マテリアル・シーカー   作:by俺っと

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by俺っとでございます。
どうしよう…前書きに書くことがなくなってきた。
そんなこんなで第二話目です。
ヨロシクオネガイシマス。


中央魔導院・法務局

 魔術が根付いたこの世界には、一つの大陸と一つの島国がある。小さな諸島群は他にもあるが、人が住んでいるのはこの二つの陸地だけである。

 広大な面積を持つルーサリア大陸、そしてそのルーサリア大陸から遥か東方に位置しているホウライである。

 ルーサリア大陸とホウライは距離が離れていることや、ホウライの閉鎖的な文化が要因でお互いの文化の共通点がほとんど見られない。

 ルーサリア大陸には中央魔導院を擁するザイツベルク王国をはじめとしていくつかの国が存在しており、数十年前までは奪う奪われるの戦争を繰り広げていた。しかし現在では無期限の停戦協定が設けられており、事実上の終戦が成されている。

 先の大戦の勝利国―書類上勝利国は存在していないが、事実上の勝利国である―ザイツベルク王国の国土は広く、ルーサリア大陸のおよそ半分ほどを擁する大国である。魔導院が置かれている王都ザイツベルクを中心に、北区、南区、東区、西区に分けることができる。

 中央区には多くの人間が住まっているが、同時に同じくらいの人外も住まっている。

       

※※※

 

 「あ~つ~い~。ヴォルス暑いよ~」

 「…我慢しろ。私だって暑いんだ」

 蒸し暑い馬車の荷台で二人の青年が牧草と共に馬車に揺られていた。

 「そんなこと言っても暑いものは暑いんだもん」

 「暑いと言ったからといって涼しくなるわけじゃないだろうサイクス。お前は少し我慢を覚えるべきだ」

 先ほどヴォルスと呼ばれていた大柄の青年が諭すように言う。普段身に着けている闇に溶け込むような真っ黒なコートを脱ぎ、アンダーシャツ姿になってはいるが、やはり暑いのだろう。短く刈り込まれた黒い髪に汗が輝く。

 一方今サイクスと呼ばれた青年は、ヴォルスと同じく普段着ている真っ白なコートを脱ぎ、アンダーシャツ姿になっている。サイクスも滝のような汗をかいており、顔中に張り付いた銀色の髪をうっとおしそうにかき上げている。

 「う~ヴォルス水は~?」

 「一時間ほど前に渡したので最後だ」

 喉が渇いたのかサイクスはヴォルスに水を要求する。しかし、ヴォルスから帰ってきた答えは水が尽きたという知らせだった。その知らせにサイクスが絶望的な表情を浮かべた時、

 「お~い、旅人の兄さんがた。王都さ着いたど~」

 御者の若干なまった声が荷車の前の方から聞こえてきた。

 『助かった…』

 御者の声が聞こえた瞬間二人が声をそろえて安堵した。

 水が尽きてから一時間ほど馬車に揺られ、脱水症状一歩手前だった二人はとりあえず外に出られたことで開放感を味わっていた。大きく開けた世界が二人を歓迎しているようだ。

 「まったく、もう少しで干物になっちゃうところだったよ」

 「干物にはならないと思うが、脱水症状にはなるだろうな」

 二人を降ろし、走り去っていく馬車を見送りながら二人は呟いた。

 ヴォルスの背には剣を抱いた天使の絵が施された大きな盾が背負われており、サイクスの腰には古めかしいリボルバー式の拳銃が提がっていた。この世界で武装している人種は兵士か、マテリアル賞金専門の賞金稼ぎ“シーカー”ぐらいのものだ。この二人は後者である。

 「南区の端のゴルクから王都まで都合二日。途中で一泊して今日は一日馬車だったからね~」

 「まぁ、ここでブツブツ言ってても仕方ないな。早いとこ法務局へ行こう」

 ヴォルスはサイクスに言うと、二人の正面に構えている王都の南門に向かって歩き始めた。

 王都には東西南北に向かった四つの門があり、それぞれの門には王家直属兵団によって構成された門番が複数人配置されている。そのため、王都に魔物や不審人物が入り込むことはほとんどない。

