たとえ、世界を滅ぼしても ~第4次聖杯戦争物語~   作:壱原紅

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※今回の話では、R-18G内容の描写があります。
閲覧は自己責任となり、気分が悪くなった、精神的に不快感がする。
等の症状につきましては、作者ではどうする事も出来ませんので、どうかご了承くださいませ。

※注意

こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。
尚、しっかりとこの場で警告をさせていただいているので、受け付けないという方は無理に入る必要はございません、どうかブラウザバックしてくださいませ。

今回はアインツベルンの森のお話、その②。
セイバーとキャスター、そしてドラグーンのサイド話。
話の都合上犠牲者が増えたよごめんなさい(/_;)


双龍激昂(命輝消失)

暗い森、血が流れて真っ赤に染まる。

昏い夜、悲鳴が響いて断末魔が轟く。

 

泣いています。

泣いています。

 

【あの頃】の、自分は同じ苦痛を知っていて。

同じような、哀しさと恐怖で縛られ泣きました。

 

 

(■■て、ください。)

 

 

―――――――ああ、どうして、この【願い】はこんなにも儚くて、脆いのだろう。

 

 

殺されたのは誰ですか、殺されたのは何故ですか?

失われた者に罪はあったのですか、どうして彼等でなくてはならなかったのでしょうか?

 

泣いている命に手を伸ばす

 

 

「絶望には、鮮度があります。」

 

 

その声は確かに正しいだろう――――――――この胸の内に、今はただ傷しか残らない。

 

 

************************************************

 

<SIDE/セイバー>

 

悲痛で泣きそうな声で、自身に叫ばれた祈りは1つだけだった。

 

 

―――キャスターを倒して、セイバー

 

 

その声に、胸の内の怒りが歓喜の声を上げたのは、気のせいではないだろう。

 

 

セイバーは銀色の疾風と化して木々の間をすり抜け疾走する。

今、自分の心の中は恐ろしい程に落ち着いていた。

 

 

(私は、今まさにキャスターの術中にいるのかもしれない、だが―――)

 

 

戦場において、冷静さを欠くのは致命的だ。

ただでさえ、自分自身が今キャスターの暴挙に苛立っているのを自覚している以上、ソレは気にしなくてはいけないのだ。

 

しかし、セイバーは迷ってはいなかった。

 

 

(私と奴が殺しあって、負ける事は、ない。)

 

 

己の直感が告げている。

最悪、腕の1本が使えなくとも、死力を尽くせば最後に立っているのは自分だろうと。

 

怒りは、ある。

しかしそれ以上に、自分には戦場で立てるべき義務があるのだ。

 

 

……殺されゆく子供達、いつか見た、過去の戦場でも似たような光景はあった。

 

 

(…村を私が見捨てた事もあった、捨てられた村で死んで逝った幼子達もいた。

 私が見捨てなければ救えた子供達もいただろう―――必要な、犠牲だったから、見捨てただけで。)

 

 

キャスターの悪鬼の所業も、セイバーの王としての決断も、結果論からすれば同じ行為だろう。

だが、彼女とキャスターに明確な違いがあるとすれば、それは【騎士としての誇り】だ。

 

 

(騎士は、気高くあらねばならない。

 雄々しくも鮮烈に、戦場を照らし希望を見せなくてはならない、誇りを胸に、燦然とあらねばならない。

 かつて勇猛であったという【救国の英雄】であり、騎士であったというのなら、その行いは余りにも愚かしい!!)

 

 

ソレは騎士たる者達の王として、彼女が背負った責。

戦いの意味を、その在り方を穢すモノ、人の尊厳を貶め嗤う者を、捨て置く事等出来はしない。

 

 

故に――キャスター、【ジル・ド・レェ】をセイバー、【アーサー王】は斬らねばならない。

 

 

怒りや憎悪ではなく、騎士という存在の【義務】の為に。

たとえ相手がどれだけの難敵だったとしても、軽率だったとしても、彼女の【騎士王】たる意義の為に。

 

 

 

――バシャッ!!

