たとえ、世界を滅ぼしても ~第4次聖杯戦争物語~   作:壱原紅

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※注意

こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。
尚、しっかりとこの場で警告をさせていただいているので、受け付けないという方は無理に入る必要はございません、どうかブラウザバックしてくださいませ。

今回は後篇のお話。
ドラグーンとおじさんの対話とお願いと戸惑いと考察。
最後にバーサーカーもちょっと出ます。

ここまでで見たくない!興味ない!という方という方は無理をせずUターンをお願いいたします。m(__)m
大丈夫な方、それでも見てやろう!という心優しい方は、どうぞ閲覧してくださいませ。


主従契約(懇願忠誠)

決断は早かった。

 

【彼】はきっと、自分が最初からこの男に呼ばれる事が【決められていた事】だと気付いた。

 

あまりにも似すぎていたその過去と、訪れるであろう結末の予感。

自分と同じ、いつか【人】であることすら捨てさせられるであろう絶望の布石。

 

そんなのだけは耐えられない、そしてそれだけは認められない。

自分は間に合わなかった、けど―――――――――この人だけは、同じ場所には堕とさせない。

 

 

そうして、彼等は再び約束を交わす。

 

叶えたい祈り。

失くしたくない願い。

 

その意志があり、何かを手放す覚悟があるならば、

その叫びに、今再び応えよう。

 

誓いを、此処に。

 

我は、常世総ての破壊者となるモノ。

我は、常世総ての浄化者となるモノ。

 

全てに等しく滅びを与える、破滅の起源をもつが故に。

この身は主の【敵】を殺し尽くす。

 

 

――――――願わくば、その滅びに意味があらんことを。

 

*************************************

 

<SIDE/間桐雁夜>

 

―――月明かりの下、お互いに向き合って話をしたのは数分の間だった。

ただ、自分の気持ちを伝えて、一緒に聖杯戦争を勝ち抜いて欲しいというだけの筈だったのに。

その際に、まさか泣いてしまうとは思ってもみなかったが、情けない姿を晒してしまったと思う。

 

「その、悪い、変なとこ見せたな…」

「気にしないでくれ、泣く事は悪い事じゃないだろう。」

 

小さく謝ると、隣に座るドラグーンがそう返す。

その表情はとても穏やかな表情だった。

 

―――あれから、自分が泣き止み、ドラグーンから離れて座りなおした。

その間も、ただ【彼】がいない間に起こった教会での招集、そしてそこで起こった事を話していた。

 

キャスターのサーヴァントが、聖杯戦争を逸脱し、街の子供達を攫い続けている事。

キャスターのマスターが、【冬木の殺人鬼】と呼ばれる、犯罪者なのだという事。

……自分は、ソレを止めたいのだと、言う事を。

 

その内容を、ドラグーンは黙って聞いていた。

真剣な表情をして、何かを考え込んでいる姿に、雁夜自身も僅かに緊張した。

そして、ふと此方を向いて表情を苦悩に歪ませた様子に、何かおかしな事でもあったかと息を呑む。

 

「雁夜、それだとキャスターは聖杯戦争をする気がない、ということだな?」

「あ、ああ…奴は冬木の子供達を集めているだけだ、だから、ソレを止めたい。」

「どうして?雁夜は―――間桐桜(・・・)さえ救えればいいんだろう?」

「え…っ?」

 

だから、その言葉に、固まった。

ドラグーンは、そんな雁夜を見つめると、静かに問い掛ける。

 

「どうして、雁夜は子供達を助けたいんだ?彼等は確かに不幸だけど、それは雁夜の【願い】には関係ない被害だ。

キャスターは、他の者達も討伐を命じられている―――放っておいても、誰かが終わらせるだろう、行いだ。

雁夜が出ていく必要は無い、むしろ、その余力こそ次の戦いまで持っておくべきものだろう。」

「なっ…何でそんな事言うんだ!?今も子供達が悲鳴を上げて苦しんでいるかもしれないのに!?」

 

信じられなかった、どうして、そんな酷い事を言うのか。

淡々と、まるでレポート用紙でも読み上げるような声色で、ドラグーンは意味があるのかと言った。

思わずその場に立ち上がり、この場から立ち去りたいと思ったが、それが出来なかったのは目の前のドラグーンの表情を見てしまったからだ。

氷のような、透き通った感情だけを宿した穹の双眸。

無表情で、心を殺した能面のような惑い揺れる事なき顔。

【夢】で視た時と同じ、生前、確実に勝利を得る為に【彼】がしていた表情を。

 

