ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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 日曜日に間に合わなかったYO;;
 アンドバリの指輪に関しての独自設定が出てきます。小説でチェックがあまり出来なかったので設定させていただきました。
それではどうぞー!


37 報告と備え

 先日、アンリエッタ女王の戴冠式が行われ、そのことも含め色々と話があるとのことでクラウスが朝早くから訪ねてきた。今日は起きた時から背中に鋭い痛みが走り、両腕両足ともしびれた様に力が入りづらい。ただ、シエスタの判断では顔色はそれほど悪くなく、ベッドから出れないだけなので問題あるまいて。

 

 何枚かの丸められた羊皮紙と数冊の本を両手に抱え、クラウスがシエスタに挨拶すると俺の状態を彼女に聞いてから紅茶を一杯頼み、俺の枕元にある椅子に座り、さっそく話を始めた。

 

 まず、俺がラグドリアン湖に行っていた虚無の曜日、アンリエッタ女王陛下の戴冠式は無事に終わったそうだ。しかし、カスティグリアの戦力を大々的に披露する場ではあったのだが、戦時中ということでかなりの制限を加えたらしい。

 

 例えば、竜部隊に関しては背面飛行や急旋回、急降下などの他では見られないような機動は禁止され、艦隊に関しては戦列艦三隻のみのお披露目となったそうだ。それでも錬度が高く、一領主が持つ戦力としては破格だったため、モットおじさんからの情報では王宮としては度肝を抜かれたらしい。

 

 まぁアルビオン軍の捕虜と遅れてやってきた王軍合わせて一万人以上の人間が、タルブ防衛戦でのカスティグリア諸侯軍を実際に見ているわけだから、あまり隠す意味はなさそうではあるが、噂で終わらせるか実際に見せるかでの違いは大きいと判断したのだろう。

 

 そして、戦果である拿捕した戦列艦は全てラ・ロシェールに送られ、修理と艤装を施されることになり、士官であった捕虜は捕虜宣誓の後にトリステインの艦隊のオブザーバーとして雇用されたらしい。基本的に貴族や士官は全員捕虜宣誓を行い、トリステインの駒として働くことになるだろうとのことだ。

 

 もし断るのであれば貴族は身代金が支払われるまで幽閉され、士官も含めて平民は強制労働になるらしい。強制労働は過酷なので、大抵の人間はトリステインに恭順するだろうとのことだ。ちなみに、捕虜宣誓をした人間はある程度の自由が認められ、捕虜という言葉とは裏腹に貴族ならば家格にあった屋敷に居候することになる。しかし、トリステインからの脱出や反乱を企てただけで捕虜から罪人という立場に変わり、問答無用で処刑されるらしい。

 

 あと、すっぱり忘れていたのだが、竜騎士として捕縛されたワルド元子爵は捕虜ではなく反逆者として捕らえられ、アンリエッタ女王陛下やマザリーニ枢機卿、それに父上やモット伯の前で、トリステイン王国では禁忌指定されているギアスという魔法や様々なマジックアイテム、そして拷問などにより、情報をほとんど完全に引っ張り出されたあと、公開処刑ではなく、さらなる拷問の末、無残に獄死させられたらしい。

 

 いや、うん。彼は捕まった時点で詰んでいたのではないだろうか。ぶっちゃけ彼は二、三回は処刑できると思うほどトリステイン王国に対して罪を犯している。それにフーケの話が出なかったことから考えると、ワルドが捕縛されたことを知っている人間はアルビオン側にいなかった可能性があるし、本国に伝わらなかったのだろうことから、彼に対する救出部隊が編成されたとも思えない。戦死と捉えられていた可能性を考えると獄死でも彼の結果はあまり変わらない気がする。ちなみにすでに火葬されたそうだ。

 

 ワルドの自供によってあぶりだされたアルビオンへの内通者はそれほど数は多くはなかったのだが、さらに何人かが芋づる式に引っこ抜かれ、ワルドと概ね同じ運命をたどる事になるらしい。ただ、こちらは情報を引き出した上、公開処刑にするそうだ。そして、内通者は反逆者として捕らえられたため、彼らの家は取り潰され、財産は全て没収となり、トリステイン王国の国庫がほんのり潤ったそうだ。

 

