それではどうぞー^^;;;
モンモランシーの輝くような笑顔に見送られて夢の世界に旅立ったあと、新たな追加作戦書を携えた艦長殿が尋ねてきた時に一度、モンモランシーのヒーリングによって起床し、特に変更点が見当たらなかったため承認すると、再び夢の世界へと送り出された。
そして、再び目を覚ますと翌日の朝になっていた。シエスタに聞くと朝と言っても昼に近い午前中と言った程度だった。体調はあまり変わっていないが恐らくこの辺りが最良の状態であり、ちゃんと休んだ事によって血を吐く心配が少なくなった程度だろう。大体、その前に三日も寝ていたのだ。
シエスタに身体を拭いてもらい、着替えを済ませ、最近つけるようになったルビーの指輪を右手の人差し指に嵌める。ルイズ嬢からそれとなく聞いたコモンワードを唱えると、スッと人差し指の太さに指輪が調節された。
初めてこの指輪をはめた時に、指輪に関してモンモランシーやシエスタから質問を受けたが「はっはっは! これが火のルビーという始祖の指輪だよ!」などとは口に出来ないので、コルベール先生から餞別としてもらったとか言ってある。うん。間違いではない。
そして、部屋の前で待っていたモンモランシーと合流してブリッジへと向う。
今作戦はカスティグリア諸侯軍の人間だけでなく、ゼロ機関の協力が必須となっている。ゼロ機関に所属する二人はこれから始まる作戦に巻き込まれる形になり、もしかしたら危害が及ぶ可能性がある。そこで、せめてもの誠意として作戦書を彼らに見せることを艦長殿に許可してもらった。
その辺りの交渉はすでに昨日モンモランシーが行ってくれたようで、ルイズ嬢とサイトはとても乗り気だったらしい。というか、罵り合いに近い伝令のやり取りで鬱憤が溜まっていたのだろうが、上手く二人を乗せたモンモランシーはやはり凄腕なのかもしれない。さすが奇跡の宝石……。
連合軍の動向に関しては現在、連合軍からの命令書や作戦書によると、順調に行っていれば今頃サウスゴータ攻略のため、竜騎士による偵察を行いつつ戦列艦による艦砲射撃で敵の大砲や陣地の破壊に勤しんでいる頃だろう。
そして、連合軍約五万五千ほどの軍が諸侯軍の設置していた防衛ラインを越え、どのような状況になっているかは不明だが、死体の山を越えている頃ではなかろうか。
まぁよろしければあちらは人員が有り余っているだろうから死体の処理も行っておいて欲しいところである。
ブリッジに上がるとすでに臨戦態勢になっており、中央テーブルには戦闘時に使う駒が大量に置かれている。今回の対象はアルビオンではなく連合軍を示している。いつもはこの駒を減らすべく行動するのだが、まぁこの駒が減らない事を祈ろう。
艦長殿は作戦中なので艦長席を離れる事はできない。士官殿にいつものテーブルまで案内してもらい、艦長殿と挨拶を交わす。
「よい朝ですな。艦長殿。これなら目標もよく見えましょう。」
「ええ、良い朝です。最高指令官殿。しかし、見つけて貰えるか心配するというのも珍しい事ですな。」
いつか艦長殿が挨拶に使ったフレーズを使うと、艦長殿は笑顔を浮かべて返してくれた。もしかしたらこの天気と目標が見えるかという挨拶はトリステイン空軍では基本的な挨拶であり、空軍に務める士官はこうあるべしという物なのかもしれない。
作戦の推移を尋ねると、すでにほとんど初期段階は終わっており、俺の準備待ちだったようだ。まぁ寝ていたらモンモランシーに起して貰える約束だったので、自力で起きた分それほど遅刻はしていないだろう。
艦隊は全て防衛ラインから引き下げ、軍港ロサイス外延の内陸側に壁を作るように配置され、極力低速でマストのあるフネは帆走をメインに進んでいる。タケオを中心に竜母艦が横隊を組み、その両サイドを二隻の戦列艦が護衛する。そして、小型艦がロサイスを薄く包囲するように展開し、ロサイスに向って中央最前列にレジュリュビが配置され、残り全ての戦列艦はその両サイドに均等に配備されている。
ただ、タケオに関しては作戦上少々の変更点が加えられた。元々タケオは非武装であり、ゼロ戦運用や様々なフネの改良を調査する実験艦としての意味合いが強いフネだったのだが、今回の作戦に限り、上部甲板に戦列艦から取り外した7.7mm機銃十基と20mm機銃二基がそれぞれのガンクルーと共に設置された。
そして、タケオにはマストがなく、信号旗を揚げる予定が全くなかったのだが、急遽ポールのようなものが艦橋の一番上に建てられ、今では両サイドを守る戦列艦と同じく『接近禁止』の信号旗がはためいている。信号旗に関してはハルケギニア全ての国が共通の意味を持っているそうで、外国人でも分かるらしい。ちなみに俺はよくわからない。
さらに、ロサイスへの侵入時に艦隊は礼砲を撃つ予定になっており、その礼砲が生み出すであろう煙を抜けたらゼロ戦も甲板上へ出し、すぐ飛び立てるよう固定する予定である。そして、乗員となるゼロ機関のお二方のために、平甲板上に二人掛けの小さい丸テーブルと椅子が二脚用意され、選りすぐりの数名の士官が彼らのために紅茶やお菓子を給仕する予定となっている。
少々武装の寂しくなった戦列艦が一隻生まれることになってしまったが、今回の作戦は戦闘を目的としたものでも、示威行動でもないので問題はない。必要がなくなったら戻せば良いのだ。
まぁぶっちゃけタケオに関する配置や配備の変更、そしてゼロ機関への要請はロマリアの『風呂が嫌いで顔を一週間拭かなくても平気なほど不潔な美男子』のために用意した餌付きの釣り針だ。
ここまであからさまに『餌』と『釣り針』が露出しているので遠くから観察程度のことはするだろうが、まさか引っかかるとは全く思ってない。しかし、ここまであからさまな罠を、何かしらの理由を付けて傲慢に踏み抜いてくるというのであれば、とても面倒くさいがその時はその時で釣り上げようかと思っている。
こちらの目的はヤツが観察しにくるかどうか、そして、こちらの意図に気付き、どのような反応を見せるかちょっと興味がある程度だ。作戦内容としては『総司令部にゼロ機関を使い潰すよう進言した人間が偵察に来る可能性が高い』という事になっている。
ルイズ嬢やサイトにとっては自分たちを
そう、これは断じて示威行動や謀略の
それに、ド・ポワチエ将軍からの
彼らの命令に粛々と従う義理はないのだが、同じトリステイン王国の軍隊なのだ。歩み寄りも必要かと思われる。実際に独立諸侯軍のほぼ全艦隊で歩み寄っているわけだが、彼らの顔を立て、従う必要のない命令に従い、命令の範囲内で行動するという謙虚な姿勢でちょっと会議と補給に来たのだ。その旨はちゃんと全艦が信号旗を揚げてお知らせしている。
つまり、この
ぶっちゃけ艦長殿の綿密な補給作戦のおかげで、ロンディニウムへの威力偵察をした後、百隻を越える艦隊と百匹を越える竜、そして二万を越える兵に出くわしても戦闘が可能な
しかしながら、あくまで我々は
そして、その件に関しては艦隊が近づく前に、すでに風竜隊の一小隊三騎が先触れとして向かい、報告して戻ってきている。連合軍の兵や補給物資の上陸や揚陸もそろそろ終わっていても良いとは思うのだが、「先に割り当てられた桟橋を順に使うように」との事だそうだ。そして、特にこちらの艦の数は聞かれなかったようだ。