 

冷たくて、そしてどこか悲しい、英雄(殺戮者)としての顔を。

 

「そうだな、酷い事を言っている。

助けられるだけの力を持ちながら、助けないのは傲慢だ。

明らかに悲鳴を上げ、打ち捨てられる命を見捨てるのは、非道だろう。

けど、雁夜は願った。

【桜を救いたい】と、俺達を呼ぶ時に願っていた筈だ。

それは、結果論でいうなら、この聖杯戦争を勝ち抜かないといけないという事だ。

聖杯戦争をする気の無いキャスターの行動何て、それこそ放っておいて、他の陣営に仕留めさせてしまえばいい。

その間に、俺達は他の陣営の情報を集め、確実に奴らを排除できるようにして、勝利を得れるようにしてしまえばいいんだ。

それでも―――――その勝利を放棄してでも、雁夜は今、他の命を守りたいと願っている。

だからもう一度だけ聞く。

間桐雁夜(マスター)は、どうして、子供達を助けたいんだ?」

 

その問い掛けは、痛い程に、間桐雁夜(自分自身)の胸に突き刺さった。

 

 

「…俺、は」

 

どうして、助けたいのか。

 

その言葉に、何故こんなにも胸が痛むのだろう。

確かに、内容は酷かったが、言い方も酷かったが――――――その通りだった。

 

関係など、無い。

間桐雁夜が救いたいのは、間桐桜だ。

他の子供など、どうして助ける必要がある。

今は動いていないが、他の陣営だってキャスターは邪魔だろう。

なら、ドラグーンの言うとおり、別に雁夜が動く理由なんてないのだ。

 

それなのに、何故、間桐雁夜(自分)は顔も知らない子供達を、見捨てたくないと思ったのだろう?

 

「それ、は…っ!」

 

ただ、胸の内に、何か認めたくないモノがあった。

子供達を見捨てる事を、認められない、何かがある。

 

 

 

 

      ――――――――■■て―――――――――

 

 

 

「―――――――ああ、そうだ、俺はただ爺や時臣みたいな魔術師共と、同じになりたくないだけなんだ。」

 

そんな、言葉が、ふと零れ落ちた。

 

「ドラグーン、俺は、そんな綺麗な人間じゃない。

ただの自己満足(エゴ)だ、俺は俺のくだらない気持ちの為に、子供達を見捨てられない。

桜ちゃんを傷付けた爺や時臣の野郎は、子供達なんて見殺しにするだろう、絶対に助けないさ。

俺は、そいつらと同じになりたくないだけなんだよ!!」

「………」

 

叫ぶ、血を吐くような気持ちだった。

なんて、醜悪なんだろう。

なんて、無様なんだろう。

ただ自分の為に、子供達を理由にして、自分自身を綺麗なモノだと思おうとした。

俺は、なんて―――――――――――

 

 

「…でも、子供達の命を守りたいと思った気持ちも、嘘ではないんだろう?」

 

 

自分を責める思考は唐突に―――――――その、声に、遮られた。

 

 

「何言って…っ」

「雁夜は、確かにあの翁や、トキオミとやらが嫌いなんだろう。

だがそれだけで、サーヴァントに挑もうなんて感情は湧かないだろう。

俺をわざわざ探しに来て、力を貸せという程に…それは、本当にただの怒りと憎しみの感情だけで思った事か?」

「…」

 

否定した声に、思わず反論しそうになったのを遮る様に、淡々とした声で問い掛けられて言葉に詰まった。

その姿にどう思ったのか、先程までの無表情を消すと、ドラグーンは少し陰りのある顔でこちらを見つめて話しかけてくる。

 

 

「俺はそうは思わない、雁夜、【子供達を死なせたくない】って気持ちは間違いじゃない。

 泣いている相手を思う気持ちが悪いと言うなら、その感情を抱ける人間全てを否定してしまう。

誰かの為に戦う事が報われるとか、自分の自己満足だから結局は上辺だけの偽善なんだとか、そういう問題じゃない……それは間違いなく、雁夜の優しさだろう。

 だからこそ、俺は雁夜に聞いたんだ―――【どうして助けたいんだ?】って。」

 

