絶望を払う者~狂気の神々vs愉快で〇〇な仲間達~   作:葉月華杏

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一一六話/???

???

 

 

「……………………?」

 

目を開けると、薄暗い場所に俺は立っていた。

周囲を見回すが、薄暗いままで光すらない場所だ。

何で、こんな所にいるのかわからなくて最初から思い出そうとする。すると、つい先程まで病院のベッドの上で愛する者達に囲まれ人生の終わりを体験していたはずだった。

 

「……はて?」

 

再度、周囲を見回し振り返ると背後の奥の方に明りを見付ける。それで、少しだけだけど安心した。

やはり、人は暗いだけでは不安になってしまうみたいだ。

俺は、誘われる様にフラフラと明るい方へと歩いて行く。

しばらく歩くと、自分がいる場所の全容が見えて来た。

明かりだと思われていた光は、通用口でそこを出るとテラスの様になっている。そこから、俺はファンタジー世界に迷い込んだような錯覚に襲われた。

一歩、薄暗い通路から外に出ると荒々しい風が吹き抜けて行く。それと同時に、俺は目の前の光景を疑ってしまった。何故なら、通路から一歩外に出たら空が見える高台に出るなんて誰が思おう。圧倒的な光景を前に、呆然と立ち尽くしているとある事に気が付いた。

 

「ってか、アレ……空じゃねぇだろう!?」

 

何て言うか、巨大なドームの中と言えばシックリ来るかと思う。この規模のドームを造る技術が、現代にあろうとは思いもしなかったが……もはや、その光景はファンタジーだった。

いや、一度【転生】というファンタジーを体験している身としても、そこから見渡す光景は正に幻想的と称せるモノだ。圧倒的過ぎるその光景に、俺は息をするのも忘れて見入っていた。地平線すら見えるソレは、どうやら何かの集合体らしい。良く目を凝らして見ていると、その集合体はこのテラスと同じ材質の様だった。

パッと見た印象は、木材。だが、手の感触から感じるソレは木材とかではなく、鉄やステンレスといった硬質的な感触。今まで触れて来た、どの物質にも似ているのに全く異なる感触をしている物体と言えば良いか……とても、不思議なモノだった。

そして、きっと同じ材質のソレに並べられているのは全て分厚い書物。自分が出てきた通用口に振り返れば、その左右の壁(?)にギッシリと書物の様なモノが並べられていた。視線を戻し、何かの集合体と思われていたソレを再度確認して、漸く何であるかを判別する。あれはきっと、底が見えないくらい続く本棚(?)と思われ。

スケールの大きさに、人類が造ったモノでは無いと判断し直す。ってか、本棚の塔みたいなモノも見える。

 

「はっ……はあ……いや、おかしいだろ!?どこの本棚だよ!?俺が知る限り、無限書庫より深いだろ!?コレ……」

 

地平線が見える程の書庫なんて、アニメでも見た事はない……と思う。漫画や小説で語られるソレと、目の前にあるコレとはスケールが違い過ぎだ。

というか、そもそも俺は何故こんな場所にいるのだろうか?つい先程まで、病院のベッドの上で愛する者達に看取られていたはずなのに……気が付いたら、地平線が見える書庫(?)に居ましたなんて、どこのファンタジーだ!?

 

「は……ははは。ヤベー……頭が、おかしくなりそうだ……」

 

常識の遥か右斜め上の光景に、正気を保っていられそうになかった俺はブツブツと独り言を呟き始める。

どれだけ、そうしていたのかはわからないが突然背後で『カタン……』という音がした。

ハッ!?となって、慌てて振り返ると……身長160センチ程の黒ッポイローブを着た少年が、開いた本を片手に立っていたのである。少年は、何故か俺と視線を合わせようとはせずにボソリと呟いた。

 

「漸く、目覚めたか……」

 

ボソリと発せられたはずの声に、凄まじい重圧を感じて足から力が抜ける様な……思わず、膝まで着いてしまいそうな感覚に襲われる。重苦しい重圧を放つ声に、俺は言葉を失ってしまった。見た目は少年なのに、彼が放つ雰囲気と圧し潰されそうになる重圧が見た目の年齢ではないということを語っている。

ゴクリ、と唾を飲み込む音が響いた。

 

「そう、緊張する程でもなかろう?」

 

「……………………」

 

口を動かすも、声は出なかった。

ヤバイ……。何がヤバイのかはわからないけど、目の前にいるあの存在は自分みたいな者が、軽々しく会ったり話し掛けたり出来る存在ではない気がする。

どっかのチビッ子が、【神】の事を【管理者】と呼んでいたけど、これは……この方は、アレ以上の存在の様な気がして軽々しく声を掛ける事は出来そうになかった。そこまで考えて、自分を【転生】させた【神】もここまで凄まじい重圧を放っていなかった事を思い出す。つまり、この方は【神】等よりももっと上の存在の様な感じなのだろうか?

