東京レイヴンズ~神の契約者~   作:エンジ

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第十一章 突然の襲来

 

 

 

 蝋燭の光に照らされていた薄暗い部屋で、スーツを着た一人の男が大きく伸びをしながら立ち上がる。

 同じ部屋にいた老人はその男を横目で見やると、再び自分の作業に没頭し始める。男は、そのままスーツの埃を払うようにニ、三回手で振り払うと、近くで座る老人に声をかける。

 

 

「んじゃあ、行ってきますわぁ。師匠」

 

 老人は再び男を見つめると、皺の寄った小さな口を開く。

 

「あまり深追いするではないぞ」

 

 面倒くさいことになるからな、と続けられ、男は口元に笑みを浮かべる。

 

「ほどほどにしておきますよ……ほどほどにね」

 

 そう言って、薄暗い部屋から立ち去る。

 それを聞いた老人は小さくため息をつき、筆を走らせていた手を止める。そのまま自身の伸びた髭を撫でながら小さくつぶやいた。

 

「今回は本当であってほしいのぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

「結局来なかったね。夏目ちゃん」

 

「ん? ああ、そういえばそうだな」

 

 午後の講義が終わり、寮に帰る支度をしていた真は不意に流華に声をかけられる。彼女の顔には一目見てわかるほど、不安の色が広がっていた。そんな流華に真はふと思ったことを聞いてみる。

 

「あいつって、さぼり癖あるの?」

 

「あるわけないでしょ。真君じゃあるまいし」

 

 それは心外である。真はこれでも元いた学校では、絶賛皆勤賞中であり、担任教師に『肝心なところでバカじゃなければ、お前の高校人生バラ色なのにな』と言われたほどである。

 一瞬それを自慢しようとしたのだが、どうせ論破されるのが目に見えているので、思ったことを口にする。

 

「おいおい。まださぼってないだろ」

 

「『まだ』って何? もしかして、隙を見てさぼろうとしてる……?」

 

「……いやいや、今のは言葉の綾だから! そりゃさぼりたくなるけど……さすがに俺もそこまで馬鹿じゃないから! 根はまじめだから! だから札をしまってください! お願いします!」

 

 全力で頭を下げる真に流華は、一つため息をつくと手に持っていた札をケースにしまい込む。

 それを見た真は安堵をこぼすと、脱線してしまった話を元に戻す。

 

「んじゃあ、よっぽどのことがあったんじゃね? 適当な理由でさぼるほど自分に甘くはないだろうし。それに……」

 

 それ以上のことは言わなかった。黙った真を最初は不思議そうに見ていた流華だったが、真が何を言おうとしたのかわかったのか、「…うん」と一言だけ言って自分の席のカバンを取りに戻っていく。

 

(あいつらなら、明日になれば元に戻っているだろうな)

 

 あいつら、とは春虎と夏目のことである。

 午前の講義が終わり、昼食を取り終えた真たちは残りの昼休みを満喫するべく、教室へ足を運んでいたのだが、そこへ昨日の問題児第一号である倉橋京子がやって来た。そのまま春虎に「ちょっと顔貸してくれない?」と言って連れてってしまったのだが、昨日のいざこざで心配だったのか、夏目がその後をついていったのだ。

 結局、それから戻ってきたのは、思い切り不機嫌な顔をした春虎と妙にそわそわした倉橋京子だけで、夏目は戻ってこなかった。

 

 どう考えても、春虎と夏目が喧嘩した以外にありえない。あの二人なら、いつものように簡単に仲直りするはずだ。

 

 真は春虎に一言「先帰ってるわ」と言うと、流華とともに教室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日は『陰陽Ⅱ種』を半分暗記ね?」

 

「了~解……ってアホか!? え、何? 流華先生、冗談だよね? 一応俺、怪我人ですよ?」

 

「うん、知ってるよ?」

 

「うん、知ってるよね!? だったら…」

 

「でも、何も覚えられないほど重症じゃないよね? 大丈夫、真君ならできるよ!」

 

「あ……はい…」

 

 がっくりとうなだれながら流華に顔を向けると、先ほどとは打って変わって笑みを浮かべていた。

 ま、元気になったならいいか、と真は夕日に向かって大きな伸びをする。

 

