東京レイヴンズ~神の契約者~   作:エンジ

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第十二章 狙い

 

 黒スーツがいなくなると、主人が相当離れてしまったからか、あるいは術を解いたからかかわからないが、二人を拘束していた黒い紐が音もなく消え去る。

 

「流華! 大丈夫か!?」

 

 すぐさま隣で倒れている流華に声をかけるが応答はない。何度か体を揺らしていると小さな呼吸音が耳に届く。どうやら意識を失っているだけらしい。

 真はそれを聞くなり安堵すると、地面に座り込む。

 もし黒スーツの男が流華に触れていたらどうなっていたのだろうか。考えただけでもぞっとするが、それ以上に自分に起こった現象について気になっていた。

 突如頭に流れ込んできた数種類の術。そして雷のイメージ。その中から無意識に雷のイメージが強くなっていき、気が付いたら流華の周りに電撃が走ったのだ。まるで、真の思いに応えるかのように。

 

『無事だったか、真』

 

 悶々と考え込んでいると、聞き覚えのある声が真後ろから聞こえてきた。

 

「凛爽、お前いたのかよ」

 

 真の言葉がまるで合図かのように、目の前に姿を現すが、その表情は真剣そのものだ。おそらく先ほどの黒スーツのことを考えているのだろう。

 

「まさかあいつがこの世にいるとはな……これは少々まずいかもしれない」

 

「お前、あいつのことを知っているのか!?  あいつの狙いは一体何だ!?」

 

 真は自分の中の疑問をぶちまけると、凛爽は少し考え込み、ゆっくりの口を開く。

 

「それは、流華の中に眠る力だろう……神の……力だ」

 

「神の……力?」

 

 神――それは陰陽を司る絶対的な存在だ。本当に存在しているのかはわからないが、家にある古文書によると、空を制する神《オシリス》、地を制する神《オベリスク》、空間を制する神《ラー》の三柱(みはしら)存在するらしい。それらをまとめて三幻神とも言ったりもする。

 かつてかの安倍晴明と共に活躍した伝説の陰陽師、天道義正が三幻神を用いこの世界の霊的バランスを整えたことは有名だ。

 まさか流華の中に眠る力というのは神のことなのだろうか。

 今すぐでもそのことを聞きたいのだが、流華をこのままにしておくわけにもいかない。とりあえず、流華を女子寮に送るのが先だろう。

 

「凛爽。その話はあとで聞くよ。先に流華を女子寮に送る」

 

「わかった」

 

 凛爽は了承すると、再び姿を消す。それを見た真は、流華をお姫様抱っこするとできるだけ人通りの少ない道を通りながら、女子寮へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女子寮につくなり真を迎えたのは、キラキラした表情で真たちを眺める女子生徒たちだった。

 それもそのはず。真は女子が憧れる(らしい)お姫様抱っこで、流華を連れてきたのだ。他人の恋愛沙汰に興味津々な年ごろの女性の前でそんなことをすれば、こうなることはもはや当然というべきものだろう。ましてや流華は女子生徒の憧れ的存在。それがより一層彼女たちを感情を高ぶらせているに違いない。

 それはいい歳した女子寮寮母、木府亜子(きふあこ)にも言えることだった。女子生徒以上にキラキラした表情の木府さんに、「あんた何歳だよ」と突っ込みたくなるが、生憎今回はそんなラブリーな件ではない。

 数メートル近づいて、ようやく流華の状態に気付いたのか、木府さんは一瞬で顔色を変え、流華に駆け寄った。

 そのまま流華を託して、女子寮を立ち去った真は、先ほどの話を続きを凛爽に尋ねる。

 

「で、流華の中に眠る力ってのは、本当に神の力なのか?」

 

「ああ、そうだ。正確には、三柱のうちの一柱だが。流華の中には、空間を制する神、《ラーの翼神竜》が存在している」

 

「ラーの……翼神竜」

 

 確かに神の力があるとするならば、こんな歳で十二神将になれるのに納得がいく。おそらく長官が封印している力とは神の力のことだったのだろう。

 

「じゃあ、他の神はどこにいるんだ? 流華と同じように人の中にいるのか?」

 