 

「さて、君を呼んだのは他でもない……君を私の小間使いにする為だ……」

 

少年は重苦しい重圧そのままに、良くわからない事を言い出した。今の状況ですら飲み込めていないのに、更なる状況の追加に困惑の方が先に着く。

……こまづかい……って、何だ?

重圧も凄いが、何を言っているのかサッパリであった。

 

「小間使いってのは、使用人って事だよ」

 

「……はあ。使用人?……って、うわぁっ!?」

 

声が聞こえたので、隣に視線を向けると見慣れた学生制服に身を包んだ中学生くらいの少年が立っていた。

 

「聖光か……何をしに来た?」

 

「貴方が、人間の魂を呼んだのが珍しくて飛んできたに決まっているじゃないですか!こんな面白そうなネタ、早々無いですよ?」

 

セイビアと呼ばれた中学生は、ニヤニヤしながら重圧を放つ存在に話し掛けている。スゲー……あんな存在に、話し掛けれるなんてどんな度胸をしているんだ?

 

「ーーと。そう言えば、自己紹介はされました?三垓年も、ここに閉じ籠っているんです。人との対話法は、お忘れなのでは?」

 

……サンガイ?『ガイ』って、なんの事だ?

 

「む……なら、補佐をしろ。許す……」

 

「了解です」

 

そういうと、少年はクルリとこちらを向いて自己紹介を始めた。一礼をして、片手を胸に当てニコニコとした笑顔で話し掛けてくる。

 

「初めまして、俺は『ひじり せいびあ』と言います。気軽に、セイビアと呼んで下さい」

 

「せ、セイビア、さん?」

 

「呼び捨てで構いませんよ?で、あちらは……多分、『始まりの魔法使い』と言った方がわかりやすいですかね?」

 

へぇ……始まりの……ーーー。

 

「始まりっ!?始まりの魔法使いって……」

 

余りの驚きに、声が裏返ってしまった。

どっかのチビッ子が言ってた、【悪の組織】の総大将じゃないか!?驚きの余り、目の前にいたローブ姿の少年をマジマジと頭の先から爪先までジックリと見直して……最後に見た少年の瞳と視線が合ってゾッとした。

全てを凍てつかせる様な冷たい瞳が、俺をジッと見詰めている。それを見ただけで、俺は呼吸をちゃんと出来なくなってしまった。いや……心臓を素手で、握り締められたと表現すれば良いだろうか……余りにも、凄まじい瞳の輝きに命を奪われそうになる。

 

「はいはい。あの人と目を合わせちゃダメですよー?」

 

そう言って、セイビアさんが始まりの魔法使いとの間に割り込んできてあの瞳を遮ってくれた。

 

「あれはもう、人間の眼では無いですからねー?ちょっと、覚悟の無い子が見るのは止めといた方が良いかな?」

 

「はっ……はっ……」

 

呼吸が儘ならない。

ただ、視線が合っただけなのに……こんなにも、乱されるなんて思いもよらなかった。なんとなく、チビッ子がここから出て行った意味を理解する。

 

「…………答えを聞こう……」

 

「いやいやいや、速い!いや、早過ぎるでしょ!?まだ、何も考えられてないよ……この子。もう少し、時間を上げないと人権侵害になっちゃうよ?」

 

始まりの魔法使いの問い掛けに、セイビアさんが割り込んで来て返事の先伸ばしをしてくれる。確かにまだ、何も考えられてないので返事を聞かれても困るだけだった。

 

「……………………」

 

「ごめんねー?この人、コミュニケーションがスッゴイ下手なんだ。だから、良く考えて答えを出そうね?」

 

