ソードアート・オンライン〜デュアル・クロス〜 作:阿良良木歴
「ここがダンジョン?」
「そうだ。レベル自体はそこまで高くないが、安全のためにオレから離れるなよ」
東の外れ、鬱蒼と茂る森の最奥に神殿の様な入口が口を開けていた。ダンジョンに入る前に装備の点検をしていたライガは、ユウキからの質問に答えた。ユウキはユウキで早く潜りたそうにソワソワしている。
「そんなに焦るな。オレが欲しい装備は逃げたりしない」
「でも、他の人が先に潜ってたら取られちゃうよ?」
「ここは一番奥に祀ってある装備を取ると自動的に崩壊するようになってる。前回ここに来てたのはオレ1人。つまりは誰も潜ってない」
「でもでも、初めてプレーする人は見つけたら入ってるかもしれない」
「そうだな、このゲームがデスゲームにさえなっていなけりゃな」
「あっ!」
「ここは第一層の中で一番レベルの高いエリアだ。そんな一番奥の仰々しい入口のダンジョンに初見で入るやつはそうはいないさ。……そんじゃあ行くか」
「うん!!」
全ての点検を終えたライガはピクニックに行くような軽い足取りでダンジョンに足を踏み入れた。人工的だった入口とは一転、中はゴツゴツとした岩肌が露出した鍾乳洞の様になっていた。無数の別れ道が幾度と無く目の前に現れる。その中をライガは迷うことなく進んでいく。
「ねぇライガ、道はわかってるの?」
「一回行った場所なら道順くらい覚えられるだろ」
「ほぇ~。頭いいね~。ボク、もうどこの道から来たかわからないよ」
「オレに着いてきてれば大丈夫だ。それに帰りは転移結晶を使う」
どんどん奥に入っていく2人の前に未だにモンスターの姿は現れない。その事にライガは顔を険しくする。1度βテストをやっているとはいえ、レベルの調整などが行われていれば今の自分のレベルが安全なのかわからない。早くに出てきてもらった方が撤退もしやすく、様子見として安全だからだ。頭の中でそろそろダンジョンの中盤に差し掛かったなと考えた時、目の前にモンスターが現れた。犬が二足歩行しているシルエット、RPGではよく見るコボルトによく似てる。
「来たぞ!ユウキは少し距離を取って周囲を警戒してくれ!」
「わかった!ライガも気をつけてね?」
ユウキが離れたのを確認してからライガは腰に佩く刀を抜いた。キリトの片手剣とは違い両手剣扱いになるものの、両手剣よりも軽く素早い動きにも対応でいる為βテストから愛用している武器の一つだった。先手必勝と言わんばかりに突っ込んできたコボルトを軽くいなし、返す刃で胴を薙ぐ。敵のHPとレベルに目をやりながらライがは考察する。
(攻撃のアクション自体に変化は無い。レベル、HP共に前回と同様。ただ、防御力が少し上がっているか?それに普通は3匹、最低でもツーマンセルで動いてるのにコイツは1匹。たまたまなのか違うのか、これから調べる必要があるな)
考察を終了させるようにコボルトに最後の一撃を加え撃破する。刀を鞘に納め、ユウキの方を振り向いた時、目に飛び込んできたのはユウキの頭上の天井の張り付き、そのまま斬り掛かろうとするコボルトの姿だった。
「しまっ!?ユウキ上だっ!!」
「え?うわぁっ!?」
必死に足を動かしユウキの元へと向かうが、戦闘中にユウキとの距離を離されていたらしく間に合わない。ユウキが顔を上げた先には、コボルトが既に剣を振り下ろす体勢に入っている。完璧に一撃の入るタイミング。最悪の事態が頭をよぎった。しかし、
「わっ!っとと、エイッ!!」
「……は?」
コボルトの攻撃を紙一重で躱しながら剣を抜き、相手の着地から反撃する暇を与えぬ連撃。結果的にユウキは一撃も貰うことなく撃破、それもライガよりも短時間での撃破となった。
「お前、強かったのか?」
「失礼な聞き方だな~。確かにライガ程強くないけど、ボクだってそれなりに戦えるよ?」
「みたいだな。それにしても……」
「?どうかしたの?」