 女王の戴冠式を前後して、多くの血が流れることになるが、そもそも戦時中ですでに約一万七千の人間の血が流されており、今さら数十名増えたところであまり変わらない気もする。そんなことをクラウスにこぼしたら、クラウスは「まぁそうだよね」と苦笑いしたのだが、アンリエッタ女王は心を痛めているそうだ。しかし、まぁ、恋人の仇を早々に討てたと考えればそれほど心を痛める必要はないと思うのだが……。

 

 ふむ。なるほど。そういえばアンリエッタ女王陛下は『聖女』様でしたな。となると、本心だけでなく対外的にも心を痛める必要があるのかもしれない。さすが女王陛下と言わざるを得まいて。

 

 ただ、カスティグリアとしては俺が個人的にとはいえ女王陛下に生涯の忠誠を誓ったことは少し問題になるかもしれないとのことで、少々方針を転換することになってしまったそうだ。この件に関して、後々俺は埋め合わせのため、ひと仕事して欲しいとのことだったので了承しておいた。

 

 確かに俺のシュヴァリエ受勲の際は断固として回避していたことを考えると、父上やクラウスはまさかあの場で誓うとは思っていなかっただろう。カスティグリアが予想外の損失を出すというのであれば、俺がその埋め合わせをすることに関して特に異存はない。

 

 

 そして、次の話題は俺とルイズ嬢の飲んだ惚れ薬と水の精霊に関する内容だった。惚れ薬を飲んだことを知ったルーシア姉さんとクラウスは、この件が解決するまで何度か伝書フクロウを使って連絡を取り合っていたらしいのだが、クラウスやアグレッサーは式典の準備で忙しく、時間的に抜け出せそうも無かったため、とても焦ったそうだ。

 

 しかし、終わってみれば損失はなく、むしろ良い事だらけだったため、問題はないそうだ。そして、今後も必要になる可能性があるため、カスティグリア研究所で極秘裏に研究が進められるらしい。さらに、俺の作成した惚れ薬に関する資料を求められたため、ラグドリアン湖から戻ってきてから書いたアンドバリの指輪と水の精霊に関する簡単な資料とそれを中心に据えたアルビオン攻略の簡単な提案書をクラウスに渡した。

 

 アンドバリの指輪に関してクラウスは、まずルーシア姉さんから簡単な報告と説明を受けたらしい。その説明でアンドバリの指輪の特性である“死者に偽りの生を与えて操る”というものを知り、捕虜に死者が混じっているか調べたのだが、今回のタルブ防衛戦では使われていなかったようだ。

 

 そして、今後その生き返った死者を使ってくる可能性を考え、捕虜達から聴取を行い、動いているであろう士官や貴族の死者のリストが作成されたそうだ。そして、アンリエッタ姫がウェールズ王子に送った手紙に関する事件を知っていたクラウスは、ウェールズ王子を含め旧アルビオン王国に所属し、戦死したと思われる人物もリストに入れておいたらしい。

 

 クラウスは敵である神聖アルビオン共和国が、アルビオン王国の貴族派だった頃からアンドバリの指輪を所持しており、積極的に使った可能性が高いと判断した。今回のタルブ防衛戦で死者が使われなかった理由は、こちらがまだその指輪に関する情報を持っていないだろうと想定していたためであり、もっと効果的な作戦で初のお披露目になるだろうことが予測されたため、王宮やトリスタニア周辺の警備にカスティグリアも加わったらしい。

 

 そう、加わってしまったのだ。原作ではアンリエッタ女王陛下が指輪の力で生き返ったウェールズ王子に篭絡され、誘拐され、近衛隊に犠牲者を出し、ルイズ嬢を始めとした主人公勢に救出されるというイベントが起こるはずだったのだが、警備にあたっていた風竜隊によって全員捕縛されたそうだ。

 

 アンドバリの指輪に操られた人間というものは基本的に死者が多いのだが、その効果については謎が多い。アンドバリの指輪を消耗させ、雫を水源に落とすだけで、その水源の水を飲んだ人間すら操れるのだが、数万という人間をどのように操っているのかはかなり不明だ。

 

