たとえ、世界を滅ぼしても ~第4次聖杯戦争物語~   作:壱原紅

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※注意

こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。
尚、しっかりとこの場で警告をさせていただいているので、受け付けないという方は無理に入る必要はございません、どうかブラウザバックしてくださいませ。

今回はとうとう再開するバサドラ陣営のお話(前篇)。
でも…バーサーカーが空気かもしれない今日この頃…ちゃんと喋らせたいなぁ…カタコトだけど。


主従契約(恒星慟哭)

唐突に、男は疑問を抱いた。

自分が彼等を傷付けてしまった事を、否定してしまった事を悔いているのはどうしてなのだろう、と。

 

そんな感情を覚えていないと思っていた。

あの深い闇の底で、蟲に犯され苦痛を強いられた日々を覚えているからこそ、彼等を【人】として見る事が出来なかったのだというのに。

 

だがその疑問は再会と共に明かされ、その心は涙する――――――――――俺は、どうしてこんなにコイツ等を無視しようとしてしまったんだろう?そんなのは間違っていると、ちゃんと知っていた筈なのに。

 

 

*************************************************

 

<SIDE/間桐雁夜>

 

―――冷たい風の吹く、深夜の山に訪れた。

 

 

誰もいない、当然だ。

 

こんな時間帯に、一体誰が、いるというのか。

 

 

けれど、その存在がいるのだという事を、間桐雁夜は確信していた。

 

 

 

「バーサーカー…ごめんな、ありがとう。」

「――――」

 

 

辿り着いた池の畔、自分を連れてきてくれた黒き騎士に声をかける。

目についた切株に、降ろしてほしいと頼む。

 

なんとなく、なんとなくだが、その方がいい気がしたから。

 

 

「―――――ます、たー」

「バーサーカー…?」

 

 

けれど、目の前に膝を附き、頭を垂れたその姿に戸惑う。

どうしたというのだろう、何故、急に膝を折ったのか分からなかった。

 

 

 

その時―――――――

 

 

 

 

「騎士である以上、主の許可無く退席することは許されない。

 カリヤが許可を出さないと、霊体化する事もこのまま現界しておくことも選ばない――――――狂化しているのに、騎士としての誇りは未だ消えずという事は、バーサーカーは…カリヤを認めたのですね。」

 

 

 

その声が、響き渡った。

 

 

「…ドラグーン」

 

 

何時の間に現れていたのか、銀の英雄が雁夜の傍らに佇んでいた。

 

ほんの少しの風が吹くと、ふわりと銀糸のような髪が動く。

穹色の瞳は、初めて見た頃と変わることなく澄んで美しく。

月光の光に照らされ、まるで神話からそのまま表れたような神々しさを持っている。

 

静かな面持ちで、雁夜を見下ろしているドラグーンは月に照らされ、まるで本人が輝いているようだった。

 

 

「………バーサーカーは、霊体化させないのですか?」

「―――いい、このまま、一緒にいてほしいんだ。」

「そう、ですか。」

 

 

主と従者だというのに、ぎこちないとは思う。

何故此処に来たのだと、視線だけで問い掛けているのを分かっていても。

ドラグーンもその会話を先延ばしにしている時点で、自分達は互いに惑っているから。

 

バーサーカーが立ち上がるのと同時に、ドラグーンが逆に座り込んだ。

雁夜の隣に座ると、その表情を険しいものに変えて、苦々しく言葉を零す。

 

 

「どうして、来てしまったのですか…マスター。

 ここまで来る間に、敵に襲撃を受けてしまったら、どうする気だったのですか…?」

「それは…」

「私は、貴方に来てもらいたくはありませんでした。

 バーサーカーがどれだけ強くても、敵が奇襲をかけてきたら、取り返しのつかない事になっていたかもしれないのですよ…?指輪の供給があっても、何が切欠で暴走するか分からない以上、間違っても貴方は此処に来てはいけなかったのに―――――どうして―――」

「それでもっ!俺は、お前に…お前達に謝りたかったんだ…っ。」

「…謝る?」

 

 

咎める声は響く、しかしそこにあるのは怒りだけではない――――共に、確かに込められていたのは不安だった。

 

だから悲しかった。

 

この目の前の青年は、自分(雁夜)を心配してくれているのだと、どうしてあの時気付けなかったのか。

そのせいで傷付けてしまったのを、覚えているから、ここまで来た。

 

雁夜の声に戸惑いを見せたその表情に、胸が痛む。

 

 

「俺は、あの時、俺を止めようとしてくれたお前を傷付けてしまった。

 バーサーカーの事も、自分勝手に決めつけて、道具扱いしてしまった。

 お前達は悪くなんてなかったのに、爺の言葉を鵜呑みにして、お前達を裏切ってしまった…!

