たとえ、世界を滅ぼしても ~第4次聖杯戦争物語~ 作:壱原紅
閲覧は自己責任となり、気分が悪くなった、精神的に不快感がする。
等の症状につきましては、作者ではどうする事も出来ませんので、どうかご了承くださいませ。
※注意
こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。
尚、しっかりとこの場で警告をさせていただいているので、受け付けないという方は無理に入る必要はございません、どうかブラウザバックしてくださいませ。
今回は雁夜&バーサーカーサイドのお話。
ドラグーンとは別行動をしていた彼等に待っていた出来事とは……そして選択の時が訪れます。
―――【命】とは何だろう?
人の命を奪う事に、理由をつける事は存外容易い。
その為に生きる人間もいれば、訳もなく奪う人間もいる。
その重みを理解するには、きっと人間は、多くのモノを犠牲にしないと分からない。
奪うという事は、時として、【生きる】という事に繋がる事もあるという事実がある為に。
けれど、その道だけに足を向けるのは、正しいのだろうか?
出来るなら、そんな道を選びたくないと望むのは、そんなにいけないのだろうか?
この世において、命を奪う事は簡単なようで難しい。
ソレをするという事で、今までの己と決別する事は明白であるからだ。
手を汚す前の自分には、どうあっても戻れない。
だからこそ、その選択を迷う事は愚かだろうか?
例え、その場所が戦場だったとしても―――
綺麗事と嗤い飛ばす事は、出来るだろうし。
その行動を、偽善だと蔑む者もいるだろう。
それでも、その誰かを想う人がいるというのなら。
――――目の前で降されようとする死神の鎌を、弾く事を赦してほしい。
(そんな気持ちを抱いてしまったのは、この心の何処かに、きっとまだ諦められないモノがあるからなのだろうか?)
***************************************
<SIDE/間桐雁夜>
―――従者の1人と別れてから数十分、ひたすらに森を駆け抜けていた先には、大きな古城が立っていた。
「う、わ…これが、セイバーのマスターの拠点か…こんなものが郊外の森にあったのか…」
城のどちらが正面なのかは分からないが、どうも横手から城についてしまったようだ。
まさか同盟を組もうと言いに行くのに、横の窓から不法侵入する訳にもいかず正面へ回ろうと考える。
「バーサーカー、俺達に敵意がないって事を伝えたいから、城の正面へ……」
自分の身体を抱き上げてくれているバーサーカーに指示をだそうとした、その時だった。
――――ドォオオオオオオンッ!
「なっ!?何だ今の…っ爆発!?」
まだ離れた距離にある城の一角から、夜でも分かる黒い煙が上がった。
響いた爆音に応えるかのように、雁夜の視力でギリギリ見える城の外壁が崩れ落ちている。
「マ、すたー…シュウ、げ、き…」
「……そうか…そう、だな……俺達だけって、訳じゃなかったのか…」
その様子に何かを感じ取ったのか、カタコトで単語を口にするバーサーカーの言葉に1つの可能性が雁夜の脳裏に浮かんだ。
恐らく外れてはいないだろう、ソレ。
セイバーのマスターを、他の陣営が襲撃しているという可能性を。
「ふざけんなよ…!監督役の言ってた事普通に無視してんのか!?今はキャスターを倒すのが先だろ!子供達の事はどうでもいいのかよ……!」
ギュッ、と音を立てて右手を握り締める。
微かに手が震えているのは、怒りからだ。
雁夜からすれば、その行為は無関係な人間が今も聖杯戦争によって巻き込まれ苦しんでいるのに、【そんな事どうでもいい】と言われたようなモノ。
魔術師に対して好意的な感情を抱いてなどいなかったが、ここにきて雁夜のその不快感は頂点に達しようとしてた。