 実際のところはマジックアイテムに関するスペシャリストであるミョズニトニルンくらいしか詳しくはわからないだろう。しかし、アンドバリの指輪に関しては憶測の域を出ないが、結局のところ、ある程度生前に沿った思考、行動をし、多少の記憶や使用者に対する絶対的な忠誠、そして目的を与えるといったところではないだろうか。ただ、どの程度の制限を入れることが出来るかが重要なのだが、そこはやはり実験でもしてみないことにはわからない上、出来るような環境になった瞬間、あまり意味の無いものになりそうだ。

 

 しかし、今回捕縛できたのはかなり大きい。捕縛地点がトリスタニアの外だったため、現在はカスティグリアのフネに収容し、様々な実験を行っているそうだ。どの程度の怪我や損傷までなら行動できるかに関してが主な研究になっており、多少の損傷ならば行動が可能であり、切断には弱いらしい。

 

 つまり、損傷しても死体なので死ぬ事がなく、損傷箇所の状況によってはある程度ならば元通りになる。しかし、切断箇所はくっつけておけば治るのだが、新たに生えてきたり、傷口が塞がることはないそうだ。

 

 ただ、切断された部位が腐ったり劣化することがないことから、完全に切断するにはその部位をミンチにするか燃やしてしまうのが有効であり、アンドバリの指輪で生き返らせた死体を殺し、再利用を防ぐには火葬しかないという結論になったそうだ。

 

 ふむ。原作ではサイトが七万の軍に突撃したときに、「相手も利用されている駒」といった理由で殺さなかったのだが、よく考えたら殺していてもあまり変わらなかったのではないだろうか。七万のうち二、三万はアンドバリの指輪に操られたトリステイン軍の兵士だったはずだし、状況的にアルビオンの士官やメイジにはアンドバリの指輪で操られた死体が多かったと推測できる。

 

 むしろ、あの状況ならばルイズ嬢が、全ての魔法を打ち消す“ディスペル”を広範囲にぶち込むだけで、アルビオン軍が混乱してあっさり逃げ切れそうな気がしてきた。戦列艦はあの撤退のときに余っていただろうし、五隻くらい同行させて上空から撃つという簡単なお仕事になったのではないだろうか。

 

 トリステインゲルマニア連合軍の敗因はもしかして、あの時にアンドバリの指輪に関する情報を持ち、あの遠征隊に所属していたルイズ嬢、サイト、ギーシュ、そしてあの場にはいなかったが実際効果を見ているアンリエッタ女王などがアンドバリの指輪に関する情報を隠蔽したからではないだろうか。

 

 ふむ。ここはルイズ嬢に要請してディスペルの効果範囲を調べておくべきではないだろうか。しかし、虚無の魔法に関してこちらが先に情報を得ているという理由が思いつかない。もし、俺が敬虔なブリミル教徒であり、教会によく出入りしていたのであれば、どっかで読んだとか言えばいいのだろうが、前提条件がすでに真逆に振り切れている気がする。

 

 まぁ、火葬すれば良いのであれば火竜隊と無誘導爆弾で概ね問題ないだろう。捕虜になった時点で潜伏、反乱などを行われない限り問題はなさそうなので、そこだけは注意するようクラウスに言っておくべきだろうと思い話したところ、ひどい返しが待っていた。

 

 「うん。その辺りは周知してあるよ。それでね、兄さん。兄さんの体調次第なんだけど、今度のアルビオン遠征のためのカスティグリア諸侯軍の最高指令官に決まったから、よろしくね。」

 

 ふむ……。一体何を言っているのかわからない。いや、確かにハルケギニア共通言語なのだが、理解が及ばない。冗談の類だろうか……。しかし、クラウスの顔はとても真面目だし、特にからかっているようには見えない。だが一日で終わるタルブ防衛戦と違ってアルビオン攻略となるとかなり長期間になるのではなかろうか。しかも諸侯軍ということは王軍との交渉もあるのだろう。

 

 どう考えても不適格ではなかろうか。重要な参集のたびに寝込んでいたらさすがにお飾りとはいえ外聞が悪いだろうし、俺がお飾りとして手柄をいただいたところでほとんど意味のないことのように思える。

 

 「ああ、兄さん。こちらとしても出来る限り戦力を整えるし、事前交渉や戦後交渉の補助は行うつもりだから安心してほしい。ただ、アンリエッタ女王陛下やマザリーニ枢機卿、そしてモット伯の希望らしくてね。僕や父上も問題ないと判断した上で、カスティグリア諸侯軍の関係者も支持してくれるみたいだから安心していいよ。」