まぁ、恐らく数日の間ロサイス上空で補給の順番を待つことになるが、桟橋の割り当てが少ないのだから仕方があるまいて。うん。その間ガンデッキの大砲を日の光に晒して磨いたり、訓練や試し撃ちが必要になるかもしれないが、仕方があるまいて。
「最高指令官殿、それでは始めます。」
「うむ。艦長殿、よろしく頼む。」
艦長殿が笑顔で開始を宣言したので、恐らく必要ないだろうが実行するよう最終的な許可を出した。「了解であります」と艦長殿は笑みを深めると、全艦に通じるマジックアイテムを手に取った。
「全艦、全砲門、礼砲一発、合わせろよ? よぉーい、……ってーーッ!!」
肩に止まったプリシラの視界から艦長殿の「よぉーい」で一斉に恐らくは全ての艦の大砲が押し出され、気合の入った「ってー」の掛け声で全艦合わせて一千以上の大砲が同時に火を噴いた。そしてそれらが生み出した轟音と共に、レジュリュビですら少し揺れた。
ロサイスでも艦隊の近くにある家々に視線を移すとその衝撃で脆くなっていただろう木戸が落ちたり、ガラスが割れたりしたようだが、まぁたかが空砲で割れるのが悪いのだろう。
ちなみに、礼砲に関しては色々規定があるそうだ。すでに聞いた事はほとんど忘れたが、取り合えずこのように一斉に放つ事はない。大抵一門から三門くらいの大砲で、順番に数発撃つ。偉い人に向けた場合は十発を超える事もあるとかなんとか。
取り合えず連合軍総司令官殿相手であれば十一発が相場だそうだ。そして、その撃った数で相手がどう思っているか把握する事もできるらしい。まぁそれより数が少なければ礼儀知らずとか、馬鹿にしているとか、そのように受け止められるそうだ。
だが、いかんせん我々は補給が必要なほど
礼砲の生み出した煙を抜け、続いて艦隊の直援のため、アグレッサー以外の風竜隊が全て上がる。アグレッサーは会議に出席する俺やモンモランシーそして艦長殿のもはや常習化している輸送と護衛任務だ。ちなみに火竜隊はタケオに何かあった場合に備えて待機している。
「それでは参りますか。副長、ブリッジを任せる。」
そう言って艦長殿が席を立つと、俺もモンモランシーにレビテーションをかけてもらい、彼女と手を繋いでブリッジの上にあがった。そこにはすでにアグレッサーの隊長殿が待機しており、俺は隊長殿に抱えられて一緒に竜に乗る。モンモランシーや艦長殿は軽くフライをかけて自分で上がり、彼らの後ろに乗るのだが、俺ももっとスマートに乗り降りできるよう訓練した方が良いのだろうか。
まぁフライが出来ない時点でかなり厳しい上に、よく考えたら最近一人で歩く訓練も怠っている気がする。うむ。まずは一人で歩く訓練を再開するところから始めるべきだろう。
連合軍総司令部が置かれている建物にはトリステイン、ゲルマニアの旗と共にド・ポワチエの旗が翻っているらしい。まぁどうせ俺はプリシラがいないと見えない上に、彼女にはブリッジの上部に出た際に別の用事を頼んだ。
『見つけたわ。わたしのつがい。白い風竜なんて珍しいわね。それに人間なのに本当に左右で目の色が違うのね。珍獣ペアね。』
『おお、すばらしい。それでは先ほど言った通りお願いするよ。俺のつがい。』
『ふふっ、ご褒美が楽しみね。わたしのつがい。』
ちなみに彼女に頼んだのはジュリオの場所とヤツがタケオに接近した時の実況中継だ。そして、彼女のご褒美はいつもの発火である。ぶっちゃけご褒美になるのかわからないが、彼女はアレがとても気に入っているらしい。すでにご褒美が貰えると確信しているのだろうが、プリシラなら何となくそれが正しい考え方のような気がする。
そして、滑空するように飛んでいたアグレッサーが、連合軍総司令部を見つけたようで、ゆっくりと降下し、赤レンガの建物の入り口に着けるように羽ばたき、ゆっくりと着地した。そして、隊長殿は俺を抱えると竜から降り、他二名を連れて残りの三名に竜の綱を預けた。
一人は我々が会議のため訪れた事を知らせに走り、隊長殿を先頭に我々は建物に入った。まぁ味方同士で争いはないだろうが、きっと護衛がいるのも貴族の嗜みというやつだろう。
入って少し歩いたところで総司令部付きの士官が案内を申し出たので、彼に付いて二階へと上がると、意外と多くの鎧に身を包んだ衛兵が廊下に配置されている。鎧を着たまま配置とか何かの罰ゲームだろうか……。何か前世の記憶で両手に水の入ったバケツを持って廊下に立つという罰がある事を思い出してしまった。
そして、一つのドアの前で止まると案内役の士官がドアをノックし、中へと問い合わせる。即座に「入れ」という硬い声が聞こえ、士官がドアを開け、脇にずれた。隊長殿を先頭にしているため、ぶっちゃけ中の様子が見えなかったが、ドアを通過すると、護衛についてきてくれた隊長殿ともう一人が左右に分かれた。
総司令部の会議といいつつも以前トリステインの竜空母(名前は忘れた)で行われた会議を想定していたため中にいた人数と部屋の広さに少々驚いた。しかし、もっと驚いたのは中に入って上座にかなり近いところに案内されたところでようやく見えた人物だ。
そう、一番の上座と思われる場所になぜかモットおじさんがいたのだ。
ぶっちゃけ何でここにいるのか全く理由がわからない。しかも一番上座と言う事は、連合軍総司令官のド・ポワチエ将軍よりも、女王陛下から独立性を与えられ、総司令官クラスの権限を頂いた俺よりも、さらに上の権限を持っている事を意味する。
ふむ。そういえばモットおじさんは王宮の勅使でしたな。ぶっちゃけ勅使として働いている所を見たのは、学院へのメッセンジャーや俺のシュヴァリエ関連だけだったので忘れかけてた。と、言う事はこれから始まるのは作戦会議というより、モットおじさんによる女王陛下からの勅命の通達や、連合軍とカスティグリアの調整の可能性が高そうだ。
うむ。いきなり
左側の一番の上座に当たるお誕生日席にはモットおじさんが座り、対面には上座からド・ポワチエ将軍、ハルデンベルグ侯爵、ウィンプフェン参謀長、そして名前を全く覚えてない士官が席の許す限り座っており、彼らの側付きと思われる士官が壁にずらっと並んでいる。
「お久しぶりです。モット卿。ド・ポワチエ将軍、ハルデンベルグ侯爵。」
ぶっちゃけ混乱気味で何を話していいのかわからない。あまりにも意外な展開にド・ポワチエに文句を言いに来たのは覚えているのだが、詳細がスパーンと記憶から吹き飛んでしまった。むぅ、記憶力弱補正が辛い。取り合えず挨拶だけしてモットおじさんにお任せするしかないだろう……。
「おお、クロア殿。病で伏せったと聞いておったのだが、回復なされたようで何よりだ。それにモット伯と知り合いだったとはな。」
俺が笑顔をとフレンドリーさを意識して挨拶すると参謀長のウィンプフェンは肩眉をピクリと上げて苦い表情を浮かべ、ゲルマニア代表のハルデンベルグ侯爵は「うむ」とだけ言い、ド・ポワチエ将軍だけが自然な笑顔で社交的な挨拶をしてくれた。
ふむ。ハルデンベルグ侯爵やウィンプフェンの対応はむしろ俺にとって自然だ。しかし、ド・ポワチエ将軍の笑顔は不自然に友好的な気がする。彼にとってあの命令は、諸侯軍に対するさも当然のフォローであり、諸侯軍にとってそのフォローが必要ないのであればその方が良いと考えていたのだろうか。
