今週は最後の隔週テストがあったため、なかなか書けませんでした。
ですが、時間ができたので、これからどんどん書きます。
待ってくださった皆様には、お詫び申し上げますm(_ _)m
雨脚は強くなり、ついには雷までも発生し始めた。
そんな、天気とは真逆に、ここ、天道家本家の<祈りの間>は火が燃えているのが聞こえてくるくらい静かであった
二十畳ほどの部屋は、火の光以外に光源はないため、薄暗い。部屋の隅には、太陽を神格化した神、天照大神が祀ってある。
その中では、一人の少女が巫女装束の服に着替えていた。それが終わるや否や、襖の外から声がかけられる。
「流華。終わったか?」
「……うん。……どうぞ」
「ああ。……お邪魔します」
思わず、そんなことを言ってしまうのは、この部屋が何とも、学校の職員室に似た重苦しい空気に充ちているからだろう。
真は、一礼すると、流華の向かい側に、正座で座る。二人の間は、約二メートルほどだ。
薄暗い光が、二人の影を生成する。
「……なあ、流華。本当に行くのか?」
「うん。私たち天道家は土御門を守る番人。夏目ちゃんが行くのなら、私もそれについていく」
「だから、それは―――」
「真君には分からないよ。私たちの<本当の使命>。私たちは何をしなければならないのか」
「………」
真は押し黙る。
そんなことは、真自身もわかっている。いや、わかっていた。
幼少時代に父や母から何度も言われ続けてきたことだ。わからないわけはない。だが、それでも真はその使命から逃れるしかできなかった。<才能がない><落ちこぼれ>。陰陽師として優秀だった父や母に比べられ、様々の分家からさんざん言われ続けた言葉。
最初は熱心に練習していた呪術も、そんな言葉を言われ続けたからなのだろうか、次第に熱が冷めていき、中学に進学するころには、もう、陰陽師を目指すことなんて頭の片隅にも置いていなかった。いや、逃げていた。
―――陰陽師を目指すことよりも、もっと楽しいことがいっぱいある。
そんな、理由を勝手に作り、中学から始まった部活動に熱を入れるようになっていった。中学に入ると、流華とも面識はなくなり、陰陽師のことを考えなくていいようになっていく。だが、どれだけ部活動をやっても、どれだけ友達と遊んでも、何故か心に穴が空いているような気がしていた。
それは、一般校に進学するとともに、次第に広がっていく。
土御門春虎と阿刀冬児とのそして、北斗との出会い。
妙に熱心に陰陽師のことを語る彼女は、真に改めて陰陽師のことを考えさせるきっかけになっていった。だが、それでも、真は<才能がない>というのを理由に、陰陽の道から逃げていた。
そんな中、真は流華と四年ぶりの再会を果たした。
彼女は、四年前とは比べ物にならないように美人になっていて、思わず目を疑った。そして、それと同時に脳裏に浮かぶ四年前の言葉。
――――真君の嘘つき。
おそらくそれは、真にあいた大きな穴だ。
だが、結局また逃げようとしている。今回も。
「流華。俺は……」
彼女は、危険なことに立ち向かおうとしている。自分の命が危ういというのに、たった一つの信念とそれを支える大きな勇気で。
「……私は、逃げないよ。どんなことがあっても」
彼女を守ると決めたあの日。それは、嘘なんかではなく真自身の本心から出た言葉だ。それなのに、嘘をつき続けた。自分の勝手な理由を作り続けて。
真は、いつになく真剣な表情で流華を見つめる。
そんな真を見て、流華は少々驚くが、すぐに元の表情に戻す。
――――自分に嘘をつき続けるのは、もうごめんだ。
真は心の中で決心する。
約束を果たすために。今度こそ、彼女を守り通すために。
「俺は、お前を止めない。でも、一人で行かせるわけは行かない」
「…一緒に行く気なの?気持ちはありがたいけど、真君には危険すぎるよ。だから、ここで―――」
「ここで待てって?」