「そう考えていいだろう。神は完全覚醒による世界のバランス崩壊を防ぐために何らかの形で封印されているはずだ。完全覚醒は三幻神同時にしなければ危険だからな…………まあ、一人は目星がついているが」

 

 最後のほうは聞き取れなかったが、どうやら神は三柱揃わなければ危ないらしい。ということは、かつての天道義正のように三幻神を引き連れるほどの力を持つ者がいるのだろうか。真の知る人物で一番有力なのは、現最強陰陽師、天道鈴之助だろう。

 頭の中で自己解決すると、次の質問をする。

 

「なら、奴らは神を使って何をしようとしているんだ?」

 

 《奴ら》といったのは、黒スーツの男が言っていた《師匠》という人物も狙っていると考えたからだ。真の疑問に凛爽は答える。

 

「知らん」

 

「即答かよ!?」

 

「私が知るはずもないだろう。他人の考えていることなど」

 

「いや、そうだけれども! なんかこう、予想をだな……」

 

「あの感じだと当分は襲ってこないだろう。今はそれだけで十分だと思うが?」

 

「……そうだな」

 

 凛爽の言う通り襲ってこなければこちらには何の問題もない。しかし、おそらくいつかは本気で流華の力を奪い取りに来るだろう。その時までに何としてでも自分に起こったあの感覚を、いつでもできるようにしておかなければならない。流華を、守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

 凛爽の言った通り、黒スーツの男はあの日以来こちらに接触することはなかった。あの日以来といっても、まだ一週間もたっておらず、今日が入塾後初の日曜日だ。いきなり波乱万丈の一週間で、本当にこの先やっていけるのかだんだん心配になってくる。

 

 結局のところあの日の出来事を、流華は覚えていなかった。周囲に知られることがなかったとはいえ、結構な呪術戦をしていたにもかかわらず何一つ覚えていないという。

 当然、翌日その日の出来事を根掘り葉掘り聞かれたが、

 

『お前は無理しすぎだ。昨日だって、いきなりぶっ倒れたんだぞ?』

 

 と、返すと、図星だったのかそれ以上聞いてくることはなかった。適当な嘘が通じて運が良かったとつくづく思う。

 一方、春虎たちは春虎たちでその日は大変だったみたいで、いろいろ愚痴をこぼされた。

 その日の出来事が影響してか、春虎は塾を立て続けに休み、現在は天馬から借りた講義のノートを必死に書き写している。まあおそらく、ただ書き写しているだけで、頭に内容は入っていないだろう。

 

「まあお互い大変だったわけだ」

 

「真のほうは何があったんだ?」

 

 春虎のベットに腰かけている真に、あくびを一つしながら冬児が聞いてくる。

 現在、春虎の部屋にいるのは、春虎、冬児、天馬、真の四人だ。春虎の護法式であるコンや凛爽もいるかもしれないが、どちらにせよ信頼できる。正直、真はこの三人にあの日の出来事を言おうか迷っていた。

 相当前から一緒にいる、春虎や冬児。それに加え、困っていた真たちに協力してくれた天馬になら、広まる心配はないだろう。

 しばらくの沈黙の後、決心して口を開こうとしたとき、隣の部屋から大きな音が聞こえてくる。

 

「なんだあ?」

 

 四人の視線は春虎の言葉と同時に、隣の部屋へと突き刺さる。

 真の記憶が正しければ、春虎の隣の部屋は空いていたはずだ。その部屋から物音が聞こえてくるということは、誰かが引っ越してきたのか、あるいは……。

 

「おいおい、昼間にも幽霊って出るのかよ……」

 

「さすがにそれはないだろ」

 

 と、春虎が様子を見に行こうとしたとき、部屋のドアがノックされた。

 春虎はそのまま腰を上げ、ドアを開ける。そこに立っていたのは、朱の盆と湯飲みを手にしたコンだった。

 

「ああ、コンか。お茶、ありがとうな」

 

 どうやらコンは、主人とその客のためにお茶を淹れに行っていたようだ。凛爽もこれほど忠義な奴だったらどれほど楽か。

 心の中で愚痴をこぼしながら、ベットの隣にあった折り畳み式テーブルを部屋の中央に広げようとするが、肝心のコンは廊下に立ったままで動かない。

 