 

声が響く、静かに、静かに、降り積もる雪のように。

見つめてくる穹の色の瞳は、どこか祈る様にこちらを眺めている。

 

その静かさに、少しだけ落ち着いて、雁夜は耳を傾けて考えた。

何故だと、問われた事に、自分の【答え】を示そうとした。

 

そして

 

「―――――俺は、関係無くても、やっぱり見捨てられないんだ。

 子供達に、家族がいて、心配してる人達がいて、泣いている人がいるって、分かるから…」

 

結局、出たのはそんな単純な答えだった。

正義感とか、救済したいとか、そんな理由じゃなくて、ただ。

 

【泣いてる人がいるから】

 

それだけ。

 

たった、それだけだった。

路地裏から見た電柱に張ってあった、人探しのポスター。

ゴミ捨て場にあった新聞に掲載されていた、泣いている親の写真。

ソレを見つけてしまって、いてもたってもいられなくなっただけの―――

 

 

ただの、一般人としての、どうしようなく普通の、当たり前の大人の感情論だった。

 

 

 

「そうか。」

 

 

ドラグーンは、その答えに目を伏せる。

彼がどう思ったのかは雁夜には分からない。

けれど、否定的ではなかった。

どこか、羨ましそうで、哀しそうな、そんな声だった。

 

 

「……分かった、雁夜(マスター)

俺も全力で手伝おう、子供達を助けに行こう。」

「っ本当か!?」

「ああ、でもその前に、少しだけ聞きたい事があるんだ。」

 

静かな声のまま、了承のしてくれたドラグーンに雁夜は嬉しさで声を上げる。

だが、その声が続けて言った言葉に、一気に歓びが冷めた。

 

「なぁ、雁夜。

【トオサカトキオミ】とやらについて、どう思ってる?」

「――――――――」

 

―――意識が一気に、冷たいモノになった気がした。

次いで沸き起こるのは激しい憎悪と怒り。

 

「そうだ、時臣!アイツ、子供達を助けようともしないっ…!管理人とか言いながら、何もしてないじゃないか!あんなやつ、やっぱり最低だ!桜ちゃんの事も、凛ちゃんの事も、葵さんの事も…誰の気持ちも考えてない!」

「…そうなのか?」

「ああ!アイツは何も分かってないっ!爺の言葉をそのまま受け入れて、蟲蔵の事なんて知りもしない!桜ちゃんがあんなに苦しんでいるのに、アイツは自分の屋敷で優雅に平然としてやがるっ!!だから俺はアイツを―――――――っ」

 

殺してやる、そう、言ってしまおうと思ったのに。

 

 

「雁夜、【桜】はそれで本当にいいのか?」

 

 

その声に、ぴたり、と沸き起こっていた憎悪が、止まった。

 

「さくら、ちゃん。」

「ああ、桜がそれで、喜ぶと思うか?トキオミとやらは強いんだろう、雁夜が無事じゃなくなれば、桜はどうなるんだ?」

「どう、なるって。」

「トキオミが死んで、雁夜も死んでしまう。

桜は、あの翁が手放すとは思えない、桜はどうなるんだ(・・・・・・・・)?」

「それ、は――――」

 

考えても、みなかった。

そう、だ。

桜ちゃん。

あの子は、どうなるのだろう。

俺が、死んだら。

時臣の奴と、相打ちになったら?

誰が、爺からあの子を守ってくれるんだ。

サーヴァント、彼等は聖杯戦争が終わったら消えてしまう。

 

なら、どうし、たら――――――!?

 

 

「……【今は】、まだこの事に関しては考えていていい、雁夜。

けど、いずれ答えは出さないといけなくなる。

折り合いがつかなくなるまで、頑張って考えてみてくれ。」

「っ!?」

 

とんっ、と軽く額を小突かれる。

その衝撃で、はっ、と正気に戻った。

目の前には、苦笑気味で、どこか困ったような表情をしたドラグーンがいた。

 

―――今は、そう、急がなくてもいいのだと、言った。

 

その声に、甘えたかったのかは分からない。

ただ、気がつけば、問いかけている自分がいた。

 