セイビヤさんが、始まりの魔法使いを抑えてくれるお陰で何とか思考が戻ってきた。そんな、なけなしの思考で考えるのは使用人契約の事ではなくて……。

 

「…………なんで、【俺】、なんですか?」

 

「ん?」

 

「他にもたくさん、【転生者】はいたでしょう!?なんで、俺、なんですか!?」

 

それが、一番の疑問だった。

ここに、召喚されたのは良い。

それは、問題では無いから……しかし、召喚されるのは俺でなくても良いはずだ。なのに何故、俺を召喚したのか訳がわからなかった。

 

「うーん。前提条件に当てはまる人物が、君しかいなかったんじゃないかなあ?」

 

「前提条件?」

 

「うん。普通にね……《神殺し》にスカウトされて来る者達もそうなんだけど。ちゃんと、その人生を楽しく幸せに全うした者が召喚されるんだよ。事故や殺人で、死んだりしたらアウト。自殺は持っての他。幸せな思い出をちゃんと作って、幸福に死んだ者だけが召喚される様になってるんだ……でないと、最終的に人間を憎んでしまうから……」

 

「人間を憎む?」

 

「うん。聞いてない?俺達の理念……人類の存続と発展。それを見守り、観測するのが俺達の理念だ。…………召喚に関しては、【鮮血の小悪魔】と面識があるだろう?その【縁】を使って召喚した。【縁】は、関われば関わる程濃くなって行くが決して切れるモノではないからね」

 

それは、チビッ子がずっと言っていたのでわかってはいる。だが、幸福に人生を終えるのとそれがどんな関わりを持つというのだろうか?

それと、【鮮血の小悪魔】さんとは一度会ったっきりでそれ以上関わってはいないけれど、一度でも会っていれば【縁】という名のパスが通った状態になるらしい。

なんて、無茶苦茶な……。

 

「まだ、疑問かい?じゃあ、君の大事な人達に危険が迫っているとしよう。君にはそれを退ける力があり、その大事な人達を救える。……だが、その大事な人達がいる場所の近くにはいない。さて、どうする?」

 

「そりゃ、何がなんでもその場所に行って護りますよ?」

 

何を、当たり前の事を言っているのだろう?

 

「うん。その気持ちが、必要なんだよ……でも、その気持ちは幸せじゃ無かったら生まれないよね?君が、大事な人達に幸せにして貰ったから護りたいと思えるんだ。でも、双夜みたいに不幸にされたら……滅んだって、構いやしないって結論になっちゃうんだよ……」

 

「……………………」

 

それは、納得の出来る話だった。

確かに、人類の【発展】と【存続】を主張するなら、人類が好きで好きで仕方がない者か……幸福に人生を終えた者でないとダメだろう。何かを護ろうとする心は、それが大事なモノだからこそ護りたいモノとなる。

チビッ子の様に、不幸にされたら滅んだって構いやしないって気分になっていたかもしれない。

 

「納得して貰った?じゃあ、他に疑問はあるかい?」

 

「使用人って、何をすれば良いんですか?」

 

「……彼を小間使いにする理由は?」

 

聞いていなかったのか、セイビアさんは振り返り様に問い掛ける。始まりの魔法使いは、目を閉じて呟く様に短く言った。

 

「如月双夜の監視だ……」

 

「監視?何故?」

 

唐突過ぎる発言に、思わず鸚鵡返しで聞き直していた。

 

「アレには、深過ぎる【闇】がある。それが、噴き出さないように見張っていて欲しい……」

 

「まあ、一応手は打ってあったりするんだけど……」

 

特殊なアーティファクトを、その身に封印してあるらしい。何となく、【十字架天使】のアレモドキだと理解した。

 

「それだけでは、不十分だ……」

 

「まあ、抑え込めて無いし。ねぇ?」

 

「監視して、見守ってやって欲しい……」

 

「期間は?」

 

「彼女の用意が出来るまで……かな?」

 

「そうだ」

 

「彼女?」

 

「ごめんねー?それについては、トップシークレット♡教えてはあげられないんだ。でも、双夜を貶める為の話とかじゃ無いから安心して?」

 

唐突に、情報をシャットアウトされてしまった。

まあ、トップシークレットなら仕方がないが大いに気になるモノである事は間違いない。

 

「彼の者が、自分の身を自分で護れる様にならなければ、双夜は《闇堕ち》するだろう……まだ、時間が掛かる……」

 