 「こんにちは、ようこそ王都へ。身分証明になるものはお持ちですか?」

 二人が門に近づくと、直属兵団の支給服の上から動きやすいチェストアーマーを身につけ、槍を片手に持った番兵が二人に話しかけてきた。

 「ヴォルス・マクラガン。シーカーだ」

 「サイクス・ヴァレンティーノ。同じくシーカーだよ」

 兵士の呼びかけに二人は、政府から発行されている証明書を提示し、シーカーである旨を付け加えた。

 「!お勤めご苦労様です。ただいま開門いたします」

 すると兵士は槍を持っていないほうの手で敬礼をし、てきぱきと開門の手続きを始めた。

 王都のような中央の息がかかっている大きな町にはシーカーを英雄視している人が少なくはない。この兵士も恐らくはそのクチだろう。

 「開門完了いたしました!どうぞごゆっくり」

 重々しい音を立てながら王都の南門が開ききると、兵士は再び敬礼して二人を町に招き入れた。

 「ありがとね~、キミもがんばって」

 「はいっ!光栄です!」

 門を通る最中にサイクスが兵士の肩をポンと叩きながら声をかけると、兵士は軽く涙を流しながらサイクスの言葉に応えた。

 「気持ちのいい青年だったね」

 私は暑苦しいと思うが。

 にこやかな笑顔を浮かべながら話しかけてくるサイクスをよそに、ヴォルスはひそかに次からは別の門を使おうと決意していた。

 

※※※

 

 門をくぐった二人は王都の街並みを見ながら目的の場所である中央魔導院を目指していた。

 王都ザイツベルクは層状に形成されており、四層で成り立っている。一番下の四層目は主に所得の少ない人たちが住む貧民街と中流家庭の人たちが住む住宅街で成り立っており、他にも怪しい店が数多くある。その上の三層目は公的機関が集中しており、二人が目指す魔導院も三層目にある。二層目には高所得層、いわゆるセレブが住む高級住宅街がある。そして一番上の一層目には国王をはじめとした王族が住む城があり、その周りには貴族の屋敷が構えられている。

 「王都も久しぶりだよね~。あ、ねぇヴォルス、マスターの店寄って行こうよ」

 「寄らないぞ。何しろ金がない。武器の手入れをするために店長の店にも寄らなければいけないからな」

 自分たちの冒険の拠点になっている町を始めて来た町のようにきょろきょろと見渡しているサイクスが言うと、ヴォルスはピシャリと断った。サイクスはショボンとしてヴォルスの後ろをトボトボと歩き始めた。

 「…はぁ。今は金がないから行かないというのであって、先に法務局に寄って賞金をもらって、懐を温めてから寄ろうというだけだ。早く行くぞ」

 「!うん。早く行こー!何やってるんだよヴォルス、置いてっちゃうよ」

 途端に元気を取り戻し、昇降機の下へと走っていった。サイクスの調子のよさにヴォルスは少し呆れながらついて行く。

 「魔導院も久しぶりだよね」

 四層と三層を行き来する昇降機の中でサイクスは突然言った。

 「そうだな。前の依頼の後に行ったきりだから大体半年振りぐらいか」

 サイクスの言葉にヴォルスは答え、同時に昇降機が止まり扉が開く。

 二人の目の前に白く、曲線で構成された外観の魔導院がそびえたつ。外観の白色はザイツベルク王国の汚れのない志を表しているらしい。正面入り口の前には魔導院設立の記念碑が立っており、記念碑を中心に左右対称な外観が特徴である。

 「いつ来ても慣れないな」

 「そうだね。なんか整いすぎてるって感じなのかな?」

 二人は話しながら正面入り口をくぐる。院内に入ると天井がグッと高くなり、ドーム状になっている。天井にはザイツベルクの歴史を表したというステンドグラスがはめ込まれており、天窓のように日の光を取り入れている。そのおかげで院内は非常に明るい。

 「シーカーのヴォルス・マクラガンだ。確保依頼が出ていたマテリアルを確保してきた」

 二人が中央受付まで歩いていき、受付嬢が二人に気付くとヴォルスが言った。

 「あ、ハイ。それではお二人の身元を照合いたしますので、証明書のご提示をお願いします」

 受付嬢が丁寧に言うと、二人は証明書を受付カウンターに置き、エントランス備え付けの座椅子に腰掛けて照合が終わるのを待つことにした。

 二人は他愛もない話や、天井にはめ込まれているステンドグラスをボーっと眺めたりしていた。

 この国の歴史…か。いつ見ても辛気臭い絵だな…。

 「ヴォルス・マクラガン様、サイクス・ヴァレンティーノ様」

 しばらくして照合が終わったのか、受付嬢が二人の名を呼んだ。二人はカウンターに向かう。

 「大変お待たせしました。ヴォルス・マクラガン様、B+ランクシーカー。サイクス・ヴァレンティーノ様、Bランクシーカー、でお間違えないでしょうか?」

 「大丈夫だ」

 受付嬢の言葉にヴォルスが答えると、二人の証明書がカウンターに置かれた。二人はそれを受け取り、それと引き換えにマテリアルを受付上に渡した。

 「えーと、今回お二人が確保してくださったこのマテリアルは純度B+のマテリアルですが、事前の情報では純度Bとなっており、危険度ランクが一段階低く表示されていました。ですのでその分の補償とB+ランクの正規の報酬を上乗せした額、二十万ナユタの報奨金となります。お確かめください」