初めてド・ポワチエ将軍に会った時に感じた彼の評価は、戦功や名声、名誉といった物に弱く、それらが得られるのであれば他の事には寛容というものであり、そのための命令だと思ったのだが……。ふむ。俺がモットおじさんと友好的な関係を結んでいる事を知って諸侯軍とのいさかいはリスクが大きいと判断したのかもしれない。
しかし、やはり、俺が復帰するのは想定外だったようだ。そしてルイズ嬢をこの場に連れてきていないことから命令書にあった虚無の譲渡は拒否されると理解しただろう。まぁ彼女はただ作戦中なので現場を離れられないだけなのだが……。
「クロア殿。お久しぶりですな。今日は勅使として参った。世間話は仕事が終わってからにするとしよう。さて、では査問会議を始めるとしよう。」
オウフ……。ド・ポワチエにちょっと文句を言いに来たら査問会議だったでござる。
モット伯の衝撃発言で前世の言葉が頭に浮かんだ。しかし、査問されるような事をした覚えはない。というかこれからする予定だったのだからまだギリギリ未遂なはずだ。もしかして、モットおじさんにはこれからやろうとしている事を全て読まれているのだろうか。
なんというか、この感じは……。そう、初めて学院で決闘したあと、オールドオスマンに申し開きした時のような心境だ。あの時は今思えばオスマンやコルベールの事をよく知らなかったため、かなり強引に責任を押し付けた。
しかし、今回は同じ方法を取った瞬間、俺や諸侯軍が女王陛下から預けられた権限が吹き飛ぶ可能性もある。それにあの時はシエスタしか守るべき人間はおらず、むしろ俺は個人として動けたが、今回はカスティグリア諸侯軍の代表であり、モンモランシーの婚約者であり、シエスタを側室として迎える予定の人間だ。守るべき人間が万単位でいる。慎重に行くとしよう……。
モット伯の口上を聞いていると、彼は女王陛下の名代で来たとの事で、かなりの権限を預けられているようだ。この査問会議の結果次第ではかなりの昇格から処刑まで幅広い選択がなされるとか……。まぁ世間話は仕事が終わってからとの事だから処刑はない……よね?
うん。処刑だけは断じて認められない。俺が死ぬのは問題ないが、処刑ではカスティグリアの名誉が傷つき、果てはモンモランシまで飛び火する可能性がある。名誉の事を考えるのであればいっそカスティグリアとモンモランシを最初から巻き込んで逃亡し、再起を図った方がマシではなかろうか。
大体、処刑される身に覚えは今のところあまりない。ぶっちゃけロマリアからの圧力が一番考えられるが、それならば査問会議ではなく宗教裁判が行われるのではなかろうか。しかし、疫病と言いつつたった一つの指輪のために焼き払われたダングルテールのこともある。
そう、ロマリアならば何かしら別の理由で焼き払おうとしてくる可能性もあるのだ……。
右手の人差し指にはまった火のルビーが重さを増したような感じがして、ちょっと右手を握りこんで親指でルビーを慰めるように撫でた。
うむ。処刑されそうになったら女王陛下には申し訳ないが逃げるとしよう。むしろ、モット伯は女王陛下の名代だからして、忠誠を誓ったというのに処刑されるというのは計算外だ。逃亡先はどこが良いだろうか……。
ふむ。恐らくガリアしか選択肢が無いのではないだろうか。というか消去法ですでにガリアしか残っていない気がする。タバサ嬢の事もあるが、彼女に書いてもらった宣言書もあることだし、問題ないのではないだろうか……。
それにガリアに逃げるのであれば、ガリア王ジョゼフの説得をするだけで全てが万事解決する気がしてきた。カスティグリアの軍と研究所を全てガリアに移した後、ジョゼフを説得し、モンモランシ、カスティグリア、タルブを順に取り戻せば問題ないだろう。最悪の場合の逃げ道は用意できそうだ。
しかし、ただ最悪を回避するだけでは色々とダメだろう。ぶっちゃけもう二度と誓いを破りたくはないし、トリステインにはギーシュやマルコといった友人もいる。それに敬愛する女王陛下や黒き覇道の先人であるモットおじさんとは心情的に親交を維持したい。
ふむ。ならば、受身では不味いだろう。しかし、あまり攻めてもオスマンの時のように上手く行くとは限らない。しかも今思えばアレはかなり手加減されていたはずだ。そして、忘れがちだが実際に書面に残る罰も受けた。
と、なると……。相手の出方を探りつつ、それに合わせて忘れかけている作戦を少々変更しつつも継続し、攻めつつも矛先を逸らす事に集中するのが良いのではなかろうか。もはやド・ポワチエがどうこうとか言っている場合ではなかろうて。
大体、苦情のついでにちょっと総司令部を探りつつ、出来るだけ欲しい者をいただいて、最低でも過剰に消費させられた可能性のある風石を彼らの責任でトリステインの輜重隊からちょいと補給しようとしに来ただけだというのに何でこんなに大事になっているのだろうか……。
しかし、モット伯の話を聞いていると、どうやら問題は艦長殿とド・ポワチエがトリスタニアに送った文書のようで、補給に関してのいざこざから発生した独立諸侯軍への命令や命令権の委譲要求、そして女官殿の配置に関しての話のようだ。
ふむ。それならば何も問題はない。ビビッてかなり損した気分である。
しかし、モットおじさんが恐ろしく権力を預けられて来た事でかなり混乱したが、最早これは最初から勝ち戦ではなかろうか。これならば連合軍総司令部から毟れるだけ毟るいい機会かもしれない。いや、まぁまだ油断はできないが……。黒き覇道のモット殿がもしこちらに同情的になってくれるのであればかなり心強い。
だが、毟ったところでトリステインの財布から支払われるのであれば、むしろ逆にアンリエッタ女王陛下の不興を買ったり、ルイズ嬢の怒りを誘発する可能性がある。まぁここは当初の作戦の詳細を思い出す作業に集中しつつ、モット伯の言葉に耳を傾けることにしよう。
「まず、カスティグリア諸侯軍から提出された諸侯軍に対する総司令部からの命令書に関してだが、残念ながらこれらは全て受け入れられない。そして、これらに関して女王陛下はとても残念に思われたようだ。
署名に記載されている連合軍総司令官ド・ポワチエ将軍、参謀長ウィンプフェン、そしてゲルマニア軍指令官ハルデンベルグ侯爵、申し開きがあらば承ろう。」
おお、モットおじさんがカッコイイ……。キリッとした顔つきでこちらの言いたかった事をビシッと言ってくれた。しかも、国籍の違うゲルマニアの指令官にまで「サインがある」と言う理由で纏めて言ってくれるとは思ってもみなかった。
正直、連合軍ではあるが、ゲルマニアの方が国力は上ではなかろうか。ここでハルデンベルグ侯爵がキレて連合脱退とかになったらトリステインも困るのではないだろうか。しかし、恐らく、モットおじさんの読みではハルデンベルグ侯爵は替えの効く人材なのだろう。
このサイン一つでゲルマニアに貸しを作りつつ、排斥させられると踏んだのだろうか。恐らく裏でかなりの調整が必要になるだろうが、原作でのゲルマニア皇帝は親族や政敵をことごとく幽閉するような人間だ。
ふむ。その辺りの匙加減でハルデンベルグ侯爵には皇帝から褒章ではなく幽閉が待つという恐怖を与え、ついでにゲルマニア軍指令官殿に貸しを一つ作り、戦争終結前に手早く回収する予定なのかもしれない。
ちょ、勅使怖い。謀略がハルケギニア貴族の流儀どころじゃなかった! 謀略の塊だった!
