ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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 読者の皆様、お久しぶりです、大変お待たせしました。ええ、何ヶ月ぶりでしょう? ちゃんと投稿できるか操作に不安を覚えました^^;
 それではどうぞー。


51 策謀の裏側 モット編 中篇

 この会議はクロア殿が指摘した諜報員の存在やミス・ヴァリエールに関する問題が、総司令部を大きく揺り動かし、本来の目的からは逸れてしまっている。

 

 そもそも、査問会議と銘打った会議の目的は、女王陛下の名代として私が直に連合軍の責任者、つまりアノ報告書をトリスタニアに送った者達を罰する事で、あの文書が(もたら)すであろうクロア殿を筆頭としたカスティグリア諸侯軍、そして知ってしまったカスティグリアの怒りを連合軍は基より関わってしまったトリスタニアから逸らし、事体の収束を図るものだった。

 

 ただ、それに関しては別段責任者を罰する事も、これと言った譲歩も何もなく概ね解決してしまった。

 

 私が会議の前にド・ポワチエ将軍と話す機会を得る事ができ、しかも彼の考えをうまく変えられた事がもっとも大きい分岐点だったのは間違いないが、脅しとしか思えない報告書を送りつけてきたにも関わらずほとんど何も無かったのだ。

 

 まぁ、クロア殿らしいと言えばらしいのだが……。

 

 しかし、将軍が軟化し、彼が状況を把握した事で、彼が連合軍司令部における政治的なバランス感覚を十全に発揮し、上手くまとまったのは大きい。

 

 一番カスティグリアに敵意を見せていたウィンプフェン参謀長が責任を持って諜報員あぶり出しの指揮を取るという差配だけでも、将軍が清濁併せ呑める有能で老練なことが垣間見えた。会議が始まる前、彼は目が曇っていたと言っていたが、その事を、彼の言葉通りその一片をこの会議で示していただけたと感じた。この収穫は今後の私の行動にも大きな影響を齎すだろう事は想像に難くない。

 

 しかしながら、今現在行われている会議は、女王陛下御自らが名代という権限を私に持たせて派遣し、女王陛下の名の下に彼女の意思にそぐわぬ行動を起こした連合軍総司令部に存在するトリステイン貴族達への懲罰的な査問会議である。

 

 マザリーニに関しては割りとどうでも良いが、歳若い女王陛下は、アノ騒動を知った後に、これだけの結果では納得していただけるだろうか……。

 

 そう、女王陛下御自ら勅命を下されたのだ。「総司令部が誤解を認め、カスティグリアへ何らかの譲歩を行った」という分かりやすい結果が必要なのではないだろうか……。

 

 そもそも、カスティグリアが、いや、クロア殿が何を望むかなどは誰も想像できなかっただけに最初からそんな分かりやすい結果などは物別れに終わり司令部の人間の首を飛ばすくらいしか考えていなかったのだから、この状況に満足すべきなのは分かっている。

 

 むしろ、その原因が「あるかどうかも怪しい『噂』がこの事態を招き、連合軍総司令部を混乱に陥ったのは他国からの義勇軍に紛れていた諜報員」であり、その者を探し罰するという事を条件にしてくると誰が予想できるというのだろうか。

 

 しかも、罪を逃れるために総司令部から尻尾切りのように言い出されるのではなく、遠く離れていた彼らにとっての断罪者であるはずのカスティグリアからそう指摘されたのだから、もはや両者、そして私にとって信憑性という単語は意味をなさないのだ。

 

 総司令部としては喉元に突きつけられていたはずの杖が身を起こすよう差し出された手に変わったように感じた事だろう。

 

 しかし、現状、私にとって『女王陛下の名代』と『査問会議』というマザリーニに持たされた『私と連合軍をカスティグリアから守るための武器』が逆に私の枷になってきているのではないだろうか……。

 