 それだけなら、いや、それだけでも間違っていたのに――それなのに………っ俺は、お前達の記憶を盗み見てたんだ!夢で、ずっと、ずっとお前達の思い出に、お前達の過去に土足で踏み込んでたんだよ!!」

「―――!」

「お前がどんな人生を歩んできて!バーサーカーがどうしてセイバーに襲い掛かったのかもまだ全部知らないけど!

 それでも―――っ勝手に盗み見ていいものじゃなかった!そんなつもりなくても、あんな…あんな悲しすぎるのを、俺が知る権利なんてなかったのに!!」

 

 

両目を見開いて、驚きを隠さないその顔に、罵られるのを覚悟で言い募る。

思い切り吐き出すように叫んだ声は、どれだけの衝撃を与えたのか。

その言葉を最後に、暫しその場には静寂が訪れた。

 

 

 

「…本当に謝らないといけないのは、【俺】の方だ、マスター。」

 

 

ふと、そんな言葉が響いた。

 

 

「っ?」

 

 

その声に視線をあげると、どこか悲しそうに歪められた表情で、ドラグーンが雁夜を見つめていた。

 

 

「――――――――俺は、知っていた。

 マスターとサーヴァントの間に在るパスで、俺達はお互いの過去を覗き見る事が出来る。

 それは眠っている時や、霊体化している時にふとした拍子に訪れるもの…それを、俺は黙ってた…ただ、貴方を知りたいと望んで、貴方に知ってもらいたくて、黙っていた。」

「え―――?」

「最低だろう?バーサーカーは、狂化して完全に話せないからしょうがなかったけど、俺はそうじゃなかったんだ…最初からそれを理解した上で、何も言わないで傍から離れた。

 桜の事も、蔑ろにしていたといわれても言い返せないぐらいには、俺はいい加減だった。」

 

 

敬語が消え、淡々と紡がれる声に、雁夜は戸惑う。

けれどその中に、確かに【自分を知ってもらいたかった】という想いがあった。

 

 

「恨んでもいい、赦さなくてもいい…けれど、バーサーカーは許してやってほしい。

 そいつは何も悪くない、俺は、分かってて黙ってた。

 俺にはカリヤを責める権利なんて、ないんだって、分かってほしい。」

「――――許すも何も、それならお前だって悪くない。

 それなら、悪い事じゃないじゃないか……俺が話さなかった、俺が聞かなかった。

 お前達に俺の事が分かったのなら、俺がお前達の事を夢で視たのは悪い事じゃないんだろ…?

 お前が、俺を助けてくれるように、俺だって――――――バーサーカーや、お前の願いが叶うように、協力したいんだ。」

 

 

だから、すぐに否定した。

 

そんな事言わないでほしかった。

どうして、赦す赦さないで、自分が悪いモノのようにいうのか。

 

あの夢で、泣いていただろうその声を、知ってもらいたかったというのなら。

ソレを咎める事なんて、出来る筈が無かったというのに。

 

 

 

 

それなのに―――――――――――――

 

 

 

「え――――?」

 

 

 

―――――――どうして、完全に意表を突かれたような声を、あげたのだろう。

 

 

 

 

 

「ドラグーン…?お前、どうしたんだ「…何で…」―――っ?」

 

 

戸惑うような声。

どこか、掠れたような声が響いた。

 

 

 

「どうして、そんな事言うんだ。」

 

 

 

視界に、言葉を詰まらせる銀が映る。

 

 

 

「俺は、【人間】じゃないのに。」

 

 

 

困らせてしまったと、思っていたのに。

 

 

 

「俺は、【生きて】ないのに。」

 

 

 

悲しませているんじゃないかと、思って、いたのに。

 

 

 

 

「何でだカリヤ(マスター)…何で、俺を【モノ(武器)】として扱おうとしないんだ…?」

 

 

 

それ以上に―――――――【理解出来ない】、と、戸惑っている表情が、そこに在った。

 

 

(そんな、残酷な言葉を、そう告げた)

 

 

 

「―――――っ!ふざけんなっ!俺はっ……そんなの、もう出来る訳ないだろ!?」

 

 

 

その言葉に、その表情に、腹が立った。

どうしようもない程に、怒りが、そして悲しさが溢れた。

 

 