だが、それでもやらなければならない事を見失う程、狼狽した訳でもない。
「……バーサーカー、セイバーのマスターを見つけるぞ。
相手がどんな奴か分からないけど、女の人が襲われてるんだし、ほっとけない。」
倉庫街で視ただけだったが、雁夜からしてもあの華奢な白い女性は肉弾戦に向いていないように思えた。
自分とは違い優秀な魔術の心得があったとしても、セイバーが傍にいないなら逃げ回っているのかも知れないのだ。
【セイバーのマスターが殺される。】
それは、ドラグーンに頼まれた同盟が失敗する事に繋がる。
「急ぐぞ…!」
「ハ、い…」
バーサーカーにしがみ付いたまま指示を出すと、城の正門まで一気に移動する。
さぞや城に見合った大きな扉が待っているのだろうと思ったが、それはすぐに裏切られる。
「な、んだこれ…?止まれ!バーサーカー!!」
思わず、城にそのまま突入しそうになるのを止めて扉と広いホールの惨状を視た。
斬り倒された分厚い扉、破壊されパラパラと埃が舞っているホール。
辺りにいくつか散らばった金属の礫、特に破壊と焦げが激しいのは隅の4箇所―――
最初はその惨状に驚いて状況を把握しようと止めた雁夜だったが、よく見るとその中に気になるものがあった。
少し頼んでその1つに近寄ってもらう。
そうして――――――――
「…………バーサーカー、ちょっと下手に進むの止めよう……コレ、
「ま、スター?」
「う、ん…俺も、信じたくないけど……写真でしか知らないけど、これ……紛争地域で使われてる、兵器かも…」
―――――ぽつ、と呟いて、雁夜は掌に拾った金属の礫を見た。
間桐雁夜は、かつてルポライターと呼ばれる職種に就いていた。
大体の人間は、それを聞いて想像するのは雑誌の記者などだったりするだろう、間違いではない。
だが、雁夜はどこかに所属していたわけではなく、フリーのルポライターでありそれこそ世界中を飛び回っていた事もあった…………間桐の家にいたという事実を、忘れたかったのかもしれない。
自分は自由なのだと、何処にでも行けるのだと思いたかったのかもしれない。
そのこともあり、時折遠坂の姉妹にお土産としてその珍しい国の鉱石等をプレゼントしていた。
それはさておき、そんな雁夜も時折危険な場所に行く事はあった。
ソレが紛争地域であり、時にはすぐにでも一触即発の危険地帯でもあった。
勿論、そんな戦争に好き好んで飛び込んで来たわけではないが、だからこそいくつかの兵器についても知識があった。
万が一、一般人でも巻き込まれないようにという国からの配慮。
単に国としては、自分達の国の人間でもない外国人が巻き込まれれば面倒だという考えだったのかも知れないが、雁夜達ルポライターからすればありがたい配慮だった。
現に、中東アジア等の戦場においてはいくつかの地雷が設置されたまま忘れ去られるという恐ろしい事が今日も起きている。
どこかの国では、その兵器が埋められたまま忘れ去られ、何も知らない一般市民が誤って暴発させ命を落とした事も、命を落とさずとも肉体の欠損を引き起こす事も少なくないのだ。
事前にそんなモノがあるかもしれないと分かっていれば、其処には近寄らず注意して行動できる。
だからこそ―――――――――そんな中の1つ、もはや忘れかけていた兵器に関する知識が今、間桐雁夜へ警鐘を鳴らす。
「けど、嘘だろ?何で……これ、爆弾、だよな…?こんなモノ、何で此処に…」
信じたくなくて見渡すが、視界に入るホールの4隅の酷い焦げと破壊の爪痕が憶測を呼ぶ。
これは、あそこで何かが爆発したという証拠ではないか?
見れば、何故かホールの中央だけが綺麗に無事な場所があるが、何故あそこだけ?
襲撃者が爆弾で戦った?わざわざ戦ってる最中に敵にぶつけずにホールの隅に設置した?