 

 

 

「っ…」

 

 

 

気付けば血の臭いが、辺りに濃く漂っていた。

足元の地面が泥濘、セイバーの足を止めた。

 

 

真っ赤な、朱い赤い血の色が、辺りの大地を赤く染めあげていた。

 

 

血の水溜りが広がり、滲み込んだ地面が赤い滴を飛ばす。

噎せ返るほどの臓物の臭い、しかしその臓物の姿は周りにない。

 

それよりも、どれだけの殺戮を行えばこの血の海を創り出せるのか、考えるだけで吐き気がした。

 

 

 

『ひ、う、あああああああああああああああああっ!!??』

『やだ、やだああああああああああ!パパ、ママぁぁぁぁぁっ!』

『きゃああああああああっ!!だれか、だれかぁっ!お兄ちゃぁん!』

『くるな、くるなよぉ…っ!?たすけて、助けてえええええええええええええええええ!!!』

 

 

 

目を伏せただけでも、すぐに思い出せる子供達の悲鳴と泣き顔。

怯え嘆き、助けを求めていた少年少女の絶望的な声が、セイバーの脳裏に響く。

 

ついさっきの、数分前の出来事だ。

水晶球に映し出されていた、情景だ。

 

あの時は、まだ、生きていたのだ。

この足元の、血の海の犠牲者達が、泣きながらも生きて―――――――

 

 

 

「ようこそジャンヌ、お待ちしておりましたよ。」

 

 

 

立ちすくみ、自らを睨み付けるセイバーを、キャスターはいっそ清々しいまでに晴れやかな笑顔で歓迎した。

子供達の鮮血を浴びて、黒々しさを増したローブが不快どころか嬉しそうにすらして。

自分の引き起こした惨劇の盛大さを、心から誇らしげにしている。

 

そんな、自賛の満ち足りた満面の笑みが、セイバーの心を逆撫でする。

 

 

「如何でしょうかこの惨状は…悍ましいでしょう?痛々しいでしょう?嘆かわしくも悲痛でしょうジャンヌ?この無垢なる幼子達の最期に味わった苦痛と絶望、貴女には想像が出来ますか?でもねぇジャンヌ!この程度等、悲劇と呼ぶにも値しませんとも!いっそ滑稽な喜劇と呼んでも差し支え等ない!貴女を喪ってから私が重ねてきた所業に比べれば、数百倍も生温いと言えるでしょう!!」

 

 

(その口を、閉じろ。)

 

 

これ以上語らせる気も、聞く気も無かった。

セイバーの心は、今まさにキャスターを即刻両断せよと叫んでいた。

 

横薙ぎの一閃で両断する。

その意志を込めて、深く一歩を踏み出した。

 

その足運びで、セイバーの殺意を理解したのかキャスターもまた、さっと手を振り払ってローブの裾を翻す。

 

 

(っ…!?)

 

 

その懐に秘めかくしてあったモノは、再びセイバーの動きを止めさせるのに充分だった。

 

 

「ひっく…う、うあ…!」

 

 

子供――――――恐らくは、最後の1人。

キャスターの小脇に抱えられたまま、しゃくりあげて泣いている。

何故なんて考える必要も無い、恐らくはこの場で盾にする為の人質として生かしていたのだろう。

 

 

「――――――ぉおジャンヌ!やはり貴女は怒りに燃えた眼こそが美しい!そんなにも私が憎いですか?憎いでしょうねェ…神の愛に背いた私を、貴女は断じて許せないでしょう。

 かつて誰よりも真摯に、敬遠に神を讃えていた貴女ですものね。」

「その子を離せ、外道。

 コレは聖杯に相応しき英霊を選抜する為の戦い、英雄にあるまじき戦いをするならば貴様は聖杯に見捨てられるだろう。」

 

 

冷ややかに、興奮しているキャスターへセイバーは告げた。

その笑みが不快であり、そも人質を取って彼女に語り掛けるその神経が腹立たしい。

 

泣いている幼子を、救わねばならないと彼女のヒトとしての心が叫ぶ。

 

 

「貴女が蘇りこうしてこの場に立っている以上、聖杯などもはや用済みなのですがね…けれどジャンヌ、貴女がそんなにもこの子の救命を望むというのなら…さあ坊や喜びなさい、麗しき神の使いが君を助けてくれるそうだ!全能の神がようやく慈悲を示したよ――――お友達は、誰一人として救ってもらえなかったというのにねェ?」

