そうでない方はどうも、by俺っとです。
今回は中二病ファンタジーものです。
楽しんでいただければ幸いです。
それではどうぞ。
我々が生きるこの世界は生きている。吹き抜ける風は世界の息吹、移り気な気候は世界の感情、そして異常な環境は世界の怒りである。世界は膨大な量の魔素を、この世に存在するありとあらゆる地脈を通じて発散し、自己主張をする。そうした世界の力は時折結晶体となり、我々人間の前に姿を現す。
しかし、この結晶体は高い魔力を帯びているがため辺りにもたらす影響は甚大である。人々はこの結晶体を魔導結晶体と呼び、時に畏れ時に崇めた。
時が過ぎ次第にマテリアルや魔術の研究が進むと、マテリアルの魔力に目をつけ悪用しようとする者が現れた。時の政府はこれを危惧し、魔導結晶体取締法を施行。マテリアルに賞金をつけることによってマテリアルを政府に集中させ、直接管理しようとした。この法によって生まれた、賞金を目当てにマテリアルを探索する賞金稼ぎ。人々は彼らを“シーカー”と呼んだ。
※※※
マテリアルをはじめとする、魔導研究が人類にもたらした最大の恩恵といっても過言ではない物である魔動車が音を立てて走り去り、後に二人の人影が残った。
「見渡す限りの花畑、温暖な気候と穏やかな風土が生み出すおおらかな人間性を持った村人、ねぇ」
なにやらガイドブックのようなものを閉じて一人の青年が呟く。青年は銀色の髪をし、真っ白なロングコートに身を包んでいる。腰にはグリップ部分に飾り彫りが施された古めかしいリボルバー式の拳銃が提げられている。
彼の言葉からは皮肉めいたものを感じ取れた。それもそのはず、現在青年が立っているのは見渡す限りの銀世界。吐く息すら凍て付く極寒の地なのだから。
「おっかしいなぁ。ねぇヴォルス、ゴルク山地のタット村ってここであってるよねぇ?」
青年は伸ばした銀髪をかきむしりながら隣で佇むもう一人の男に尋ねる。
ヴォルスと呼ばれた男は青年よりも背が高く、筋骨隆々でいかにも戦士といった体格だった。剣を抱えた天使の絵が描かれた身の丈ほどの大きさの盾を背負い、もう一人の青年と同じタイプの真っ黒なロングコートを着込んでいる。表情が著しく変化するタイプではないらしく、無表情のまま短く刈り込まれた黒髪を寒風にさらしながら口を開いた。
「ああ、ここであってる。あってるがお前、また私の説明を聞いていなかっただろう?もう一度簡単に説明してやるからちゃんと聞けよ?今回のターゲットはゴルク山地の最高峰ランドンの山頂に現出したと考えられる。そのマテリアルの影響で周囲の環境は激変している可能性があると伝えておいたはずだぞ、サイクス」
「あ、あはは…そうだっけ?そうだったね。よし、じゃあ早速聞き込みしようよヴォルス」
サイクスと呼ばれた銀髪の青年はばつが悪そうに頬をかき、踵を返して村に入り、一番近い民家の扉を叩いた。
「すいまっせーん。誰かいませんかー?」
「はい、どなた?」
しばらくすると扉の向こうから初老の女性が現れた。
「僕たちシーカーなんですけどちょっとこの辺についてお話聞かせてもらっていいですか?」
「し、シーカーですって?」
サイクスの言葉を聞くなり女性は勢いよく扉を閉め、サイクスとヴォルスの二人を閉め出した。
シーカーに対する世間一般の見方は良くなってきているが、まだまだヤクザ者であるという印象を持つ人も多い。この土地はとりわけそのような印象を持つ者が多い土地らしい。
「なんで?」
いきなり冷たくあしらわれた為かサイクスは若干涙目になりながら、ヴォルスのほうを向いた。ヴォルスは眉間に指を当てサイクスを見やる。
「いいか?シーカーにいい印象を持ってない人間なんてごまんといるんだ。特にこういった閉鎖された山村ではその傾向が強い。いきなりシーカーだと名乗って得なことは何一つ、無い」
言いながらヴォルスは先ほど一蹴された民家の隣の家に近づいた。
「見てろ。こうすればいいんだ。すみません、誰かいませんか?」
「はーい、ちょっと待ってくださいね」
声が聞こえ、続いてパタパタと足音が聞こえる。
「はい、お待たせしました…どちら様でしょうか?」
扉が開き、若い女性が顔を出す。赤い髪が印象的なかわいらしい女性だ。
「あの、私たちゴルスを超えてラルトの町に行く最中なんですけど、乗ってきた魔動車がこの雪で駄目になってしまって…。良ければ迎えが来るまで休ませてもらえませんか?」
ヴォルスは途端にいつものような無表情ではなく―厳密に言えば目つきなどは変わっていないのだが―温かみを感じる表情へと変化し、ペラペラと喋った。