「……そんなのより、最初から罠として仕掛けてた爆弾が襲撃してきたマスターに防がれたって考えた方が、正しい、よな。」
変だ、何かが、おかしい。
この城にいるセイバーのマスターは、襲われている筈だ。
だが、何処からか聞こえる破壊音は未だ戦いが続いている事を示している。
セイバーが傍にいないのに、襲撃者はそのマスターを捕まえる事も倒す事も出来ていない。
襲撃を受けた相手が襲われているだけの筈なのに、何で
なら、これは。
「もし…コレが罠なら、今進んだら危ない―――――バーサーカー、お前はセイバーのマスターを探してくれ……俺がついて行っても足手纏いだ、俺は此処に隠れて使い魔を飛ばして様子を探る。」
「はイ…」
魔術師ではなく、一般人としての感覚。
ソレは、弱い立場の存在だからこその、当然の危機感。
決して驕れる程の強さもなく、自分が他者に劣っていると理解しているからこその、用心深さ。
【セイバーのマスターは、襲撃者を誘い込んでいる。】
ただの憶測、ただの勘だが雁夜はそう判断した。
もしも、バーサーカーの狂気に引き摺られたままならそんな判断も出来なかっただろうが、雁夜はまだ少し余裕があった。
狂気を押しとどめ、こちらに引き留める想いと掌がある。
桜を助けるという想いと、そちらに行くなと手を掴んでくれる相手が、いる。
(大丈夫だ、落ち着いてやれば問題ない。
蟲を一匹出して、爆発や戦闘をしてる場所を覗けば分かる筈。
きっとまだ俺は気付かれてない…危険ならすぐにバーサーカーに言って逃げればいい。)
霊体化して姿を消したバーサーカーを見届けると、雁夜は隠れる場所を求めてホールの1つの隅に移動した。
爆発した衝撃だろうか、人一人が隠れるには十分な穴が開いている。
注意深く見るが、意外と付近の柱は丈夫なのか崩れてくる心配もないようだ。
此処ならば、外から誰か入ってきても身をかがめて息を潜ませれば簡単に気付かれる事は無いだろう。
そう判断すると、雁夜は潜る様にして穴に入った。
それから直ぐに一匹の羽虫を呼び出し、意識を集中する。
自分達以外の存在を求めて、蟲は勢いよく城の奥へと侵入する。
選んだ蟲は人の目玉のような形をし、その身体に羽が生えたグロテスクな蟲。
だがそのサイズは小さく、天井の隅などに張り付けばそう簡単には見つからない。
忌々しいが、間桐の蟲は使い魔としても優秀だった―――――倉庫街でも5匹程使っていたのだが、結局誰にも気づかれなかったのだから。
視覚を共有する中、蟲は邪魔する者がいない城を空気抵抗も気にせず突き進む。
あちらこちらが斬り倒されたような跡、穴の開いた床。
流石に蟲でも崩れた壁を乗り越えるのは苦労するので、途中で回り道もしながら隙間をすり抜け、やっとまだ無事な廊下まで移動できた。
―――意外にも、雁夜が予想していたのより城の被害は少なかった。
破壊音はするし、ホールがコレなのだからもっと凄い惨状になっていてもおかしくないと感じていたのだが。
広い城で強度も強いからだろうか?と思いながらも、警戒を緩めず雁夜は廊下の天井スレスレの位置で蟲を飛ばした。
(…………セイバーのマスター、まだ捕まってもないようだな…何処にいるんだろう?)
湧き上がりそうになる焦りを抑えながら、ある廊下の角に来たのを見計らって蟲を動かす。
「……っ!?誰だ、アイツ…」
そうして―――雁夜は、その姿を探し出す事に成功した。
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<SIDE/衛宮切嗣>
―――策は張り巡らせるだけではない、実際にそこに引き寄せて敵を術中にはめ込むのも重要な作業だ。
相手が慢心を抱いているならソレは用意ともいえるが、下手に実力のある相手だとこちらが倒される可能性もある。
故に匙加減が難しいともいえるのが、その策に敵を誘い込むまでの【過程】と【準備】だ。
「
だからこそ、
この戦いでの結末は、既に彼の手の内に在ると言ってもいい。
つい先程、ケイネスと戦闘に入った切嗣は彼の所有する切り札【
それ程までに高速で彼は相手の切り札の欠点を読み、ソレに対する対処法を自らの脳裏で編み出した。
今も正に、この城へ攻め込んできたケイネス・エルメロイ・アーチボルトを罠に嵌める為に彼が今起動した魔術こそが、その対処法であり切り札となる。
(やはりな、アレは眼がある訳でもなくて見えるわけでもない―――僕がこうして
その魔術こそ、己の用いる大魔術の片鱗、固有結界の展開を独自に組み替えた応用法――――衛宮切嗣の我流魔術である【固有時制御】。
一時的に世界を騙し術者の心象風景を展開するという固有結界の従来の使い方を組み換え、その結界の能力を己の内側に停滞させ、詠唱により【自らの肉体の時間操作による調節】を行う。
その能力は恐ろしい反動を肉体に課すが、その分のメリットは切嗣にはある。
少なくともケイネスとの初戦を生き延びた以上、切嗣はもう追い詰められる鼠ではなく――――
(――――水銀は戻った、足音がする、後数十歩と言ったところか…!)
