と、とりあえずどうぞー!
最近私の生活は充実感に溢れている。この生活を送り始めたきっかけは少々あまり知られたくないものだが、クラウス殿を通じてカスティグリアと懇意になることができ、あのクロア殿に伯父と呼ばれるほど懐かれたことは、私の人生では思いもしなかった充実感を与えるきっかけになったのは間違いではない。
以前は主にトリステイン魔法学院へのメッセンジャーをしつつ外交部門内の噂話に耳を傾けるだけであった私の立場は、現在カスティグリア領に対するただ一人の王宮の勅使という立場になっている。それまではマザリーニ枢機卿が裏で取り持つことしか適わなかった王宮とカスティグリアのパイプを、私が補強することができると示したことでその役目を頂戴することができた。
カスティグリア殿からもクラウス殿やクロア殿が私と懇意にしていることから頼れる同じ目的を持った人間と認識してもらえ、話をする機会が増えた。初めてと言っていいだろう会話をしたときは、クロア殿のシュヴァリエ受勲のために奔走しており、彼から風竜隊を借りたときなのだが、やはり最初はあの他人を寄せ付けることを良しとしない目を向けられた。
恥ずかしながらクラウス殿やクロア殿との邂逅を話し、目的を告げ、さらに勅使としてクロア殿の信任を得るためという話をしたところ、彼は快く風竜隊を貸してくれた。かの風竜隊は王軍のそれや、ハルケギニアで一番錬度が高いと言われているアルビオンのそれとは比べるのも失礼なほどのものだった。
トリスタニアを飛び立ち、しばらく他の風竜隊と同じようにバラバラに飛んだあと、「全騎偽装解除」という隊長の命令が発せられ、あっという間に恐ろしく錬度の高い編隊飛行に移った。今思い出しても心が震える。そしてあの編隊飛行を竜騎士達と同じ視線で見れたことを誰かに自慢したいものだと常々考える。知っている者にしか話せないという外交部門のジレンマがこのようなことで現れるのはなんとも珍しいことかもしれない。
しかし、現在のカスティグリアの戦力はかなり高度に隠蔽されている。正確な全ての状況を知っているのはカスティグリア伯爵とその次期当主殿のみで、クロア殿やマザリーニ枢機卿、そして私も一部しか知らされていない。だが、そのたった一部分の公開だけで概ねカスティグリアの持っている全体の様相は想像できる。
クラウス殿は以前、モット領を一日で灰にできると言っていたが、あの時の私には少々誤解があった。一日というのは翌日の朝から艦隊や竜を動かし、日が暮れるまでに灰にできるというものだと勘違いしていたのだ。
しかし、恐らく一日というのは昼夜問わず、すぐさま艦隊や竜を動かし戦闘を含め、おおよそ日の昇っている時間内、つまり10時間ほどで全てが終わるというところだろう。しかもその約8割は、ただの準備や移動時間に当てられ、しかも全体の戦力から考えれば極僅かの戦力で可能だということだ。
そして、私は垣間見えるカスティグリアの獣が丁寧に研ぎ続けた爪や、現在の戦略、想定している状況をカスティグリア伯爵から知らされた瞬間、私はカスティグリアの虜になってしまっていた。
カスティグリアのすばらしさを一言で表現するとしたら、精緻に織り込まれた絨毯と言ったところだろうか。カスティグリア伯爵やクラウス殿は貴族の模範と言っても過言ではないほど、領民から支持を得ている。今まで枯れた土地で苦汁を味わっていた領民は溜め込んでいた鬱憤を晴らすように領民が協力して精力的に領地を改革している。
そしてカスティグリアの領民はその事を他領に漏らす事はしない。極秘になっている研究所の内部はもちろんのこと、貴族、メイジ、平民関係なく情報は隠蔽されている。平民ですら精力的に充実した日々を送り、自分に与えられた使命というものを感じそれを果たし続けることに誇りを持っている。
まさしくカスティグリア伯やクラウス殿が助言を聞きつつ縦糸を張り、領民が力を合わせて横糸を通し、延々と織り込まれた絨毯が今まさに衆人に晒される機会を待っているところだろう。そしてその機会はそれほど遠くないうちにやってくる。
先日、アルビオン王国が神聖アルビオン共和国と名を変え、アンリエッタ姫の婚約とゲルマニアとの軍事同盟が発表された。新しいアルビオンの新政府はトリステイン・ゲルマニア両国に対し、侵略ではなく不可侵条約の締結を打診してきた。