 

 

キャスターは失笑すると、アッサリ子供を解放して優しく地面に降ろし、その背を軽く押した。

 

 

「ふっ、う、あああああっ!おねえ、ちゃん!助けてぇっ!」

 

 

子供が泣き声をあげて、セイバーへと走り寄る。

目の前の自分を、子供は助けに来てくれたのだと思ったのだろう。

鎧の裾に必死にしがみつき、肩を震わせ黒い髪や細い肩を震わせて少年が叫ぶ。

 

慰めてやりたい、もう大丈夫だと抱き締めたかった。

しかしセイバーは今、目の前のキャスターを倒さねばならない。

子供を守る為にも、彼女に出来るのはここで少年を逃がす事だった。

 

その小さな手に、籠手の指先でそっと触れて、彼女は告げる。

 

 

「さぁ、早く逃げなさい…このまままっすぐ進めば大きな城があるから、そこで助けを求めなさい――――――」

「う、ん…わかっ――――ぎっ!?あ、がああああああっ!!??」

「なっ―――!?」

 

 

その声に、すすり泣きながらも頷こうとした子供の声が、絶叫に変わる。

眼を見開き瞠目するセイバーの目の前で、その幼い体がバラバラに四散した。

その中から出て来たのは―――――

 

 

ギシャアアァッ!!

 

 

――――青黒い、夥しい触手のような、歪な吸盤と咢を持った異形の生物だった。

 

その悍ましい姿に目を見張る、その間に触手は瞬時に伸び広がり、自分の手首と変わらない太さのソレが両手両足を締め上げだした。

ふと視線を向ければ、一匹だけではなく辺り一面に散らばる血溜まりから続々と現れている。

 

瞬く間に数十匹もの怪生物に、周囲を包囲されていた。

 

 

生贄の血肉をもってして、異界より呼び込まれた怪魔―――それらを従えて、キャスターは高笑いをした。

 

 

「申し上げていた筈ですよジャンヌ、『次に会う時は相応の準備をしてくる』、とね?

 子供達の中には既に【種】を植え付けていたのですよ…私の意思で、発芽するように仕掛けたモノですよ。

 ああご安心を、貴女に捧げると誓ったのですから、万が一にも取りこぼしがないように、時間制限も付けておりました―――――――――――もし今も1人2人生きていたとしても、今頃内側から喰われているでしょうねぇ?」

 

 

そういうキャスターの手には、いつの間にか一冊の本があった。

濡れ光るようなその表紙は、人の皮を貼ったものだとセイバーは気付く。

そして視覚ではただの本に見えないソレが―――――――――――――――――

 

 

「我が盟友プレラーティの残した魔道書…これによって私は悪魔の軍勢を従える術を得たのです。

 如何でしょうジャンヌ?かつてオルレアンに集った如何なる兵団も、これほど豪壮ではありますまい!!!」

 

 

――――キャスターの【宝具】、相手の奥の手であり、幼子達を生贄にしたモノなのだという事を。

 

 

 

しかし、そんな事は、どうでもよかった。

 

 

(……生きていたのだ、私の傍で。)

 

 

触手に締め上げられながらも、籠手の中に感じていたのは、幼子の躯の名残。

干乾び原型も留めていない、寸断された少年の、肉片の欠片も其処にはない。

 

もはや、人の重さを感じない。

 

数秒前まで、泣きながら、この身に縋り付き『おねえちゃん』と泣いた少年。

 

 

 

(それを、こんな、形で――――――!!!)

 

 

 

「――――良いだろう、もはや貴様と聖杯を競うとは、思わない。」

 

 

静かに、声を上げた。

心が叫ぶ、怒りが抑えきれない。

 

 

【胸の内が荒れ狂う、どこかで誰かが泣いている。】

 

 

頭の中で「赦せない」と叫んでいる。

これ以上、あのキャスターが息をしているのが我慢出来ない。

 

 

【血塗れの子供、残骸の様な姿、幼い■■が腕の中で死んでいた。】

 

 

 

心が揺れる―――――――――この男だけは、絶対に、赦さない!!