「ドラグーン…俺が、アイツ(時臣)を憎んだのは、責めないのか。」

「一概に悪いとは言えない、人が人を憎むのも嫉妬するのも当たり前だ、生きてるんだから。」

 

声は静かに、雁夜の【願い】を肯定する。

誰かを恨むのは、【人間】として当然だと、許す。

 

「俺は、桜ちゃんを助けたいんだ、ソレは間違ってるか?」

「泣いてる桜を助けたいっていうのが、間違っているというなら―――ソレを否定する奴は、【人】としてもっとどうかしてるよ。」

 

けれど、桜を救いたいという、その願いは【本物】だと認めてくれていた。

 

…嬉しかった、泣きたい程に。

誰にも分かってもらえないと、諦めていた。

臓硯によって、苦しめられている桜を救いたい。

その願いは、間違って等いないのだと、言ってくれた。

 

 

「ドラグーン、俺は――――――「間桐雁夜」っ?」

 

声をかけようとして、遮られた。

その言葉に、ふとドラグーンの方を向き、息を呑む。

 

 

――――――――目の前に、ドラグーンが、膝を付いて頭を下げていた。   

(まるで、バーサーカーと同じく、騎士のように。)

 

 

「間桐雁夜、我が召喚者(マスター)よ。

まずは非礼をお詫びさせていただきたい。

この身は真っ当な騎士ではないが故に、今まで貴方を試していました。」

「ため、す…?」

 

深々と、頭を下げて声を上げるドラグーンに、雁夜は戸惑う。

別人ではないのかと思うほどに、その急変は形となって目の前にあった。

 

「俺は、まだ貴方を完全に主君(マスター)として認めてはいなかった。

あの翁に、いわれるまま戦争に参加する主君(マスター)なら、忠誠を誓おうとは思わなかった。

だが、貴方は今――――自らの意思でキャスター討伐を選び、この聖杯戦争で戦う事を、サーヴァントと共に戦う事を望んでくれた。」

「―――!」

 

紡がれる声、明かされる真意。

戸惑いながらも聞き届けるその言葉は、確かに雁夜を認めているモノで。

 

「俺は貴方を守る、俺が貴方を支える。

この身はこれより貴方の剣であり、貴方の盾である。

どれほどの敵が来ようとも、この身は貴方を死なせはしない。」

 

そこで、顔を上げたドラグーンと目があった。

穹色の眼が告げる、嘘偽りない絶対の意思、雁夜を見る視線は――――

 

 

「間桐雁夜、貴方こそ俺の主君(マスター)だ――――貴方の【覚悟】、確かに認めた。」

 

 

――――ハッキリとした、信頼の色が宿っていた。

 

 

「ドラグーン……っ!?」

 

その言葉に、何か答えなければと思ったその時。

麻痺している筈の左手に、違和感が宿ったのを感じた。

右目だけでソレを視て、瞠目する。

左手の甲に、新たな令呪が浮き出てきていた。

竜の鱗のような、3つの令呪が。

 

「令、呪?どうして、今までなかったのに…」

「…俺の令呪は、俺が認めていなかったから、分からなかっただけ。

こうして俺が認め、雁夜も俺を必要としてくれたからこそ、発現したんだ。」

 

そも、令呪とはマスターがサーヴァントを律する為のモノだが、それだけではない。

令呪は1人のサーヴァントに、1つ与えられているモノ。

2人呼び出されたというのに、1つしかないなどというのがおかしかったのだ。

つまり、右手の令呪がバーサーカーのであり。

左手の新たな令呪がドラグーンのモノであるという事だろう。

 

「なんて、デタラメ…だよ。」

 

だからといって、サーヴァントが認めなければ見えない等と、令呪でもイレギュラーなのかと肩を落とす雁夜にドラグーンがいう。

 

「そこは深く気にしなくてもいいと思う、むしろ雁夜、これからどうする?