マザリーニ枢機卿を始め、多くの宮廷貴族達の賛成もあり、無事締結された。不可侵条約の締結に関しての会議にはカスティグリア伯も出席した。彼は賛成も反対もしなかったが、カスティグリアは好戦的だという王宮の噂に影響されている貴族などは「カスティグリアには残念なことに休戦条約が締結してしまいましたな」などという内容を仄めかした嫌味が飛び交った。
不可侵条約締結の余波はタルブ村にももたらされた。領主であるアストン伯はカスティグリアに対し、空軍の引き上げを要求。カスティグリアは姫様御輿入れまで延期を要求したが、それを怪しんだアストン伯は王宮に訴えた。マザリーニ枢機卿からカスティグリア空軍に引き上げるよう私が勅使として出向いたが、私としてはアストン伯を説得すべきだと感じていた。
タルブ村にあった空軍基地はもとよりそこに置かれていた研究所施設も全てアンリエッタ姫がトリスタニアを離れる日の三日前までに引き揚げられ事が決まっている。しかし、その空軍は増強され、タルブ村の南西100リーグに展開する予定だ。
当初の方針ではアルビオン側からの侵略がすでに起こっていてもおかしくない時期にさしかかりつつある。そして、カスティグリアは少なくない金と資源と人を使って綿密な準備を行ってきた。維持が可能な範疇らしいが、かなり圧迫していると思われる。もし戦争が起こらないのであれば軍備縮小も止むを得ないのではないだろうかとカスティグリア伯に今後の方針を聞いてみたところ、カスティグリアの方針は変わっていないらしい。
すでに戦争に対して具体的なプランが作成され、人員配置を行っている状況だと言われた。嬉しいことに私の席もいくつか用意してあるそうだ。王宮ではどこに耳があるかわからないので、詳しくはクラウスに尋ねてくれと言われ、その話を聞いた後日、私は学院のクラウス殿の寮を訪れた。
クラウス殿に訪ねた理由を伝えると、彼は錬金とサイレントを使い手馴れたように手早く密室を作り上げた。この部屋においてディテクトマジックは日常的に何度も使われているらしい。
話を聞いてみると実際に不可侵条約の打診があった時点でカスティグリアは今後の方針を決めかねたそうだ。元々カスティグリアは戦争を睨んで随時戦力増強の方針で進んでいる。今ではすでに竜の数は国が持つ規模を超えつつあり、戦列艦の数は少ないものの竜母艦や中型から小型のフネは一部私が知っているだけでもアルビオンより多い。維持費だけでもかなり圧迫しており、さらに増強していくと隠蔽が難しくなると思われる。
そこで、増強の手を止め他に回すか、戦争を信じて進むかの判断を行うべくクラウス殿がクロア殿に相談したらしい。そしてあの野生の獣が出した答えは増強。これに関して途中経過や理由を語らず即答だったそうだ。私はその話を聞いたとき思わず身震いした。王宮の誰もが平和が訪れると感じている中、この離れた学院の女子寮に引き篭もる獣は一体何を見、何を感じているのだろうか。
そしてクラウス殿が理由や考えを探るべくマザリーニ枢機卿を始めとしたトリスタニアの考えを伝えると、クロア殿はようやく事の次第を理解したらしい。数分の思考の海から掬い上げられた言葉は「不可侵条約は一ヶ月以内に破られる。アルビオンが条約を守ると信じるのは浅はか」という痛烈なものだったそうだ。あの獣は最初から戦争が起こることを全く疑っていない。むしろいかに戦力を維持するかという思考が大半を占めていたらしい。
―――そして、少し言いづらそうに、プレゼントを貰う喜びや期待をひた隠しにしても隠し切れない幼子のようにおずおずと「楽しみで仕方がない」と言ったらしい。
「そうだとも。そうであろうとも。クロア殿は本当に慎ましいな」とクラウス殿と笑ったのは記憶に新しい。クラウス殿もこの事を語るときは満面の笑みで日常の思わず笑ってしまう出来事を語るような顔をしていた。
プランを共有し、すでに決まっている人事を教えてもらい、私が選んだのは当日もカスティグリアと王宮を繋ぐパイプになることだった。むしろ他の者に任せることは無理だろう。私だけにしかこの役目を遂行する事は難しかろう。望んでいた狩のご相伴にも最高の席でありつくことが出来る素晴らしい席だった。