 ふむ。女王陛下に関しては「まぁ! やはり彼はトリステイン貴族の鏡ですわ」と、笑顔でお褒めの言葉を口にされ、ルイズ嬢のことに関しても後でご友人として個人的に対処なされるだろう。目に浮かぶようだ。

 

 ただ、現状諜報員がどのような人物かわからない以上、マザリーニなどは良くない未来を想像し、再び骨化が進むかもしれない。その点は問題無い。むしろ、ヤツは今、アンリエッタ女王陛下が誕生した事で肩の荷を降ろしたかのように思える。

 

 うむ。ヤツはもっと骨化すべきだろう。

 

 しかし、その後、更に骨化したマザリーニの助言を受けた女王陛下が、私に対しどのような評価するかを考えると少々不安が残る。大体、この状態はよく考えれば保留という意味合いに取られてもおかしくはないのではないだろうか……。

 

 カスティグリア諸侯軍は、今やトリステインのいち領主の諸侯軍ではなく、トリステイン・ゲルマニア連合軍ですら勝敗の分からない相手のほとんどをまさしく露を払うように壊滅させたほどの軍なのだ。

 

 そんな相手に対するという事で、あれだけの権限を持たせて送り出したというのに「保留にしてもらっただけで帰って来た」などと思われようものなら私自身の進退に関わり兼ねないのではないだろうか。実際、私があちらの立場ならば、耳に入る情報如何では不満を覚えてもおかしくない。

 

 ―――やはり分かりやすい結果はあった方が良いだろう……。

 

 そもそも、この遠征に出ている(・・・・・・・)諸侯軍だけ(・・・・・)でもこれほどにカスティグリアは強いのだ。クラウス殿をアンリエッタ女王陛下の王配兼宰相に迎え、国軍をすべてカスティグリアに任せるだけでトリステインに平和が訪れるのではなかろうか。

 

 正直なところ、もしカスティグリアに相応の野心があったならば数多くの王族や貴族の系譜がすでに断ち切られ、大陸全土が血に染まっていたかもしれない。しかし、そのような事になっていない上に、彼らの人柄から他国への侵略や蓄財、そして名誉欲に駆られるとは考えにくい。

 

 マザリーニを教師としたアンリエッタ女王陛下が政を行い、王配のクラウス殿がトリステインを護る。そう、民にとっては理想の、貴族にとっては恐怖の……、おや? う、うむ。意味の無い恐ろしい想像が一瞬頭をよぎったが、取り合えず今存在する悪夢を収束させよう。うむ……。

 

 まず、課題は『連合軍総司令部によってカスティグリアの要求が反故にされた件』を、どう上手く借りを作らずキレイに纏めるかだ。ただ、カスティグリアが総司令部に矛先を向けない限り、そして私が責任追及や保障などの話題に向けては総司令部の上層部にいる人間に罰を下す事になりうる。

 

 ここに来る前までならば、そしてド・ポワチエ将軍と二人で話す機会がなければ、気にも留めず追求し、将軍以下数名に罰を与えただろう。しかし、私の勘では、ド・ポワチエ将軍は私と同じくカスティグリアに胃を痛める同志か、軍事関連の問題に対し、私の胃を護る守護者になりうるのでは無いかと強く感じている。

 

 で、あるならば、極力彼を傷つけることなく終えることで、彼との協力体制を強固にし、彼を軍事面でカスティグリアとの緩衝材にすべく努力すべきだろう……。

 

 もし仮に、今そんな言質を彼から取れるというのであれば、今私に与えられている名代権限でこの場で早急に彼に元帥の内定を与え、私自ら女王陛下に嘆願し、マザリーニに杖を向けながら説得する事も吝かではない。

 

 武官に通じるか疑問だが、そんな願いを瞳に篭めつつド・ポワチエ将軍に視線を送ると、なんと彼は僅かに頷いてみせた。おお、やはり彼はすばらしい人物であるようだ……。

 

