえ、ウェイバーに向けてくれる【孫】としての感情に近い。

少女を心から大切に想っているからこそ、彼女は今泣いているのだ。

 

『…坊主、ご婦人もそうだが、恐らく幼子達の肉親はそれこそ身を引き裂かれんばかりの苦痛を強いられておるぞ。

彼等はこの戦争が分からぬ、だからこそ打つ手がないのだ。』

『…』

『余はな、坊主。

子を持つ親の気持ちは、分からん訳ではない―――――子は国の宝、強いてはその親の宝なのだ。

それは人間(・・)ならば誰でも持っている心であり、決して切り離す事等出来ぬモノでもある。

余とて我が子を失くした時は胸が痛んだものだ……テレビではな、このように泣いておる者達の姿が何人も映し出されておったわ。』

『…僕は。』

 

 

『―――――――なぁ、坊主。お主は彼等を見てどう思っているのだ?』

 

 

ライダーの声は、一瞬の苛烈さを顰め、静かに諭すようなモノへ変わっていた。

 

その一言一言に、【重み】があった。

1人の王でありながら、1人のヒトとして生きた王の、恐らくは生涯を懐古しての言葉。

そして、その王が告げた、【家族】を想う者達の嘆き。

 

流れ落ちる涙の意味を、そこにある悲しみを、無視するのは間違いだという声だった。

 

 

「ああ、ウェイバーちゃん…」

「っ…何?おばあさん?」

 

そこで、泣いていたマーサがウェイバーに声をかけた。

考え込んでいたウェイバーが戸惑いながら返事をすると、声を震わせながらマーサが口にする。

 

「…ウェイバーちゃん、お願い、いなくならないでちょうだい…」

「―――っ、おばあさん。」

「っお願い、お願いよ…あの子だけじゃなくて、ウェイバーちゃんにまで何かあったら、私…っ」

「おばあさん、大丈夫だよ、僕は此処にいるよ。」

 

片手で口元を押さえて泣き崩れる姿に、ウェイバーは思わず駆け寄った。

泣きながら、ウェイバーの差し出した手を握るマーサの姿は痛々しかった。

強く握りしめられる手が痛かったが、その痛みが逆にマーサの今の心の状態のようにすらウェイバーには思えた。

 

「マーサ、ウェイバーも…もう休みなさい、身体に障る…このままではお前達まで参ってしまうよ。」

「あなた…」

「おじいさん。」

 

その時、2人の肩にそれぞれ優しく手が置かれた。

今までマーサに寄り添っていたグレンの手だった。

 

「きっとあの子はすぐに警察が見つけてくれる。

だから少しでも休んでくれ、あの子が次に来た時、笑顔で出迎えて上げれるように。」

 

落ち着いているようにも見えるが、やはり彼の瞳も悲しそうだ。

きっと心配なのだろう、それを2人に悟らせないようにとはしているが、隠し切れてはいない。

けれど、それでもマーサとウェイバーに負担を掛けまいとしている姿は、とても力強く感じた。

 

「そう、そうね…きっと、すぐに戻って来るわ…」

「ああそうだ、だからもう、泣かなくていい。」

「ええ、ありがとう、あなた…もう大丈夫よ…ウェイバーちゃんも、アレクセイさんもごめんなさいね。

こんなに取り乱してしまって…」

「気にしないで、おばあさん。」

「そうですぞご婦人、大切な人を心配するのは当然でしょう、何も恥ずかしい事ではない。」

「…ありがとう、少し疲れたから、先に休みますね。」

「おやすみ、おばあさん。」

「ええ、おやすみなさい、ウェイバーちゃん、アレクセイさん、あなた。」

 

そう言うと、マーサは自分の部屋にしっかりした足取りで戻っていった。

 

「…おじいさん、僕達も部屋に戻るよ。」

「ああ―――だがちょっとだけ、アレクセイさんとお話ししてもいいかい?」

「え?」

「おお!私は一向に構いません!」

「ちょ、ちょっと…」

「はは、大丈夫だよウェイバー、大した事じゃないから、先に部屋で待っていてあげなさい。」

「う、うーん…分かったよ。

じゃあ、先に戻ってるから。」

「おう。」

 