少々不安げに私が座る席を指し示したクラウス殿に「望みどおりだとも」と笑顔で了承すると彼も笑みを見せた。確かにこの席は少々危険が伴う。外交部門の者であれば座ることに躊躇する者や怒り出す者も出てくるだろう。しかし、その危険が気にならないほどの旨味を私は知っており、クラウス殿もそれを見越して私に用意してくれた。クロア殿ではないが本当に楽しみで仕方がない。
そして本日、カスティグリアの獣が指し示した日。アンリエッタ姫の御輿入れのためトリステイン王宮内は大わらわになっている。アンリエッタ姫とゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の結婚式は三日後、ニューイの一日にゲルマニアの首都ヴィンドボナで行われることになっている。
それに合わせ、本日、神聖アルビオン共和国の親善訪問が予定されている。ラ・ロシェールには出迎えのため、ラ・ラメー伯爵が司令長官を勤めるトリステイン王軍の艦隊が配備されている。旗艦は戦列艦メルカトール、艦長はアルビオン嫌いで有名なフェヴィス。ラメー伯もフェヴィス殿も少々狭量だが、空海軍では熟練の将軍と艦長だ。
欺瞞を混ぜ、カスティグリアの戦力をラ・ロシェールに置くことを、以前出向えの艦隊を決める会議でカスティグリア伯爵は提言したが、リッシュモンを始めとした王宮の貴族や将軍達に「カスティグリアは戦争を呼ぶつもりか?」と遠まわしに言われていた。むしろ了承されていればカスティグリア伯爵としては困っただろう。宮廷内での折衝に関しては私も彼から少なくない数の相談を受けており、この欺瞞を含めた提言に関しては私が提案させていただいた。
これでラ・ロシェール近郊にカスティグリアの艦隊はいなくても問題にならない上に、積極的に参戦したのではないという口実を得ることが出来た。実際気付いた者も僅かながらおり、外交部門特有の遠まわしな探りを入れられたがもみ消すことに成功した。
この時はすでにマザリーニ枢機卿も含め、彼の部下は平和が来ると信じ、戦争回避に躍起になっているときであった。本日、起こるであろう戦端が開かれるまで、トリステイン国内で現状戦争が起こると信じている者は恐らく私とカスティグリア伯爵、クラウス殿、そしてクロア殿だけだろう。
王宮にある私室で希少本を読むフリをしつつ、落ち着かない気持ちを紅茶で慰めていたとき、ようやく望んでいた報が舞い込んだ。旗艦メルカトール以下艦隊が文字通り全滅、神聖アルビオン共和国から急使が来て宣戦布告がなされたようで、至急会議室に集まるようにとのことだった。
会議室には大臣や将軍、私も含めた外交部門、そして王宮にいる貴族でも諸侯軍をある程度常備しているものが集められたようだ。ちょうどカスティグリア伯爵の隣が空いていたので私はそこに座った。上座には本日ゲルマニアに向うはずだったアンリエッタ姫が本縫いの終わったばかりのウェディングドレスを纏い呆然とした表情で座っている。
会議の最初に聞かされた詳細によると、アルビオン艦隊の礼砲に対し、答砲を7発撃ったところ、射程外、それも空砲であるにも関わらず、アルビオン艦隊の最後尾に位置していた古い小型艦が爆沈したらしい。それを受けてアルビオン艦隊がトリステイン艦隊に対し砲撃を開始、誤解だということを受け入れられずトリステイン艦隊は全滅したらしい。
そしてそれに合わせるがごとく王宮に急使が宣戦布告を行いに来たそうだ。布告内容は不可侵条約を無視するような親善艦隊への理由無き攻に対する非難に続き、『自衛の為神聖アルビオン共和国政府はトリステイン王国政府に対し宣戦を布告する』というものだ。
アルビオン親善艦隊の戦力は充分に把握できているものではないが、全長200メイルを越える巨大戦艦を旗艦に戦列艦が十数、竜騎士が21とのことだ。恐らく地上制圧のための部隊も大量にいるはずだ。
しかし戦列艦の全長が確か100メイル前後だったはずだ。200メイルとはさぞや巨大なのだろう。隣に座るカスティグリア伯の顔を窺うといつもの人を寄せ付けることを良しとしない顔に付き合いのある人間にしかわからない程度、極僅かに隠し切れないような仄かな笑みが浮かんでいた。なるほど、カスティグリアにとってはただの巨大な旨い餌なのだろう。恐らくハルケギニア最大と思われるフネもただの大物になるに違いない。