 「そういえばウィンプフェン。補給物資の荷揚げ状況はどうなっておる?」

 

 「はっ、現状、兵を進めるのに問題はありません。揚陸予定のうち八割ほどが完了しております」

 

 唐突に将軍が会議中だというのに世間話のように口にした発言はウィンプフェンにとっては疑問だったのだろう。少々疑問が表情に浮かんでいる。彼にとってこの会議にはおおよそ関連の無い話の内容に疑問を感じたのかもしれない。

 

 しかし、デトワール提督は先を読んだようで口元が緩んだ。ふと、なぜ彼が国軍の参謀でないのか疑問を抱き、相手側にいる現状を不満に思ってしまうのは致し方ないのではないだろうか。

 

 「ふむ。残りの二割のほとんどは風石だったか?」

 

 「はっ、緊急時に備えておりますが、揚陸は可能です」

 

 ド・ポワチエ将軍は「なるほどなるほど、ふむ……」とつぶやきながら顎に手をやり、しばし黙考を始めた。

 

 恐らく現在までの艦隊の荷揚げ状況や、艦隊の状況、今まで混雑を極めていた桟橋がカスティグリアの協力(・・)もあり順調に補給物資の揚陸に終わりが見え、割り当てが空きそうな事をウィンプフェンとのやり取りでカスティグリア側に伝えつつ、私に対しては、連合軍が管理するその二割の風石をカスティグリアに渡して良いか聞いているのだろう。

 

 国軍の資産を諸侯軍に渡す事に対し、総司令官と言えど将軍個人の判断では迷う場面かもしれないが、名代の私が黙認する事でそのような問題は無くなると踏んでの事だろう。そして、それは私としても女王陛下への分かりやすい手土産になるすばらしい譲歩だ。

 

 私は迷わず将軍に了承を示す目配らせと目礼を送った。

 

 そして、カスティグリアとしても過剰消費したであろう風石の補給が連合軍から支払われ、荷揚げされた風石を積んでいた分のガレオン船が不要となり空くはずの桟橋の割り当てが増えるという文句の無い終着点に落ち着くだろう。

 

 まさしく誰も損をしないすばらしい条件だ。クロア殿の婚約者の隣に座るデトワール提督は、彼の表情を見るに間違いなく意味を完全に察している。彼も条件を飲むはずだ。

 

 しかし、名目上カスティグリア側の最終的な決定を下す肝心のクロア殿は、この新たに始まった二人の会話が何を意味しているのか全く察していないようで、ほんのり眉を寄せ、思考の海に沈みかけているのが少々、―――いや、かなり不安だ。

 

 ここはその不安を早急に払拭して貰うべく、モンモランシー嬢とデトワール殿へとクロア殿への助言を嘆願するよう視線を投げかけると、幸い私の視線をデトワール殿が察してくれた。

 

 彼は私の意図を確認すべく軽くクロア殿の様子を盗み見ると、隣にいるモンモランシー嬢へと手元にある羊皮紙に何かを書き、彼女へと伝えた。そして、クロア殿の隣に座るモンモランシー嬢は軽くうなずくと、クロア殿へこの交渉に関しての助言してくれるのだろう、周りに聞こえないよう彼に顔を寄せた。

 

 しかし、クロア殿はその助言の内容を受ける間、じわじわとその青白いともいえる顔を赤く染めていき、何やら声に出すことなく唇を動かしている。勅使としての嗜みとしてある程度読唇術を備えている私には彼が何やら数字を口ずさんでいるのがわかる。

 

 その数字の意味する所は全く分からないが、恐らく今回の事で移り変わった状況が、彼の諸侯軍にどの程度影響を及ぼすか、そして作戦の流れを変更すべきかなどの高度な計算を暗算にて行っているのだろう。もはや驚きはないが彼の才覚には恐れを感じざるを得ない……。

 

 そして、助言が終わったようで、モンモランシー嬢が彼の耳元から顔を離した。ただ、その際、彼女はクロア殿にヒーリングを行ったようだ。

 

