IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第185話 正義を背負う覚悟と悪でいる覚悟

「それじゃあ、私はこの辺で別行動をとらせてもらうよ」

 

 と、先を進む俺たちで進行方向を確認し、束博士が言う。束博士の隣にはクロエが自分も着いて行くという意思表示のように並び立つ。

 

「ああ。予定通り、そっちは任せたぜ」

 

「モチのロンだよ。アンタの覚悟も見れたしね。そっちも任せて大丈夫そうだから、こっちも伸び伸びやらせてもらうよ」

 

「……やっぱり気付いてたんだな、あそこにあいつら四人がいるってことに」

 

 俺の言葉に束博士はニヤリと笑う。

 あの篠ノ之束のことだ。ISの反応なんかを解析して位置情報を割り出すとかちょちょいとやってのけそうだ。

 

「君が元級友相手にちゃんと戦えるのかが気になったからね」

 

「ホント性格悪いですね、束博士」

 

「君ほどじゃないさ」

 

 ジト目での言葉にもどこ吹く風に笑う束博士に俺は舌打ちする。

 

「あ、ゴーレムは置いて行くよ。命令権は君に移譲しておくから、君の命令通りに動いてくれるはずだよ」

 

「了解です」

 

 言いながら何かを操作した束博士の言葉に頷く。

 

「まあせいぜい頑張って。――あ、そうだ。ちなみに……」

 

 手を振って歩き出そうとした束博士は思い出したように足を止めて振り返る。

 

「君たちが向かう次の場所にも君の知った顔がいるよ」

 

「それって……」

 

「そう。君の予想通りだよ」

 

 俺の言葉にニッコリと微笑んだ束博士は答える。

 

「せいぜい気を付けて。何せ次の場所にいるのは世界で最初の男性IS操縦者――いっくんだからね」

 

 

 

 〇

 

 

 広い場所に出た。

 ラウラ達四人と対峙した場所同様に広く、小学校の体育館くらいはありそうだ。きっと作ったISの動作確認などを行う場所なのだろう。

 部屋の脇には人が二、三人は入りそうな大きなコンテナが数個転がっている。

 その部屋の中央に、ISを纏わず、ISスーツ姿の男女が一組立っていた。

 一人は先ほど束博士の言っていた通り一夏が、そしてもう一人は――

 

「颯太……やっと会えた……」

 

 眼鏡の奥の瞳を涙で滲ませる少女、簪の姿に俺は少し間を空け微笑む。

 

「……ああ、久しぶりだな」

 

「やっと会えた……この日をずっと待ってた……」

 

「……………」

 

 簪の言葉に黙ったまま俺は視線を一夏に視線を向ける。

 

「どうだいヒーロー?まるでアニメのワンシーンのようじゃないか。世界を脅かすテロリストになった元仲間に会ったご感想は?」

 

「……最悪の気分だよ」

 

 俺の言葉に一夏は呟く様に答える。

 

「お前の言っていた意味に遅まきながら気付いたよ。確かに、俺の理想の先にあったのは地獄だったよ。今にも押しつぶされそうだ」

 

「それならそのまま押しつぶされてろ。楽でいいぜ?簡単なことだ。お前はただ黙って道をあけて俺たちを行かせれば――」

 

「そんなことできるわけないだろ!」

 

 俺の言葉を遮って一夏が叫ぶ。

 

「どんなに重くのしかかってきて、どんなに地獄で、どんなに押しつぶされそうでも!これが俺の信じた正義だ!そんなに簡単に下ろせるものなら、初めから背負っちゃいない!」

 

「かっこいいねぇ~、それでこそ正義の味方だ」

 

「お願いだよ颯太!」

 

 と、簪が叫ぶ。

 

「お願い……もうこんなことはやめて!」

 

「……無理だよ」

 

 簪の言葉に俺は答える。

 

「もうどうしようもないところまで来ちまったんだ。もうあとは俺が吉良香澄を殺すか、俺が殺されるか、それしかないんだよ」

 

「そんなことさせない!」

 

「そうだ!そんな道しかないなんて、こんなの間違ってる!」

 

 簪、そして一夏が叫ぶ。

 

「確かに俺は押しつぶされそうな正義で戦ってる。だけど、そんな俺から見ても、やっぱりお前のやり方は間違ってる!確かにお前のやり方なら世界は変わるかもしれない!でも!間違った方法で得た世界に何の価値があるって言うんだ!?」

 

「価値観を押し付けないでくれるか?」

 

 と、今まで沈黙を守っていたエムが口を開く。

 

「お前は……」

 

「久しいな。お前の姉は元気にしているか、織斑一夏?」

 

 鋭い視線でエムを睨む一夏にエムが言う。

 

「確かに間違った方法で得た世界に価値が無いのかもしれない。だがな、前提が間違っているんだよ」

 

「前提が……?」

 

 エムの言葉に一夏は眉をしかめる。

 

「この世界はもともと間違っているんだよ、どうしようもないほどにな」

 

「それは……」

 

「私を見ろ。私の存在がいい証明だ。すぐれた人間を模倣しようとする人間の業から生まれたのが私と言う存在だ」

 

「それって……」

 

 エムの言葉に簪はその意味に気付いたのか息を呑む。

 

「もともと間違った世界なんだ。間違っていようが正しかろうが世界を変えられればそれでいいだろう?」

 

「でも、それじゃあ――!」

 

「これ以上は平行線だな」

 

 なおも食い下がる一夏に俺は言葉を遮って言う。

 

「俺たちは吉良香澄を殺したい。お前らは俺たちを止めたい。どっちもその信念を曲げられないなら、これ以上の議論は無意味だ」

 