そして会議は紛糾した。「まずはアルビオンへ事の次第を問い合わせるべきだ」「ゲルマニアに急使を派遣し同盟に基づいた軍の派遣を要請すべし」と言った意見が飛び交う。「カスティグリアが関わっているのではないか?」という意見もあったが、カスティグリア艦隊は全てラ・ロシェールから50リーグ以内にいないというマジックアイテムを使った宣誓証言をカスティグリア伯爵が行ったため、カスティグリアに対する疑念は消えた。
そして大方、「アルビオンとの誤解を晴らすため会議の開催を打診する」というものと「王軍や諸侯軍を集め徹底抗戦すべし」という意見に別れ、最終的にマザリーニ枢機卿の「全面戦争へと発展しないうちにアルビオンに特使を派遣する」という結論を宣言している途中、さらに急報が届いた。
伝書フクロウによってもたらされた書簡を手にした伝令が飛び込んでくると、
「急報です! アルビオン艦隊は降下して占領行動に移りました!」
と、告げられた。誰かが場所を尋ねると、ラ・ロシェールの均衡、タルブの草原だと知らされた。私の背中にゾクッと寒気が走った。全てがプラン通り、あの獣が用意したお膳立て通りに事が進んでいる。数ヶ月前に想定され、二ヶ月以上前にタルブ村に基地を構え、三週間前に細かい調整や最終決定がなされたプランに沿って敵味方の全ての人員、政策、戦力が動いている。あとはカスティグリアの戦力を動かすタイミングを待つのみとなった。
しかし、会議は中々抗戦に傾く事がない。マザリーニ枢機卿を筆頭に外交努力で事を収める意見が根強く、カスティグリア殿も少々イラついているようだ。さもありなん。次々と舞い込んでくる急報はタルブ村を襲う凶報ばかりだ。
昼を過ぎてもまだ凶報は続く。アストン伯が手勢を率いて抗戦するも戦死。偵察に出た竜騎士隊が帰還しない。アルビオンからの問い合わせの返答は来ず。しかし、それでも未だに不毛な議論が繰り返されている。やはり王国には王が必要なのだと実感させられる。実際誰も抗戦のためと、カスティグリアの名を上げる者がいない。この場面でカスティグリア殿が意見を言うのは愚策だ。その事は前々から話し合って決めてある。
しかし、短い期間とはいえカスティグリアはタルブ村に関わっており、タルブ村にはクロア殿の側室候補であるシエスタ嬢の生家もある。本心ではもはや国を見限り、カスティグリアの戦力でタルブに向いたいところだろう。クロア殿も恐らく抗戦の報を待ち続け、イラついているに違いない。
そして、「タルブ炎上中!」との凶報が入った。もはやこれまでかとカスティグリア殿と目を合わせ、軽く頷きあったところでアンリエッタ姫が立った。
「あなたがたは恥ずかしくないのですか? 国土が敵に犯されているのですよ? 同盟だなんだ、特使がなんだ、と騒ぐ前にすることがあるでしょう?」
アンリエッタ姫がわななく声で言い放った。それに対しマザリーニが食い下がるもアンリエッタ姫は条約は紙より容易く破られ、もとより守るつもりは無かったと断言し、王族、そして貴族の意義を説き、不毛で愚かで臆した者たちの会議を罵倒した。マザリーニが「姫殿下」とたしなめるも、アンリエッタ姫はもはや決断したようだ。
「ならばわたくしが率いましょう。あなた方はここで会議を続けなさい。」
アンリエッタ姫はそのまま会議室を飛び出そうとしたところで薄く嗤ったカスティグリア殿が発言した。
「アンリエッタ姫殿下。是非ともカスティグリアに先陣の栄誉をお与えください。カスティグリアの戦力は充分。お与えくださるのでしたら姫殿下の杖として、必ずや姫殿下の御前の露払いをいたしましょう。あの下賤な簒奪者たちにトリステイン貴族の誇りというものを知らしめることをお約束しましょうとも。」
その言を聞いたアンリエッタ姫は一瞬いぶかしみ、逡巡したあと、
「勅命を下します。カスティグリア伯爵、諸侯軍をもってあの下賎な簒奪者たちを打ち倒すべく先陣を務めなさい。わたくしも王軍を率いて参ります。」
そう勅命を下し、再びマザリーニ達に追いすがられながら会議室を飛び出していった。カスティグリア殿と無言のまま意思疎通を行い、私は会議室から飛び出した。これより先は何よりも時間が重要になる。タルブ村はすでに被害が出ているであろう。しかし、出来る限り早く艦隊を動かすことが出来ればその被害も時間に合わせて減るはずだ。
