ソードアート・オンライン〜デュアル・クロス〜   作:阿良良木歴

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はじまりの街

少年はゆっくりと瞳を開けた。目の前に広がるのは中世ヨーロッパを彷彿とさせる石造りの街並み。髪を撫でる柔らかな風と暖かい陽射し。ヴァーチャルとは思えない光景と感触に、やっと帰ってきたと少年は思った。

 

感慨に浸ったのは一瞬。少年はすぐに行動を開始した。次々とログインしてくる新入り(ニュービー)を尻目に、街の外に向け走り出した。

 

「おーい!」

 

人の少ない路地裏を駆けていると、声をかけながら少年に並ぶ人影があった。

 

「お、キリトじゃん!やっぱ時間と同時にログインしたか」

 

「当たり前だろ。それにライガだってそうだろ」

 

「まあな。今度こそ、お前を抜いてやる!」

 

「返り討ちにしてやるさ」

 

走りながら、二人は拳を合わせる。二人――ライガとキリトはβテストの時からのライバルで、お互いに切磋琢磨し合った仲である。攻略した層は共に六層だが、先にボスを倒したのがキリトである為、ライガは負けたと思っている。故に今回はキリトより早く攻略しようと情熱を燃やしていた。

 

「おーい、そこの兄ちゃん二人組よ〜!」

 

二人の遥か後方から呼び止める声が響いた。少しスピードを緩めると、ようやく追いついた赤毛の男が息を荒げながら話しかけてきた。

 

「ハァハァ……アンタら早すぎだぜ。そのスピードと迷いない動き、βテスターだろ」

 

「そうだけど、アンタは?」

 

「俺はクラインっていうんだ!なあ、図々しいとは思うけどレクチャーしてくれねぇか?」

 

赤毛の男――クラインは両手を合わせてお願いのポーズ。キリトとライガは顔を見合わせるとお互いに苦笑し、

 

「OK。一緒にやろうぜ」

 

「武器は買ったか?まだならいい武器屋紹介すんよ?」

 

「恩に着るぜ!!」

 

クラインは満面の笑顔でキリトとライガの手を取るとブンブンと上下に激しく振った。大袈裟なリアクションにまた苦笑いした二人は、クラインを案内するために歩き出した。

 

 

* * *

 

 

「うわぁ!?」

 

クラインが間抜けな声と共に草原を転がる。その原因となったものは、巨体を震わせふんぞり返る様な素振りを見せる青いイノシシだ。その様子を見ていたキリトとライガは笑いながら、クラインに声を投げる。

 

「ははは!そうじゃないよ。重要なのは、初動のモーションだ」

 

「そうそう。ソードスキルさえ発動しちまえば、後はシステムがなんとかしてくれる」

 

「モーション……モーション……」

 

ブツブツと呪文のように呟くクラインに、ライガが更にアドバイスの声をかける。

 

「ブン回すんじゃなく、溜めを作ってスキルが立ち上がるのを感じたら後は身を任せてズパッっと」

 

「ズパッってよう……」

 

剛毅な顔を情けなく崩しながらクラインは、曲刀を肩に担ぐように構えた。深呼吸と共に腰を落としたクラインの曲刀がオレンジ色に輝く。

 

「おりゃあっ!」

 

気合いの乗った掛け声と共にクラインの曲刀が青いイノシシを切り裂いた。片手曲刀基本技《リーバー》が発動したのだ。青いイノシシは青い破片となり、ガラスが砕ける様な音と共に消滅した。

 

「うおっしゃあああ!!」

 

派手なガッツポーズと雄叫びを上げたクラインはライガ達の方に左手を掲げながら駆け寄る。ライガとキリトは苦笑しながらも、ばしんとハイタッチを交わした。

 

「初勝利おめでとう。まあ今のは、他のゲームじゃスライム相当のモンスターだけどな」

 

「えっ!?マジかよ。おりゃてっきり中ボスかなんかだと」

 

「ばーか。んなわけねーだろ」

 

三人は盛大に笑い合った後、今後について話し出した。

 

「どうする?勘が掴めるまでまだ狩り続けるか?」

 

「ったりめぇよ!……と言いたいいいてぇとこだけどよ。1度落ちてメシ食わなきゃなんねぇんだ。ピザの宅配、5時半に指定してっから」

 

「準備万端だな」

 

おうよ!と親指を立てたクラインはログアウトの為にウィンドウメニューを操作し始めた。

 

「ライガはどうするんだ?」

 

「オレはまだレベリングするよ。晩飯までまだ時間あるし」

 

「俺もそうしようかな。抜かれんのは癪に障るし」

 

「んだとコノヤロー!」

 

憎まれ口を叩きあいながら、談笑しているとクラインの焦った声が上がる。

 

「ありゃ?ログアウトボタンがねぇよ」

 

「そんな訳無いだろ。よく見てみろよ」

 

キリトはクラインに声をかけつつ、ウィンドウメニューを開く。手慣れた様子で操作し、ログアウトボタンがあるところまでたどり着く。が、

 

「あれ?本当だ。ログアウトボタンが無い」

 

ライガもその言葉で慌ててウィンドウメニューを開く。そして、二人と同じ結果に疑問の声を上げる。

 

「どういうことだ?バグか?」

 

「まさか。こんな重大なバグが発生してたら、サーバー側の信用に関わる」

 

「GMに問い合せても返答なしだし、どうなってんだこりゃあ?」

 

――リーンゴーンリーンゴーン

 

三人の疑問に答えるように、不気味な鐘の音が響き渡った。

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