「えぇ?それは大変でしたね。さぁ、外は寒かったでしょう?早く入ってください。お連れの方もどうぞ。狭くて散らかってますけど、どうぞくつろいでください」
女性は言うと奥に引っ込んだ。サイクスのほうに向き直ったヴォルスはいつもの無表情でサイクスに向かって親指を上げた。
「…すげぇ」
※※※
「はいどうぞ、温まりますよ」
室内に入ったサイクスとヴォルスに暖かいコーヒーを差し出しながら女性は言った。二人に向けられた笑顔は、さながらこの世界に平等に降り注ぐ太陽の光のようだった。
「すみません、いただきます」
「ありがとー」
それぞれコーヒーを受け取り、口に運ぶ。ゴルク原産であるルービカ種のコーヒーだ。ルービカ種の豆は特に苦味が強く、その分滋養が高いため一昔前までは薬用としてしか飲まれていなかった。
基本舌が子供のサイクスは一口飲んで苦々しい顔をしていたが、ヴォルスに睨まれ我慢して飲み続けた。一方でヴォルスは淡々とコーヒーを啜り、口に広がる苦味と体中に浸透していく滋養を楽しんでいた。
「お気に召しましたか?そのお茶の豆は私が育てたんですよ」
「そうなんですか。ともすれば苦いだけになる豆なのにすばらしい味わいですね。さぞかし苦労して育てられたんでしょう?」
家に上げてもらってから三十分ほどが経過していたがマテリアルに関して聞くそぶりを見せないヴォルスにサイクスは苛立ち始めていた。
「えぇ、それはもう何年かかったかわかりませんわ。でも…三ヶ月前に全てが台無しになってしまいました」
女性は手にしたコーヒーカップに目線を落として寂しそうにつぶやいた。
「どういうことですか?」
ヴォルスが尋ねると、女性は続ける。
「…ここはもともととてもすごしやすい土地でした。肥沃な大地に温暖な気候。ルービカ種は温暖な土地を好みますから、この土地に合った農作物だったといえます。ですが、三ヶ月前ゴルク山地のランドンという山の頂上から光の柱が立ったかと思うと、その日からこの土地はみるみる寒くなっていきました」
「その話、もう少し詳しくお聞かせ願えませんか?」
ヴォルスが言うと女性は不審そうな顔をした。
「なんでそんなことを…?あなたたちはいったい…?」
「あ、そういえば自己紹介がまだでした。私はヴォルス・マクラガン。こっちは相棒のサイクス・ヴァレンティーノ。私たちは中央魔導院の研究者で地脈が気候にもたらす影響というのを研究しているんです。ラルトの町へは研究の資料を閲覧しに行こうとしていたんです。ところがこの村に寄ってみたら気候が劇的に変化しているじゃないですか。それで少々研究者の魂に火がついてしまいまして…。それに、私のような若輩者でも一応はその道を専攻している研究者です。何かお役に立てるかもし知れないですし…」
「そう、だったんですか。…わかりました。私が知っている限りのことをお教えします。私はアイリーン・サリバンといいます。アイリと呼んでください」
「ありがとうございます、アイリ。私たちのことはヴォルス、サイクスと呼んでください」
ヴォルスは全く関係の無い事を話しているように見せて、その実今回のターゲットについて詳しく聞き込むことができるシチュエーションを作り上げていたのだ。こういう場面においてサイクスは、ヴォルスには敵わないと心底思うのだった。
「そんなにかしこまらなくてもいいですよ。敬語とかもナシで…」
「じゃあ今からアイリも敬語ナシで話すこと。いいね?」
それまで黙っていたサイクスが待ってましたと言わんばかりに敬語を使わずにアイリーンに話しかけた。
「は、はい…じゃなくて、うん」
敬語で話すことを禁止したあたりで場の空気が一段落したのか、アイリーンは二人に訊ねる。
「ところで、なんで魔導院の研究者さんがあんなゴッツイ武器もってたの?」
目線が壁に立てかけられている盾とサイクスの腰の銃に移る。
「あぁ、えーっとアレはね…」
「…最近はとかく物騒なことが多いだろう?丸腰でただ狩られるのをボーっと待っている必要もない。最近の研究者には、武術の達人も少なくはない。私たちもそうなだけだ」
突然武器のことに触れられ、しどろもどろになりながら何とか答えをひねり出そうとしていたサイクスを見かねてヴォルスが助け舟を出した。咄嗟の思いつきに関してはヴォルスに一日の長があるようだ。
「なるほど。大変なんだね、研究者も」
ヴォルスの話を信じたらしくアイリーンはそれ以上深く聞いてこなかった。その様子を見てサイクスは胸をなでおろす。
「それでアイリ、話の続きをいいだろうか?」
「えぇ、ごめんなさいね、話がそれちゃったわ。…どこまで話したっけ?」