―――――――追いかけてきた猫を、
「
魔術を解除する。
想像通り、否、想定通りの反動が肉体へ返る。
それを無視して隠れていた柱の陰から躍り出る。
見据えればそこにいるのは驚愕しこちらを凝視するケイネスの姿。
躊躇いもなく発砲する、そしてこれも想定通りに
「―――馬鹿めが、無駄な足掻きだ!!!」
何も分かっていないケイネスの失笑が聞こえたが、それもいいだろう。
何せ彼は、今まさに自らに襲い掛かった銃弾がただの【囮】だった事も気付かないのだから。
右手でコンテンダーを抜き放つ。
キャレコの弾幕はそのままに、ケイネスを守る様に半球状に展開している防御膜のど真ん中を撃ち抜いた。
ズバァンッ!!!
「ぎ――――――!?」
鏡のようにツルリとしていた水銀の壁に、黒い穴が開いた。
それと同時に響いた潰れたような悲鳴は、確かに己の撃った弾の着弾を知らせる。
しかし、切嗣はそれに慢心も油断もしない。
彼からすればコレは既に予測の内、しからば、次に起こりうる展開も想定内―――!
「
殺意に満ちた憎悪の一喝、同時に飛んでくる水銀の鞭。
それを、切嗣は余裕を持って完全に回避して見せた。
ケイネスの礼装の欠点を理解したが故の、完全回避、これが決定的でなければ何だというのか。
そう、攻撃・防御・索敵―――それらを完全に読まれてしまったという事実、この時点で切嗣の勝利は確定している。
(よし、準備はこのぐらいでいいか。
後はタイミングさえ合えば、勝手に相手が自滅してくれるだけだな。)
それを―――――気付けないなら、それまでの
そう判断すると切嗣は痛む全身に鞭を打って、追い打ちが来るより先に逃走した。
追撃があるかもしれないと思ったが、その様子は無い。
怒りに我を忘れてくれれば何も問題は無い、むしろ、そうなってくれなければ困る。
カシャリと音を立ててコンテンダーの薬室を開放し、空の薬莢を捨てる。
そして代わりに、己の最大の切り札である【魔弾】を装填する。
魔術師殺しの【狩り】の準備は順調に進む、そしてソレは、
………………………………たった1つ
怒りに燃え冷静さを失ったケイネスと、ケイネスを倒す事に集中しすぎた自分を、廊下の天井の隅からジッと見つめ続けていた1匹の蟲に気付かなかった事を除いて。
***************************************
<SIDE/間桐雁夜>
―――たった今、使い魔越しに見届けた攻防に、間桐雁夜は戦慄を覚えていた。
廊下の一角で繰り広げられた戦闘は、雁夜には理解出来ない現象が起きた。
明らかに異常な速度で攻撃を行う黒いコートの男に、銀の球体で戦う青いコートで金髪の男。
その中で理解できたとしたら、ソレは襲撃者がランサーのマスターという事や。
今、この城で戦っているのはあの2名なのだという事位だった。
「……………………………どういう、ことだよ。」
しかし、それ以上に信じられないモノも、見てしまった。
だが、実際に目の前で起こった事、気付いた事からは眼を背けられない。
「…何で、あの男の手に……
そう
其処にあってはならないもの。
存在してはいけないモノが、雁夜の眼に映っていた。
黒いコートの男が、ランサーのマスターに銃を向けた時、雁夜がその視線を男に向けた時に見てしまった、気付いてしまった。
―――――――銃を構えたあの右手の甲、十字架のように形どった、赤く輝くマスターの証を。
「………………………………………………………………セイバーの、マスター…」
自分は、いや、自分だけじゃない。
もしかしなくとも、騙されていたのではないだろうか?