何故かはわからないが、セイビアさん達がチビッ子を気に掛けている事は良くわかった。

 

「アイツは、あんた達の事を嫌っていたぞ?何で、そんなに気に掛けるんだ!?」

 

「彼が、俺達の希望だからだよ」

 

「我等が望みを叶えられる唯一の存在。故に、必要なのだ……あの者が……」

 

今一、わからない事が多かったが……その【彼女】さんの用意が出来るまでなら良いかなと考える。

 

「ああ、ついでにいうと……双夜が、あの【魔法少女リリカルなのは】の世界でヤる事をやり終えるまでって条件を追加して良い?」

 

「え……あ、はい。まあ、それなら……」

 

セイビアさんの追加条件に、俺は二つ返事で了承する。

流石に、他の世界にまで着いて行くのは大変そうだったのでセイビアさんの提案は渡りに船だった。

 

「じゃあ、契約成立だね!つー訳で、彼を案内しても良いかな?」

 

「任せる……」

 

それだけ言うと、始まりの魔法使いは書庫の奥へと消えて行った。その姿が見えなくなって、唐突にドッと疲れの様なモノが襲って来る。

俺は、思わずその場にヘタリ込んでしまった。

 

「お疲れー。いきなり、あのレベルはキツかったでしょ?本当は、少しずつ慣らして行くんだけど……まさか、あの人自身が動くなんて考えても無かったから、慌てた慌てたw」

 

「はあ……それで、何処に案内してくれるんですか?」

 

「《神殺し》最強の女剣士の所♡~……ああ、下手なことを言うとバッサリ斬り捨てられるからね?気を付けよう!」

 

「例えば?」

 

「胸が無いとか、寸胴とか、大根足とーーー」

 

瞬間、セイビアさんが真っ二つに別れて盛大に血を噴き出しながら倒れて行った。

 

「ぎゃあああぁぁぁ!?」

 

セイビアさんが真っ二つになる瞬間、シャキン!という甲高い音が聞こえたので……何者かに斬られたというのはわかったのだけど、周囲を見回しても誰もいなくて頭がおかしくなりそうだった。

すると、目の前にあった死体がウネウネとした触手を伸ばして、真っ二つになった肉体を自動的に再生して行く光景を目にする。数秒で、セイビアさんは死んだ事実を無かったかのように起き上がり手を差し出して来た。

 

「うっかりしていたよ。まさか、空間断裂斬飛ばして来るなんて考えもしない事をする。……流石、最強の女剣士様だ。君もあんな風になりたく無かったら、口が裂けても言わない様にしなさい……」

 

「は、はい!ってか、あんな風に真っ二つにされたら死んでしまいます!!」

 

「大丈夫、大丈夫。君もう、人間じゃ無いから♪」

 

「はあ?え?ちょっと、それどういう……」

 

「じゃあ、こっちだよ~♪」

 

「ちょ、待ってください!セイビアさん!?」

 

こうして俺、禍焔凍真は人間ではなくなった。

いつの間にとか、色々考えていたのだけれど結論を出す前に俺は思考を放棄してしまう。何故なら、紹介された《神殺し》最強の女剣士は超が付くスパルタな女性だったからだ。それからの日々は、目まぐるしいモノとなる。

先ずは、体力作りと称した拷問に始まり……岩を足に括り付けて、滝壺に落とされたり湖に沈められたりした。

水を掻き分ける力だけで、水面に上がって来いだなんて無茶苦茶だ。神速を覚えていたから、体力云々の方は簡単に終了したけれど……気や、それに纏わる関連技術習得には時間が掛かった。魔法に至っては、防御術式を中心に簡単なモノだけを教えられる。

【魔法少女リリカルなのは】の世界で使われる魔法は、魔力とデバイスさえあれば使えるからと《神殺し》の魔法は教えては貰えなかった。

それに、俺自身知りたいとも思わなかったからだ。

教えられた魔力運用と、格闘・剣術・刀術だけで十分だと考えられたからである。霊力の成長も著しく、魔力・気諸とも必要以上に手を広げる必要もなかった。

式神の術式も見直されて、今まで以上に強い四聖獣を呼び出せる様になったし……至れり尽くせりである。

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

こうして、《神殺し》のスキルと能力の強化を果たした俺は、紅く輝く《時空石》というアイテムを渡されて【魔法少女リリカルなのは】の世界へと送り出される事となった。……なったのだけれど、俺は今……目の前の光景に尻込みしている。振り返れば、ずっとお世話をしてくれたセイビアさんが、それはもう超ニヤケ顔で俺を見ていた。