途中でフライを使い、一気に外に出てカスティグリアのアグレッサー部隊が駐騎している場所を目指すと、目ざとく私を見つけた隊長が騎乗命令を出し、空中で私を回収した。
「隊長殿。ようやくだ。勅命が下った。」
それだけ言うと、隊長殿は笑みを深くし、部隊に「艦隊に合流」という命令を下した。カスティグリア伯爵は領地防衛部隊であるカスティグリアの空軍基地に別の竜に運ばれる予定だ。クロア殿が指令官を勤める艦隊はタルブ村から更に100リーグ先にある。戦場を突っ切るわけにはいかないので想定された迂回ルートをアグレッサー隊ならではの速度で飛び続ける。
並みの風竜ではこの速度は出せないと聞いている。選び抜かれた人間が選び抜かれた風竜と出会い、トリステインの上に広がる空の全てが彼らの庭となった時、初めてこの速度が出せるのだそうだ。六騎の竜がきれいなトライアングルを描きながらこの高速で移動するのはやはり他の風竜では無理であろう。想定された迂回ルートの総距離は400リーグ。並の風竜ならば二時間半以上かかるであろう。その迂回ルートをアグレッサー隊はたったの一時間半で消化した。
30を超える艦隊の真ん中に浮かぶ白亜の新型竜母艦。竜の上から見たその威容は猫が前足を伸ばしているような美しいフネだ。最初は新型の竜母艦を小型のコルベット艦が囲んでいるのだと思った。しかし、このアグレッサーの速度でも中々母艦が近づかない。そして徐々に近づくと、その細部が明らかになった。
船体は平面を多用し、かなり角ばった印象を受ける。そして甲板に出ている人間が全くおらず、マストや帆も見当たらない。船体から伸びる四枚の翼があるのみでどのように進むのか、進むことができるのか全くもって不明だ。そして、コルベット艦だと思っていたものはトリステインでも一般的な大きさの戦列艦であり、竜母艦の規格外の巨大さがようやく理解できた。
なるほど、これを知っていれば
このフネはクロア殿が新規に提案した物をカスティグリア研究所が総力を挙げて企画し、考え抜かれたカスティグリアの新鋭艦と聞いている。最初にクロア殿がメモのように記した名前は「アルビオン」だったそうだ。しかし、アルビオン攻略の旗艦にすべく作られたこのフネにその名前は情報漏えいの恐れがあると別の名前が付けられた。
カスティグリア研究所のクロア殿の狂信者たちが付けた新しい名前はカスティグリアの古い方言が使われ、『
アグレッサー隊が艦隊のマジックアイテムの通信可能範囲に入ると私は勅命を艦隊に知らせた。そして艦隊が動き出す。今までにない巨艦が30を越えるフネを引きつれゆっくりと動き出した。そして数分後、私は旗艦レジュリュビに降り立ち、出迎えの仕官に案内され、フネの説明を聞きながら艦橋へ向った。
艦橋は中央の一番高い場所に位置しており、そこに併設されているデッキから全てが見渡せるようになっている。前に突き出た二本の足は竜の駐騎場所であり、補給所でもある。後ろには二本の巨大な空間があり蒸気機関というものを使った巨大な推進機関が置かれているらしい。フネの装甲は全て最新の防御装甲が使われ、砲弾はもとより敵戦列艦が大量の火の秘薬を積んで体当たりしようと穴が開かないらしい。
唯一の欠点は風石の消費量が普通の戦列艦の20倍近くかかるらしい。まさにカスティグリアだけに許されたようなフネだ。竜から見ただけでもでかいとは思ったが士官が言うには全長300メイル、全幅210メイル、全高82メイルという訳のわからない大きさだった。つまりこのレジュリュビの全高はトリステインの一般的な戦列艦の全長より少し短い程度なのだ……。そう考えるとかなり効率のいい船なのかもしれない。
クロア殿はこの高い位置に置かれた艦橋までたどり着くことを断念し、風竜で上から乗船したらしい。実際、風竜の駐騎場所から私は歩いているわけだが、中々たどり着かない。職務上何度か戦列艦に乗船したことはあるが、平民のように舷側から上がり、甲板上を歩いて船尾にある提督居室向かってもものの数分でたどり着く。