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

そうして、セイバーは抑え込んでいたモノを、解き放った。

響く怒りに沸騰した雄叫び、彼女の体躯から迸ったのは、魔力噴射の炸裂だった。

 

その総身を押し包んでいた触手の束は周囲に飛び散り消滅する。

こびり付いていた粘液の一滴も残さない。

 

辺りに響きわたった衝撃波の様な咆哮に、怪魔の群れが怯み蠢く。

その中心に、彼女は燦然と君臨し、燃え盛る双眸をキャスターへと向けていた。

 

 

「もはや私はこの戦いに何も求めない、勝ち取る事も無い、今はただ―――――キャスター、貴様を屠る為に剣を取る!!」

「おおお、ジャンヌ…!」

 

 

セイバーの威圧に打たれたキャスターの表情を染めるのは恐怖ではない。

むしろ畏怖も動揺もないそれは、恍惚とした歓喜だった。

 

 

「何と気高い、何と雄々しい、ああ聖処女よ―――――貴女の前には、神すらも霞む!!」

 

 

歓びの声も高らかにキャスターは絶叫する。

それを合図に怪魔の群れと、おびだたしい触手が雪崩のようにセイバーへと殺到した。

 

 

「キャスターぁあああああああああああああああっ!!!」

「我が愛にて穢れよ!我が愛にて堕ちよ!聖なる乙女よ!ジャンヌぅぅぅぅっ!!!!!!!!」

 

 

―――――――アインツベルンの森に、今死闘の幕があがった。

 

 

 

………しかし、ここに一つだけ見逃された事があった。

 

セイバーの雄叫びに、覆いかぶさるようにして、同時に響いた咆哮があった事を。

 

失われた最後の命が、もう1つあった事を。

 

その命を腕に、慟哭が響いたのだと。

 

 

彼等以外の者達だけが、知っていた。

 

 

************************************************

 

<SIDE/ドラグーン>

 

 

――――その泣き声に、気付いてしまったのは偶然だったのだろうか。

 

 

「やだ、ふぇぇ…っだ、れか…っう、たす、けて…っ!」

 

 

雁夜達と離れ、森を疾走する事数分。

全力を持ってキャスターを追跡する自分の耳に、掠れた泣き声が聞こえた。

 

苦しさと、哀しさを押し殺す様に、必死に零れる幼い声。

その泣き声に、ドラグーンは声の持ち主を探す様に視線を動かした。

 

 

「っ…?誰だ、誰かいるのか!」

 

 

少し足を止めて声を掛けた、すると、その声が聞こえたのか茂みから小さな影が飛び出してきた。

 

 

「あ…!たすけ、たすけて!おにい、ちゃん…っ!ふえ、うあああんっ!」

「―――」

 

 

息を呑む。

恐らくはキャスターに攫われた子供の1人だろう。

寝間着だと思われる薄い衣に、裸足の足は泥だらけ。

必死に逃げてきたのだろう、木の葉で切ったのか腕には傷がある。

 

薄い茶色の髪の毛に、淡い黒の瞳の少年だった。

 

ボロボロと涙を零しながら、自分の白い外套に縋り付き、頬を涙で濡らしている幼子。

その細い身体を、思わず抱き締めた。

 

 

「泣くな、もう大丈夫だ…助けに来たぞ…」

「うう…っ!ほ、かの…みんな、が…っ!まっかで、あ、アイツが追いかけてきて…ぅ、あああ…っ!!」

 

 

抱き締めてくれる腕に安心したのだろう、離すものかと小さな手が身体に抱き付いてくる。

その頭を撫でながら、気付いた事実に胸が痛んだ。

 

 

(この子が最後の生き残りか…なら他の子供は、もう…)

 

 

人間よりも遥かに鋭いサーヴァントとしての五感が告げる。

森の奥から感じる血臭は、もはや数人程度では収まらないモノだ。

 

一体、どれだけの幼子が殺されたのか、予想が出来ない訳では、なかった。

 

 

―――もはや手遅れ、行動するのも気付くのも遅かった、間に合わなかった。

 

 

(せめて、この子だけでも…)

 

 