 

 ふむ。すでに根回しが終わっているのか。諸侯軍の支持がなぜもらえたのかが不明だが、もらえたのであれば問題もなさそうだ。

 

 基本的に諸侯軍というのはその家の人間が率いることになっている。そう考えると、侯爵になったばかりの父上や次期当主殿を勝てる戦いとは言え戦場に送るのはあまりよくないかもしれない。しかも今回は向こうにアンドバリの指輪という厄介なマジックアイテムが存在している。そう考えると、俺の方が適任だと思えてくる。

 

 俺が最高指令官になる上で問題になるのは恐らく他の軍や戦後処理などの交渉、補給や配備などの手配、艦隊の指揮などだろう。というかぶっちゃけ全てなのだが、交渉ごとや手配などをある程度先にクラウスにやってもらい、細かい作戦立案や指揮はレジュリュビのブリッジに任せればよいのではないだろうか。前回は戦後交渉だけが罠だったはずだし、このあたりの概要を概ね決めておいて貰えば問題なさそうに思える。

 

 「ふむ。もし俺が引き受けるのであればいくつか条件を飲んでもらいたい。あと、カスティグリアが出す戦力に関しての情報が欲しい。」

 

 新しい羊皮紙をサイドテーブルから一枚取り、俺の採りたい作戦に必要になるであろう条件をゴリゴリと羅列していく。認可を受ける先は、戦力を整えるカスティグリアだけでなく、王軍に対して、国として裁可を下す事が可能なアンリエッタ女王陛下、それにマザリーニ殿。マザリーニ殿に関しては宰相ではなく枢機卿として動いてもらわなければならないが、彼の本分だろうから問題あるまいて。

 

 王軍を誰が率いるかは今のところ決まっていないだろう。グラモン元帥やヴァリエール公爵は年齢的に問題があるという理由付けが原作にあった気がするし、原作から乖離している範囲で割り込めそうなのは父上やクラウスだが、彼らはどちらかと言うと文官だろう。クラウスが武官として動きたいのであれば、今回の諸侯軍を率いれば良いだけの話だし、何しろまだ若い。いや、俺も似たようなものだが、クラウスの命を戦争に晒すのは勿体無さすぎる。

 

 彼には次代のカスティグリア、そしてトリステイン王国を背負って貰わねばならないし、それは俺が生まれた時、クラウスが生まれた時、そして俺がこのハルケギニアに降りた時にすでに決まっており、俺自らも彼に背負わせたモノだ。そのための露払いにこの短いであろう日々苦痛を伴う命を使う事にためらいは無い。

 

 「戦力に関しては前回のタルブ防衛戦と同じものに減ってしまった分を補充するくらいしか用意できないんだ。ただ、今回は遠征になるからね。輜重隊として旧型のフネで構成された艦隊が付く予定だよ。あと追加できるとしたら武器弾薬かな?」

 

 クラウスから今回の戦力に関しての羊皮紙を渡されるがまっさらだったため、コモンワードを唱えて文字を表示させる。クラウスが作ったとルーシア姉さんの言っていたオリジナルスペルだが、意外と便利なのかもしれない。お目にかかったのは俺の黒歴史が詰め込まれた物しかなかったわけだが、ようやく真価を発揮したところを見ることが出来た気がする。

 

 ふむ。試作ブースターがすでに完成しており、風竜隊、火竜隊共に使用可能なようだ。恐らくこの前火竜隊の中隊長殿が言っていたものだろう。あと、前回の戦闘で防御装甲の内側でも破片による死傷者や重傷者が少し出たり、主な死傷者が敵戦列艦を拿捕する時の突入時だったこともあり、そのあたりの装備が変更されたようだ。

 

 カスティグリアの諸侯軍に歩兵というものはないが、建物や人間の制圧などは砲撃手が兼任しているらしく、更に今回はレジュリュビに千人ほど追加されるそうだ。

 

 とりあえず追加で必要なものをゴリゴリと羊皮紙に書き込んでいき、先ほど条件を書いた羊皮紙と共にクラウスに渡すと、クラウスは苦笑いした。

 

 「うーん。全部必要……? なんだよね? ただ、これだとまたカスティグリアだけで戦争を終わらせると取られるかもしれないよ?」

 