 全く気付かなかったがクロア殿も私と同じく消耗していたのか……。元々彼は病弱であり、数日前まで伏せっていたのだ。体力が戻っていなくとも不思議ではない。それに彼は交渉事にも不慣れなのだ。彼の愛するカスティグリアのため、意外と無理を押して来ているのかもしれない……。

 

 意味を捉えたクロア殿の反応を知るため、彼の表情を窺うと、彼は少し恥ずかしそうにしつつこちら側に座っている総司令部の人間を盗み見た後、安心したというため息をひっそりと吐いた。恐らく彼はこの総司令部にカスティグリアへの遺恨があるか観察し、無いと判断したのだろう。

 

 で、あるならばこの話はクロア殿も特に反対しないであろう。つまり、恐らく上手く運び和解が成立するだろう。そんな事を考えつつもモンモランシー嬢に目礼し、僅かに口角が上がるのを感じながら将軍に合図を送る。将軍も私の合図で成功を悟り、僅かに笑顔を浮かべたまま言葉を発した。

 

 「ふむ。しかし、カスティグリア独立諸侯軍が我々の予想を遥かに上回る被害を相手に与えた事を考えると、その二割は余剰になるだろう。しかもそのカスティグリア殿の補給が後回しになってしまった事も心苦しい」

 

 「しかし、閣下。いくらかはラ・ロシェールに戻したとは言え、現在のガレオン船の総数、そしてそれに必要な桟橋の数を鑑みますとそれでも戦列艦に回す風石にそれほど余裕があるとは言えませんが?」

 

 「うむ。だが、当初想定されていた敵戦力のうち敵艦隊はすでに皆無であろう? しかも総兵力五万のうち三万が全滅ともなるともはや敵は瓦解寸前だ。で、あるならば、できうる限り揚陸し、制圧後の補給に備え、人員輸送に最低限残し全てのガレオン船をラ・ロシェールへ戻すのが最善と考えるが?」

 

 ド・ポワチエ将軍の言は、余剰の風石をカスティグリア諸侯軍の補給へと回し、輸送船団のほとんどをラ・ロシェールへ戻す事によってカスティグリア諸侯軍のために桟橋を空けるという事なのだが、私との会話を聞いていない司令部の人間にとっては将軍がなぜここまで諸侯軍に折れるのか不思議に思っても致し方ないかもしれない。

 

 そして、比較的高価な風石は、食料などと違い余ったら戦後に蓄えるか、売り払って戦費の補填に回した方が良いものだろう。参謀部を始め、物資に関わる文官寄りの人間にとっては節約し、戦後に戦費の補填を行う事で、戦争で目立たない彼らが誇れる功績へと繋がる上に、財務部門や税務関連への栄転も視野に入れているかもしれない。。

 

 実際、戦費縮小による功績の上乗せのためカスティグリアへの風石の供出を提案したのも参謀部だと考えられる。

 

 その功績を無にし、カスティグリアへ譲るという将軍の言は、それに関わってきた人間にとっては到底飲み込めるものではないのかもしれない。現に、ウィンプフェンはその功績への執着から飲み込めずにいるようだ。

 

 彼としては先の『噂の件』により自身の失態は完全に矛先が逸れたと判断したのだろう。そして、カスティグリアへの譲歩よりも自らの失態の分、功績を少しでも残しておきたいという葛藤がうかがえる。しかし、原因になったと思われるウィンプフェンら参謀部の功績を削るのはある意味理に適っており、マザリーニなどはこの結果を快く受け入れるだろう。

 

 まぁ少々見苦しいが、最終的にド・ポワチエ将軍の決定をクロア殿、もしくはデトワール殿が受け、丸く収まるだろう事が予想できる。そして、私としてもマザリーニとしてもその程度であればかなり安く済ます事ができ、ありがたい所だ。

 