マスターの令呪が出る場所なんて、雁夜には分からないし、詳しく調べた事も無い。
もしかしたら、自分と同じようにイレギュラーのマスターなのかもしれない。
自分がドラグーンを呼んだように、あの男もそうなのかもしれない。
……だが
自分は右手だ。
あの男も右手だ。
アインツベルンのマスター、セイバーのマスターがいる拠点にいた、新たなマスターともいえる男………たまたま新たなマスターが協力していた?本当にそうなのだろうか?…そういえば、あの女性は、自らの令呪を見せていただろうか。
否
何処にもなかった!彼女の手にも首にも、そんなモノは何処にも!隠していたというのならまだ分かる、だが――――――――――――――それを、あの男の令呪が別の可能性を突きつける!!
(ドラグーンも、俺達も、他のマスターも、皆騙されていたんだとしたら………セイバーのマスターは、あの白い女の人じゃない、アイツなんだ!)
雁夜の中で、かちりと音を立ててその事実が音を立てて何処かに嵌った。
そうなれば、色々と納得のいく事もあった。
あの女性と重火器や兵器の類は余りにもそぐわない気がした。
だがあの男ならば、フロアの爆弾らしき兵器の使用も躊躇いそうにない、何せ普通に銃を撃っているような魔術師だ。
雁夜としては、そんな魔術師がいるのかと初めて知ったが、聖杯
(はは…あ、そうだよな………誰も言ってないじゃないか、銃を使ったら駄目とか、爆弾使ったら駄目なんて……そうだ戦争なんだ、コレは、俺達の世界で起こってる……戦争…)
気付いてしまえば納得のいく事ばかり。
戦争というモノで、今日、兵器が使われていない場所など何処にある?
この聖杯戦争でも【そうだった】というだけの話、魔術師ではない雁夜からすれば、ある種当然の事だった。
『…バーサーカー、聞こえるか?今何処にいる?』
『――――らん、サ――――ます、ター―――を――――つい、セキ――』
『そうか、分かった……まだ気付かれてないんだな?なら後をつけてくれ…気をつけろよ。』
『!――――は、イ―――』
バーサーカーの位置を確認する、彼は既にランサーのマスターを見つけ出し、雁夜の指示を聞けるように隠れて追跡していたようだ。
少しずつ狂化の意思を抑えているようにも感じるバーサーカーの行動は、雁夜には正直有難かった。
下手に暴走されれば、指輪の魔力は直ぐに尽きる。
そうなれば、自分もドラグーンもただでは済まない。
常に綱渡りの一手を自分達は打っているのだと思えば、寒気がした。
だからこそ―――――――間桐雁夜は、1つの事柄に囚われている己を恥じていた。
(……………戦争、そうだ、コレは戦争なんだ……なら、俺も……近い内に誰かを殺すんだ……覚悟位、決めとかないと……………………)
眼を閉じると、つい最近見てしまった光景が、瞼の裏に見える気がした。
それは、この聖杯戦争の始まりともいえる光景、遠坂の屋敷で起こった事。
多くの剣に貫かれて肉体を四散する事に引き裂かれた暗殺者のサーヴァント。
あの時の流血を、あの恐ろしい惨劇を、
(ああ――――――俺も、ソレが出来ないといけないのか?この戦争に勝ち残る為に、俺も、他の魔術師達と
そうしなければ、いけないのか。
否、ならなければならない。
そう、自分のサーヴァントである彼等の足手まといになるのだけは避けないといけない。
(だから、その為にたとえ誰が目の前で死ぬ事になっても、俺には関係ないと―――)
ズガァンッ!!
(―――っ、破壊音!?城が崩れたのか!?)
はっ、として意識を使い魔へ戻した。
使い魔自体は腹立たしい程優秀で、勝手にあの黒いコートの男を追跡していたようだ。
雁夜が精神を集中すれば、その男を追いかける様にランサーのマスターの姿が半壊し明かりも消えた廊下に現れたところだった。
その姿は、満身創痍とまではいかなくとも、かなりの重傷だった。
そしてその表情は憤怒に染まり憎悪を双眸に宿している。
もし視線だけで人を殺せるなら、あの逆に無表情の黒いコートの男は何十回も死んでいるだろう。
先程肩を撃たれ、赤い血が噴き出しているのにも関わらず、それを止血もしないまま黒コートの無精髭の男に向き合っている……冷静とは、正直雁夜には見えなかった。
隣には先程も見た不思議な銀色の球体があるが、こちらには気付いていないのか目の前の黒コートの男を相当警戒している。
魔術師モドキの自分ではよく分からないが、先程の戦闘を視る限りアレは礼装と呼ばれるモノなのだろうか?