「……うん」
今なら言える。ずっと二人の間に立っていた壁を乗り越えることができる。
「俺は、流華を守るって約束しただろ?」
「……え?」
「今度は逃げない。うそをつかない。流華を守り続ける。だから――――俺を式神にしてくれ」
♦♦♦♦♦♦♦
流華は絶句する。
長年聞くことができなかった言葉。そして、最も待ち望んでいた言葉。
「流華。俺を式神にしてくれ」
再び真は口を開く。一語一語、かみしめながら。
式神になれば、術者と同行し、守る必要がある。そうなれば、流華は真をここに置くことはできない。そう考えたのだろうと流華は思うが、すぐに違うと悟った。
《約束》
幼少期に真が流華の式神になり、一生守り続けるという約束。
そんな言葉を口にするということは、本気で真は流華の式神となり、彼女を守っていくと決心したということだ。
流華は真の目を見るが、その視線には一切の迷いが見られなかった。
「……憶えてたんだ」
「あ、ああ。ずっとな……」
「……じゃあ、知ってて生活してたんだ」
「い、一応―――ひっ!」
流華の視線に冷気が帯びる。その突き刺すような視線は、信じられないと物語っていた。だが、すぐにその目に、うっすら涙を浮かべながら口を開く。
「……なんで、今更!どうして……!」
真は立ち上がり、涙をぬぐっている流華の目の前にしゃがみこむ。
「ごめんな、流華。俺さ、今まで逃げてたんだよ」
「え?」
流華は、何のことだかわからない様子で、真を見上げる。二人の視線が自然にぶつかった。
「小さい頃にさ。才能ないとか落ちこぼれとか周りから言われて、それで、陰陽の道を歩く熱意を失ってさ、それを口実に逃げてたんだ。しっかりと現実に向き合わずにな」
「そ、それは――――!」
「流華との約束は忘れてはなかったよ。……少なくともつい最近には。でも、やっぱ俺は才能ないから流華の足手まといになるかと思って、逃げてたんだ。だから、ごめん。流華を一人にして、ごめん」
真は、自分の本心を口にする。それは、自分勝手な理屈かもしれないけど、それでも告げなければならないことだった。
流華は、少しの沈黙の後、静かに口を開く。
「……後悔はしない?」
「ああ、しない」
「これから先も私の式神として生きていく覚悟はある?」
「当たり前だ。俺は、お前を守り続ける」
流華は目を閉じると、ふっと笑った。
真は首を傾げるが、流華が目を開けると真に笑顔を向けた。
「当然だよ。私の式神なんだからね」
それは、久しぶりに聞いた幼馴染のやさしい声音だった。
しかし、それもすぐに真剣な表情に移り変わる。だが、何故か頬がほんのり赤くなっていた。
「……真君。目を閉じてくれないかな?」
「え?ああ、わかった」
真は流華に言われた通り、目を閉じる。
そして、流華のささやき声が聞こえてきた。
その声は、いつになく真剣で、古めかしい韻律を奏でていた。すると、目を閉じている真の頬に流華の手がやさしく添えられる。
「―――祖霊天道義正の名において陰陽の理を授ける。汝、天道真、我、天道流華の式神とする―――」
呪文を唱え終わると同時に、流華が迫ってくる感じがした。だが、真は流華の言いつけを守り、目を閉じ続けている。
ふわりと、あまいにおいがした瞬間に、唇に柔らかい感触が伝わり、変な感覚に陥る。それは、何かを体内に流し込まれているようなそんな感覚だった。
真は反射的に目を開ける。視界いっぱいに流華の顔が広がっていた。その目は閉じられている。
やがて、流華の顔が真から離れると、真は流華を凝視していた。対する流華も、顔を赤らめていた。少しの沈黙が二人を包むが、それを先に破ったのは流華だった。
「……終わったよ」
「そ、そうか……」
何とも気まずい。
しかし、これが式神になるための儀式というなら、男同士でもやるということなのか。真の背筋に、寒気が走る。そして、思わず口を開いていた。