対面に座っているド・ポワチエ将軍はなぜか「さもありなん」と納得のような表情を浮かべている。ウィンプフェンは青い顔をしているが、将軍もそのような表情を浮かべるのが普通ではないだろうか。
ううむ……。しかしこうなる事が分かっていながらサインをした理由がわからない。将軍に関してはもう少し見極めが必要だろう。
そして、ハルデンベルグ侯爵は外国人の勅使に文句を言われたからだろう、怒っているように見える。常にかぶっている角付きの鉄兜から豪快な性格を察する事はできるが、単純なお人なのだろうか。
「だから言ったであろう! カスティグリアなど気にせず進軍すべきだと! ミス・ゼロの力など無くとも我らだけでサウスゴータやロンディニウム程度落とせると!
やはりあの時にしっかりと勇気というものを叩き込んでおくべきだったようだ。臆病風のウィンプフェン!」
怒りをそのままに怒鳴るような大声でハルデンベルグ侯爵閣下が目の前の机に拳を叩き付けた。いや、杖を抜くのを我慢して叩き付けたようにも見えるが、かなりご立腹のご様子だ。
単純な性格にも思えるが、個人的に彼の言っている事はある意味正しいと思う。大体、この時代の戦争では大抵敵の王を取れば終わりなのだから、ここまでカスティグリアが押し込んだ状況ならばそのような考えでもあながち間違いではないのではなかろうか。
むしろ最初に会った時、彼らに占領は任せると宣言したのだから細かい事は気にせずジャンジャン進軍して欲しかった。いや、まぁロサイスに着いた時点でアルビオン三万の兵が皆無になったという伝令を受けてジャンジャン進軍している途中だとは思うが……。
ふむ。そう考えると、サウスゴータ攻略の決定やその辺りの作戦立案はロサイスへの到着前に決まり、ロサイスへの上陸中にさらにカスティグリアからの戦果報告で方針変更が求められた感じだろうか。確かに少し面倒くさかったのかもしれない。
いや、まぁ敵戦力が減った分、防衛に関する作戦がほとんど消え、ハルデンベルグ侯爵の大好きな進軍に全て注ぎ込まれたのでウィンプフェンも何か手を打って存在感をアピールしようとでもしたのだろうか。ふむ。その可能性が高いのかもしれない……。
そもそも総司令部はカスティグリアがロンディニウムを直撃し、あっという間に決着を付けるとは考えていないはずだ。戦力的に殲滅は可能だが制圧は無理だと強く印象付けたはずだし、実際に制圧戦をする気は全く無い。それに補給の要請もかなり頻繁に行っていたのでカスティグリアは現状動けないと考えるのではなかろうか。
で、あれば、ハルデンベルグ侯爵の言う通り、カスティグリアに対して謀略や嫌がらせを行うのはあまり意味が無いはずだ。むしろリスクが際立ち、サウスゴータやロンディニウムの制圧に成功したとしても元帥を目指すド・ポワチエ将軍にとっては禍根と汚点を残し、元帥昇格にケチが付く可能性が高い。やはりなぜ採用したのか疑問しか残らない……。
白く立派なカイゼル髭と目の前にある机を揺らし、僅かに自制を働かせながらそう怒鳴ったハルデンベルグ侯爵に対し、冷ややかにメガネの奥の眼球を光らせて自制すら忘れたようにウィンプフェンは立ち上がって侯爵に向き直った。
こちらから見る分には侯爵の方が圧倒的に地位は上だとは思うのだが、臆病風と呼ばれたが癪に障ったのだろうか、あっさりと立ち上がったのは少々意外だった。ウィンプフェンは見たところ四十歳前後で冷静沈着で陰謀好きな冷たい人間に見える。まぁ総司令官の参謀長になっているほどなので陰謀関連は俺の偏見だろう。
「いや、被害を抑える努力もすべきだとあの時申したではないか。それに、そなたのサインもあるのだぞ? もうお忘れになったのか? 威勢ばかりよくって“火”のように記憶もあっという間に燃え尽きるようですな。」
ふむ。つまり俺の記憶力弱補正も火の系統が問題だったと? なるほど、その考えに関してはあながち否定できない。それになぜか威勢のよい事を口にしてしまい、それが原因で黒歴史を生み出している事も事実かもしれない。
だが、自分で言っておいて気にしないウィンプフェン殿にも問題があるようですな。そう……、火はあっという間に燃やし尽くして灰にするという事をお忘れのようだ……。
しかも、売り言葉に買い言葉ではあろうが、カスティグリア諸侯軍とルイズ嬢を連合軍が消耗しないよう使い潰すと公言なさるとは剛毅な事ではありませぬか。それに、彼がド・ポワチエ将軍に吹き込み、将軍は両方の中間を取るべく採用してしまったのだろう。
なるほど、これが宮廷で言うところのスズメというヤツか……。しかし、予想はしておりましたが、まさか原因の一つがこんな簡単に露出するとは思ってもみませんでしたな。
うむ。墓石には「臆病風」ではなく「蛮勇」とでも刻んでさしあげよう……。
―――さて、往こうか。
激昂したハルデンベルグ侯爵と、苛立ちを隠さないウィンプフェンが目の前で立ち上がり、互いに罵り合いながら杖を手にかけた。そして俺も火の系統としてハルデンベルグ侯爵側に付き参戦すべく怒りに任せてふらっと立ち上がり、杖に手をかける……。
しかしまぁ、一応断罪の口上を述べるとしよう。
「ほぅ? 女王陛下直属の女官殿や我々独立諸侯軍をそのように思われていたとは心外でしたな。いやはやまさかド・ポワチエ将軍閣下やハルデンベルグ侯爵閣下がそのような卑小な考えを持つはずは無いと原因を探りに来たのですが、これほど早くスズメが見つかるとは……。」
目の前の二人は俺の参戦表明で驚きを隠せないようだが、まぁ気にする事もないだろう。しかし、ウィンプフェンだけを完全に灰にするとなると……。
ふむ。今まで全く出番の無かったファイアーウォールの出番がやってきようだ。彼の足元から範囲を調節して発現させるだけであっという間に終わるだろう。距離も近いので外す心配もない上、この建物は赤レンガ造りだ。室内の延焼はあるだろうが、この部屋には少なくとも二人の優れた水の使い手がいる。問題はなさそうだ。