「お前が言ったんだ!あの時、信用しろって言ったのはお前だろう!?俺はっ…バーサーカーやお前をただ、利用しようと思って…っなのに!なのにあんな夢見て!あんな辛い思いしてたって分かって!何も知らない俺がお前らを傷付けて…あんなことしたのに、無視出来るわけ、ないだろぅっ…!」

 

 

そんな事、言うな。

 

 

「俺の我儘(エゴ)にお前らを巻き込んだのは俺だろう!?そんな奴がお前らを道具扱いする権利なんて無かった!俺が…自分で!何とかしなきゃいけなかったんだ!!それなのに、桜ちゃんや葵さんや凛ちゃんを苦しませた…っ!それだけじゃない、結局は、俺があの家を逃げ出さなければ…誰も巻き込まないで、傷付けないで良かったんだって、今更気付いて…!」

 

 

お前は、モノ(道具)じゃない。

此処にいるじゃないか、生きてるじゃないか。

俺の事見てくれたじゃないか、俺の事心配してくれたじゃないか。

 

 

「大体俺は…俺は!【そんな言葉】を言わせる為に!此処まで来たわけじゃないって、最初から言っているだろ!?俺はただ、お前に力を貸してほしいんだ!お前を、1人にしたくなかったんだ――――――――!!!」

 

 

お願いだから。

そんな悲しい事を言うな。

自分は道具(モノ)だなんて、おかしいだろ。

何で、それを分からないなんて、思ってしまうんだ。

 

 

 

 

だから―――――――!

 

 

 

「……雁夜(・・)

「っ…?」

 

 

―――――――――――だから、その行動を避けようとするのは、出来なかった。

 

 

ふわ、と身体を包み込むように、抱き締められた。

優しく、肩口に顔を押し付けられて…そのまま、大切そうに、頭を撫でられた。

突然の温かさと、その行動に戸惑ってしまう、それでもこちらを呼ぶ声に意識が惹かれた。

 

 

「ごめんなさい。」

 

 

声が、聞こえる。

 

 

「ごめん、もっと、何か言えたらいいんだろうけど…分からない。」

 

 

謝る声、何故か、寂しそうな声が。

 

 

「他に方法が思いつかなくて、俺はコレしか、慰め方なんて知らない(・・・・)んだ。」

 

 

それなのに、掌はとても優しく、頭と背中を抱き締めている。

 

 

「…聞いて欲しい、お願いだから、意識を逸らさないで、雁夜に分かって欲しいから、雁夜に気付いて欲しいから言うんだ。」

 

 

麻痺している左半身を庇うように、まるで守るように抱き締められるのが、何故か酷く温かく感じた。

 

 

 

「俺は生前、ずっと―――【寂しかった】。」

「…っ!」

 

 

 

【寂しい】。

たった一言だ、だが、その一言に―――どれだけの想いが、込められていたのだろう?

 

その言葉の意味は、あまりにも重かった。

 

少なくとも、その過去を夢で視てしまった雁夜には、理解出来たから。

 

 

「でも、俺にはもう分からなくなってしまったんだ。

 そんな事すらも、俺には意味をなさなくなってしまっていた。

 生きてる頃は、色々あったから……麻痺してしまっていたのかも、知れないな。」

「麻痺って、そん、な……お前、そんなの―――!」

 

 

なら、それは、【どういう意味】を持つのだろうか。

 

 

裏切られて、罵られて。

否定されて、拒絶されて。

 

 

それが【当たり前】になってしまったというのなら、【彼】の、心は―――――

 

 

「ああ、普通じゃなかった―――――ごめんな、雁夜。

 分からないんだよ、もう、俺には当たり前の人間としての感情すら残ってない。

 どこか【壊れて】しまっていて、歪なそれを無理矢理繋ぎあわせて擬態してるんだよ。

 殺すのは別に大したことじゃないとも思ってるし、戦って傷付けるのが、壊すのが楽しいんだ。」

 

 

胸が、痛い。

そんな事はないと、否定したいのに。

 

見てしまった夢を思い出す、アレはそうだったのだろうかと、考えてしまうのが辛い。

その言葉を否定しないといけないのに、そうしないと、こいつが苦しいままじゃないのかと。

 

なのに、この口からは、掠れた呼吸音しか響かせず。

それ以上に、【彼】がその否定を確かに拒絶していたから、言えなかった。

 

 

「……なのに、何でだろう、雁夜の傍に居ると忘れていた気持ち()を思い出すんだ。」

 

 