言いながら俺は一歩前に歩み出る。

 

「俺を止めたきゃ、殺す気で来いよ」

 

「そんなこと……」

 

「やれ!でなきゃ俺は止まらねぇぞ!」

 

「「っ!」」

 

 俺の言葉に二人は息を呑む。しかし数秒後、二人は顔を上げる。

 

「颯太の覚悟がどれほどであっても!それでも必ず私が颯太を……!」

 

「……行くぞ颯太。ここで決着だ!」

 

「いいねぇ~。その覚悟がどれほどか、この目で確かめてやる」

 

「お、おい待て!それは計画と違うだろ!お前は最後まで温存するはずじゃ――」

 

「オータム!」

 

「っ!」

 

「頼むよ」

 

「………~~~~~~~!!!だぁ~!!!もう!!!わかったよ、好きにしやがれ!!!」

 

「ハハッ、さっすが話が分かるねぇ~!マーちゃん愛してる!!」

 

「っ!?」

 

「はぁ!?何言ってんだ!!馬鹿じゃねぇのか!?てかマーちゃんって呼ぶんじゃねぇよ!!」

 

 赤面したオータムの顔に俺は笑いながらISを纏う。

 

「織斑君、予定変更。颯太の相手をお願い」

 

「え?お、おう……それはいいけど、簪さんはどうするんだ?」

 

「ごめん、まずは……そこの泥棒猫に訊くことができた……」

 

「「ヒィッ!?」」

 

 これまでに見たことのない簪の冷たい目に睨まれたオータム、そしてなぜか睨まれてない俺まで嫌な寒気が走る。

 

「私はどうする?」

 

 と、そんなことは知らないエムが訊く。

 

「エムは束博士がくれた残りのゴーレムと一緒に待機。場合によっては何かしら指示するから」

 

「了解した」

 

 エムが頷いたのを確認して俺は視線を戻す。隣でオータムもISを展開している。

 視線の先でも一夏と簪がISを纏う。

 

「準備はいいか、泥棒猫?」

 

「よくわからんがその呼び方やめろガキ」

 

 オータムと簪が火花?を散らし

 

「颯太のその考えをここで正す!」

 

「やれるもんならやってみな」

 

 気合十分の一夏に対し、俺は笑みを浮かべる。

 俺とオータム、そして、一夏と簪はそれぞれ構える。

 

「行くぞ、颯太!!!」

 

「殺す気で来いよ、一夏(ヒーロー)!!!」

 

 気合いの声とともに俺たちは激突する。

 

 

 〇

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

「せいやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 互いの気合いの声とともにブレード同士がぶつかり合い火花を散らす。

 

「いいねぇ~一夏!最高だよ!想像以上だ!この半年でかなり成長してるねぇ!!」

 

「お前もな、颯太!それだけに残念で仕方ねぇよ!」

 

 言いながら一夏は鍔迫り合いを弾き、俺との距離を取る。

 

「なんで……なんでなんだよ颯太……?なんでこんな方法を選んじまったんだよ……?」

 

 一夏は悲しそうに呟く。

 

「学園に残っていれば、お前なら他の方法を見つけられたはずなのに……なんでこんな方法を選んじまったんだよ!?」

 

「……確かにそうだな。俺のやり方はきっと正しくは無いのかもしれない。きっと正義はお前らの方にあって、俺たちは悪役(ヴィラン)なんだろうな……でもよ――」

 

 一夏の言葉を噛みしめる様に受け止めながら、それでも俺は笑みを消さずに言う。

 

「世の中には正しいだけじゃ救えないものだってあるんだ。救うべきものを救うために悪にならなきゃいけないなら、俺は悪にでもなんにでもなってやるよ」

 

 俺は言いながら纏っていた『火焔』を一時的に解除する。

 俺の謎の行動に一夏が困惑したような表情をする。

 

「さあ一夏。正義の味方になる準備はいいか?俺は――できてるぜ?とことん悪として戦う覚悟がな」

 

 言いながら俺はコートのポケットから〝それ〟を取り出す。

 

「それは……」

 

 俺の手に握られたものを見た一夏は俺の意図を読めずに顔をしかめている。

 そんな一夏をよそに、俺は〝それ〟――束博士特性ドーピング薬(リンカー)の入ったピストルのような形の注射器を首に押し当てる。

 

 プシュッ

 

 小さな音と共に押し当てていた注射器の中の蛍光グリーンの液体が俺の体内に注入される。

 同時に体中を熱いものが駆け巡るような感覚とともに鼻に熱いものを感じる。

 

「颯太……血が……!」

 

 一夏に驚愕した表情で言われ、左手で鼻の下をグイッと拭う。拭った左手には真っ赤な血が付いていた。

 俺はそれを数秒見つめ、ペロリと舐める。

 口に広がる味を噛みしめながら『火焔』を纏うと同時に『瞬間加速』で一夏に接近。俺の速度に反応できずに驚愕の表情を浮かべる一夏のがら空きの腹に『八咫烏』を纏った右腕で殴り

 

「WRYYYYYYYYYYーーーッ」

 

 そのまま振りぬく。『八咫烏』の一撃に一夏が吹き飛ぶ。

 それを追わず、俺は体にあふれる力に酔いしれ恍惚の笑みを浮かべ、体を満たしていく異様な感覚に身を委ねる。その感覚をあえて言葉にするとすれば――

 

「あぁ……悪魔のように黒く、地獄のように熱く、接吻のように甘い………最高に「ハイ!」ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハーッ」

 

 


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