 「うむ。水の精霊から協力と要請を得た時点ですでにそのつもりだとも。今回の戦争はメインディッシュの前のスープのような物だからな。精々メインディッシュを楽しむためにさっさと終わらせるさ。なに、俺が最高指令官なら問題はそれほどないだろう? なんせ俺は女王陛下に忠誠を誓っている。」

 

 「それもそうだね。」

 

 そうクラウスに笑顔で告げると、クラウスは少し考えるようにしてから了承してくれた。クラウスが了承してくれるのであれば条件は揃えてくれると考えてよいだろう。

 

 こちらが提示したものはそれほど多くはないが、かなり際どいものも含まれている。まず、アンリエッタ女王陛下にお願いするものは、カスティグリア諸侯軍が独立部隊として動く事への認可。そして、この戦争に限り俺の地位を王軍の最高指令官と同等のものと認めるというもの。

 

 次いで、アンリエッタ女王陛下だけでなくマザリーニ枢機卿の連名も欲しい要件は、亜人を含め、捕虜や保護した人間への裁量権と、犯罪者およびトリステイン王国以外に所属している者への王国では禁止されている魔法やマジックアイテムの行使権、および、それに伴う所持の許可。

 

 追加で頼んだものはカスティグリア研究所に預けてある水の精霊。そしてそれを運ぶためのちょっとした梱包材のようなものだ。

 

 そして、考えている作戦の方針と利点と欠点をゴリゴリと書いてクラウスに渡し、艦隊行動や他との折衝をするように頼んだ。ちなみに俺が最高指令官として就くのであればこの作戦以外を採用するつもりがない。クラウスは受けとったあとざっと目を通して、少し眉を寄せた後、俺が渡した羊皮紙すべてに隠蔽の魔法を掛けて丸めた。

 

 

 「最後に兄さんに作成して貰いたい資料があってね。期限なんだけど、できれば侵攻作戦が始まる前までに頼むよ。」

 

 笑顔のクラウスから手渡された数枚の羊皮紙の束は魔法関連の質問書のようだった。パラパラと捲ってざっと目を通したが、あまり難易度が高いとは思えず、しかも最後は秘薬に望める効果をまとめろという以前惚れ薬関連で資料を作ったときに調べたものをそのまま書き写すだけで良さそうなものだ。

 

 ぶっちゃけ俺が書く必要はないのではなかろうか。どうせ暇な時に手慰みで資料を書いていたくらいなので苦痛ではないのだが、今さらこのような物を作ることに関しては少し納得がいかない。とりあえずベッドの横にある椅子に座り、こちらを眺めているクラウスに少し疑問をぶつけてみよう。

 

 「クラウス。その、これは本当に必要なことなのだろうか。その辺りにいる学生を捕まえて金を渡せば図書館で調べて書けるような内容だと思うのだが……。」

 

 覚えている範囲で新しい羊皮紙にゴリゴリと書きつつ、怪しいところや忘れたところは番号付きのチェックを入れてあとで確認や調べやすいようにしておく。疑問をぶつけられたクラウスの表情は見てないが、あまり変わらないだろう。

 

 「うん。ただ、極僅かだった出席日数が兄さんが二年生になってからは完全にゼロになってしまったからね。しかも何度か遠出をしているのに、授業に出席しないことに関して何人かの教師が疑問を持たれたみたいなんだよ。」

 

 ふむ。確かに何度か休暇を貰って遠出をしている。申請に関してはオスマンも受理しているはずだし、問題ないと思っていたが、確かに病欠し続けている学生が用事が出来たらそちらを優先して遠出するというのは少々おかしいかもしれない。むしろよく今まで流されていたものだ。

 

 「なるほど、つまるところ、三学年に上がるための布石というところかね? まぁこの質問書に答えるだけでそれが可能というのであれば逆にありがたいかもしれんな。」

 

 「うん。まぁそんな感じかな? 交渉の方は僕がするから安心してくれていいよ。」

 

 おお、クラウスが交渉するというのであればもはや決定だろう。この程度の資料で三学年に上がり、最後の一年、さっさと戦争を終わらせてモンモランシーとの学生生活を満喫できるというのであれば完璧を期すのですら吝かではない。

 

 「そうか。では真面目に書くとしよう。」

 

 「うん。必要になりそうな資料はここに置いておくね。」

 