「いや、なんでもない。先に進もう、相手は強さ事態はβテストと変わっちゃいないが防御力と知能が上がってるみたいだ。周りの警戒を重視してくれ」
「わかった!」
ユウキの返事を聞いてからまた歩を進める。ライガは周囲に目を配りながらさっき言いかけた言葉を頭の中で呟く。
反応速度だけならキリトを上回っているんじゃないか、と。
***
「さて、ここが最深部だ」
「おお~!って、ボスとかいないの?」
「オレもそれはβテストの時疑問だったし、今回一番の不安材料だったんだけどな。まあ杞憂に終わって良かったよ」
ダンジョンの行き止まりに入口とは違ったデザインの神殿。その中の台座に蒼い極細の片手直剣と朱色の柄の槍が交叉する様に突き刺さっていた。
「これがライガが欲しい武器?」
「そうだ。つっても、欲しいのは槍だけで直剣はユウキにやるよ」
「えっ?いいの!?」
「ここまで付き合わせちゃったしな。それに今使ってるやつよりもこっちの方が軽いから使いやすいと思うぞ」
「……バレてた?」
「昨日の時点からな」
台座に刺さる槍を手に取り目線でユウキを急かす。慌ててユウキも直剣を掴み、掛け声をかけること無く2人同時に引き抜いた。途端にダンジョンが揺れ始め、神殿の外では崩壊が起こり始めた。
「それじゃあ帰るぞ」
「うん、ありがとう!!」
2人は転移結晶を使い姿を消した。その数秒後には、さっきまで2人が立っていた場所も崩れ落ち、完全にダンジョンは消滅した。
***
「本当にありがとね!これ物凄くしっくりくるよ!」
「そいつは良かった。でもまあ、オレのワガママに付き合ってもらっただけだからお礼はいらねぇよ」
ダンジョンを出てから数時間、武器の試運転をやり終えた2人は街へ戻っていた。適当に入った店で遅い昼食を食べながらユウキは未だ興奮した様子で喋っている。一方ライガはようやく人心地ついた様子でコーヒーを啜った。その言葉に、少し考える仕草をした後ユウキはライガに問い掛ける。
「でもライガって槍じゃなくて刀だよね?」
「オレは刀と槍をどっちも使うタイプだからな。ソロプレイじゃ状況に合わせて武器を変えれた方が良いってのがオレの持論」
「……ねぇ?ライガは基本的にソロでやってるの?」
「基本的にっつーか、ずっとだな。βテストからソロだし、今回もソロで行く」
「それなのに今回ボクと一緒にダンジョンに潜ったのって、ボクにあの直剣を渡すためでしょ?」
「……そんなことは無い。それならオレ1人で行ってそのままユウキに渡せばいい。今回は単純に安全マージンを取りたかっただけだ」
「それなら尚更おかしいよ。ライガより弱いボクを連れてくメリットなんて無いんだし。それに昨日の時点からボクが剣の重さに振り回されてるの知ってたって言ったじゃん?それを気にして、ボクにこの剣をプレゼントしたかった。ボクを連れてったのは大方、2人同時に引き抜かなきゃどっちもは手に入らない。ってとこかな?」
「……そこは素直に受け取っとけよ」
「素直にお礼を受けとんないライガが悪いんだよっ」
自分の計画を全て暴かれ、恥ずかしそうに椅子にもたれ掛かり顔を手で覆い隠すライガ。その様子が見た目とのギャップで可愛く写ったユウキは楽しそうな声を上げる。
「それでライガはこれからどうするの?」
「ん?ああ、とりあえず第一層のボスがいる近くの街まで行って攻略の目処を立てるつもりだ」
「そっか!じゃあボクも一緒に行くよ。あ、もう決定したからね!早く行こう!」
そう言って立ち上がり、店の外へと駆け出すユウキを呆然と見つめていたライガはため息を一つこぼし、重い腰を上げる。
「……強引だな~。まあいいか、たまにはな」
せめてユウキが仲間と仲直りするまでは一緒に居よう。そう答えを出し、ライガは店を出た。
更新だいぶ遅れました。ごめんなさい。
新しいの書き始めたり浮気が激しい作者ですが、これからも暖かく見守ってください。