だが、それ以上考えている余裕は無かった。
(!―――駄目だ、さっきと同じ展開に――――)
やはり始まった戦闘を見逃すまいと見ていると、その戦いで既視感を感じた。
連続して撃たれる銃と、それを防ぐランサーのマスター。
やはり先程の戦いの焼き増しのように、同じ行動をしている。
そして、黒いコートの男は先程の凶器をもう一度、ランサーのマスターへ向けていた。
(拙い、ランサーのマスターはさっき防げてなかった、また撃たれる!)
銃が、アレは結局どんなタイプのモノかなんて
でも、今度アレが急所へ当たったら、あの男は死ぬという事は分かった。
―――死ぬ?
そう、死ぬ。
目の前で、人が死ぬ。
それだけだ、それだけだ。
―――――本当に、それで、いいのか?
必要、なんだ。
この判断は、必要なんだ。
しょうがないんだ、必要なんだ。
――――――――でも、それは、それは本当に?
そうだ、むしろいいだろう?
どうせ殺すかもしれない相手だ。
自分がしなくても、他の誰かがするだけの違い。
ほら――――――――敵が1人減るだけだ、何の問題もないんだ。
(それでもこの胸の内で、今も躊躇っているのは、どうしてなんだろう。)
雁夜の思いが迷っている間に、事態は進む。
スローモーションの様に。
黒い銃身が、金髪の男へ向けられる。
あと少しで、弾が出て、きっとまた赤い紅い血が―――
<――――雁夜は、
―――ふと、その時。
どこかで、聞いた声を、思い出した。
同時に、いつか視た、その夢を、思い出した。
最初に視た時、其処を
そして唐突に悟らされた、此処は戦場だと。
命が殺し殺され、火が燃え盛り血が流れ堕ちる、【死】がある場所だと。
遠い昔、何処かの記憶。
噎せ返るような、血臭がする。
燃えている火が、ナニカを焼く臭い。
それとは別の、燃えるような朱い血の海の丘。
辺り一面に溢れ返る肉の塊、生きていた人の死体。
ソレが積み重なり山になった、人の躯の残骸の上に、いた。
赤黒い液体に塗れた、何かの肉の欠片が髪についた、1人の【男】が。
輝いていた筈の銀の髪は汚れ、その全身は血化粧塗れ、手にした剣もまた同じ。
きっと数分前まで、その全員が生きて殺しあっていたに違いない、そんな中で生き残ったのは―――
ああ、雨が、降る。
全身の赤が、流される。
ほんの少し見えた、表情は硬く。
濡れているかも分からぬ瞳、その色は。
紅の右目、紅玉とは違う、命の液体の、イロ。
周囲の鮮血を映しているのだろうか、悍ましい程に赤く。
ただ、ただ、立ち尽くすその姿は、その惨状を作り出した虐殺者。
周囲の火の海は少しずつ消える、それと同様にその身も清められる。
そんな身体にこびり付く、肉片の欠片も、同様に静かに降る雨に流され。
残る者は無く、生きているモノは【男】のみ、戦場とも呼べぬ虐殺場、否、殺戮場。
ぞっとする程の血の海で、ソレを作り出した【男】は独り、その亡骸の詰まれた丘で1人。
アカイ海でその姿は悍ましく、それすら通り越していっそ、咲き誇る血華の様な美しさがある。
まるで【ヒト】ではないかのように、そう、まるで【人間ではないナニカのように】其処に在った。
そして、そんな場所に、不意に響いた声は余りにも小さく、呟かれた。
<――――――――――――
どれだけ叫んだのか分からない、喉を傷めて掠れた声が、した。
何の感情も宿していない、いいや、もう宿す事すら出来なくなった、そんな淡々とした零れた声が。
そんな資格もないのだと、この身にはソレを叫ぶ権利等ありはしないのだと言うかのように。
たった一言に込められた想いは、行き場を失くしてしまって彷徨うかのように散った。
誰かを殺すと同時にその■■を、その背中に肩に全てに、重すぎるモノを背負って。
降ろせない降ろす事も出来ない、逃げる事も出来ずに、その全てが重くて沈む。
その奥底へ、その絶望へ、その暗闇へ、その深く冷たい水面に沈んで逝く。