「『臆病風』のウィンプフェン殿……。そう、火の取り扱いにはご注意せねば……。なに、この『灰被り』が一瞬で遺灰にして差し上げる故、ご案じめさるな……。」
問題は遺灰を回収できるかどうかだが絶望的だろう。それにハルケギニアは土葬がメインだとは思うが、まぁ気にする事はなかろう。“『蛮勇』のウィンプフェン、この辺りに眠る”とでも刻んで差し上げる故、遠慮などせずこの建物を墓石にするがよいて……。
そして、サッと詠唱を終えると、モット伯が焦ったような声によって現実に引き戻された。
「クロア殿! クロア殿! 落ち着かれよ! クロア殿、ここは処刑の場ではありませぬぞ! そこの二人、死にたくなくばおとなしく座れ!」
さらに、そっと杖を持つ手を柔らかい感触が包んだ。
「そうよ、あなた。灰にするのなら後でもいいんじゃないかしら。お話を聞いてからにしましょう?」
右隣にいる奇跡の宝石を見ると座ったまま微笑んで俺の右手を両手で包んでいた。
そうだった……。ここでウィンプフェンを灰にしたところで何も解決はしないし、得るものも全くない。それに、ここに来た目的は謀りゃ……、いや話し合いであり、杖でのOHANASHIに来たわけではないのだ。
ううむ。なぜ杖なんて抜いてしまったのだろうか……。まさか自分がここまで短気だとは思わなかった。いや、何とは無しにそんな所もあると思っていたがある程度自制できていたはずだ……。何か原因があるのだろうか……。と、とりあえず何と言うかこの状況は恥ずかしい。なんとか取り繕おう。
「おお、そうでしたそうでした。話し合いに来たのでした。すまないね。俺の奇跡の宝石。そして止めてくれてありがとう。」
そうモンモランシーに笑顔を返すと杖を仕舞った。
「いいのよ。私のあなた」
そして、奇跡の宝石がまさに輝き、自分の短気が生み出した恥ずかしさも消え、モンモランシーに「私のあなた」と言われた事に対する別の恥ずかしさが支配した。
……さすがは最強の系統。
「いやはや、審問会を滞らせてしまって申し訳ない、モット卿、ハルデンベルグ卿、ウィンプフェン殿。」
そう謝罪の言葉を口にして笑顔を浮かべて椅子に座った。しかし、魔法を使ったわけでもないのになぜかハルデンベルグ侯爵とウィンプフェン、そして座っていただけのド・ポワチエ将軍はなぜか青ざめていて顔色が悪いようだ。
特にウィンプフェンは青ざめた表情に加えて小刻みに震えている。お二方とも罵り合いのあと杖に手をかけたのだからその後抜いて決闘の寸前までは行っただろうに、たかだか学生が一人参戦したくらいでそこまで怯える事なのだろうか。
ふむ。ウィンプフェンにとっては誰かに止められることも計算の内だったのではなかろうか。いや、恐らく杖を抜いたとしても生死が関わるとは思っていなかったのだろう。そして、そのような覚悟もなく杖を抜き、死が迫っていた事による恐怖を感じたのだろう。
自らの立てた作戦で幾人もの人間が死ぬというのに自らが死ぬ覚悟は全くないようだ。人が死ぬのが戦争であり、保身などというものが存在してはいけないのが戦場だ。なんと言うか、彼には戦場に立つ資格も戦争に参加する資格もないのではないだろうか。
まぁ少なくとも軍に所属しているという雰囲気はない。ただ、室内でも角付き兜をかぶってるハルデンベルグ侯爵もどうかとは思うが……。
そして、モットおじさんはホッとしたような表情を浮かべ、取り繕うように再開した。
「うむ。特に今は戦時。味方同士で杖を向け合うなどあってはなりませんぞ? しかし、クロア殿の主張は妥当だと思われる。ウィンプフェン殿、申し開きはありますかな?」
申し開きを求められ、ウィンプフェンはモットおじさんに向き直った。そこに浮かんだ表情は先ほどのような冷静沈着なものではなく、怯えが浮かんでおり、申し開きは言い訳と陳情が混じったような感じだ。
「モット卿。恐れながら申し上げます。まずカスティグリア諸侯軍から送られた伝令文は到底信じられるものではありませんでした。たったあれだけの数で、しかもほとんど損害もなく上げられる戦果ではないのです。」
まぁ、そう思うのも不思議ではない。なんせ俺にも信じられないことが多い。伝令の内容は知らないが、出撃からこれまでに行った三度の戦闘の結果が一度に伝えられた可能性もある。艦隊戦から始まり、敵竜騎士との戦闘、そして三万の兵の虐殺。
実際、戦列艦を一撃で爆沈させるような自由落下爆弾やゼロ戦から劣化コピーした機関砲が量産されていなければあれだけの戦果を上げるのは不可能だったに違いない。ただ、それだけではなく、蒸気機関や虎の子のアグレッサー、そして竜に対する装備と、もはや諸侯軍は今までの軍隊と全く別物に成り果てているものが多々ある。
そして、特に彼らがラ・ロシェールで目にしたであろうカスティグリアの戦列艦や小型艦などは見た目がさほど変わらないので、そう誤解してしまうのは致し方ないだろう。
この会議室内で誤解なくあの数字が正確なものであると確信しているのは恐らくこちら側に座っている諸侯軍の人間とモットおじさんくらいなものではなかろうか。まぁ、公表するようなものでもないとは思うが……。
「そこで思い至ったのです。もし、そのような戦果を上げたとしても、それらの戦果はミス・ゼロの上げたものではないかと。そして、それならば全ての筋が通ります。
今思えばそこにいるクロア殿が初めてヴュセンタール号で行われた会議に出席したとき、自分の婚約者の前で彼女との付き合いを匂わせたのも、戦争が始まる前から彼女のためにフネを一隻用意したのも、そして、何より頑なに手放す事を拒否するのも、ミス・ゼロの上げる全ての戦果を独占するのが目的だったのでしょう。
そうであろう? クロア殿。査問会議での隠し事はあなたの為になりませんぞ?」
ふはははは……。 いやはやそこまでミスリードを狙った覚えはないのだが、ここまで清々しく疑われると愉快という感情しか沸かない。確かに信じられないだろう。あはははは!
