最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
1月末日、本日はとっても快晴なり!
ついにやってきましたマラソン大会〜っ!
ドンドンドンッ!パフパフパフ〜っ!
って……無理にテンションでも上げてかなきゃやってらんないでしょ……。
どこの世界に校内マラソン大会で大はしゃぎする女子高生が居るってのよ……。
いや〜……。なんでこんな大会って存在すんだろ?誰得なの?
揺れる女子高生の乳を眺めて喜ぶ変態教師くらいしか得しなくない?
ああ、葉山ファンの女子高生達にとってはお祭り騒ぎかもね〜。
あの人優勝して勝利者インタビューやるみたいだし。
我が校のマラソン大会は、距離の長い男子から走りはじめて女子は後からのスタートになる。
そういえば今年のマラソン大会は葉山先輩による葉山先輩の為の表彰式が行われるから、場所取りとか……そもそも表彰式に間に合いたい女子が多数の為に、必然的にタイム上がんじゃね?
うっわ……、ちょっと迷惑かも。
格好つけたがりの男子と違って、女子なんてマラソン大会はダラダラ走るのが恒例化してるから、私らも適当に走っときゃそれなりの成績が得られたというのにぃ……。
葉山先輩……。あなたの為だけのイベントが、こんな悪しき副産物を生んでしまっていますよ……。
あっれ〜……?私なんか最近、葉山先輩に対しての感情黒くない?
× × ×
「あれー?いろはどこ行った〜?」
女子のスタートまで時間がある為私達は適当に時間を潰していたのだが、いろはの姿が見えない事に気付いた紗弥加達が訊ねてきた。
「ああ、そろそろ男子が始まるからスタート地点に応援に行ってんじゃない?」
「あ!そっか〜。一応対外的には葉山先輩の応援でキャッキャしとかないとだもんね〜」
ニヤっとする智子。
まぁ対外的よりも葉山先輩狙いって印象を『本命』にアピールしたい、所謂伏兵作戦の一環なんだろうけどもね☆
「面白そうだから私らも見に行ってみる〜?」
「さんせーっ」
さて、スタート地点まで来たはいいものの、やはりギャラリーが凄いね。
まぁそりゃ葉山先輩に限らず、恋する乙女達は意中の男子の雄姿をちょっとでも見たいもんね!(応援してるよ!アピールの為とは言ってない)
こりゃいろはの所に辿り着くのは無理かな〜?なんて顔を見合せながらキョロキョロしていると、ちょっと離れた所にいろは発見!
「葉山先輩がんばってくださーい!……あ、ついでに先輩も」
おー、応援してんねー!……先輩も『ついでに』!
そんないろはを私達がニヤニヤしながら見てると、
「おー」
おっと……そっちが反応しちゃったか……。
これはもう戸部先輩のご冥福をお祈りするしかないかと思っていると、「いやいや、戸部先輩のことじゃないですから」と当然のごとく冷たい台詞で、ないないと手を振る……。
良かったね!戸部先輩!私はてっきり無視されるかと思ってたよ☆
なんかこの二人はこの二人で夫婦漫才の新たなる可能性を秘めてるんじゃね?……と思っていると、いろはの視線が違うほうに向いて途端に優しい表情になっていた。
「……先輩も頑張ってくださいねー!」
こらこら!もう感情を隠しきれてないよ?いろはすっ!
そしてついに大会会場にスタートのピストルが鳴り響き、いろはの王子様を含む総武高校男子一同は、みなそれぞれの思惑を抱えながらスタートをきるのだった。
× × ×
……つ、疲れた……。
つつがなくマラソン大会は終了し、私達は表彰式の会場でもあるスタート地点の公園に集まっていた……。
マラソンは……結果的に言うと……とりあえず疲れました。
順位とかはどうでもいいよねっ!
いろはは今、簡易的な表彰ステージの上で生徒会役員の皆さんと式の準備をしている。
あの子も元気だね〜!さっきまでは私達と一緒にヘロヘロだったのに……。
まぁ結局優勝は普通に葉山先輩で決まったわけだが、コレって女子優勝者の表彰はされないのかよっ!
やだー、ホントあの人の為だけの式じゃないですかー。
いろはが無関係だったらたぶん私らは帰ってる所だろうね。
しばらくすると表彰式が始まり結果発表が済むと、さぁ!本日のメインイベント・優勝者のコメントの時間がやってまいりました!
いや、メインはマラソンじゃねーのかよ。
いろはは軽快なあざトークで司会進行をこなし、「壇上にどーぞー!」とステージ上に優勝者葉山先輩を招く。
「葉山先輩、おめでとうございますー!わたし、もう絶対勝つと思ってましたよー」
おいおい生徒会長!中立を守りなさいよ!