鮮血を纏って染まる、肉片を被って腐る、想いが朽ちて心が死んだ。
重いソレも、沈むのも、その全てが報いだと、その流血が告げる。
何度も何度も機会はあったのに、気付けなかったね、と。
アカイ海の中で、いつしか溺れてしまったんだ、と。
だからそれはもう、決まってしまった、モノ。
決められていた、
ただ、
(消え逝く世界で、最後に振り返ったその顔を、真正面からやっと見れた―――もう何も望んでない、光の無い眼を―――――――――硝子玉のような、虚ろな、瞳を。)
そんな声で、そんな眼で、全てが手遅れになったその血塗れの手で――――――――
<――――
――――瞬間、一気に【世界】が動いた。
「っバーサーカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああ―――――――――!!!!!!!!!!!!!」
その場で、声を張り上げて叫んだ。
視界が怒りで真っ赤に染まり、嫌だと強く思う。
見付かるとかそれ以前に、許してはいけないという衝動が、溢れる。
雁夜を突き動かしたのは、その夢を見た事を思い出した【怒り】だった。
(そうだ、あの表情と虚ろな瞳に―――自分は血液が沸騰しそうな程の、怒りを覚えた!)
張り付けたような笑顔を浮かべる、【誰か】。
零れる涙は無く、流れる雫はないのに、その眼は。
笑いたい、泣きたい、ソレはあくまでも【人間】だからと。
【化け物】になった自分にはもうそんな事も出来ないんだと、あの眼が!
(受け入れるな、
戦って、殺して、いつしか【そんなモノ】になった、【彼】。
その戦いも殺戮も、自分自身の為ですらなく、ただ望まれるままに。
なりたくない、なりたくなんてなかった、その気持ちも結局叫べないまま。
行き付いた先には未来等はなく、その身体が人間ですらなくなっても、本当に望んでいたのは!!
(違う、違う違う違う違う違う違う!殺していいわけない!そんなのおかしいんだ!駄目だ、そんなのは駄目だ!だってそれは!それは…逃げでしかないじゃないかっ!!)
誰にも届かなかった悲鳴、叶わなかったのは1つの願い。
その身が
誰かを殺して殺しつくして、多くのモノを背負う事になったのは、自業自得だった。
そんな相手が、そんなモノを背負った相手が、伝えたかった事があったとしたら、ソレは―――!!!
(間に合え、間に合え間に合え間に合え!頼む、お願いだ間に合え、間に合ってくれ、俺のしてほしい事を、分かってくれバーサーカー!!!俺の声を聞いてくれ!!!!!)
そうして―――苦痛を覚悟して魔力を、注いだ。
「っう゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
みぢり、ぶちり、と。
内側から肉が喰われる音がする。
指輪の魔力の許容量を超えた、魔力の行使の対価。
刻印蟲が、この身体の肉を喰らって、魔力を生み出していく。
痛い、痛い。
嫌だ、苦しい、痛い。
いっそ逃げ出したい程に、痛い。
そんな強烈な痛みを、それを押し返す様にただ叫んだ。
それでも叫ぶ事しか出来ない自分が歯がゆい。
他に何も出来ない、こんな事しか出来ないこの身が悔しい。
だからこの程度なんだと、その痛みを、無理矢理押しとどめようと歯を後喰いしばる。
(痛くても――――――――誰にも叫ぶ事が出来なかった、奴がいたんだ!)
「ぐ!っあ、あが、ぐううぅぅぅ……!!!」
何とか声を少しでも殺そうと、腕に噛みつき耐えた。
堪えろと自分自身に叫ぶ、こんな事で気を失えない、バーサーカーに魔力を。
たった一つの後悔をしたくないから、その結果を何とか引き寄せたくて、魔力を託した。
その叫びを、【
***************************************
それは、有り得ない、展開だった。
――――――ギィィンッ!!!!!