 サイドテーブルに置かれた本は数冊だったが、大体これで網羅しているらしい。図書館で偶然タバサ嬢に会い、彼女に協力を依頼してみたところ、これらの本を薦められたそうだ。

 

 「ところで兄さん。タバサ嬢は兄さんに興味があるみたいでね。色々聞きたいことがあるみたいなんだ。僕も同席するから今度三人で話す機会を作ってもいいかな?」

 

 タバサ嬢に協力を依頼する代わりにその機会を作る努力を求められたのだろうか。羊皮紙から目を離し、クラウスを見ると、彼は不安そうな表情をしていた。ふむ。断ると他の要求を突きつけられるのだろうか。

 

 「クラウス。いくつか聞いておきたいのだがね。もし断ったら何か不都合はあるのかね?」

 

 俺がそう口にすると、クラウスは見るからに動揺した。タバサ嬢と俺は一応クラスメイトであるし、去年、彼女には決闘の帰り道でお世話になり、会話したこともある。婚約者であるモンモランシー、そして、友人であるマルコにギーシュ、そして何かと接点の増えたルイズ嬢の次くらいに接点のある人物でもある。

 

 いや、会ったのはたった二回だけだったと思うのだが、俺が名前をちゃんと覚えているという希少な人間と言えるだろう。しかし、俺が断る可能性が高そうなことにクラウスは驚いたのかもしれない。クラウスの動揺が如実に現れた。

 

 「い、いや、別段これと言って不都合はないよ? 無いんだけど、その、ね?」

 

 ふむ。無いのか。タバサ嬢の求める回答は恐らく準備できる上、うまく行けば単純な問題だけはその場で解決も可能だろう。しかし、メリットが全くなく、カスティグリアが巻き込まれるのは必至だ。それに、ガリア王がカスティグリアを探るために寄越した可能性も高い。リスクを考えると会わない方が良いだろう。

 

 「ふむ。特に不都合がないのであればお断りしておいた方が良さそうだな。クラウスとしてはその機会を何かに役立てたいのかね? それ次第では協力することも吝かではないのだがね。」

 

 そうクラウスに答えを返すと、クラウスは少々考え込み、決意を瞳に宿らせたあとシエスタに部屋の外で待つように言って部屋の防音化を始めた。シエスタは笑顔で外に出ようとしたが、出る前に紅茶のおかわりを入れてもらった。しかし、錬金まで使ってるところをみるとかなり高度な極秘事項が飛び出すのかもしれない。

 

 次の侵攻作戦の話より重大な話なのだろうか。確か原作通りならばタバサ嬢はかなり複雑な状況にいるはずだ。彼女の本名は確かシャルロット・エレーヌ・オルレアンだった気がする。タバサというのは本名ではなく、彼女が母から贈られた人形の名前である。

 

 彼女の父であるオルレアン公シャルルは現ガリア王であるジョゼフ一世の弟であり、狩猟の時にジョゼフ一世の放った毒矢で暗殺されており、母は本来タバサに飲まされるはずだった心を狂わせる薬の盛られた飲み物を代わりに飲み干し、心を狂わせ、タバサという名をつけられた人形を自分の娘だと思い込みシャルロットを王の手先だと思い込んでいる。

 

 タバサ嬢は現在、ガリア王ジョゼフに助命され、彼の娘、イザベラの指示で危険な任務を時折こなしている。確かこの学院に通っているのはガリア王の指示だったと思うのだが、恐らくトリステインに対する偵察や次代の貴族の偵察と言ったところだろうか。もしかしたらクラウスの名前はすでにタバサ嬢を通じてジョゼフ一世の知るところになっているかもしれない。

 

 いや、もしかしたらそのことに関してはまだ報告されておらず、対価としてこちらに差し出す可能性もある。彼女が心から欲しているのは彼女の母の心を取り戻す事だろう。その母の心を狂わせた薬はエルフが調合したもので、恐らくメイジには作成不可能な上、文書として残っている可能性もほとんどなく、その薬の調合方法や解毒方法を知っている人間がいるとは思えない。仮にいたとしたらエルフに暗殺されているか、高度に隠蔽されているだろう。

 