キャスターを倒すという事は分かった、そこはいい、何処にいるか既に分かっているか?」

「…いや、まだ分からない、一緒に探してもらおうと思ってたんだ。」

「…まぁ、キャスターの居場所はこっちも探してたんだ、奴ならセイバーにちょっかいを出そうとすると思う。

だから先にセイバーの拠点を偵察しに行こう、いなければそのまま帰ればいいし、無駄に戦闘をする必要もないだろう。」

「何で…セイバーなんだ?」

 

キャスターを探すというのに、何故かセイバーの話になってきた事に疑問を感じて雁夜が問い掛けると、ドラグーンが説明しだした。

 

「ああ、どうもあのキャスター頭がイカレてるみたいでな、セイバーをジャンヌ・ダルクと勘違いして思い込んでいるみたいだ。

他のサーヴァントなんてしったこっちゃない、という感じでセイバーだけを狙ってるみたいだから。」

「はっ?なんだそれ、キャスターに狂化でもしたのかソイツのマスターは?」

「違うと思うぞ、多分元からあんな感じの英霊だったのかもしれない。

わざわざ令呪で頭ぶっとんだ性格に変える必要性何て、キャスターのサーヴァントには悪影響しか与えない。

だったら、そういう性格のマスターに呼ばれた、精神が歪んだサーヴァントだって考えた方がよっぽど理解出来る。」

「そうか…」

 

言われてみればその通りだ。

聖杯戦争に呼び出されるクラスでも、キャスターは最弱と呼ばれている。

だからこそ、そのクラスのサーヴァントは基本的に引き籠って自分の陣地を作成するのだ。

教会から言われた内容では、それと思い切り相反していた。

使い魔を放って、分からないように隠蔽して子供達を攫うならともかく、堂々と自分から騒ぎを起こして誘拐している。

そのマスターは現在、冬木市内を恐怖に突き落としている連続殺人犯だという以上、止める気は欠片も無いと考えられる。

 

 

――――――つまり、彼のサーヴァントとそのマスターは、完全に気が触れているという事なのだろう。

 

 

「なら、速くキャスターを止めないと、攫われた子供達が危ない…!」

「そうだな、じゃあ速く着く為にもこうするか。」

「え?ちょ、うわっ!?何するんだ!!」

 

逸る気持ちのままに立ち上がり歩き出そうとした雁夜だが、ひょいっ、と急に抱き抱えられて声を上げてしまう。

そのまま横抱きにされ、思わずドラグーンへ怒鳴ったが、ドラグーンの返事は至って真っ当な内容だった。

 

「いや、キャスターを探すのは構わないが、まずセイバーの拠点付近に向かうからな。

着くまでに少し時間がかかるから、その間に寝れそうなら寝ててもらおうと思った。

俺達はキャスターだけを倒す為に偵察にいくだけだが、

最悪の場合、キャスターを狙う他の陣営と鉢合わせして戦闘になるかもしれない、そうなると指輪だけで魔力が足りるか不安だ――――――――万が一、俺とバーサーカーが同時に戦いを挑まれたら、雁夜にも負担がかかる事になる。」

「この運び方もその為かよ…分かった、体力と魔力を温存しておけってことだな。」

「そうだ、でも何より―――」

 

ただ、と少し口籠るその様子に目線だけで先を促した。

今更何を躊躇っているんだろうと疑問に思ったからでもあり、もはや蟲に喰い尽くされるしかない自分に変な同情はいらないとも思っていたからだ。

が、その口から零れたのは、予想外の言葉だった。

 

「雁夜が無理するのは俺が個人的に辛いから、出来ればこの間くらい落ち着いて休んでもらいたいんだよ。

俺は雁夜の事嫌いじゃないし、どっちかっていうと好きだから。」

「―――――――――――――――――――――――――――――――は?」

 

ぴし、と空気が音を立てて固まった気がした。

目の前のドラグーンは、きょとんとしているのが余計に場の雰囲気に合わない。

と、いうか、なんだ。

 

今―――何だか、とても恥ずかしい事を言われた気がする。

 

 

「う……///」

「雁夜?どうした?とりあえず落ち着け、顔赤い。」

「うるさいっ!ちょっと黙ってろよっ!///」

 

抱えられながら右手でその顔をべしっ!と叩くと、あだ、と間抜けな声が響く。

さっきまでの真剣な、英雄としての表情は何処に行ったんだ、と思わずツッコミたくなった。

 

(こいつ、なんなんだよ…!?)