 

「さあ、飛び込むが良い!!」

 

「ちょ、嫌ですよ!?」

 

「折角、君の為に造ったんだ……さっさと、飛び込め!」

 

「造った!?って事は、別の方法があるって事ですよね!?なら、そっちが良いです!!」

 

「良いじゃん。ちょっと、精神的ダメージを食らう程度だろう?」

 

「それが嫌なんですよっ!!」

 

こんな、ウネウネと蠢くワームの群れの中に飛び込みたいとは思えるはずがなかった。しかも、話を聞く限りこれに飛び込んだら精神的苦痛を味わう事になるらしい。

それが、どんな苦痛なのかはわからないが……セイビアさんの性格を考えると、陰湿でネバネバした苦痛である事は容易に想像が付く。

ここで過ごす内に、この人が【組織】一のトラブルメーカーである事を知る。しかも、自他共に認める『最悪』と言われるレベルのトラブルメーカーらしい。

だから、ワームの群れの中に飛び込むのは避けたかった。

 

「じゃあ、こうしましょう!セイビアさんが、先に飛び込んでください。それでしたら、俺も飛び込みます!」

 

「……そんなの嫌だよ。後ろ掘られるじゃん……」

 

「後ろ掘られるって……俺だって、嫌ですよ!!」

 

なんて、恐ろしいモノを造るんだ!?この人は、面白ければ何でもするとは聞いていたけど……ゾッとする様な事を思い付く人だった。

 

「なら、飛び込みません……っていうか、ここからは行けないんじゃ無いですか?」

 

「チッ……全く、生意気になりやがって……」

 

「生意気になった訳ではないです。正当性を謳っているだけですが……」

 

「はいはい。じゃ、いってらっしゃい!」

 

「うわぁ!?」

 

ほぼ、無動作で人をワームの群れに蹴り入れようとするセイビアさん。危なかった……少し、気が付くのが遅れたら危うく後ろを掘られながら逝く事になる所だった。

床に倒れ込むようにして回避した俺は、振り返った所であるモノを目にする事になる。

それは、鮮血とおぼしき赤色。

 

「おらぁ!!」

 

「グバッ……あ、ああああぁぁぁぁーーーー……」

 

床に倒れていると、唐突に出現した赤色が勢い良く突っ込んで来てセイビアさんをワームの群れの中に突き落とす。

セイビアさんは、後ろを振り返りながらワームの中に落ちて行った。見れば、腕を組み胸を張る例のあの人の姿がある。あるぇ?スパロボの世界に行ったはずなのに、何でここに戻っておられるのか全くわからない。

 

「せ、【鮮血の小悪魔】さん!?」

 

「おう。帰って来たぜ!!」

 

何故だろう……助かったけど、全く助かった気がしない。

背後で、悲鳴を上げているセイビアさんよりも俺は目の前にいる赤色の小悪魔から目が離せないでいた。

目を反らせば、俺もセイビアさんの二の舞になる事はわかっている。だから、背後から迫る危機よりも目の前の赤色から目が離せなかった。

 

「チッ……新人イジメなんてカッコ悪いぜ?セイビア……まあ、わからないでも無いんだけどな……」

 

そう言って、赤色の小悪魔さんは俺の腕を掴んでズルズルとその場から引き摺りつつ離れて行く。

 

ーーあれ?もしかして、本当に助かった!?

 

疑心暗鬼に陥りつつ、助かったのかわからないまま俺は蒼く輝く門のある部屋へと連れて来られる。

 

「ここが、《時渡り》の門だ。何だ、僕に助けられた事がそんなに疑問か?まあ、善意で助けた訳じゃないから……気にするな。さて、君を助けた理由を話そうか……まあ、君に頼みたい事があったんだ。だから、助けた。それだけ……」

 

「頼みたい事……ですか?」

 

「ああ。兄上……この場合は、始まりの魔法使いと言った方が解りやすいか……が、双夜の監視を君に頼んだんだろう?なら、緊急時の緊急召喚をお願いしたい……」

 

緊急時の緊急召喚?

