彼ら彼女らは、艦娘への愛と救国の意志を持った英雄たちである。
しかし、そんな提督の中にも一握りの無法者たちが存在していた。
注)変態提督が艦娘たちを困らせるお話です。
目の前に広がる大海原から香る心地良い潮風を五感のすべてを用いて感じながら私は思う。
「やはり燦々と輝く偉大なる太陽の熱に肌を焦がしてなお、我が肉体は輝いている!」
母なる大海の中心で思いのたけを叫ぶ。
「し、司令官、上ですっ!」
「だから、ついて来るなって言ったのよ、この変態司令!」
リラックスとサイドリラックスで大海の息吹を感じている私の頭上を飛び回るハエどもの接近を警告するもやし娘たちに親指を立ててサムズアップ。
「大丈夫だ、問題ない!」
リラックスから両腕を滑らかな曲線を描きながら天に掲げ、我が美しき上腕二頭筋をバンプアップ。
「ダブルバーイッ、セェェェップスゥ!!」
我が身の内に宿る大和魂の滾りが上空から降り注ぐ銃撃を受け止める
「ちょ、司令官! ポーズとってないで逃げてください!」
「もうそのまま轟沈しなさい、この変態!」
もやし娘たち、駆逐艦“吹雪”と駆逐艦“叢雲”がそれぞれの言葉で私を気遣うがそんなものは不要。
敵勢力の軽空母“軽母ヌ級”から放たれた艦載機による銃撃は、私の上腕二頭筋に弾かれて海へと堕ちる。
「その程度の筋肉で我が筋肉を撃ち貫けるとでも思っているのか?」
もちろん私の上腕二頭筋は無傷。
「……う、嘘っ!?」
「な、何なのよ、この変態はっ!?」
敵勢力の駆逐級や軽巡を相手に立ち回っていた吹雪と叢雲が唖然とした表情で私を見ている。
「ふ、私の筋肉に魅了されたか」
「んなわけないでしょ、この筋肉馬鹿!」
「というか、司令官はなんで無傷なんですか!?」
ピーチクパーチクうるさい小鳥たちに私の筋肉はまだ早いようだ。
「このような豆鉄砲など生温い! 君たちはコバエを叩きなさい」
「りょ、了解です……けど、司令官は?」
私の無敵の筋肉を目の当たりにしてまだ呆然としている小娘たちに指示を出しながら私は敵の旗艦に身体を横向きで見せながら突撃する。
「私は彼奴ら旗艦を殴り飛ばしに行く! サイド トラーイ、セェェップスゥ!!」
「し、司令官!」
「へ、変態!」
【 ■、■■■■! 】
我が筋肉美を魅せる突撃に吹雪たちだけでなく、敵勢力の深海棲艦どもも慄いているのが分かる。
敵旗艦と私の直線状に漂う敵を弾き飛ばしながら拳を構える。
「我が筋肉美を魂に刻み込んで沈むがいい!」
私の筋肉は大海原の潮風を裂き、砲撃を弾き、敵艦を薙ぎ払いながら敵の旗艦を捉えた。
砲塔を圧し折り、装甲を砕き、内部構造を貫き通した私の拳が敵艦をその暗き魂ごと吹き飛ばす。
「来世では良い筋肉であらんことを――アブドミナァル アァァンドゥ サァァァイッ!」
仄暗き水底に沈みゆく敵艦へ哀悼の意を示す。
「……敵艦、みんな逃げちゃいましたね」
「……深海棲艦より司令官の方が化け物ね」
私の愛は母なる大海よりも深い。
筋肉美を理解できない小娘だろうと敵性艦だろうと我が筋肉は等しく包み込む。
「ちょ、何で近づいてくるわけ? 酸素魚雷をぶち込むわよ?」
「し、司令官? どうして筋肉をピクピクさせながら近づいてくるんでしょうか?」
「何、我々の初陣勝利の喜びを熱い抱擁で分かち合おうと思ってな。それなのに君たちはなぜ後退する?」
快勝したら抱き合って喜びを示すのは、筋肉美を持つ者として当然のことなのだ。
「ふ、吹雪! 全力で帰投するわよ!」
「お、置いてかないでよ、叢雲!」
私に背を向けて鎮守府へ帰ろうとする吹雪と叢雲を背後から両脇に囲い込む。
「モストッ、マァァスゥキュラァァアー!!」
「「もきゃあああああ」」
密着したことで私の筋肉の脈動を直に感じさせることでこの娘らにも我がアガペーを伝えよう。
これが後に世界の常識を覆すことになる――提督型筋肉艦“漢督”の初陣だった。
さらに後、各地の鎮守府の提督や艦娘、果ては深海棲艦たちが声を揃えて残した言葉がある。
「こんな提督がいるか!」
単発予定です。