即座に一度森から離脱しようと判断する。

寒いだろうから、自分の外套を被せて隠してあげれば、きっと大丈夫だろう。

この森から外に一緒に連れて行けば、後はどこか物陰に隠して行動すればいい。

 

自分が傍に居れたら一番いいのだろうが、そういう訳にもいかない。

雁夜達に同盟を任せた以上、自分はキャスターを足止めしなくてはいけないのだ。

 

「少年…今からお兄さんとこの森から逃げよう、それから少しだけ待ってもらわないといけないけど、いいか?」

「っ…おにい、ちゃん…」

「大丈夫、大丈夫だ…もう怖くない、だから泣かなくてもいい。」

「…うん、あり、がとう…」

 

 

出来る限り、安心させるように笑みを浮かべる。

その表情に落ち着いたのか、しゃくりあげながらも、小さく笑い返してくれた。

 

 

「よし、じゃあ行くか。」

 

 

そう言って、その身体を抱き上げる。

そのまま、今まで駆けてきた道を戻ろうと、一歩踏み出そうとして――――

 

 

 

 

………みぢり

 

 

 

 

―――嫌な、音が、した。

 

 

 

「ぎっ!?い、だぁっあああああ!が、ぎっ!うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」

 

 

 

その瞬間、悲鳴が、響く。

 

 

 

「っ!?」

 

眼を見張る。

腕に抱いた子供の背中が、隆起していた。

ナニカが、子供の体の中から、出てこようと暴れている―――

 

 

「あああ!だ、すげ…っ!おに゛ぃ、ちゃ……っ!」

 

 

どうする事も、出来なかった。

腕の中で、赤い、血が噴き出した。

子供の助けを求め縋る白い腕も、同様に真っ赤に染まる。

 

そうして、最期に。

 

 

痛みに悲鳴交じりの絶叫を上げる、少年の眼があった気がした。

 

 

絶望を、宿した、涙目と―――

 

 

 

「―――――――――……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

            その声に、自分は、何て返そうとしたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ぶぢぶぢっ!!ぶぢゃぁぁっ!ばぁんっ!!

 

 

 

音を立てて、小さい身体が真っ二つに裂けた。

骨を、肉を、内側から破裂させるように、身体が爆ぜた。

 

 

その中から、異形の怪物が飛び出してくる。

思わずその化け物を、思い切り腕で払い飛ばした。

 

 

 

ギギャァァッ!!

 

 

少し離れた処に、その化け物は着地した。

怪魔と呼ばれる種類のモノだと、頭だけで理解する。

 

 

こちらに向かって、ソレは這いよる様に近付いてくる。

動きはそこまで早くない、1匹しかいないのだから、迎撃すればすぐにでも倒せるだろう。

 

 

…けれど、そんな事よりも、優先したかった事があって。

 

 

信じたくなくて、ただ呆然と、腕の中を見下ろした。

 

 

 

「―――あ」

 

 

 

血塗れで、真っ赤で。

 

泣きながら、この腕に縋り、泣いていた少年。

 

数秒前まで、助かったんだって、笑えた子供が。

 

背中、が、裂けて、ナニカが出てきて、子供が悲鳴を上げて。

 

 

 

「あ、あ――」

 

 

 

(助けてあげられると信じてた、この子だけでも間に合ったんだと思った、それなのに)

 

 

 

そんな自分のこの手に残っているのは、何だ。

 

この爆ぜた衝撃で、腕や胴にこびり付いた肉片と血化粧は、何だ。

 

足元に落ちている白い欠片は、骨か、それとも眼球の欠片なのか、何だ。

 

鼻を突くような臭いは、眼を貫くアカイ色は、数瞬の出来事で消えてしまったのは―――

 

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

何度見返しても、この腕に在るのは―――――子供だった【何か】の、残骸だけでしか、なかった。

 

 

 

 

 

 

 

(掠れた記憶の中で声がする、暗殺者から自分を庇って殺された。)

 

血に塗れ骨を砕かれ、それでも敵と相打ちになって、笑っていた。

 

 

《ちち、うえ…なか、ないで…》

 

 

ボロボロの人形のように、血を吐きながら、それでもこちらを案じ続けた息子を。

 