はっ、として穹色の瞳を見つめた。

その眼に宿っていたのは戸惑いか、それとも別の何かなのかは分からない。

その時、何故、零れ落ちた様に音にされた言葉に胸が痛んだのか、分からない。

 

それでも、美しい蒼が、今は揺らいでいた。

 

 

 

「それなのに――――【間桐雁夜】は、その痛みと悲しさを思い出させてくれたんだ。

 ああ、そうだった、誰かに拒絶されるのは寂しいんだって、そんな当たり前のことを俺は忘れてしまっていたんだ。

 あの時もっとうまく言えたら、お前を傷付けたり怒らせるような事はなかったかもしれないけど、そうなるとこの痛みを思い出せなかった。

 はは、最低だな………嬉しいなんて、どうかしてる……雁夜の気持ちを傷付けたのに、嬉しいなんて、俺は本当に最低じゃないか―――――――――」

 

 

 

嘘だと、そんな事は無いと、言いたい。

でも言い切れない。

 

何で。

どうして。

俺が、まだコイツを理解してやれてないから…?

 

なら、ソレが辛い。

 

どうして―――俺の左目は映さないんだ。

どうして―――俺の左手は動かないんだ。

 

目の前の青年を、その悲しさを拾い上げて(救って)やる事すら出来ない。

ただ抱き締められているだけで、コイツが縋る事すらさせてやれないというのなら。

 

 

俺は――――――

 

 

 

ドラグーンの唇が、動く。

 

 

 

「ごめんな雁夜、俺に―――この痛みを思い出させてくれて、ありがとう。」

 

 

 

そんな、あまりにもまっすぐな(哀しすぎる)感謝を。

ただ優しい笑顔(悲しい微笑み)を浮かべて。

 

銀の英雄(ドラグーン)は、間桐雁夜(マスター)へ、そう告げた。

 

 

 

「―――――――――う、あ、あああああああああああああ………っ!」

 

 

 

声が響く、訳も無く涙が溢れた。

どうしようもない悲しさに、止まらない。

ただひたすらに、役に立たなくなった声の代わりに、心の中で謝り続けていた。

 

 

 

 

『ごめんな、ごめんな、ドラグーン。

 俺のせいでお前は戦えないのに、お前が一番傷付く事を言ってしまった。

 そんなつもりなんてなかったのに、知らないなんて理由で、俺はお前から逃げてしまったんだ―――』

 

 

 

    「それは違う、この魂は既に呪われている、決して貴方のせいではない。

       貴方だから、この身は応えた、貴方だから、この魂は招かれた。

我が罪と【違う】道を逝こうとする貴方だから、【俺】は貴方に死んでほしくないんだ――――」

 

 

 

意味なんてない、きっと、子供の様なみっともない言葉だけが零れてる。

ドラグーンはただその身体を抱きとめて、その慟哭を受け止めていた。

 

 

 

『ごめんな、ごめんな、バーサーカー。

 お前を狂わせた俺は酷い奴だ、お前の理性を奪ったのは俺なんだ。

 俺の我儘でお前を苦しめてる、お前の声を最初から聴こうとしてたなら、俺はお前を傷付けなかったのに―――』

 

 

 

    『違います、私は自ら狂気に囚われたかった、貴方の言葉に自ら望んだ。

      貴方だから、私は狂えた、貴方だから、それが辛いと感じている。 

我が罪と【似た】道を逝こうとする貴方だから、【私】は貴方を傷付けたくないと願う―――――』

 

 

 

痛い、痛い、だがその痛みすら凌駕するほどに、その答えは悲しすぎた。

バーサーカーは彼等の傍らに佇みながらも、その慟哭を聞き続けていた。

 

 

 

その嘆きへ――――哀しい程に優しくて、寂しい答えが返される。

 

 

気のせいで済ませたいと思うのに、ソレが彼等の本心だと気付いてしまう。

 

責めてくれたらよかったのに、赦されてしまったら分からなくなる。

 

 

どうして、お前達は俺を守ろうとしてくれるんだ。

 

どうして、そこまでして理解してくれようとするんだ。

 

 

俺は何も返せない。

 

俺じゃお前達に返せないんだ。

 

 

 

それなのに、どうして―――――――!