 しかし、今、こちらには水の精霊がいるため薬の解毒に関しては楽観できる。心に関する薬の原料にもなる水の精霊は俺の作った惚れ薬すら簡単に解除してしまった。エルフの作った、精霊の力を借りて作ったであろう薬も精霊本人なら解除できるだろう。まぁぶっちゃけ無理でも惚れ薬で上書きすればいいんじゃないかと思っている。

 

 ただ、問題は解除されたあとなのだ。再びジョゼフ一世の気まぐれな凶刃が彼女達に降りかからないよう防止するには彼女達を匿うか、ジョゼフ一世を暗殺するくらいしかない。後者は時間がかかる上に、リスクの割りにリターンがほとんどない。むしろリスクだけでやる気すら起きない。となると、匿うしかないわけだが、亡命した国にはガリアからかなりのプレッシャー、というよりも戦争になる可能性の方が高い気がする。

 

 アルビオンの事を考えると、いつかはガリアともやりあうことも想定してはいるが、今この時期はさすがに厳しいのではないだろうか。特にオルレアン領に湖を挟んで接しているモンモランシに被害が出る可能性が高いため、出来る限り避けたい。

 

 やはり今タバサ嬢に接触するのは危険だろう。もしかしたらガリア王の指示で彼のゲーム盤を勝手に弄り回している俺の暗殺に動いてもさほどおかしくはない。話の機会を設けて欲しいと言っていたということで彼女の母親関連と決め付けていたが、俺の誘拐や暗殺という可能性もあるのか……。

 

 ふむ。よほどのことでない限り断るとしよう。そう考えながら紅茶に口をつけるとクラウスの準備が整ったようで、杖を収めて椅子に座り、真面目な顔と声で切り出した。

 

 「兄さん、よく聞いてくれ。僕はタバサ嬢に惚れてしまったんだ。」

 

 ごふっっ。

 

 クラウスは焦ったように「に、兄さん!? しっかりして」と言いながら咳き込んだ俺の背中を軽く叩いてくれた。しかし、ちょっと待って欲しい。クラウスとタバサ嬢の接点がほとんど見つからない上に、クラウスはあのアンリエッタ姫に対しては手紙の件を理由に手を引いていたはずだ。そんなクラウスが、さらに難易度の高い、手紙などという隠れた物でなく堂々と汚れ仕事をこなすタバサ嬢をなぜ?

 

 「あ、ああ、取り乱してしまってすまない。続きを聞かせてくれ。」

 

 「うん。初めて彼女を見たのはちょうど調べ物のために図書館へ行った時でね。あの青く輝く銀髪を見たときにガリアの王族の方だとわかったんだけど、彼女が微笑みながら読んでいたのが『イーヴァルディの勇者』だったんだ。

 その、生まれた家に対してそんな本を微笑みながら読むなんてかわいらしい子だと最初は思ったんだけどね。興味本位で話しかけてみたら調べ物の手伝いまでしてくれたんだ。彼女はとても博識でね。本に関してなら知らないことは少ないんじゃないかな? しかもあの小柄で痩せた体型、そして大人しい性格。まさにこの人しかいないと感じ、背中に雷が落ちたと錯覚したよ。」

 

 咽た俺を介抱したあと、クラウスは真剣にタバサ嬢との出会いから語ってくれているわけだが、そう言われると彼の好みからそれほど外れていないのかもしれない。しかしだな、クラウス。残念ながら彼女は、いや、よそう。せめて最後まで聞いてから情報提供しよう。

 

 「そこで、僕はカスティグリアの使える力を全て結集し、彼女の事を調べた。」

 

 え……。アレ? なんかどこかで聞いた気がするセリフが……。

 

 「でもその感じだと兄さんも知っていたみたいだね。ああ、全て調べ尽くしたよ。彼女の本名と生まれに関して、そして彼女の父親は暗殺され、彼女の母親は薬で狂わされ、家の紋章には不名誉印が刻まれたというのに、彼女は王家に忠誠を誓い、非公式に存在している北花壇騎士団に所属し、従姉であるイザベラ王女の元、汚れ仕事をさせられているようだね。」

 

 な、なんというか、カスティグリア怖い。ぶっちゃけ俺の知識なんか関係ないほど調べ尽くされているようだ。クラウスは言わなかったがタバサ嬢の身長体重、スリーサイズに髪の本数まで調べ尽くされていそうでとても怖い。

 