(この腕の中で息絶えた、血に塗れた我が子の最期の姿を―――――――思い出して、しまった。)

 

 

 

 

 

刹那

 

 

 

「っ―――――あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

その場に、咆哮が響いた。

胸の内を引き裂かれるような、悲痛な叫び。

 

腕の中の、血塗れのナニカ(・・・)を強く強く抱き締める。

人の形すら留めていない、その残骸に声を上げた。

 

 

(守れ(助けられ)、なかった。)

 

 

最期の悲鳴が耳に突き刺さる。

見開かれた子供の瞳、【助けて】と、零れ落ちた涙。

 

 

 

(―――――そんな、小さな救済すら、この掌では叶わなかったのだと――――――)

 

 

 

痛い。

胸が痛い。

 

焼き切れそうな、感情。

忘れてたモノを、思い出す。

 

憎い。

赦せない。

 

 

 

(……………………■して、やりたい。)

 

 

 

その瞬間、視界が赤く染った気がした。

それは血ではなく、怒りだった。

 

ドラグーンは血の付いた顔を上げて、目の前まで迫った怪魔を睨む。

 

その様子に、向かってきていた怪魔の動きが止まる。

一気に放たれた咆哮に、鋭い視線に気圧されたのか?

 

 

否。

 

 

グシャァァッ!!

 

 

向かっていた筈の怪魔は、動きを止められたのだ。

即座に繰り出された、ただの拳によって、その振り下ろされた一撃によって。

 

そして、その動きは止まらない。

 

 

 

「―――――――――っ!!!!!」

 

ゴシュッ!グシャ!ズガァッ!!

 

 

 

触手を潰す、手刀で抉る、頭を引き裂く。

ひたすらに、その衝動に身を任せるように。

 

その表情は豹変していた。

 

眼は瞳孔が開き切りそうな程に見開かれ。

口は言葉にならない咆哮を上げ続けている。

 

彼を知っている者が見れば、今までとは打って変わったような姿。

 

心を焼き尽くさんばかりの怒りで、その身を突き動かす様に、彼はその手を振り下ろし続けた。

 

 

そして

 

 

 

「キャスタぁぁぁああああああああああああああ―――っ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

闇夜に怒りの声が響き渡る。

 

もはや隠密に動く気など消え失せた。

胸を焼く悲しさと憎悪が、憤怒へ変わる。

 

 

その時初めて、【彼】は。

 

心の底から、キャスターのサーヴァントを、【■したい】と思ったのだ。

 

 

最後に、もはや原型すら留めていない怪魔を踏みつぶし、その手に幼子だったモノの亡骸を抱き上げて歩き出す。

 

 

(ギ―――ギ―――)

 

 

 

そんな中、まだ執念深く生きていた怪魔は。

自分を屠り、召喚者の名を叫び怒り狂う目の前の存在を、視た。

 

 

 

消え逝く意識の中、駆けだした彼の―――その瞳、その左目が。

 

 

 

―――――――闇夜に似つかわしくない、黄金(・・)に染まっていた事を。

 

************************************************

 

………失われた命は、帰らない。

 

亡くなった人間は、生き返らない。

 

生前、一度だってその光景を視なかった事はない。

 

戦争で、殺し合いで、巻き添えにならない命等存在しない。

 

そんな事、頭では理解していて、それはしょうがない事だった。

 

 

 

けれど――――――――それが、【遊び】で、奪われたんだとしたら?

 

 

 

赦せない。

許さない。

 

 

共鳴する2つの心。

少女と青年は、同じモノを持っている。

 

決して相容れない者同士、けれど祈りは近しい故に。

 

 

今、竜はここに咆哮する――――――――――

 

NEXT




【後書き】

本編の更新、子供達には本当に申し訳ない展開になってしまいました…ごめんよ(/_;)
しかし、セイバーとドラグーンはこれで完全にキャスターぶっ潰す!状態になりました。

まだ登場してない人達も、この様子に何か反応するのではないかな…。
アインツベルン城攻防戦はまだ続きます、一体何が起こるのか?
次回をお楽しみに―――

今回のBGMは、【「back to the fall」Fate/Zero】でした。

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