ライダーからの返事を聞くと、ウェイバーは背を向けた。

その背後で交わされた会話を、彼は知らない。

大した事ではないと、それだけで気にもとめなかった。

 

 

……とても、大切な事だったのだと、ウェイバーが気付くのは後の話となる。

 

*****************************************

 

<SIDE/ライダー>

 

ライダーとグレンがその場に残り、ウェイバーが部屋を出ていった。

そして、ウェイバーの姿が見えなくなると、グレンはおもむろにライダーに向き直り――――――――

 

 

 

「アレクセイさん、ウェイバーを…【私達の孫】を頼みます。」

 

 

 

――――――頭を下げた。

 

その突然の行動に、ライダーは驚く事も無く、ただ静かに受け止める。

 

「私は、あの子が何をしようとしているのかは知りません。

ただ――――時々貴方とあの子が夜に出ていっているのには、気付いていました。」

「…ご主人、それは…」

「止めるべきかと、思っていました。

こんな事件が相次いでいるのに、危険だとは思っていました。

けれど、あの子が自分で何かに立ち向かっているというのなら、私には止められない。

恥ずかしい話ですが、私達にはウェイバーを守り切れる自信がありません。

あの子は、【大切な孫】です……どうか、守ってやってはくれませんか。」

 

とても、強く握りしめられているのだろう。

その両手は少し震えている。

 

…グレンは悲しんでいただけではない、少女を攫った犯人へ怒りを燃やしていたのだ。

 

少女の家族からの連絡を最初に受けたのは、グレンだった。

電話越しに少女の母親の泣き声が聞こえて、耳からずっと離れなかった。

マーサも泣き続けていた、ウェイバーが支えなければ、あの時倒れていたかもしれない。

 

何故―――妻が、あんなに苦しめられなくては、いけないのか。

何故―――少女が、連れ攫われなくては、いけなかったのか。

 

そして、その犯人の矛先が、いつウェイバーに向けられるか分からない。

それが恐ろしく、そしてどうしても許せなかった。

自分がもっと若ければ、この身を盾にしてでも守れるかもしれないのに、老いた身ではそれも叶うか分からない。

だからこそ、この目の前にいるウェイバーの友人である巨漢に、頼んでいるのだ。

 

 

(……坊主、お主は幸せ者だぞ。)

 

ライダーにも、そのグレンの真剣な想いは痛い程に伝わった。

まだ出逢って数日しかたっていないライダーに、頭を下げる程にグレンはウェイバーを守りたいと思っている。

こんなにも、誰かを大切に想える人間は、ライダーの生前でもそう見られなかった。

だからこそ、自然と言葉が紡がれる。

 

 

「…分かりました、彼は、私が責任を持って必ず守り抜きます。」

 

 

その声に、グレンはどれだけ安堵しただろう。

顔をあげた彼の眼に映ったのは、頼もしい笑みを浮かべたライダーの顔だった。

 

「ご主人、安心してください。

たとえ誰が来ようと、彼には手出しはさせませんよ。」

「……ありがとう、ございます…!」

 

思わず目頭を押さえて涙を堪えるグレンに、ライダーは力強く頷いた。

 

「ええ、大丈夫ですとも!戦車に乗ったつもりでいてください!」

「はは…この国では、大船というんですよ、アレクセイさん。

貴方なら、安心だ…ウェイバーを、お願いします。」

「はい。」

「私も戻ります、では…」

 

そうして、グレンが部屋を出ていく。

その場に残されたのは、ライダー1人だ。

彼も当然すぐに部屋に戻ろうとする――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「…ふざけた真似をしてくれおったな、キャスターよ。」

 

 

 

 

 

 

――――――事無く、とても冷たい声が響き渡った。

 

 

「たとえ偽りでも坊主を家族として愛し、余という存在をもてなした者達を嘆かせた罪、決して軽くはないぞ。」

 