「は、は、春虎様。実は……」

 

 コンは両耳をそわそわ動かしながら、横目に物音がしていた隣室のほうを見た。

 

「えっ? やっぱ幽霊?」

 

 手に持っていた折り畳み式テーブルを抱きかかえて体を震わせた真に、春虎が「そんなわけないだろ」とツッコミを入れると、廊下に首を突き出した。そのあとに続くように、冬児、天馬、真が首を突き出す。その視線の先に立っていた人物に、四人は目を丸くする。

 

「夏目?」

 

 春虎がそう呼びかけると同時に、隣室からぬっ、と立体した影法師のようなものが姿を見せた。一瞬、テーブルを放り出しそうになった真だったが、冬児が両手でそれを止めたため、大惨事になることはなかった。

 ぎょっとしている春虎たちを余所に、夏目は平然としている。影法師は夏目の前で跪くと、廊下の段ボール箱をひとつ持ち上げ、再び部屋に入っていった。

 それを見ていた春虎は、慌てて廊下に出る。

 

「な、な、夏目っ? なんだ、そいつ?」

 

「ああ、春虎。課題はちゃんと進んでる?」

 

 夏目はようやく気付いた様子で振り向いた。その表情は、やけに上機嫌だ。

 

「いまやってるよ。つうか、その黒いのなんだよっ?」

 

「ぼくの作った簡易式さ。ちょっと荷物運びにね」

 

「なんで荷物運んでるわけ?」

 

「ぼくも今日から、ここに住むからさ」

 

「「はあぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

 得意げに言った夏目に、春虎もちゃっかり真も驚愕した。口をあんぐり開けている真に、背後から声がかけられる。

 

「やっほー」

 

「ん? 流華? それに京子も。一体どうしたんだ?」

 

 私服姿の流華とともに現れたのは、これまた私服姿の倉橋京子だった。

 彼女とは、春虎がいない間、なんやかんや確執を埋めることができたため、今では名前で呼び合っている。

 真の言葉によって京子の存在に気が付いた春虎は、京子に声をかける。その間真は、流華と話し始める。

 

「お前、まさか夏目がここに越してくること知ってたな?」

 

「うん。別に言わなくても大丈夫でしょ? 言ったって、夏目くん(・・)は止められないと思うし」

 

 確かにそう思う。

 見たところ春虎たちの身に起こった事件によって、二人の絆はより一層深まったようにも見える。それは大変喜ばしいことであり、真が止めるようなことではないのだが、不安はある。

 

「だからって、隠しておくことないだろ。俺だって知ってたら引っ越しの手伝いくらいはするし……」

 

「だって……真君。何か隠してるでしょ?」

 

「うぐっ」

 

 思わず出てしまった声に、「ほら、やっぱり!」と流華がすかさず追い打ちをかける。言葉の詰まった真に流華はずいずいと詰め寄るが、

 

「な、何のことかな~? ひゅーひゅー」

 

 真は、大げさにそっぽを向いて、鳴らない口笛を苦し紛れに続ける。それを見た流華は、頬をぷっくり膨らませると、指をさしながら口を開く。

 

「真君は私の式神でしょ! 主人に逆らわないの!」

 

「あ~、そーゆーこと言っちゃう? 言っちゃいます? 残念ながら、ワタクシたち式神にも守秘義務があるんですぅ。それにワタシは主人の命を背くことができる唯一の―――」

 

「守秘義務の使い方間違ってるよ! それに主人の命令は絶対なの! 例え天地がひっくり返ったり、地球が滅亡しても守らなきゃいけないものなの!」

 

「それは無理があるだろ!!」

 

 ギャーギャーワーワー言い合っている真と流華に苦笑しながら、その場にいた者たちは夏目の引っ越し作業を手伝い始めた。

 

 

 

 




投稿遅れてしまい申し訳ありません。

ついに本日、東京レイヴンズ第十四巻が発売されますね!
僕は即行買ってきます(笑)

これからもこの作品をよろしくお願いします!
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