「な」
零れたのは誰の声だったか。
それでも、向き合う形だった者同士の間に、ソレは現れた。
「―――――■■■■■■■………!」
黒き
その背中に、傷を負った【
コンテンダーを構えた
「馬鹿な……バーサーカーだと!?」
「何故…?」
驚愕して目の前にいるバーサーカーのサーヴァントに、それぞれの視線を向ける2人のマスター。
だが、更にその精神を混乱させる事態が、起きた。
<……おいそこのアンタ、退けよ。
一匹の蟲の使い魔が現れた事で―――――その場の空気は掻き回される事になるのだから。
***************************************
――――本来あるべきではなかった邂逅。
出逢う筈なき者同士が出会い、あり得ない筈の展開が巻き起こる。
掌を差し伸べたのは、過ちなのか、それとも何かの布石となるのか。
(【
(人を殺す選択は、己を殺すに等しき故に、
(故に、その道を選んだ者は皆等しく【真っ当な人間】ではいられなくなるのだ。)
(因果応報、【彼】もまた人を殺し続け、その通りに
――――そんな相手が、自らへ「どうか殺さないで」と嘆いた理由を。
幼子達の命を想い、魔術師へ怒り叫んだその心を、
(偽善と嗤いたければ嗤え、それでも眼前の悲劇を防いだ事は、自身にとって【悪】ではないからこそ悔いはない。)
(それは他ならぬ己自身の為、そしてあの
(同じにはならない、そんなモノにはならない、【彼】のようにはならない……自分は【
(俺は最期まで―――――――――――【人間】で、いてみせる。)
その心を捨てる事、それが無い事を願う、その意思を持ち続けてくれる事を願う。
【命】を捨てる事、見捨てる事無き道は険しく、されど選ぶ事が出来る存在は少ない。
困難な道、苦難の道を選ぶ覚悟を、その道を進む背中は茨の海を越えようとするかのように。
見る者に悲しくも気高く、貴い意志を思わせるだろう。
………故に、その掌は、いずれ握り返される。
どうかその時を、待っていてくれ。
(命の連鎖は、負の連鎖だけではないのだという事を、どうか――――――信じて。)
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【後書き】
こんばんは、作者です。
今回は、雁夜おじさんのターン!ここから何が起こるのか!?頑張れおじさん、正念場はココからだ!
まぁ作者も1つだけ、雁夜おじさんに代弁してもらいましたが、令呪の件について一言。
『お前ら、ちょっとはその令呪を隠せ―――自分がマスターですって見せびらかしてどーする。』
……そりゃあねぇ、一般人からすればただの入れ墨モドキですが、聖杯戦争の関係者からすればバレバレもいいところです。
時に切嗣、アンタ、自分がマスターだってバレたくないならせめて隠せよ。
マスターと戦闘になっても見せてるとはどういうことだ?それじゃアイリさんが囮になった意味がなくなるだろうが……龍之介はともかく、他のマスターは魔力殺しとかで誤魔化すという手も使えただろうに……原作の不思議な所はまさにそこですね(ライダー陣営は論外です、だってマスターは絶対同伴だから(笑))
実際、戦争で森や山に行くと、基本的に肌色は隠そうとペイントや木々の枝などで自身を偽装します。
これは生き延びる為であり死なない為、それを怠るなら殺されても文句は言えませんよー?と元自衛隊勤めの作者が肯定しておきます。
結構目立つんだよね、緑や茶色の多い森の中で、人間の肌色って…
そして、一部だけ見せられたおじさんの覗いてしまった【夢の光景】
それはある意味、【誰かを殺した】誰もが、必ず背負う事になる【重し】の事。
雁夜おじさん然り、この話を読んだ読者の方にも「そんなモノを、背負う覚悟はありますか?」という問い掛けでもあります。
馬鹿だ、と言っていた【誰か】。
一体何に対して、馬鹿だと言っていたのでしょうか?
その記憶を視て、間桐雁夜は何を悟ったのか?何を感じたのでしょうか。
【命を殺すという事】、その意味は、間桐雁夜の願いに何を齎すのか―――――
次回、雁夜おじさん舌戦編になっていきます。
作者のSAN値もガリガリ削られて、その内サイコロ転がしそうだけど頑張ります!
それでは閲覧ありがとうございました!!
今回のBGMは、【「海の魔女」 Sound_Horizon】でした。
※感想・批評お待ちしております。