 

赤い瞳が憤怒に染まっている、ミシミシと握り締められている右手から音がする。

 

 

「子は国の宝――――それを悪戯に攫い、我が子を奪われ嘆く者達の心を嗤い続ける行為、余という【王】には赦せぬ。」

 

 

それは、ライダーが、イスカンダルがずっと抑え込んでいた怒りだ。

 

 

「待っておるがいい、自らの行った所業を裁かれる時が来るのをな、余と余のマスターは必ず貴様らを追い詰めるぞ―――――!」

 

 

張り上げられることなく、その場にのみ留められた怒声は恐ろしい冷ややかさを宿していた――――――

 

 

……ウェイバーが使い魔で街を調べている間、イスカンダルはずっとテレビでニュースを見ていた。

内容は殆どが『冬木ハイアットホテル崩壊』と『冬木の殺人鬼』ばかりだった。

その中でも、【冬木の殺人鬼】の内容こそ、誘拐事件に結び付くモノだとイスカンダルは気付いた。

儀式殺人、一家惨殺、大量の血で描かれた魔法陣―――――まず間違いなく、サーヴァントの召喚によるもの。

 

そして、誘拐事件のニュースが映った時、その鮮明な映像に目を見張った。

 

 

『子供が!帰ってこないんです…!うう、どうして、どうして家の子が…!』

『お願い、返事して!!こうちゃん!どこにいるの!?こうちゃあああああああん!!!』

『助けて、誰か助けて…!まだ7つなのに、何で、何で…うあああああぁぁぁ――……っ!!』

 

何人も、何十人もの【親】達が泣いていた。

親だけではない、兄弟や姉妹もいるだろう。

その彼等の全員が叫んでいたのだ、『子供を、家族を返して』と。

その声の悲痛さたるや何たる事か、我が子の居場所も分からず、ただ嘆く事しか出来ない【民】の悲鳴。

 

 

 

――――湧き上がる怒りで、テレビを粉砕しなかったのは自分でも褒めるべきところだとイスカンダルは思っている。

 

 

 

その怒りを、湧き上がる憤怒を、ずっと押し込めていた。

ウェイバーとの会話の間も、イスカンダルはすぐさま街に繰り出してもいいのではないかと提案しようと思っていた。

それが――――――――先程の、マッケンジー夫妻の姿で、一気に噴き出しかけたのだ。

 

 

(坊主の元に戻るまで、少し落ち着かぬといかぬな……ここまで怒りを感じたのも久しいわ、その【礼】は、たっぷりせねばならんがのう…)

 

そう考えると、イスカンダルは目を伏せた。

しかしその胸の内、宿った憤怒は消える事無く燻り続けている。

 

 

 

――――――火種は確実に彼の内に、業火に変わるのは何時か、それはまだ分からない。

 

 

*****************************************

 

<SIDE/ウェイバー>

 

先に部屋に戻ったウェイバーは、ベッドに寝転がり考えていた――――自分はどうしたいのかを。

 

 

…これは【戦争】だ。

人が死ぬのは当たり前。

更に魔術師が関わっている以上、子供達の命は絶望的だ。

だが、ウェイバーもまた、魔術師なのだ。

だからこそ、彼もその犠牲は【当然】だと、言ってしまうべきなのだ。

何より、この状況よりも残酷で凄惨な惨状を作り出した魔術師だっている。

どこかの町が、一夜にして死都と化した事だって、ウェイバーは聞いたことがある。

なら、この状況もまた、イレギュラーとはいえあってしかるべき事態なのだと――――――――――――

 

 

(…本当に、それでいいのか?)