 受け取ったマテリアルと、引っ張り出してきたファイルとを見比べてきぱきと査定を済ませた受付嬢はよいしょ、とカウンター下から金貨の詰まった皮袋を持ち上げ、二人の前に置いた。

 「受け取ってその場で金を検めるほど下種な人間じゃないさ。それに、これを確かめるのはいささか面倒だ」

 言うとヴォルスは皮袋を受け取り、さっさと歩いていこうとした。すると

 「アラ~、ヴォルスとサイクスじゃないの」

 妙に野太く、色っぽさを出そうとして失敗したような声が二人の背中に投げかけられた。

 「!その声はまさか…」

 カクカクとした動きでサイクスが振り返ると、魔導院の制服を肩から掛けた大柄な男が駆け寄ってきた。

 男はピンク色の髪をし、体にぴったりとフィットしたセクシーなシルエットのパンツをはき、腰をくねらせながら器用に走ってくる。付け睫毛のせいだろうか瞬きをする度にバッサバッサと睫毛がしなっている。

 「やっぱりベルモンドのおっちゃん!」

 「やだぁ~、もう!サイクスったらおっちゃんだなんて。こう見えてもアタシ心は乙女なのよ?そんなこと言ってると~、拉致監禁していろいろやっちゃうゾ」

 ベルモンドと呼ばれた男はサイクスの鼻頭とツンッとつつくと、ウインクした。この言葉を受け、サイクスは石化したように固まった。

 「ベルモンド局長、うちのサイクスをからかわないでください」

 ヴォルスは二人の間に割って入った。

 「アラヤダ。男の友情ってヤツ?それともヤキモチ?」

 「単純にサイクスが使い物にならなくなるのは私にとって損なだけです」

 ベルモンドが言うと、ヴォルスはいつもの無表情で淡々と受け答える。いつも声に感情が込もっていないと言われがちのヴォルスだが、このときの声には限りなく感情が込められておらず、抑揚は平行線だった。

 「なによゥ、面白くないわねェ。冗談よ、冗談。とにかく長旅ご苦労様だったわね。部屋で土産話でも聞かせてちょうだいな」

 言うとベルモンドは踵を返し、カツコツと靴を鳴らして歩いて行った。その背中は無言で“ついて来い”と言っているような気がして、ヴォルスは固まったままのサイクスを引きずってベルモンドの後をついていった。

 

※※※

 

 魔導院内北側面にある法務局長の執務室まで来ると、ベルモンドは重厚なつくりの扉を押し開け、二人を招き入れた。

 その部屋は途中で見た一般職員が仕事をしている部屋よりも少し狭いくらいの広さがあり、一人で使う分には広い。

 「さ、入んなさいな。ちょっとアンタ、お茶」

 ベルモンドは入るなり秘書官にお茶を入れるように命じた。自分の机に座って書類の整理をやっていた秘書官はベルモンドの声を聞くと、一言も発さずに一つ礼をしてそれまでやっていた仕事を一旦机の横に寄せ、部屋の隅にある給湯スペースまで行ってお茶の準備をしだした。

 「今回はゴルクのマテリアルだったわよね?聞くところによるとなにかゴタゴタがあったとか」

 「ええ、マテリアルの付近にゴーレムが自然発生したんです」

 部屋の一角に設置されている応接セットのソファに腰掛けたベルモンドがヴォルスに問いかけた。それを受けたヴォルスは同じく腰掛けながら問いかけに答えた。

 「あらま。自然発生ゴーレムだなんてついてないわねアンタ」

 「ええ、参りましたよ。おかげで私の盾もこんなにへこんでしまって…。サイクスのおかげで何とか切り抜けられましたけどね」

 おどけた仕草を見せながらベルモンドが言うと、ヴォルスはソファに立てかけられた自分の盾を見ながら答えた。

 「だったら早いところ修理した方がいいんじゃないの?その盾、大事な商売道具でしょ?」

 「まあ、そうですね」

 確か部屋に引き込んだのは局長だった気がしたが…。

 「今日中にでも修理に出そうかと思ってますよ」

 ヴォルスは苦笑しながら答えた。

 「で、今回はどうだったの?」

 ベルモンドは一転してまじめな表情になった。今までの飄々とした声色はもうそこにはなかった。

 「…ええ。今回も特に収穫はありませんでした」

 ヴォルスは言いながらどこか遠くを見るような目をした。

 「そう…。アタシも何か手伝えればいいんだけど、この通り多忙なのよ。だから、サイクスのことはアンタに任せるしかないワ。…すまないわね、アンタにばかりこんな重荷を背負わせて」