「な、なあ。これが、式神になるための儀式なのか?」
「い、いや、違うよ。これは、天道家に伝わる儀式で、呪力が弱い式神に呪力を分け与えるために行うんだって。でも、今までに一回も行ったことはないらしいよ」
「ま、まあ、それもそうだよな。ここまで呪力が弱い天道家の人間なんて、普通はいないからな」
真は慌てて口を開いた。
天道家は、安倍家並びに土御門家と共に平安時代から栄えた名家だ。その初代である天道義正は相当な実力を持った陰陽師らしい。噂では、安倍晴明をも上回ると言われている。
そんな、血筋でここまで呪力が弱い人間は、今までの千年間に一人もいないはずだ。
少しボーっとしていた真に流華が軽く咳払いをする。
「それで……真君。ちゃんと『視』えてる?」
「え?」
真が首を傾げた瞬間、流華に何か大きなオーラを感じた。それだけではない。この部屋、この世界に何かがある、そんな感覚に襲われた。
「これは……?」
「よかった、視えてるんだね。それは霊気だよ」
「これが、霊気。……この部屋だけじゃなく、外にも広がってるんだな」
真はあたりを見回す。視界に映る風景はいつもと変わらないが、それでも、何かがあるのは感じる。
「すっげえ、きれいだ」
「……え!?」
「ん?いや、霊気ってもっと重いものだと思ってたけどきれいなんだなって」
「……ああ、そう。……はぁ~」
「?」
流華はなぜか残念そうにしているので、真は首を傾げる。何か、流華を落ち込ませることを言ったのだろうか?、と自分の言動を思い返してみるが、見つからない。
そんな真を一瞬じっと見た後、改めて溜息をつき、仏壇の前までトコトコ歩いていく。そして、仏壇の前に会った大量の式符と、先端が鋭くとがった二メートルほどの槍を手に取る。それを、真に渡した。
「それは、天道家に伝わる呪具だよ。銘は『氷翔』。……それ家宝だから、壊さないでね?」
「な、なんて、無責任な!?」
流華はクスッと笑うと、玄関に足を運ぶ。慌てて追いかける、真に流華が少々焦ってるように、口を開く。
「早くしないと、祭壇が……」
「先に夏目と合流するのか?こっから歩きとなると、十五分くらいかかるけど……」
「それは安心して。私が式神を持っているから」
「……俺は飛べないぞ?」
「真君じゃないよっ」
玄関を出ると、朧月が夜道を照らしてくれた。
すでに台風は過ぎ去ったらしく、さっきまで容赦なく襲って来ていた雨と風は、嘘みたいに止んでいた。
流華はそそくさに、懐から一枚の赤色の式符を取り出した。それを投じて、式神を召喚する。
そこに出現したのは、茶色い羽毛を持った二メートルほどの大きな鷹だった。
天道家に仕える式神、明嵐(めいらん)。
「……でかいな。この鷹」
「うん。これでも、すごく大人しいんだよ?……スイッチ入ると面倒なことになるけど」
「おーい。最後によからぬことが聞こえたんだけど」
「真君は頭だけじゃなく、耳までもおかしくなっちゃったの?」
「ひでっ!?」
「はいはい。ほら、乗って」
「へーい」
流華が明嵐に乗るとその後ろに真も乗り込む。すると、ケータイの着信音が鳴り響いた。どうやら、流華のケータイのようだ。
すぐに、内容に目を通すとすぐさま真に振り向き口を開く。
「夏目ちゃんがもう向かってるって。私たちも急ぐよ!」
「なあ。巫女装束にケータイってどうよ?」
「気にしないの。行くよ、明嵐!」
流華が手綱を持ち、叫んだ。
明嵐は、大きな翼をバサッとひろげると、地面を蹴り思い切り上空に飛び立つ。ある程度高い位置まで上がると一気に急降下し始めた。それはまるで、ジェットコースターに乗っている気分だった。
「ちょ、まっ、やあああああああああ!!!!!!!!」
真の絶叫が、夜空に響いていった。
今回は、少し短めでした。
次回は戦闘シーン?があると思います。意見などがあったらどんどんください!