 しかしながら、ド・ポワチエ将軍の政治的なバランス感覚はとても優れているようだ。嬉しい発見である。

 

 カスティグリアを宥め、自らが率いる総司令部の能力がカスティグリアの想定以下だったと暗に当人達へと伝えつつ、その分の補填をする事で友好関係の構築を行おうとしているのだろう。軍部に彼という人間がいたことに今となってはありがたいことである。

 

 そして、結局予想通りド・ポワチエ将軍が押し通し、カスティグリアへの風石の供出を申し出た。しかし、当のクロア殿は先ほどモンモランシー嬢から助言を受けたはずなのに信じられないというような表情をしつつデトワール殿の顔をうかがっている。

 

 クロア殿は一言私たちに断りを入れると、隣に座るモンモランシー嬢、そしてその隣に座るデトワール殿との小声で相談し始めた。声自体はほとんど聞こえないが、唇の動きを隠しているわけではないので私にははっきりと彼らの相談内容がわかる。

 

 「いやはや、本当に風石をいただけるとは……。しかし、風石の供出を要請してきたからには風石が足りなかったのでは?」

 

 「我々の戦果報告を疑っていたのでしょう、しかし、それらに間違いが無いとモット卿がおっしゃった事で余剰が出来たと判断したようですな。さらに輸送船の大半をラ・ロシェールへ戻す事によってその分も余剰とする模様です」

 

 まぁ彼としてはこの流れは予想外だったかもしれない。なんせ、自分が伏せっている間にカスティグリアに送られた命令には「風石を供出せよ」というものもあったのだ。風石の供出を断りに来たら供出されたようなものだ。

 

 しかも、カスティグリアとしては自領で産出している風石を連合軍から貰うというのは微妙なのかもしれない。

 

 「ふむ。なるほど……。艦長、我々の風石残量から考えて頂いておくべきでしょうか」

 

 「風石に関しては、今後状況が変わり、作戦に変更が無い限り、この戦争を終わらせるまでは問題ないかと……。しかし、今ここに存在する風石の価値は我々にとって大だと考えます。カスティグリアには風石が充分にありますが、遠征軍の今後の備えに余裕が出来るのであれば貰っておいて損はありません」

 

 「しかしだな……。この戦争に独立諸侯軍として参戦している以上、トリステインの財を我々が削る事に問題は起きないだろうか」

 

 確かに、他の各諸侯軍は剣や鎧、金や水食料など多岐に渡る物資をトリステイン王国から受け取っているのだが、カスティグリアは独立諸侯軍として参戦するにあたってこれら全てを辞退している。

 

 その事を鑑みれば、物資に貧窮しているわけでない状況で、連合軍の風石を貰うのは憚れるのかもしれない。ふむ、クロア殿としては無形の手形のような物の方が良いと考えているのか……。今後の判断材料としては嬉しい情報だが、現状ではこのまま飲んで貰いたい所ではある。

 

 「いや、その辺りに問題はありません。恐らくド・ポワチエ将軍閣下としてはコレをこれまで起こった総司令部との和解金として提示したいのでしょう。それに関して名代のモット卿も理解を示しているご様子。むしろ、断ると相手は困惑すると思われます」

 

 「なるほど……。で、あるならば確かにそうかもしれない」

 

 ううむ……。やはり、クロア殿の考えは少しずれてるが、幸いな事にうまくデトワール殿が導いてくれたようだ。しかし、それらを理解した上で自らの野生の勘を信じ、真逆に逸れていく可能性があるのがクロア殿だ。黙考を始めたクロア殿に恐れを感じるのは致し方ないことだろう。

 

 その後のクロア殿の返答によっては、仲裁に入る私にとってもかなり嫌な展開になりうるのだ。できればここですんなり飲んでもらえるとありがたい。唇を読める事で、この僅かとも言えるだろう短い時間、クロア殿の黙考は私にとって採決が下される前の囚人のような息の詰まる長い時間となってしまった。