しかし、実態はさらに不安定で使えるかもわからないほどなのに、実際に全く信じてもいなかった『女王陛下の切り札』をこのタイミングで信じ、それをそんな彼がまことしやかに語るというのは、もはや喜劇ではなかろうか。
頬が釣りあがる感覚があるが、もはやそれを取り繕う事は困難だ。声を上げて笑わないだけマシだと思って欲しい。ド・ポワチエ将軍は少し目を開き、驚きの表情を浮かべ、ハルデンベルグ侯爵は眉を寄せ、少々苦い表情を浮かべているが、ウィンプフェンはモットおじさんに訴えたあと、こちらに対し、お前の謀略は全てお見通しだと言わんばかりの得意顔を晒してくれた。
もしかして今度は俺の表情が彼らの更なる誤認を誘ってしまうのであろうか。あーっはっはっは!
しかし、カスティグリアを知っており、付き合いのあるモットおじさんは俺の浮かべた表情を正確に読み取ったようだ。彼は苦笑を浮かべ眉を寄せ目を伏せると横に首を軽く振り、口を開いた。
「ウィンプフェン殿。まず一つ間違いを訂正しておこう。カスティグリアの上げた戦果を何の疑問も持たずに信じるというのは難しいのかもしれない。だが、確かなのだよ。私も諸君らと同じように今回は現場を見たわけではないが間違いなくそのような戦果が上げられており、限りなく正確な報告書がデトワール殿によって書かれているのだ。そうであろう? クロア殿。」
「全くもってその通りです。いやはや、ウィンプフェン殿。申し訳ないが、あなたがあまりにも酷い勘違いをさも真実であるようにおっしゃるので表情に出てしまったようですな。
ただ、現在までに
シレっとそう口にしたが、ぶっちゃけ申し訳ないと言いつつ実は全くもって申し訳なく思ってない。その点については申し訳なく思うが、もしヤツが主犯だとするのであれば、こちらはすでにかなり馬鹿にされたのだ。
「そもそも、カスティグリアはお伝えした通り露払いを行ったのです。戦果をあげたいのであればハルデンベルグ侯爵閣下のおっしゃる通り、進軍し、都市を制圧すれば良いではありませんか。同じ陣営であるカスティグリア諸侯軍の足を引っ張っても戦果は零れませんぞ?」
少々嫌味と
「うむ。然り、然り! クロア殿はよくわかっておる! わっはっは!」
しかし、ウィンプフェンとは逆にハルデンベルグ侯爵は豪快に笑いながら何度も頷いた。彼はゲルマニアの人間なのだが、何となく気が合いそうだ。
ふむ。仲間意識を育むために俺も角付き兜をかぶるべきだろうか……。こうして見ると中々趣があって良い気もする……。角の位置や本数などに形式などがあるかもしれない。聞いて許可を取った上で実行に移すべきだろう。
いやしかし、そもそもかぶった瞬間に首がもげそうだ。しかも試すだけですら命の危険が伴うだろう……。それに、もし安全にかぶれたとしても自重が増えてさらに歩行が困難になるのではなかろうか。転んだ拍子に兜が脱げ、その角に刺さって死にでもしたらゲルマニアにまで不名誉な噂が広がりかねない。や、やめておこう……。
ううむ。あの角付き兜は見た目だけでなく色々とハードルの高いものだったのか……。
「しかし、そもそも、ド・ポワチエ将軍閣下の参謀長にまでなったあなたがなぜそこまでひどい勘違いをされたのか、そこに大きな疑問が残ります。そう、あの命令書を読んだ時、違和感を覚えたのです。」
『わたしのつがい。珍獣コンビが近づいたわ。』
『おお、俺のつがい。どんな感じだい?』
『ピンクのところに降りようとしたみたいだけど、こっちの風竜に警告されて諦めたみたいよ。「クソがっ、異端者どもめ!」ですって。何か色々と不愉快だわ。目玉くり貫いていいかしら?』
ふむ。もしかしてプリシラはブリミル教が嫌いなのだろうか。いや、単に悪口に反応したというのが自然だろう。それにヤツは原作通りならば動物を操ったり意思の疎通ができるというヴィンダールヴだったはずだ。と、なると、その辺りもプリシラは気に入らないのかもしれない。
しかし、「異端者どもめ」か……。ロマリアの義勇軍に対する対応だけに関して言っているのであれば日常的に使う罵り言葉とも取れるが、ロマリアがカスティグリアを目の仇にしている可能性が高くなったと考えた方が無難だろう。
『そうか。ありがとう、俺のつがい。そうだね……。機会があるようならやってみるかい?』
『ふふっ、楽しみにしているわ。わたしのつがい。』
プリシラと口汚いヤツのおかげで、ようやくほのかに思い出してきた。それに角付き兜はもしかして物忘れ防止にも良いのかもしれない。帽子だけに……。いや、いい。作戦書の詳細を参考にこちらの謀略を始めるとしよう。
「確かに以前、彼女を保護し、彼女の力を借りるために一芝居打ちましたが、あの時は、そして、恐らくは今も彼女の価値を正確に理解はしておられないかと存じます。
実際に彼女は女王陛下直属の女官であり、特殊な魔法を使う事のできる代えの効かない重要な人物ではあります。しかし、戦闘だけを考えるのであればそれほど重要な要因ではありませんし、総司令部では扱いきれない可能性が高いのではないでしょうか。」
すごく今さらで聞くに聞けないが、総司令部はルイズ嬢の事をミス・
よくよく考えれば初めて竜空母での会議でも使われていた気もする。まぁ少々気になるので、このまま彼女とかでごまかし続け、モットおじさんがミス・ゼロと口にするようであれば解禁しよう。
「さらにサウスゴータやロンディニウムを落とすのに彼女の力がそれほど有効だとは思えません。むしろカスティグリアが連合軍の援護を目的とした艦砲射撃を行った方が遥かに有効であり、堅実な効果が望めるでしょう。詳しくは申しませんが彼女の力はそういったものなのです。」
実際にルイズ嬢のエクスプロージョンは期待できないだろう。原作ではサウスゴータ攻略線で何かしら任務を与えられており、サイトと共に失敗したような気がするが、結局戦況に影響はなかった。それならば小型艦からでもあの命中率であれば艦砲射撃を行った方がかなりの効果が望めるのではなかろうか。
「しかし、そんな彼女は現在カスティグリアのフネに乗り、接触はかなり制限された状態にあります。連合軍に所属する人間ではまず近づけません。
ですが、ド・ポワチエ総司令官殿を始め、総司令部の方であれば彼女に直接伝令を送り、連絡や要請の授受などを行ったりこのような会議などへの参加を促す事は可能なのではないでしょうか。
カスティグリアは彼女の判断に対し、要請する事は出来ても命令する事はできませんし、当然彼女に対して拘束力を持ちませんから、この命令書が要請書や嘆願書といった様式で、カスティグリア宛ではなく彼女宛に届いており、これを読んだ彼女が受諾したのであれば彼女はこの会議に出席していたでしょうし、彼女の力が総司令部の作戦に有効であると彼女が判断した際には協力を申し出たかもしれません。」