 時刻はすでに五時半を回っており、帰路につく学生や会社員、夕飯の買い出しにでる主婦などが所々で見受けられる。しかし、その中に陰陽塾の制服を着たものはいない。

 おそらく、買い食いやゲームセンターに寄る暇がないのだろう。もしくは制服だと目立つからだろうか、どっちにしろ今の真にはそんな時間がない、というより許可が下りないはずだ。

 そんな姿を流華に発見されたら……考えただけでも恐ろしい。

 

 何とも言えない感情に襲われながら、流華とともに路地に入る。先ほどの道をそのまま進めば、陰陽塾女子寮なのだが、やはり流華は男子寮に来るようだ。数分前の会話を忘れるはずがない。

 

 そのままこの後起きる絶望を頭に浮かべながら、路地を進んでいくと、不意に袖を引っ張られる。突然の行動だったため、バランスを崩しかけるが何とかこらえる。疑問を隠し切れない表情で流華に顔を向けると、当の流華は正面を睨んでいた。

 なんのこっちゃと言わんばかりにその視線をたどると、視界に黒いスーツ姿の男が腕を組みながら壁に寄りかかっている姿が入ってくる。

 

「あいつがどうしt――」

 

 んだ、と言い終わる前にその黒スーツの男がこちらを見据えながら口を開いた。

 

「さすがはかの『十二神将』、並びに天道家の人間だ。そのまま進んでいたら、君たちは死んでたのにな。まったく、つまらない」

 

「あなたはいったい誰ですか」

 

 

 そう言いながら流華は正面に火行符を投げつける。主人の名を受けた札は、その役割の通り小さな火に変わっていく。空中で形を変えた火は、何かに取りつくように分散し、広がっていく。

 それが停止したころには、目の前に火の網目が出来上がっていた。黒スーツが言っていたのはこのことだったのだろう。一目見て、ただの糸ではないことがわかる。

 

「おいおい、完全に殺す気で作ったのかよ。というか流華、お前塾外で式符を使っていいのか?」

 

「長官に許可もらってるから大丈夫。それよりも…」

 

 流華はケースの中から式符を取り出して、次の攻撃を備え始める。確かに、黒スーツは、真や流華を殺す気で罠を張った。それを破ったとはいえ、みすみす返してくれないだろう。真も臨戦態勢を取る。もちろん、何もできないが。

 それを見た黒スーツは「ふ~ん」と真と流華を交互に見始めると、壁から背を離した。

 

「そっちがやる気なら大歓迎さ。ま、師匠にほどほどにしろと言われたから、ちょっとだけな?」

 

 そう言い終えた瞬間、流華が正面に式符を二枚投げ、簡易な結界を張る。それと同時に、二つの黒い矢が迫ってきた。それを見た流華が、隣で叫ぶ。

 

「避けて!」

 

「なっ!?」

 

 咄嗟に体を捻った真だったが、持っていたカバンに矢が命中し、深々と突き刺さる。うそだろ、と思いながら真は黒スーツに顔を向ける。

 いくら力が制御されているとはいえ、十二神将の結界だ。それが簡易なものだからと言って、そうたやすく破れるものではない。

 黒スーツの口元には笑みが浮かんでいる。十二神将の結界を破るほどの力、ノーモーションからの術行使、自信たっぷりの表情。間違いなく奴は相当な実力者だろう。おそらく十二神将に匹敵するほどの力を持っている。だとしたら、何故真や流華を狙うのだろうか。

 

 十二神将になれなかった嫉妬。まずこれはないだろう。奴から憎悪など微塵も感じられない。

 次に、天道家に対する個人的な恨み。こちらもないはずだ。先ほどこの男は、『師匠からほどほどにしろ』と言われているといった。これほどの実力をもって、なおかつ恨んでいるのならば、最初から殺しに来ているだろう。よってこれもない。

 だとしたら、最後に残るのは流華の中に眠る力。

 

 昔親父から、流華には特別な力が眠っているといわれたことがある。今となっては、陰陽塾の生徒や講師なども知っていることなのだが、それを狙いに来たというのだろうか。

 真が考えを巡らせていると、流華がお返しと言わんばかりにノーモーションで四枚の札を投げる。

 

急急如律令(オーダー)!」

 

 正方形に空中で停止した四枚の式符は、主人の名を受け、炎の渦を形成すると、そのまま黒スーツに向かっていく。直径一メートルの渦からして、明らかに加減をしていない。いや、できないほどの相手だと思ったのだろう。