艦橋の真下から艦橋に入るための階段ホールまで吹き抜けになっており、そこをフライで上昇し、降り立つとようやく最後の扉の前に来た。士官が姓名と用件を告げ、マジックアイテムを操作し扉を開け私の案内を終えた。軽く礼を言って艦橋に入ると恐ろしく広かった。後方以外の三方に広々とガラスが張られた艦橋はおよそ20メイル四方あるのではないだろうか。
私はその圧倒的光景に後ずさりしそうになったが、なぜかメイド服を着たシエスタ嬢に笑顔で出迎えられ、中に入ることができた。そして、案内された場所は中央にある頑丈そうなテーブルで、戦況を示す地図が広げられ小型の模型がその上に置かれている。クロア殿は作戦直前まで一つ下の階で休憩しているらしい。
私が示された椅子に座るとこの艦の艦長を任されている子爵の挨拶を受けた。
「カスティグリア伯からこのレジュリュビの艦長を任されております、アマ・デトワールと申します。家格は子爵になります。ようこそレジュリュビへ、ミスタ・モット。」
「ジュール・ド・モットだ。この艦に乗せていただき真に光栄だとも。ミスタ・デトワールよろしく頼む。」
挨拶を交わし終わるとシエスタ嬢が紅茶を淹れてくれた。この紅茶は何度か飲んだことがあるがやはり格別と言える。クロア殿は大変執着しているようで、私がシエスタ嬢を引き抜きに行った際にはこの紅茶が目当てだと最初は誤認したらしい。確かにこの紅茶を飲めるのであれば強引な手段で欲しくなったとしても理解はできる。
紅茶を一口楽しんだあと、シエスタ嬢に笑顔で礼を言い、デトワール子爵を観察する。年齢は40歳くらいだろうか。短めの灰色の髪は丁寧に梳かれており、灰色の目は穏やかそうな色の奥に厳しく愚直なまでの律儀さが見て窺える。少し日に焼けた肌には激務を思わせる深い皺がいくつか走っているが全体的な印象は力強さを感じる。
「現在この位置を飛行しており、戦場と想定されているタルブ村の20リーグ手前のこの位置で戦力を展開することになっております。予定ではあと50分といったところでしょう。」
デトワール子爵が差し棒を使って作戦の説明をしてくれる。しかし、残念なことに私は勅使であり、勅命が下されたことを正式に知らせ、戦況をこの目で確認するだけだ。彼にとってこれからが本番なのだろうが、私は全くもって専門外である。一応想定されているプランを最後まで説明してもらったが、私に口を出す権利はない上に問題も見つからない。かなりゆとりのある堅実なプランに思えるということだけだった。
いかがでしたでしょうか。原作での王宮の動きはクロア視点ではどうがんばっても無理なのでモットおじさんに登場してもらいました。
ふむ。面白いことが何も思いつかない。というわけで裏設定をば。
原作三巻に出てくるレキシントン号の記述では全長200メイル108門の巨大帆走戦艦との記述がどこかにあったと思います。地球の戦列艦から見ると砲が少ないですね。かなりスカスカっぽい印象があります。
しかし戦列艦やスループという単語は出てきても大きさは特に記述がありませんでした。そして「レキシントンと比べると戦列艦がスループに見える」という会話から戦列艦の大きさ求めようと思ったのですが、スループの全長もわからない。
そこでwiki先生に聞いてみたところ、昔の戦列艦未満の軍用帆船のフリゲートは28~36門、スループは10~20門、コルベットは4~8門でコルベットのみ12~18mという記述がありました。コルベットの数値から逆算すると、スループの全長は30~45mとなります。同じくwiki先生に聞いた戦列艦は全長50~60mで、単純に戦列艦60m、スループ30mとすると2倍の大きさの違いがあることがわかりました。
そこから、レキシントンから逆算したハルケギニアの一般的な戦列艦の全長は100m、スループの全長は50mということにしました。ええ、わりと適当です。普通は排水量とか砲の数とかで決めると思うのですが、原作では全長で比較していたので、まぁ気にしない方針で^^;
ちなみに原作での軍艦の種類は戦艦、巡洋艦、戦列艦、スループ、竜母艦、両用艦などですね。戦艦と巡洋艦は時代ちがくね? とか思いました。
レジュリュビは双胴竜母艦とかになるんですかね? なんちて。ちなみに私は戦列艦のヴィクトリー号が大好きです。ガレオン船のゴールデンハインドも大好きです。あの時代の船は味があっていいですよね^^
次回もおたのしみにー!