まぁこの結果ありきで企画した表彰式なわけだから、優勝してもらわないと困っちゃいますけどねー。
「ありがとう」
葉山先輩らしい爽やかな微笑でそれに応えると、オーディエンスに向き直りコメントを始める。
なんだよオーディエンスって。葉山先輩のオンステージかよ。
「途中ちょっとやばそうな…………良きライバルと皆さんの応援のおかげで………」
なんか綺麗事を並べただけのありきたりなコメントは正直頭に入ってこない。
なんでだろう……。なんか薄っぺらい……なんか中身を感じない。
ああ……、私って……あんまり葉山先輩好きじゃないのかな……?特にここ最近は。
いろはの比企谷先輩トークを聞いたり、実際にやりとりを目の当たりにしたりして、『比企谷先輩』という人物を知ってしまうと、なんだか葉山先輩のあの爽やかな笑顔が薄っぺらい仮面に見えてきてしまってる。
そして……たぶんこれが言いたいが為にこの企画を仕組んだであろう最後の決定的とも言えるセリフに、なんか胸がぞわりとした。
「特に優美子と、いろは……、ありがとう」
うっわ……。これだけの観衆が居る中で、あえてそんな台詞を言っちゃうのかぁ……。
いろはも急に名前を出されたからかビックリしてモジモジしちゃってるけど、それよりも何よりも、嬉しそうに真っ赤に俯いている三浦先輩を見て心がえぐられた……。
………だってこれって
……雪ノ下先輩との噂を収束させる為と言い寄ってくる女避けの為に、いろはとあんなに嬉しそうに身を捩ってる三浦先輩を利用したってことでしょ……?
そりゃ私は葉山先輩の事は何も知らない。
あの人にはあの人なりの考えや事情もあるだろうし、こんな風にただ薄っぺらく見えちゃうのだって、私がただあの人を全然知らないからだけなのかもしれない。
だからこんな風に一方的な考え方で葉山先輩を否定しちゃうのは間違いなのだろう……。
でもね?どんな考えや事情があろうとも、このやり方だけは許せない。
恋する乙女の純粋な気持ちを利用するだなんて、絶対に認められない……。
……葉山先輩……。私の友達をこんな事に利用しないでよ……。
「はい、ありがとうございますー。というわけで、優勝者の葉山隼人さんでしたー。はい、はくしゅー」
始めは急な展開に戸惑ってたいろはだが、一瞬ある一点を見つめハッとすると、なぜか急に表彰式をとっとと切り上げ始めた。
たまに神妙な表情でチラチラと視線を向ける先には………泥まみれのハーフパンツ姿で、怪我して足を引きずっている比企谷先輩の姿があった。
「二位以下は別にいらないですよねー?」
たぶんもうすぐにでも切り上げたいのであろう、副会長さんに確認を取ったその台詞が見事にマイクに乗ってしまい、やっべー☆となんとか言い繕おうと奮闘している。
……なにしてんの?あの子……。
片や仲間やファンに囲まれにこやかに笑う葉山先輩……。
片や泥まみれでぼろぼろの姿で、一人足を引き摺りながら会場を去っていく比企谷先輩……。
こんな対極な様子を私は複雑な気持ちで見ていたのだが、なんとか失言を言い繕おうと必死に苦笑いを浮かべるいろはのその瞳には、たぶんこの会場で誰一人として意識を向けてはいない大切な先輩の丸まった後ろ姿しか映ってはいないのだろう……。
× × ×
「おーい!いろはー!私達も片付け手伝うよー」
表彰式が終わるとその時点で解散となり、生徒達はそのまま雑談に花を咲かせたりその場を後にしたりする中、生徒会役員達は後片付けに追われていた。
てかこの企画自体をいろはにお願いして開いてもらったんだから、周りにいい顔振りまいてないで率先して片付けを手伝うべき人が居るんじゃないですかねー……。
うー……ダメだぁ……。なんかどんどん思考が黒くなってきちゃうっ!
私はさっきの比企谷先輩と、その姿を心配そうに見つめるいろはの様子を紗弥加と智子に説明して、早くいろはを向かわせてあげようと手伝いを買って出たのだ。
「おー、みんなー!マジで?助かるー!」
「ていうかさぁ、片付けだけなら私達でやっとくから、先輩んとこ行ってていいよぉ?」
智子がニヤニヤそう言うと、
「べっつに先輩の事なんて心配してないしーっ!生徒会長なんだから、そういうわけにもいかないって!」
あれあれ〜?誰も比企谷先輩とは言ってないんですけどぉ〜?
葉山先輩って選択肢は存在してないのかなぁ?
「いろはー、いいから行ってきな!たぶん学校に戻って保健室にでも行ってるんじゃない?急げばまだ居るかもよー?」
紗弥加も早く行かせてやろうと奮闘中!