 ただ、彼女の双子の妹に関してはまだ届いていないようだが、婚姻に関して考えるのであればあまり関係ないだろう。やはりここはクラウスに任せて俺はモンモランシで隠居生活をしていた方が良いのではないだろうか。

 

 「そうか。特に補足することはないようだ。」

 

 平静を保ってそれだけ何とか口に出すと、クラウスは真剣な顔に笑顔を浮かべた。真剣な顔のまま笑顔を浮かべたクラウスはなんというか、ルーシア姉さんの迫力のある笑顔より怖い気がする。いや、両方とも怖いが……。

 

 「やっぱり兄さんは知っていたみたいだね。父上にはカスティグリアの力を借りるときにすでに話してあるし、その事を知っても僕に任せてくれるとおっしゃってくれた。でもその時にいくつか条件が付いてしまってね。

 兄さんに頼みたいことは、兄さんの賛成と協力を得ることと、そしてタバサ嬢を正式に振り向かせ、彼女を嫁としてカスティグリアに迎えることなんだけどね。どうかな?」

 

 どうかなと言われてもすでに父上に話が通っている上に、よほどの事がない限り俺がクラウスに対して反対する気が起きることはないだろう。それにようやく現れたクラウスの一目惚れした相手だし、恋愛という戦場へのご招待付きとなればむしろ喜んで参戦するしかあるまいて。

 

 「我が自慢の弟であるクラウスの惚れた相手だ。相手側にどんな理由があろうとも全力で応援するとも。それにリスクも把握した上で、彼女の母上殿を含め、カスティグリアは守りきれると判断したのだろう? ならばほとんど大きな問題はなさそうだし、今こちらには水の精霊がいる。タイミングが重要だが、彼女の母上殿の問題も解決できるかもしれない。勝算はかなり期待できるだろう。」

 

 少し不安が残っていたのだろう。全てを告白し、緊張を纏っていたクラウスが俺の言葉を聞いて安心したように優しい感じの満面の笑みを浮かべた。

 

 「兄さんにそう言ってもらえて嬉しいよ。ああ、兄さんに彼女が危害を加えないよう手を打つ予定だからその辺りに関しては安心してほしい。それで、三人で話す機会を作っても構わないかな?」

 

 「ああ、構わないとも。それと知っているかもしれんが、彼女は確かハシバミ草料理を愛好していたはずだ。俺はとても苦手な食材だが、彼女のハシバミ草料理に対する情熱は利用できるかもしれん。」

 

 「そうだったのか。彼女の趣向に関してはあまり調べることができなくてね。助かるよ、兄さん。」

 

 何となく思い出した追加情報はカスティグリアでも捕捉していなかったようだ。キュルケ嬢辺りに聞き込めばあっさりとわかりそうなものだが、もしかしたらその辺りの情報源は持っていないのかもしれない。学院内に関してはカスティグリアの諜報部員は入っていないと考えていいのだろうか。

 

 三人で会う機会は密談方式になるそうで、次の虚無の曜日を予定しているとのことだ。俺の体調次第では延期もあるが、その時は平日でも構わず調整するらしい。ぶっちゃけ俺にとっては毎日が虚無の曜日なのであまり変わらないのだが、彼らには重要なのだそうだ。

 

 それまではあまり根をつめずにクラウスに渡された質問書を消化するよう言われ、部屋の隠蔽を解除したあとシエスタを部屋に呼び入れたあともシエスタにそのことに関して真面目に伝えていた。

 

 いや、そこはその、兄さんを信じるべきではなかろうか。いや、シエスタの管理に不満があるわけではないし、彼女がいなければすでに日常生活を送ることすら困難だとは思うが、なんというか、我慢の出来ない子供のような扱いに少々不満が……、そういえば前にも色々ありましたな。うん。甘んじて受けるしかあるまいて。

 

 

 

 

 

 

 




報告と仕込み回ですね^^
 元々クラウスのお相手としてはタバサ嬢、イザベラ嬢、アンリエッタ姫のうちの誰かの予定でした。ま、まぁタバサ嬢にした理由はその、彼はブラコンの気がありますからな。一番違和感ないかなと……。

 メインディッシュはすでに決まっております。ええ、そこに到達するまではがんばる予定なのですが、イマイチやる気が;;


次回おたのしみにー!
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