 炎の渦が着々と近づいて行き、黒スーツの男をそのまま呑み込むかに思えた。しかし、男は人差し指と中指を立て、真が倉橋京子の式神相手にやったように式符を生成すると、正面に投げつける。

 途端、炎の渦は見えない壁にぶつかったように拡散すると、黒スーツの目の前で燃え上がる。生き場をなくした炎はだんだんとその勢いを弱め、最初の勢いとは打って変わって、あっけなく消え去った。

 

「なんだよ、こんなもんか。天下の天道家様の実力はよぉ。がっかりだぞぉ、まったく」

 

 黒スーツはあきれた様子で両肩をすくませる。

 すぐさま、この野郎と、奴に立ち向かいたいのは山々なのだが、残念ながら今の真に奴を倒す術はない。それに加え、流華の呪術をいとも簡単に防いだのだ。陰陽塾卒業後に戦っても勝てる保証はない。

 

(くそっ。どうすればいい?)

 

 流華は次の呪術を出すべく式符を取り出しているが、はっきり言って先ほどと結果は大して変わらないだろう。今の流華や真では勝てないことが、明白だ。ここは、戦う手段よりも逃げる手段を考えた方が得策だろう。だが、あれほどの実力者相手に逃げ切れるような気がしない。

 

「逃げる、なんて甘い考えはしないほうがいいぜ。坊や?」

 

「な、に……!?」

 

「真くん!」

 

 はっと我に返った真に向かってくるのは一枚の式符。それは真の正面で急停止すると、まるで木の根っこのように四本の黒い紐が伸び、真の体に巻き付く。それは流華相手も同様だった。だが、様子がおかしい。縛られるところまでは同じなのだが、真と違って流華は、意識がぷつんと途切れたように瞼を閉じる。

 身動きができなくなった二人は、重力に逆らうことなく地面に倒れた。そこへ、ゆっくりと黒スーツが近づいて行く。やがて二人の前に到達すると、しゃがみ込み真の首を掴み無理矢理こちらに顔を向ける。

 

「て、てめぇ……!」

 

「お~怖い怖い。そんながっつくなって、大将。お前今、無性に俺をぶっ飛ばしたいだろ?」

 

 男は挑発するように真に向かって口を開く。

 まったくもってその通りだ。何をしたかわからないが、流華を傷つけたこいつをぶっ飛ばしたい。そんな思いを込めながら、睨んで返答する。

 それを見た男は笑みを浮かべながら再び口を開いた。

 

「それは、『無理』だ」

 

 そう言って、真の首から手をはずすと、意識を失っている流華に手を伸ばす。

 

(俺は……何もできないのか……)

 

「やめろ……」

 

 真の悲痛な叫びは黒スーツに届くはずもなく、奴はそのまま手を伸ばしていく。

 

(約束したじゃねぇか……)

 

 やがて黒スーツの手は流華を縛っている紐にたどり着くと、それを握った。おそらくそのまま連れていく気だろう。そんなことは、そんなことだけは、絶対にさせない。

 

(流華を……『守る』って……!)

 

 その瞬間、真は再び昨日の式神勝負の時と同じような感覚を味わっていた。

 もぞもぞと体を動かし、黒スーツに顔を向ける。そして、いつもよりトーンの低い声で言い放った。

 

「流華に、触れるな」

 

「っ!?」

 

 バチッ、と流華を縛っている紐を持つ黒スーツの手から、小さな電撃が発生する。しかし、それ以上に何かを感じ取ったのか、黒スーツは真剣な表情で大きく後ろへ引き下がると、再び笑みを浮かべた。

 

「なるほど……こういうことね。……面白いじゃねぇか、お前」

 

 先ほど小さな電撃を食らった手を左手でさすると、笑いながら何かをあきらめた口調で再び真に言い放つ。

 

「今日はこの辺で退散するとするかね。こんなとこで問題を起こしたら計画がパーになっちまうからな………んじゃあ、いい夢見ろよ、大将」

 

 途端、黒スーツの周辺に黒い風が発生する。それは、すぐさま黒スーツを呑み込むと、まるでマジックのように消え、黒スーツの姿も消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
どうも、皆さん。大変お待たせしましたm(_ _)m
約半年ぶりの投稿ですね。この作品を楽しみにしていた方々、本当に申し訳ありませんでした。

私の活動報告にあるように、しばらく小説作成のモチベーションを上げるため迷走しておりましたが、ついに取り戻すことができました。

これからもこの作品をよろしくお願いします!
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