 

それでも、胸に何か、刺さっている気がする。

 

(僕は、魔術師だ、でも……キャスター達とは、違う。)

 

泣いている、泣いていた、あんな悲しい声で、とても悲しい顔で。

 

(あんなのは普通じゃない、あんなのは間違っている、魔術は秘匿されるべきで。)

 

泣いてない、泣いてないけど、ああ、何て悲痛な眼の色をしているんだ。

 

(だから、僕は―――)

 

 

…本当の家族じゃないけど、騙しているけど、それでも――――――――――

 

 

 

 

「決まったか、坊主。」

「…戻ったのか、ライダー」

 

扉をいつ開けたのか、気付かない程に考え込んでいたようだ。

ウェイバーは部屋に入ってきたライダーの声に、意識を引き戻された。

向き合うように座ると、ライダーはウェイバーの眼を見据える。

それは今答えろと促すモノであり、ウェイバーもまた応えねばならぬと理解した。

 

 

「――――僕は、あの人達の本当の家族じゃない。

でも、だからといって、あの人達が泣いているのを無視したいとは思えない。」

「ならば、どうする。」

「僕はキャスターとそのマスターを倒す!そして、子供達を助け出す。」

「敵の居所はしれぬぞ、どうやって探す。」

「まだ試していない方法もある!このまま諦めるなんて出来るもんか!」

「奴等の目的が分からん、幼子達は無事という保証はないぞ。」

 

 

 

「それでも!それでも――――――僕には、納得出来ない何かがあるんだ!!」

 

 

泣きながら心配してくれた人がいて、自らの身を案じてくれる人がいる。

その人達の力になりたい、理不尽な行いに立ち向かえる力を、自分は持っている。

魔術師という生き方ではなく、【人間】としてのその感情()を、無視したくない―――――――!

 

 

 

「子供達を、生き残りを助ける―――それが、僕の、マスターとしての決断だ!」

 

「よくぞ言った!坊主!!それでこそ余のマスターよ!」

 

 

その声が響き渡ったと同時に、ライダーのしっかりとした声が返される。

声に込められているのは喜びと、そして賛同の意思。

 

「そうだ、奴等を放っておいてはならん、このままではこの町中の幼子等を攫い尽くすであろう。

そうなれば、後は手当たり次第になる可能性まである。」

「その前に、止めないと―――手遅れになる前に。」

「他の方法もあると言ったな坊主、余も動こう、何をすればいい。」

「分かった、なら頼みたい事がある―――――」

 

ライダーとウェイバーの声が暫く交わされる。

その声は夜の空へと消えていった。

 

……ウェイバーの中でも、ライダーとの会話で少しずつ変化が現れ出している。

偉大なる王に、その主人たる少年は確実に成長していく。

 

その成長はいずれ、彼が進むべき道を歩む為に必要なモノになるだろう。

 

願わくば、彼等の決断が無駄にならないことを―――――――

 

 

*************************************************

 

決まったのは、一つの【決意】だ。

 

何の為に、その剣を手にして

何の為に、その剣を振るうのか

 

揺るがぬ意志とは―――――自らの内より芽生えさせて、初めて確立するモノである。

 

若き魔術師よ、猛りし王よ

 

その決断の先に、救いを――――――――齎してくれ。

 

NEXT




【後書き】

さて、今回は「キャスターに浚われた子供たちの家族」というのもテーマにあげられています。
実際、ニュースとか流れたらこんな映像が沢山出てくるだろうな…と作者は思います。

サーヴァントでも、その光景を一番見れる場所にいるのはライダーじゃないかな?と作者は思いました。
小説でもアニメでも見てたし、テレビ…彼も子持ちの親として、その姿には思う事があったのではないかと思います。

そして成長していくヒロインくん、頑張って欲しいものです!


しかし、作者としてはこのキャスター陣営の行動に対する教会の対応は如何なものかと感じています。
綺礼からしても、父親は人格者だと言われているにも関わらず、
時臣の意見を優先するのはどうなのでしょうか?被害者の中に、ミサにくる人はいなかったのか?
信仰者としての行動としては、キャスターたちを放置するのはアウトではないのですかね?
そう考えると、やはり完全な人格者などいないのではないのかな…と思いますね。


今回のBGMは、【THIS ILLUSION(piano ver.)(Fate/stay night[Realta Nua]ORIGINAL SOUNDTRACK Disc 2)】でした。

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