 

 「―――ふむ。では受け取る事でアノ案件を絡ませる事ができれば、将軍閣下、トリステイン、そして我々にとって良い方向に向いそうだと考えるのだが、カスティグリアにとって問題はあるだろうか?」

 

 「いえ、元々ある程度、総司令部との軋轢が予想されており、いくつか対策案はありましたが禍根を残すのは否めませんでした。この場に乗じればその辺りも解決されます。むしろ渡りにフネでありますな」

 

 「了解した」

 

 何か付随されるようだが、取り合えず和解の方向に持っていってもらえるようだ。周囲に気付かれぬよう、薄く長いため息を吐きつつ、同じくクロア殿を注視していたド・ポワチエ将軍に軽く頷くと、彼も出来るだけ周りに悟られないよう、ため息を吐いたようだ。

 

 「お待たせしました」というクロア殿にド・ポワチエ将軍が笑顔で「構わないとも」と答えると、クロア殿は少々すまなそうな表情を浮かべた。

 

 「ド・ポワチエ将軍のお心遣いにはどう感謝してよいか……。それだけの量の風石を何もせずに頂いてしまっては、我々の心が痛みます……。そこで、我々としてはド・ポワチエ将軍のご好意にお応えすべく、閣下のご威光に相応しい功績を差し上げたく存じます」

 

 言葉面だけで見れば少々慇懃無礼に見えるが、若く虚弱なクロア殿が笑顔で言うと本当にド・ポワチエ将軍に懐き始めているとも取れるのが不思議だ。実際、ド・ポワチエ将軍にも言ったが、クロア殿が将軍に懐くような事になれば、心の平安を代償として元帥杖が彼の手に渡る可能性も高くなるだろう。

 

 実際、マザリーニも最近はアンリエッタ女王陛下とこの戦争の行方が明るい事で骨化が停滞している事だろうが、カスティグリア関連の問題で心労が重なで身を削る事になる仲間が増えるこの考えに関しては賛同するはずだ。

 

 そして、クロア殿の紡いだ前置きの後に続いたのは、予想外といえば予想外だが、彼らの論理から考えれば的外れとも言えなくはないものだった。つまり、クロア殿は、以前クラウス殿に見せてもらったアノ作戦書にあった最期の詰めとも言える「ロンディニウム強襲作戦」を、ド・ポワチエ将軍の指示で行うというものだ。

 

 その作戦はロンディニウムを強襲、ホワイトホールへ直接爆撃と砲撃を行い、なんらかの兵器により共和国首脳陣の捕獲を図るという、カスティグリアの尖った戦力ならではのものだ。

 

 極秘と言われて見せてもらった作戦書であっても、さらに極秘なのだろう兵器や方法に関しては隠語や記号だけが記されており、私も詳細をはっきりと知っているわけではない。ただ、クラウス殿、そして何よりも作戦眼の鋭いデトワール殿の署名が記されていたからには成功の可能性がかなり見込めるのだろうと想像はしていた。

 

 しかし、この場でド・ポワチエ将軍にクロア殿が提案しているものは「ロンディニウムへの威力偵察」というもので、ホワイトホール強襲の事は伏せられている。

 

 内容としては、連合軍がサウスゴータ攻略を行っている間、ロンディニウムに対しカスティグリア諸侯軍が散発的(・・・)な攻撃を行うことで、ロンディニウムを混乱させ、ロンディニウムからの敵側の援護を出来る限り廃し、副次的にサウスゴータに混乱を(もたら)すことで、連合軍のサウスゴータ制圧の協力を行うというものだ。

 

 敵首都への奇襲ともいえる直接攻撃に関して、カスティグリアには制圧戦を行える兵がいないため、最終的な制圧自体は連合軍が行う事になるが、なんらかの大きな戦果を偶発的にあげたとしても「ド・ポワチエ将軍の下、総司令部の依頼により」という形を取り、全ての戦果を総司令部に預けると断言した。