「光の柱が立ってそれから寒くなってきたって所までだよ」
「そうだったわね、ごめんなさい」
うふふ、と笑うとアイリーンはコーヒーを一口飲んだ。
アイリーンは器量も良いし、見てくれも悪くないのだがどこか抜けたところがある女性のようだとサイクスは思った。
一息ついたのかアイリーンはカップを置き、再び話し始めた。
「そう、あの柱が立った後ここら辺の環境は徐々にではあるけども変化を始めたの。気温は日に日に下がり、年に二回あれば多い方だった魔物による畑荒らしが月に二、三回に増えていったわ」
「魔物が…?」
魔物とは地脈から噴出した魔素を野生動物が体内に取り込み、変質した姿である。凶暴性、運動性共に普通の動物の比ではなく、稀に魔法が使えるようになったり、言葉を話せるようになるものもいる。一度出現するとあたりの生態系をたちどころに壊してしまうため、政府は魔物退治にも懸賞金をかけている。
「じゃあ、ここら辺には地脈が通ってるのか?」
「ええ、このあたりの肥沃な土壌は地脈のおかげとも言えるわ」
となると、アイリが見た光の柱は恐らくマテリアル現出の光だろう。マテリアルが現出したことによってここら一帯の気候が激変した、といったところか。
頭の中で自分なりに考えをまとめたヴォルスがサイクスに目配せを送る。サイクスはコクリと頷いた。サイクスも同じ考えらしい。
「そうか。明日あたりここら辺の地質の調査したいんだが、大丈夫だろうか?」
「ええ、大丈夫だと思うけど…」
「わかった。情報ありがとう。迷惑ついでにもう一つ聞きたいんだが、この村に宿屋はないか?」
「去年まではあったんだけど、そこのおじいちゃんが死んじゃってからなくなっちゃった」
「ふむ、じゃあ野宿か。行くぞサイクス」
「え?う、うん」
言うとヴォルスは立ち上がり、壁に立てかけておいた盾を担ぎ、出て行こうとする。
「え?野宿ってこの天気で?駄目だよ、死んじゃうって」
「大丈夫。私たちはフィールドワークもザラだから慣れてる」
「駄~目!そんなこと言ってあなたたちが死んじゃったら私がひどい人みたいじゃない。今日は泊まっていきなさい!」
出て行こうとするヴォルスの前に立ちふさがり―しかしヴォルスのほうが背が圧倒的に高いため見下ろされる形になる―手を腰に当ててヴォルスをにらむ。
「そうはいっても私たちは両方男だ。アイリも女性なのだから簡単に男を泊めるなどといってはいけない」
ヴォルスが言うとアイリーンは一瞬怯んだが、臆せずに言う。
「いいからいいから、私が二人を泊めたいって言ってるの。変な気遣いとかやめてよ。…それに、さっきも言ったけどこの辺に魔物が出るようになっちゃってから、怖くて夜グッスリ眠った記憶がないの。お願い、二人とも。助けると思って今日は泊まっていって。一人じゃなかったら眠れるような気がするの」
ここまでいうとアイリーンは頭を下げた。隣に立ち、サイクスも続く。
「いいじゃんヴォルス。アイリもこう言ってんだからお言葉に甘えちゃおうよ」
サイクスはアイリーンの味方についた。彼は最初から泊り込むつもりでいたため、アイリーンから泊まっていってほしいという申し出があったのは彼にとって渡りに船だった。
「…私たちはリビングで寝るからアイリはベッドで寝てくれ」
ため息を一つつき、ヴォルスは言った。当然といえば当然の申し出だが、今のアイリーンは「同じ部屋で寝て」などと言いかねない様子だったため念を押して口にしたのだ。
「じゃあ今日は泊まっていってくれるのね?」
顔を上げ、アイリーンの顔がパッと花が咲いたように明るくなった。
「ああ。今日一日よろしく頼む」
「ううん。こちらこそよろしく!じゃあ今日はご馳走作っちゃうよ」
ヴォルスは腕まくりをしてキッチンへ進んでいくアイリーンを見送り、続いてサイクスを睨みつける。
「どういうことだサイクス。私はさっき目線を送ったよな?調査に行くぞという意味だったんだが?お前もわかったような雰囲気出してたと思うが?」
「え?そういう意味だったの?僕てっきり今日はアイリの家に泊めてもらおうっていう意味だと思ったよ。だからさっきヴォルスが行くかって言ってきたときは心底驚いたよ」
言うだけ言ってサイクスはアイリーンの後をついていった。向こうの部屋からはサイクスの「今日は何作るのー?」という声が聞こえてきた。
ヴォルスは呆れ果てて何も言えなかった。ただ特大のため息を吐いて、担いでいた盾を壁に立てかけ、居間へと戻っていった。
どうでしたでしょうか?
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