カスティグリアはかなり命令系統に関してかなり厳格に設定されていると思われる。恐らくトップは父上かクラウス、そしてこの諸侯軍に関してはお飾りのトップが俺で、その下で艦長殿が現場の指揮を行い、その下に各艦長や竜部隊の隊長といった順ではなかろうか。ぶっちゃけ前後しか知らないので他は予想だ。まぁお飾りなので要請や相談くらいで命令を下した事はないが……。
しかし、連合軍、そして王軍や各諸侯軍、そして空軍などの命令系統は意外と曖昧なのではなかろうか。基本的に総司令部が上に立ち、それぞれに命令を下すのだろう。そして、そのトップにド・ポワチエ将軍がいるとも捉えることが出来る。
しかし、横のつながり、つまり諸侯軍同士や連隊同士、大隊同士といった部隊同士の要請や命令順位は細かく決まっていないと考えられる。そもそも傭兵や志願兵といった者が大半で、厳密にトリステイン軍の士官として、この戦争に参加している人間はかなり限られているのではなかろうか。
つまり、連合軍は同じ権限を持つ軍に対し、要請を行い、折衝するという行為にとても不慣れなのだろう。むしろ軍隊は上意下達があるべき姿であり、独自性を持ったカスティグリア諸侯軍や女王陛下直属のゼロ機関が指揮系統にとってかなり厄介な存在だという事は容易に想像できる。
しかし、そのように決まっているのだから、そのようにすべきだろうし、伝令による舌戦などせずに、ルイズ嬢を持ち上げつつ相談したい事があるとか言って要請すれば彼女もホイホイここに顔を出したに違いない。
まぁゼロ戦がタケオにあるうちは顔を出すのが精々だとは思うが、もしかしたら会議に出席した彼女からカスティグリアに総司令部の作戦に付き合うよう要請が来たかもしれない。
「しかし、なぜか総司令部は彼女への要請などではなくカスティグリアへ命令を行いました。その辺りの理由は先ほどウィンプフェン殿が口にしましたが、それはともかくとして彼女を自分の手元に置きたかったという事は変わらないかと思います。
確かにウィンプフェン殿のように総司令部の戦功に役立てるためとも取れます。しかし、ご存知の通りかと存じますが、かなり高いリスクが伴いますのでただの建前かと存じます。」
何となく前世にあった推理小説や推理漫画に出てくる刑事や探偵の気分になってきた。まぁやってる事は真相究明しつつミスリードを誘い矛先を総司令部から未来の敵へと変える作業なのだが、恐らく犯人を捜すよりも個人的には有益だと思う。
正面に座ったド・ポワチエ殿がモットおじさんとウィンプフェンの表情を窺ったのが視界に入った。恐らく全く関係のないハルデンベルグ侯爵や勅使として来たモットおじさんは特に表情を変えていないが、ウィンプフェンは何かを考えつつ完全にこちらを疑っているようだ。ただ、当の将軍閣下は困惑を表に出さないよう、引きつった笑みを少し浮かべている。
……もしかしてリスクを把握していなかったのだろうか。いや、ここはそのリスクを知りつつごまかしていたのをモットおじさんに悟らせたくはないというのが正解ではなかろうか。
しかし、その予想は一瞬で破棄されることとなった。
「クロア殿。そのだな……。うむ。そちらが考えるリスクと我々が把握しているリスクに差異が無いか把握しておくべきではないだろうか。宜しければその辺りを詳しく説明していただけないだろうか。」
俺はド・ポワチエ将軍の言葉で、ウィンプフェンが軽く頷いたのを見てしまった……。モットおじさんの方を窺うと、笑みを浮かべて頷いた……。
ま、まさか誰も考えていなかったのだろうか。い、いや、まさかですよね? ほら、ド・ポワチエ将軍も確認のためと言っていたし……、まさか知らずに使い潰そうなんて思って……、そういえば原作ではウィンプフェンがルイズ嬢を捨て駒にしてましたな。
「はい。まず彼女は女王陛下直属の女官であり、特殊な魔法を使うことができます。確かにそれだけでも女王陛下にとって特別な人間と言えますが、彼女を取り巻く境遇はそれだけではありません。そう、何より彼女はヴァリエール公爵の三女殿でもあるのです。」
しかし、ハルデンベルグ侯爵や他のゲルマニアの士官がいるのに口に出してしまって良いのだろうか。この辺りで察してくれても良いのではないかと視線を巡らせるが、モットおじさんくらいしか理解している人間はいなさそうだ。
アイコンタクトが成功するという自信はないが、「本当に言っていいの?」とモットおじさんに視線を投げかけると、それとなく頷いたのできっと通じた上でオッケーが出たと言う事にしておこう。
「皆さんお忘れかもしれませんが、トリステインにはまだ今戦争での出兵を控え大軍を組織できると思われるヴァリエール家が残っております。そして、その公爵家の長女殿、次女殿の事を考えると、三女殿の身の安全はかなり重要なのではないでしょうか。
彼女が戦功を上げることが出来なかったくらいならまだ良いのです。しかしもし彼女がこの戦場という場所で死傷してしまった場合、もしくはあの破廉恥な共和国の捕虜となってしまった場合を考えますと、彼女を作戦に出すという事はトリステイン王国を賭ける大博打としか思えません。
戦争が終わったあと、彼女が亡くなっているか、何かしらの
まぁ間違いなく総司令部の人間のほとんどはヴァリエールへの貢物や王家への迷惑料として首や財産を残らず吐き出す事になりかねないのではなかろうか。ふむ。マザリーニはこれすら狙いだったのかもしれない。なるほど、財産没収で戦費を回収しつつ勲章や昇進などの報奨金すら削れるのだから悪くないだろう……。
お、恐ろしい。なんて恐ろしい人間が舵を取っているのだろうか……。この謀略がカスティグリアへ向かない事を祈るしか……、はっ!? もしかして暴いてしまった俺も何かしら今後罰せられてしまうのだろうか……。い、いや、知らなかった事にしておこう。うん。それがいい。まだこの辺りならギリギリセーフなはずだ……。
「リスクの差異に関して他に捕捉がありましたらお伺いしたいのですが……。」
最後にそう確認すると、ド・ポワチエ将軍は「いや、結構だ。問題はないようだ」と引きつった笑顔で答えてくれた。ウィンプフェンは青い顔をしているが、まぁもし彼の言う通り使い潰していたら彼は首を物理的に切り離されてもしょうがないのではなかろうか。
しかし、ここは俺の考えた初めての謀略のため、彼を擁護しつつ彼に逃げ道を提示して差し上げよう。
「では、本題に戻りましょう。つまり、そのようなリスクを抱え、カスティグリアに命令を下し、不和を引き起こしてまで彼女を総司令部預かりにするということにかなり不自然に感じられたのです。そこで、総司令部がここまでリスクを犯す理由は何なのかと考えたところ、これといった理由は思い浮かびませんでした。
そう、なぜなら総司令部にそのような事をする利点がほとんど見受けられないのです。」