 

好きとか、嫌いじゃないとか、あっさりと口にされてびっくりした。

当たり前のように、空気を吸って吐くように言った事にも驚いた。

 

「それじゃ行くか、落としたりしないから安心してくれ。」

「…さっさと行けよ。」

 

パーカーを深くかぶって、顔を隠す。

顔を見られたくないというのもあるが、いっそ意識を飛ばしたかったから。

 

(――――――ああけど、そういえば。)

 

身体に負荷をかけないように走ってくれているのか、微睡に近いものが徐々に意識を閉ざしてく中で、ふと気づいた。

 

 

『大事な人を奪われた時、全て諦めてしまった。』

 

あの時の言葉の意味、それは、彼に大切な人が、好きな人がいたという事ではないだろうか?

誰にも分かってもらえない中で、彼は誰かに、好意を抱く事が出来たという事だとしたら。

 

 

(コイツ、好きになった人が、いたのか――――――)

 

 

浅い眠りの中に落ちていきながら、雁夜は目を伏せる。

………短い時間、【別の夢の続き】を視る事になると、知らないまま。

 

*************************************

 

<SIDE/ドラグーン>

 

―――――夜の大空を駆ける。

目指すは郊外の森、共に戦うと決めた、主と狂戦士を連れて。

道案内を引き受けてくれた、【協力者】の姿を見据えて追いながら、【彼】は走る。

その腕の中、ほんの僅かの休息を甘受する人の姿に、胸を痛めながら。

 

「…雁夜、俺がまだ言ってない事があるのを、お前はいつ気付くんだろうな。」

 

互いに距離を置き、その間にしていたこと。

それは、アサシンのマスターの事だったり、【協力者】の事だったり、自分の立てている【策】の事だったり。

黙っている事等、まだ山のようにあるのだと、このマスターは知った時どんな反応をするのかと考える。

 

「どうして、バーサーカーは触媒があるのに、【俺】まで呼ばれたのか考えた事もないんだろう。

触媒も無しに召喚されるサーヴァントが、一体【何】を優先して呼ばれるか、知らないだろうな。

 雁夜は、魔術師(・・・)じゃ、ないから。

 …マスターとサーヴァントは、触媒がないなら【似た者同士】が呼ばれる。

それは境遇だったり、思考だったり、生き様だったり様々だ…俺と雁夜は、きっと【願い】が同じだったから、主従になれた。」

 

聞こえていない、目を覚ます事の無い相手に、

ただその身体を抱えつつ駆け、言葉を零すその姿はどこか痛々しい。

 

「だから、駄目なんだ雁夜、お前がその手を汚してはいけない。

 その一線だけは、どうか越えないでくれ、【人を殺したら戻れない】、今いる場所から堕ちてしまう。

 汚い事は俺が背負うよ、全部、全部俺がするから、雁夜だけは【こっち】に来たら駄目なんだ。

 雁夜は手を汚さなくていいよ、俺が汚れればいい、雁夜が幸せになれるように、血塗れになるのは俺だけでいいんだ。」

 

それでも、【彼】は止めようとはしなかった。

 

「温かい場所を守るには、確かに覚悟も必要だけど。

だからといってその手を血塗れにしたら、誰も苦しまない未来を築く事は出来なくなる。

 人を殺したら、お終いじゃないんだ。

人を殺すのは、いけないことなんだ。

 どうか気付いてくれ、お前の【願い】は誰かを傷付けるモノじゃないんだってことに。

雁夜、お願いだから気付いて、もう自分自身を見捨てるのは止めてくれ―――――――――」

 

口にするのは簡単で、でも相手が受け入れられるかは別の話。

本人が気付かなければ意味が無い、誰かの手で与えられるだけの【答え】になど、何の価値があるのだろう?

 

(貴方の嘆きを知った時、貴方の祈りを知りました。

 その儚すぎる願いは悲しくて、そしてかつて願わずにはいられなかった、己の【夢】だった。)

 

 

だから、こうして呟くしか出来ない。

自分で気付いて欲しいから、この破綻者の最期の時が訪れるまでに、どうか――――

 

(俺が、叶えられなかった望みを、どうか――――)

 

 

 

 

【本当の願い】を、その祈りを聞きたいんだ。

 

 

 

「雁夜。

 間桐雁夜。

 お前の優しさは本物だ。

 嘘なんかじゃない、誰かを想えるその心は偽物ではないんだ。

 だからこそ、その優しさを【俺】には向けるな。

 

 この【世界】に、未練なんて、残したくないんだ。

 頼む、これ以上は、その優しさに触れたくないんだ。

 俺を、【1人の人間】として扱わないでくれ……もう、間違いたくないんだ。」

 