 

 これならば、これまでのカスティグリアの功績の独占という連合軍司令部との軋轢もある程度解消され、カスティグリアとしては当初の作戦通り戦争を早期終結に導けるだろう。そして、これはカスティグリアと総司令部だけでなく、女王陛下、トリステイン王国としても相互に利益の見込めるものだ。

 

 参謀長ならびに参謀部の人間はすでに多大な戦功を掻っ攫って行ったクロア殿に対し、欺瞞を感じており、かなり疑惑の目を向けているが、ゲルマニアのハルデンベルグ侯爵は特に気にしてはいないようだ。彼は最終的に戦争に勝つことだけが目的なのだろう。そして、その考え方は軍人として純粋で好ましく思えた。

 

 しかし、最終決定を行うド・ポワチエ将軍としては受けるべきだと感じつつ、隣に座る参謀長や他の士官の目を気にしているように見える。

 

 可能性は低いかもしれないが、ウィンプフェンに口を出されるとこの話が流れる可能性が出てくるため、ド・ポワチエ将軍に受けるよう視線を向けて頷くと、ド・ポワチエ将軍も覚悟を決めたように僅かに頷いた。

 

 ド・ポワチエ将軍が司令部の視線を無視し、カスティグリアの要求を受け入れた事で、総司令部がカスティグリア諸侯軍に送った命令書を発端としたこの騒動は、連合軍に大した被害もなく、むしろ私としては良い方向にまとまったと感じるほど無事に収束する事ができた。

 

 「トリスタニアが懸念した問題が収束したと判断し、査問会議の終了を宣言する」

 

 最後の宣言を行い、私とクロア殿、そしてド・ポワチエ将軍がそれぞれ握手を交わした。

 

 そして、再び誤解が生じないよう、ド・ポワチエ将軍の命でウィンプフェンがカスティグリアの意見を取り入れつつ「ロンディニウムへの威力偵察を依頼する」という依頼書と銘打った命令書を作成する事になった。

 

 このことに関しては私は専門外であり、部外者と言える立場なので退席すべきなのだが、少々クロア殿と話したい事もあるのだが時間的に問題ないかと尋ねるとド・ポワチエ将軍がご好意で部屋を用意してくれる事となった。

 

 

 

 




 日曜日に投稿するはずが、火曜日になっちゃいました。ええ、実はこの話、2万字超えてたんですよ……。理由は下になりますが、心が折れて途中で投稿と相成りました><;

 活動報告にもちょろっと書きましたが、ずっと腰痛かったり下痢だったりしたのはどうも椎間板ヘルニアが原因だったようで、入院して改造してもらいました。ええ、あまりの嬉しさにリハビリがんばり過ぎてあっという間に再発して再手術しました;;

 そのせいか、リハビリに制限がかかり、ついでにここ最近の寒気で再び体調を崩すという不甲斐ない状態が続いておりますorz

 と、取り合えず自力で日常生活して机でタイピングしたいです。ええ、ベッド上でのアクロバティックな態勢でのタイピングはとても疲れる上に、文章校正が大変なのでプリントアウトしたものを赤ペンで直してみたのですが、3日前の自分の字が解読不能でしたorz

 うん、無理。心折れた! って事で中、後編に分けました^^;

 えーっと、とりあえず短いですが、書いてる途中で思いついたオマケです^^;


モンモン「あなた、この話なんだけど提督さんが言うにはね―――」
クロア「ちょっ、モンモン近い近い! 2,3,5,7―――」
モット「クロア殿の体調もあまり……」


ララァ:アムロ、人は分かり合えるのよ。この三人をご覧なさい

ド・ポワチエ:ふむ……(チラッチラッ
モット   :(ジー、コクリ
デトワール :(ニコニコ、チラッ

アムロ:これがニュータイプの未来だというのか……

そんなわけない


次回もおたのしみにー!

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