ぶっちゃけ戦功を掻っ攫うためとウィンプフェンが先ほど口にしているので理由は明らかだし、リスクを知らなかったのも先ほど確認してしまった。それに、カスティグリア諸侯軍ごと吸収できるのであればかなり利点がある。その上、リスクに関して触れないのであれば女王陛下へのご機嫌取りを間接的に行う事もできる。
しかし、その辺りをワザと知らないフリをして「まさかそんな事考えるわけありませんよね?」と子供ながらの思考でぶつけていく。まぁ相手はもう二度と「HAHAHA 当然利用するつもりだったYO」などとは間違っても口にできないだろうから問題あるまいて。
「しかし、よくよく考えると、そのようなリスクすら利点になる人間がいる事に気付きました。そう、総司令部に属さない国の人間です。連合軍は全体から見ると少ないかもしれませんが、多くの傭兵や義勇軍をその指揮下に置いております。そして、そのような人間が謀略のために参戦したという想定ならば、いかがでしょうか。」
モットおじさんは少々不安そうな表情を隠しており、ド・ポワチエ将軍は興味津々なご様子だ。続きが気になるのだろう。逆にハルデンベルグ侯爵はそろそろ飽きてきたようで、今にも「進軍! 進軍!」と言いたそうな雰囲気をかもし出している。まぁ、まだお付き合いいただけるようだが、今現在まさに進軍していると思うので我慢して欲しいところである。
ただ、すっかり旗色の悪くなっていたウィンプフェンが先を読んだようにハッと何かに気付いたような表情を浮かべた。彼にとってこの話の帰結は他の者に責任や罪を押し付け自分の悪くなった立場を助けられる唯一のものだ。
そして、恐らく冷徹と慎重さを装いつつも彼の本質は傲慢で陰謀好きで保身に長けた臆病者といった所だろう。ただ、保身を求めるが故、その陰謀好きな傲慢さ故、この毒酒はとてもとても甘く感じるに違いない。折角用意したのだから是非とも味わって飲み干して欲しいものだ。
「彼らは現状、彼女に接触する機会も手段もありません。しかし、彼女に接触するためにわざわざ参戦したからには何がしか手段を講じその機会を自然に作る必要があるでしょう。そして、彼らの取った手段は意外と簡単なものであり、明確な疑いを持たない限り露見する事はなかったでしょう。
そう、恐らく彼らの取った手段は『噂』を流す事にあるのではないかと考えました。『カスティグリアは彼女の力を使って戦功を積み上げた』などの噂をまことしやかに流し、総司令部の焦りを利用する事で、総司令部と彼女や我々との不和を引き起こしつつ彼女が自らの手の届く所に来ると考えたのでしょう。実際、『噂』の根源を見つける事は非常に困難でしょうし、効果はあったように感じます。いかがでしょうか、ウィンプフェン殿、そのような噂はありませんでしたか?」
彼を心から救いたいと、そして、彼を嵌めた忌まわしきスパイが連合軍に潜り込んでおり、本当の敵はそのスパイなのだと結論付けるため、仄かに笑みを浮かべてウィンプフェンに尋ねると、ウィンプフェンはこちらが藁を差し出すとは思っても見なかったという表情を一瞬浮かべた。
そして、彼は謀略にかかっていたという事に今ようやく気付き、その落ち度に対する悔恨と、まだ見ぬ誰かへの憎しみを少々わざとらしく大げさに浮かべた。
「確かに、確かにそのような噂を耳にしました! そう、恥ずかしながらクロア殿に指摘していただくまで全く気付きませんでしたが、今よくよく考えると私自身なぜあのような考えに至ったか不思議でなりません。それにクロア殿の考えの深さには尊敬の念を感じざるを得ません。将軍閣下、ぜひとも我々に謀略を仕掛けた諜報員を探しだすべきかと存じます。」
実際、ウィンプフェンはこの藁に縋るしかもはや道は無いだろう。しかし、それはやはり藁であって頑丈なロープではない。不名誉な処刑を甘んじて受けるよりはマシだとは思うが、それこそがまさに俺の謀略である。ウィンプフェンを選んだのは単に彼が一番墓穴を掘っていたからであって、別段誰でも良かったのだが、彼ほどの地位があればきっとよく動いてくれるに違いない。
取り合えず子供っぽさを少々演出しながら笑顔で「そうでしょう、そうでしょう」と頷いてモットおじさんを見ると、とてもこちらを疑っていらっしゃるようだ。隠し切れない眉間の皺がそれを如実に語っている。
「おお、ウィンプフェン殿がそうおっしゃってくれるのであればこちらとしても心強い。総司令官殿。是非とも彼の言う通り、諜報員を見つけ出し、今後の火種を消していただきたい。」
ド・ポワチエ将軍が「うむ」と重々しく頷き、「ではウィンプフェン、そなたに任せて良いか?」とウィンプフェンにその役目を振った。ウィンプフェンとしても汚名を返上するチャンスだ。自信たっぷりに、「全身全霊で取り組みます」と請け負ってくれた。万々歳である。
いかがでしたでしょうか。モット伯の胃の状態とは裏腹に、実はクロアくんはモットおじさんを警戒しまくってます。ええ、彼にとっては黒き覇道の先人ですからね。
取り合えず! 室内での火の取り扱いには充分に注意しましょう。特に火の系統の方は室内での使用は極力控えましょう。ええ、火は延焼の危険性があります。優秀な水の使い手が消せるとも限りませんので一家に一羽プリシラを用意しましょう。いや、防火関連の対策をググっておきましょう。
2chのまとめサイトとかちょくちょく気になったのをチェックしてます。生放送中に火事になった動画が騒がれていましたね。ぶっちゃけ「大きめの灰皿を常備しておけば良かったのではー?」と思いました。色々とダイナミックすぎて歴史に残る動画になりそうですよね。注意喚起にはとても良い動画だと思いました。
ええ、アレ見て、「ここには優秀な水の使い手がいる」(キリッ とか怪しいんじゃね? と思いました。その辺りを書いた三日後くらいで、タイムリーすぎてクロアくんの暴走どうしようかと二日ばかり寝込みつつ考えました;;
まぁ最悪プリシラさんが消火してくれそうですが、クロア君はすごいあたふたしそうですよね^^;
個人的にイチオシは「F-16戦闘機でちょっとATM行ってくる」ですが……。あのAAが現実の物になるとは……。恐るべし、ギリシャ空軍。
わたしを コンビニに (戦闘機で)つれてって! なんちてw
というわけで次回はモットおじさん視点でこの続きくらいまでいけたらなと思ってます。戦争進まないorz ハルデンベルグ侯爵が進軍進軍言い始めそうですよね。
次回おたのしみにー!
いつものオマケ。四コマ風?
クロア「短気なのも記憶力弱補正も黒歴史生産能力高も全部火の系統のせいだった!」
激炎 「あー色々思い当たるわー。黒歴史だわー。そのせいで両足なくなったわー」
白炎 「いや、俺記憶力いいし? 黒歴史はあるけど匂いとか体温とか覚えまくってるし?」
微熱&炎蛇&燠火「いやいや、全部火の系統関係ないから!」
作者 「それ多分私のせい……」(ビクビク