和室には人形が一人、座り込んでいた。
女性の顔つきをして紅い瞳に黒い髪、白い肌に人とは違う間接。
彼女は紺色の和服を着ていた、しかし今は大分はだけてしまっている。
そして何よりも、彼女は右腕が完成していなかった。
骨組みだけの御粗末な右腕、それでもそれが正しい姿だと皆が錯覚してしまいそうになるくらい、骨組みだけの右腕は彼女に似合っていた。
「綺麗だよ」
その場には人形に向かって声をかける男がいる、彼は人形師であり、彼女を作った父親であり、彼女の恋人でもあった。
「……」
人形は答えない、答えるはずがない。
けれども男にとってそれは些細な事、彼の耳には彼女の言葉が聞こえていた。
聞こえるはず無い声、届くはずの無い想い。
彼は彼女の体を見ながら、過去の恋人の姿を脳裏に浮かべ、その人物へ声をかけていた。
「あぁ、そうか……嬉しいか……!」
過去の彼女は誉めて貰ったことに喜んで見せてくれる、なんて光栄なことだろう。
「そうだ、今日は御菓子持ってきたんだ。お前が好きなあの店のお前の好きな御菓子だ。」
彼は御菓子を取り出すと、人形の口へと運んだ。
人形の口からぼろぼろと、運んだ御菓子が落ちる。
「あぁ、そうか……美味しいか……!」
彼の脳裏に浮かぶ過去の彼女は、人形の代わりに美味しいと答える。
なんて嬉しいことだろう、わざわざ買いにいったかいがあった。
その後も彼は言葉を紡ぐことを止めなかった、止めてはいけなかった。
「……その腕の手術、明日だろう?今日はゆっくり休んでくれ。また、明日……」
彼は話題が底をつきそうになると、その言葉で会話を終わらせる。
また明日、この日々を永遠に続けるために。
翌日、彼の耳に聞きなれないサイレンの音が聞こえてきた。
ピンポンとチャイムをならす音も。
彼はちょっと出てくるよ、と彼女に声をかけ、その部屋を出ていった。
ドタドタと物音がする、しかもその音は彼女の部屋へと向かってくる。
「待ってくれ!何もない!ここには何もない!」
彼の悲痛な叫び、
「嘘をつけっ!こんなに異臭がしているんだぞ!!」
知らない男の声、
「この部屋から臭うぞ!」
そして扉を開ける物音。
そのあと彼が部屋に戻ることはなかった。
「酷い話ですよね。病院から遺体を持ち去って、人形の材料にするなんて……」
「髪の毛は全本むしりとって、目をくりぬいて作ったそうだ。材料にされた遺体が別の部屋に放置されていた。」
「マジですか、歪んだ愛のなせる技ってやつですかね?」
「あんなもの愛じゃない、ただの異常者の異常な行動だ」
「……そんなことして、彼女さんは喜んだんですかね。」
「何を言っている?」
「は?」
「材料になった遺体と男は無関係だ、男には別で恋人がいた様子もない。」
「それって……」
「彼の妄想だよ、何もかもがな」