「……だからいいってばー……。大したことないでしょ……」
ったくこういう時だけ素直じゃないんだからー。
だったら魔法のコトバを唱えちゃいますかね♪
「だってさぁ、先輩の怪我がもし良くなかったら、しばらくこき使うのに支障が出ちゃうよぉ?」
するといろははぱぁぁっと笑顔を輝かせたかと思ったら、すぐさまニヤリと表情を変えて
「た、確かにそれはあるかも!小間使いの一大事だっ!まったく、仕方ないなー。じゃあちょっと様子見てくるよー」
「はいはい、行ってらっしゃーい」
言うが早いか副会長さんにペコリと頭を下げると、ピューっと走って行っちゃった☆
「ホントあの子は素直なんだか素直じゃないんだか……」
「ねーっ」
私達は苦笑いを浮かべながら片付けを再開した。
……のだが、副会長さんが声を掛けてきた。
「あのさ、会長のクラスメイトさんだよね?もう俺達だけで大丈夫だよ。なんか知んないけど急ぎの用事があるんなら終わりにしていいからね」
「あ、大丈夫です!私達は最後まで……」
「あ!そうですかぁ?んじゃあ私と智子であとやっとくから、香織はいろはの様子見てきなよ」
へ?なんで?
私が訝しげな目を向けると、二人ともすっげえニヤニヤしながらウインクして、ビシッと親指を立ててきた。
それはもうミサト三佐とリツコ博士もびっくりするくらいの見事なシンクロ率でっ!
……ああ、つまり見てこいと………。で面白情報があったら報告しろよ、と……。
こいつら……ホントいい友達ですねー。
思わず棒読みになりながら、私もその場をあとにした……。
× × ×
学校に到着した私はまっすぐに保健室を目指した。
今ごろはイチャイチャ夫婦漫才でもやってんのかなぁ?
よし!次の角を曲がれば保健室だっ!と、角を曲がろうとした所で足が止まる……。そして私は身を潜めた……。
なぜなら、そこにはいろはが保健室の扉も開けず、ただ呆然と立ちすくんでいたから……。
え!?なに!?どうしたの……?
なんか症状があんま良くないとか!?
するといろはは悔しそうに俯いたまま、保健室前から立ち去ってしまった。
そのあまりの様子に私はいろはが心配になり、その背中を追い掛けようと飛び出したのだけど、保健室の前を通りかかった時に中から聞こえた声に足が止まってしまった。
「じゃあ、行けたら行く」
「ええ、流れ次第で決めましょう」
「それ結局行かないパターンっぽくない!?」
正直会話の内容までは分からなかった。
ただ分かったのは三人の生徒が会話をしていて、そのうちの一人が比企谷先輩という事、あとの二人が女の子だということくらい……。
ただね、いくら私にでも分かる事がある。
その笑い声、そのあたたかさ、その空気。
この薄い扉を一枚隔てた向こう側は、もうそれだけで完結してしまっているみたいだった……。
余人が入り込む余地などないくらいに、その三人だけで完成してしまった世界……。
この空間に入っていく勇気なんて、たとえ少年漫画の主人公だって、たとえ魔王からお姫様を助けに行く勇者だって持って無いんじゃないかな。
たぶん比企谷先輩を身近に感じていれば感じているほど、今は一番遠くに感じるのかも知れない……。
「じゃあ、一緒に行こっか!……みんなで、一緒に」
その一言でさらに暖かな空気に包まれた空間の扉のこちら側は、校舎の中だというのに一年で最も寒いと言われるこの季節でさえも及ばないほどに寒く凍えるほど冷えきってしまってる……。
もしかしたらいろはは、ずっとこんな空気と一人で戦ってきたのかもしれない……。
奉仕部、だっけ……?その部室に足を踏み入れる時は、いつもあんな風に入るのを躊躇っていたのかな……。
そしてあんな風に心が折れそうになりながらも、それでもなんとか踏張ってその重い扉を開いてきたんだろう。
でも………さすがにこれは無いよ……。
あんなにいっぱいいっぱい心配して、疲れた身体をおして一生懸命走ってきて、ようやく会いに来られたと……嬉しくて気持ちが安心しきって手を伸ばしかけた扉の先にこんな仕打ちじゃ……。
追うことも忘れてふと見上げた私の視線には、下を向いたまま校舎に儚く消えてくいろはの背中だけが映っていた……。
続く
今回もありがとうございました!
思わず誰得シリアスになってしまいました……
あざとくない件にこんなの求めてねーよ!ってお叱りを承けそう(ガクブル
次回でこのシリーズはラストです!
なんか三話で終わるとか言ってスミマセンでした(汗)
そして次回はちょっとだけ間を空けるかもです。
といっても1週間程度だとは思いますが……
出し惜しみ……というよりは書き惜しみ……ですかね〜
香織たちを書けなくなっちゃうのが寂しいんですよ……なにせ次を書いてしまったら、今度こそあざとくない件とはしばらくお別れですからね……え?嘘くさい?
さて!なににせよ、果たしていろはすはここから元気に立ち直れるのか!?前を向けるのか!?
次回【さりとて私の友達はあざとくしたたかに前を向く】をお楽しみに!←ネタバレ次回予告サブタイ乙