 「いえ、自分で決めたことですので」

 口にしたヴォルスはとても強い目をしていた。

 その横から秘書官がお茶と、お茶菓子が乗ったお盆を応接セットの机に置いた。アリガト、というベルモンドの声を聞くと秘書官は頭を下げ、掛けていた銀縁眼鏡を指で押し上げながら踵を返し、自分の机に戻り仕事に戻った。

 「…お菓子!」

 秘書官が机に戻ると、お茶菓子の匂いをかぎつけてサイクスが石化状態から戻った。

 「アラ、お目覚め?」

 先ほどから石化したままヴォルスの横に立てられていたサイクスは、目の前のお茶菓子に目をやると猛烈な勢いで食べ始めた。

 「ふぁんふぇほほふぃふぇふふぇふんふぁ」

 「飲んでからしゃべれ」

 お茶菓子を口に含んだままサイクスが文句を言うと、それをヴォルスがいさめた。口からお茶菓子のカスがぼろぼろと飛んでしまっていたためだ。

 「なんて事してくれるんだ!僕このままずっと石化したままかと思ったよ」

 言われたとおり口の中のお茶菓子を飲み込んでから溜め込んでいた文句をベルモンドにぶつけた。

 「アラ、酷い言われようね。あのままにしておくのもなんだからわざわざアタシの部屋までつれてきてお茶をご馳走してあげたっていうのに」

 「その原因作った人がよく言うよ」

 ベルモンドがサイクスの言葉に異論を唱えると、すかさずサイクスが反論を述べる。その反論があまりにも的確すぎたために不意に湧き上がってきた笑いを、ヴォルスはクックッと噛み殺していた。

 「それよりもサイクス、アンタ今回の仕事では大分がんばったみたいね。今ヴォルスから今回の土産話聞かせてもらってたのよ」

 圧倒的不利に陥ってきたためかベルモンドは話題転換を図った。

 「あ、そう?聞いちゃった?僕の圧倒的な大活躍。いやぁ~デキる男は辛いよね。危機的状況になればなるほど頼られちゃう感じ?」

 結果から言ってベルモンドの思惑は面白いほどにうまく行き、おだてられたサイクスは上機嫌で自分の武勇伝を語り始めた。先ほどまでの剣幕はどこかへと消えてしまっていた。

 何か問題があるとすれば、サイクスの話にはあることないことがごちゃ混ぜになっていたことだ。その比率はおおよそ七対三くらいの割合で嘘の方が多く、ほとんど作り話だった。

 「……でね、僕がサラマンダーを喚んで戦ったからこそ僕たちは今ここにいられるんだよ」

 「へェ、そうなの。それはご苦労様だったわね。それはそうと、ヴォルス。アンタ盾直してもらわなくていいの?結構時間経ってるけど…」

 ニコニコ顔で武勇伝を語るサイクスの話を聞いていたベルモンドは、ふと思い出したようにヴォルスに話題を振った。サイクスが話し始めてからすでに三時間ほどが経過していた。太陽はすでに空高く昇りきってしまっている。時刻は恐らく丁度正午くらいだろう。

 「え?ああ、そうですね。それでは私たちはこれで失礼します。おい、サイクス!行くぞ」

 その言葉で当初の目的を思い出したヴォルスは盾を担ぎ、話し続けているサイクスを引きずって執務室を後にした。

 

※※※

 

 ヴォルス、サイクスが帰った後、執務室は静寂に包まれていた。

 「…あいつらが持って来たマテリアルは純度B+だった。B+ではゴーレムが自然発生するほどの魔素があたりに充満するはずがない。となると、ゴーレムは誰かに作られたものと考えるのが妥当…か」

 静寂な空間にベルモンドの独り言と、秘書官が走らせる万年筆の音だけがこだまする。

 「キナ臭い展開になってきたなぁオイ。…でも」

 ベルモンドは自分の椅子に座ると男の声で呟いた。その後執務机のほうを向いていた椅子をくるっと回転させ、窓の方を向いた。窓の外を見ると、二人で町のほうへ歩いていくヴォルス、サイクスが見えた。二人の足取りはよどみなく、まっすぐ進んでいっている。

 「アイツらなら心配ない、か…」

 無邪気な笑いを浮かべつつ、ベルモンドは上着のポケットからタバコを取り出し、くわえてから火をつけた。大きく一息吸い込んで紫煙を吐き出す。

 「局長、禁煙です」

 秘書官が放ったその一言が吐き出された紫煙と混ざり、広い執務室を漂った。

 




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