 

 

お願いだから

これ以上、踏み込んでこないでほしい。

俺は、お前にあんな風に言ってもらえるような、【優しい】存在ではない。

間違えないでほしくて、その温もりがこの胸の内に触れてしまったら、俺は―――――

 

 

 

 

ああ―――――――この身は、貴方を、【守れない】のです。

 

 

*************************************

 

<SIDE/バーサーカー>

 

ぎんは、ますたーをますたーとして、みとめてはいなかった。

 

つきのひかりのした、いけのこはんでますたーへそういって、ぎんはあたまをさげた。

ゆるしてくれといって、まもりたいといって、みとめたんだとぎんはうたった。

 

うかびあがるみっつのこくいん、ぎんとますたーのけいやくのあかし。

 

 

(何故、それが羨ましいと思ったのか。)

 

 

よるのそらをかけるとりをおいかけて、ぎんはついてこいとはしった。

ますたーはぎんがまもっている、ぎんはわらっていない、ぎんはなにかいっている。

 

―――それは、とてもかなしいこえだった。

 

めのまえをかけるぎんは、ますたーをかかえながら、なんどもこえをかけていた。

そのこえに、ふくまれていたかんじょうは、なんなのだろうか。

 

(何故、私は分からないのだろう。)

 

ますたーは、うそなどいっていないだろうに。

ぎんはいう、どうかきづいてくれ、どうかわかってくれと。

あれでは、まるでますたーのねがいが、ちがうもののようにきこえる。

 

(あの人は、あの人達は、何故あんなに立ち向かえるのだろう。)

 

わからない、わからない、こころがくるってわからない。

もんだいなんてない、わたしはあがないたい、あのかたにさばかれたい。

それでいいのに、わからなくなるのがのぞみのわたしは、それでいいはずなのに。

 

 

 

―――――――――だれかのゆめで、かぞくのあいもしらなくて、たったひとりでないているひとのすがたをみた。

 

(―――――――誰かの夢で、多くの者に裏切られて、最初で最後の愛情を、無残に踏み躙られた人の姿を視た。)

 

 

 

ないていた、ないていた、ずっとひとりで、たったひとりで、だれもわかってくれないなかで、かれらがずっとないている。

 

■■てと、いうこともできないまま。

■■になりたいと、てをのばすこともできないまま。

 

 

あんな、こえで、ないていた。

 

 

 

(私、は―――)

 

 

 

ほんとうに、この(狂った)ままで、いいのだろう、か――――――――?

 

*************************************************

 

今宵――――最後の契約は、交わされた。

 

認めましょう、貴方の強さを。

認めましょう、貴方の弱さを。

 

【人間】として、誰よりも生き抜いている貴方を、認めましょう。

 

その在り方こそ、この身が生前求めた生き方。

そして、ついぞ叶う事が無かった、願いなのだと。

 

悲しくて、愛しくて、苦しくて、焦がれてやまない、その【生】を進む貴方を、【守りたい】。

 

 

【終末の英雄】は、今生の【主】に、今一度忠誠を誓う――――――ただ、その【願い】を、叶える為に。

 

 

 

 

 

(……狂える心に想いが届く…………降り積もる小さな疑問は、いずれ何を齎すのだろうか――――?)

 

NEXT




【後書き】

ちまちま書き連ねて完成した後篇でした!
おじさんと完全に主従関係を持つことを認めたドラグーン、
これでこの陣営はこれより行動を共にします。

もうぼっちじゃないよ、良かったねドラグーン!(←こら)

作者からしたら、雁夜おじさんはよくも悪くも難しいキャラです。
人によっては、おじさんの優しさや哀しさよりも、あの憎悪と狂気のほうが本当だという人が多いです。

作者の書いているおじさんは、キレイすぎて嘘くさいという人も今までいました。
アニメと小説、他にドラマCDも出ていますが、「間桐雁夜」という人間の立場なら…と
自分がその視点に立って考えられる人は少ないのでしょうね、寂しいですが。

おじさんは、これからも変わっていきます。
一人の人間として、彼なりの答えを出せるように…その狂気も少しずつ溶かせていけたらいいと思っています。
それでは、閲覧ありがとうございました!

今回のBGMは、【「MOON PHASE」 Suara】でした。

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