指示されていた時間に上官の部屋をノックする。
「・・・失礼します。」
少し待ってみるが、返事がない。
もう一度ノックをし、ゆっくりとドアを開ける。
いつもなら「入れ」と短く低い声が聞こえてくるはずだったが。
「・・・・・入ります。」
上官や周囲への許可のつもりで入室の言葉を発した。
ドアを開けて目に入ったものに、一瞬動きが止まる。
何時もは凛々しく、誰の前でも全く隙を見せない上司がソファにもたれて目を閉じていた。
きっと私が来るのを少し前から待っていたんだろう。ソファの前の机には書類が束になって置かれ、紅茶の茶器の準備がされていた。
私は無言で上司に近付くと、珍しい寝顔をマジマジと見つめた。
いつもはきっちりと上げられた前髪が、少しだけ額にかかっている。
私はゆっくりと前髪を上げるように、そっと上司の髪に触れた。完全に無意識だった。
私が髪に触れた所でその手は驚いた顔をして目を開いた上司に掴まれ、身体を反転させられてソファに押し付けられた。
「ウッ・・・!」
苦しさのあまり、思わず声が漏れる。
私が真っ直ぐに視線を向けると、真っ青な目が戸惑いの色を宿して私を見つめていた。
「・・・・さすが、です。・・・エルヴィン団長。」
何とか言葉にするが、私は体重をかけられ、押さえつけられているために身動きが取れない。
エルヴィン団長の目が至近距離にあり、その色に吸い込まれそうな錯覚になる。
しばし、お互いに無言で見つめあった。
「・・・・すまない。君だとは思わなかった。」
一拍おいて、私の上から身体を退かせながら、団長は落ち着いた声音でそう言った。
「いえ、私こそ、不用意に近付き過ぎました。」
気が動転していたのか、言わなくても良いことを言ってしまった気がするが、もう遅い。
「・・・そうか。だが、すまなかった。・・・・ああ、そうだ。紅茶でも飲むかい?」
エルヴィン団長はそう言うと、用意してあったティーポットに熱いお湯を注いだ。
普段であれば部下である私がしなければいけない所ではあるが、以前何度も申し出て断られているので、それ以降は黙ってご馳走になっていた。
目の前のソーサーに置かれた茶器からは、良い香りと湯気がたっている。
「今日はダージリンですか?」
紅茶の香りを感じながら一口口に含むと、ほろ苦さと香りが口腔に広がった。
ふぅ、と息をつく私に、エルヴィン団長は視線を送った。
「そう言えば、もう一人来るはずなんだが。」
私の隣にも紅茶がセットしてある。
「入るぞ。」
事後承諾の様に扉が開いて、「もう一人」が入ってきた。
「遅かったな。」
エルヴィン団長がそう言うと、不機嫌そうな声が返ってきた。
「ふん、面倒なガキの子守をしてるんだ。時間通りに事が進まないときだってある。」
そう言いながら、私の隣に腰を下ろした。
「・・・あなたも相変わらず大変そうね。」
同情の視線を送れば、不機嫌そうな目が私を見た。
「そう思うんなら、変わるか?」
「・・・だって、自分で子守りを志願したんでしょう?まぁ、頑張ってよ、リヴァイ。」
私は不機嫌そうな目を見返しながら、軽く言った。
同僚は、独特な持ち方で紅茶のカップを持つとそれを口に運んだ。
・・・なんていうか、飲みにくくないのかな・・・。
「なんだ?」
私は思わずリヴァイの紅茶の飲み方を凝視していたらしい。
「それ、相変わらず飲みにくそう・・・。」
「そうでもない。」
淡々と答える同僚に、思わず苦笑する。
「話の途中で申し訳ないが、二人が揃ったことだし、話を始めたいがいいかい?」
エルヴィン団長の一言で、私達の空気が変わった。
死と隣り合わせの日常だ。私だっていつ命を落とすかわからない。だから、常に死ぬ準備をして壁外調査へ臨む。
ああ、そういえば、エルヴィン団長に押さえつけられた時は驚いたが、本当に後になって何故団長が私にあんな事をしたのか、知った時は愕然とした。
団長とリヴァイの過去に何があったのかを知りたいとは思わないが、二人の間に命に関わるやりとりがあったとして、何故二人が一緒に居られるのかという理由が、私には未だに理解できないでいる。