 

 

 

声は響く。

誰に向けているのかもしれない慟哭が。

 

その泣き声は誰の為の叫びだったのか。

 

受け止めてくれる2つの影に、今はただ涙を流す。

 

 

―――――今だけは、その優しさに触れていたかった。

 

 

*************************************************

 

 

月明かりが照らす中、哀しい泣き声が響き続ける。

その背を、その涙を受け止めながら、【彼】はその瞳を翳らせた。

 

 

 

「…【俺】は、雁夜が自分を悪く言っても、雁夜が優しくて温かい【人間】だと思う。

 最初に逢って、雁夜の願いを聞いた時、凄く【人間らしい】って思ったんだ。

 桜を助けたいっていう純粋な優しさと、トキオミっていう奴を赦せないっていう怒りと憎しみ。

 ソレは、人間なら誰だって持ってる感情なんだ―――――――それが、俺にはただ羨ましかった。」

 

 

 

声はただ静かに。

 

 

「俺は、その心すら失くしてしまった。

 大事な人を奪われた時、全て諦めてしまった。

 心に穴が開いてしまった、もう分からなくなってしまった。

 どうしたら思い出せるのかも、どうしたら叫べたのかも、もう――――だから、雁夜、ありがとう。」

 

 

想いを紡ぐ、偽りなき本心を。

 

 

「俺の為に泣いてくれる人なんて、もういないから。

 誰も泣いてくれない、誰も分かってくれない、なのに雁夜が泣いてくれた。

 俺が俺の為にもう泣けないのに、雁夜だけが……それが、ただ、こんなにも嬉しくて――悲しいよ。」

 

 

悲しい(寂しい)、と小さく響く声は、ただ。

 

 

「泣かないで、泣かないでくれ。

 泣かさないって約束したのに、雁夜が泣いたら悲しいよ。

 何で俺や、バーサーカーの為に雁夜が泣くんだ、それが分からないのが哀しい。

 分からないんだ―――――俺には、俺というモノには、その理由が理解出来ない(分からない)んだよ―――」

 

 

 

届かなかった嘆きと、その痛みを紡いでいた―――――――

 

 

*************************************************

 

 

幸せになれない血筋、未来の無い人生、誰にも理解されないその絶望。

誰よりも報われない貴方は、全てを恨んで憎んでも、きっと許される立場の【(人間)】。

 

 

…それなのに

 

 

どうして、そんなに優しいのか。

どうして、そんなに悲しいのか。

 

 

何故、貴方はこの身を未だ【ヒト】として扱おうとしてくれるのでしょうか…?

 

 

どうか手を伸ばさないでください、この身は人ではない故に、きっと貴方を傷付ける。

 

どうか武器として、そして盾として使ってください、でなければ、思い違いをしてしまう。

 

 

壊れてしまった鏡のような、鋭い破片を持つ欠片(モノ)が、死なせたくないと願うのは―――――

 

 

 

 

…ふと、空を見上げると、当たり前のように、穹に輝く太陽がある。

 

 

その光があたると、当たった存在には、【影】ができる。

 

自分が太陽だから相手を照らして()を見たり、それに気付く事が出来るから手を差し伸べる事は出来る。

 

それが、【太陽】というモノだ。

 

 

でも――――――太陽の【嘆き】は、誰が気付いてくれるのだろう?

 

 

太陽は、孤独の星だ。

 

その位置には、誰もいない。

 

【太陽】という存在が、強すぎるから傍に誰も寄れない。

 

そして、自分自身を照らしてくれるものは誰もいないから、

相手にその自分の()を見てもらったり、気付いてもらう事が、触れてもらう事が出来ない。

 

 

 

哀しく寂しい孤独な太陽―――――――その悲痛な叫びは、誰にも、届かない。

 

 

 

誰にも届く事は、無かったのだ。

 

 

 

―――――願わくば、その嘆きの声を拾い上げてくれるモノが現れる事を、祈ろう。

 

NEXT




【後書き】

人は、どこまで我慢できるのか?
人間は、どうして他者へ残酷になりえるのか?

多くの命を虐げる事に喜びを感じる者もいれば、虐げられて声もなく泣いている人もいるように。
その命を拾い上げて、抱きしめてくれる人が居るだけで救いになるのだと気付いている人は少ないです。


今回は、そんな傷付いている事に気付いてもらえなかった【誰か】のお話でした。


人間の残虐さって、理解できない事だらけですが、きっと現実でもその犠牲者はいると思います…。


更新が遅れつつありますが、皆様の感想や批評に引っ張られながら、最終話まで書いていきますので、どうか気長にお待ちいただけたら幸いです。
それではまた次回、後篇にてお会いしましょう…m(__)m


今回のBGMは、【魔法少女まどか☆マギカ OST 「Decretum」】でした。

※感想・批評お待ちしております。
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