何を持って、【緊急時】とするのかはわからないけど【鮮血の】さんは緊急時に召喚して欲しいらしい。

 

「緊急時ってのは、双夜が理性を失うくらいブチギレた時の話だ。まあ、理性を失うくらいブチギレたら瞳が異様に輝くから見ればわかる。で、支給された高性能PCは持っているな?そのメールアプリの中に、【緊急召喚】というボタンがあるからソレをタップして欲しいんだ」

 

「えっと……メールアプリの【緊急召喚】……ああ、これですね?」

 

ウィンドを開いて、メールアプリを起動すると下の方に【緊急召喚】のボタンがあった。

 

「それを押せば、僕達がどんな状態でも召喚されてくる……風呂に入っていようが、任務中であろうが関係なく召喚されるから……」

 

「えっと……それは……」

 

「気にしなくて良い。双夜が、失われる事と比べれば些末な事だ。それだけ、如月双夜という存在は替えが利かない存在なんだって思ってれば良い……」

 

「はあ……」

 

「兄上が言っていなかったか?彼は、僕達の希望なんだって……その言葉通り、双夜は僕達の唯一無二の希望なんだ」

 

「……………………」

 

良くはわからないけど、ここにいる人達にとっては如月双夜という存在は余程大事な存在らしい。ならば……何故、如月双夜を一人で行動させているのだろうか?

 

「ま、色々思う事はあるだろうけど……君は、頼まれた事をしっかりやってくれれば良い。双夜の事は、任せるから任務を全うしてくれ……」

 

「あ、はい!」

 

「じゃあ、《時空石》を門に触れて起動すれば目的地に着くよ。頑張って……」

 

それだけ言うと、【鮮血の】さんは去って行った。

俺はその背中を見送った後、言われた通りに門に触れて《時空石》に魔力を注ぎ込んで起動させる。

瞬間、門から紅い光が天へ向かって伸び……驚いている間に目の前が暗転して行く。最後に俺が見たモノは、ワームまみれになったセイビアさんの姿。慌てた感じで、何かを言っているみたいだったけど……紅い光が眩しくて、目を瞑って開けた時には見慣れた世界へと戻って来ていた。

海鳴市が一望出来る……リインフォースが、消滅した丘の上。どうやら、初《時渡り》は成功したようだった。

少し安心して、俺は如月双夜を探し始める事にする。

この世界軸に導かれたという事は、ここのどこかに如月双夜が滞在しているという事だ。

丘を下って、俺は市街地の方へと歩き出す。

しばらく、道なりに歩いて行くと住宅街に出た。

キョロキョロと、周囲を見回しながら進み交差点まで来たところである事に気が付く。それは、普段であるならば人で溢れかえっているはずの街並みに人影すら無いって事だ。不思議に思いながら、歩みを速めると不意にプ~ンと魚や獣が腐った様な臭いがして足を止める。

何だろう?と思いながら、更に進み角を曲がった所で俺は地獄の光景を目にする事になった。

そこで、俺が見たのは……一心不乱に、何かに群がる人々の姿。パッと見た感じでは、何かを探しているようにも見えたのだが……ソレを認識した瞬間、俺は一歩足を引いていた。

何故なら、その何かに群がっている人々は……誰もが、ちょっと俺の持つボキャブラリーでは言い表せない容姿をしていて、一心不乱にナニかを貪り食っているのだ。

ただ、幸運だったのは……使い古された言葉に、その容姿をした人々を一言で解りやすく説明出来る名称がある事を知っていた事だろう。全世界共通認識名称……所謂、【動く死体】……もしくは、【ゾンビ】と呼ばれるモンスター。

全く、この状況を作り出した理由は理解出来ないけれど……海鳴市は、リビングデッドが徘徊するリアル・バイオハザード・ワールドと化していた。

一目で、ヤバイ事がわかるソレに俺が取った行動は……迦楼羅を抜いてセットアップし、安全圏である空へ逃げ出す事だ。もう、何がなんだか訳がわからなかったけれど俺が置かれている状況がヤバイ事だけは良くわかる。

 

「何なんだ!?コレッ!!」

 

一体、何が、どうして、こんな状況になったのかはわからないけど……これが、何らかの神様特典によってもたらされた事態である事だけは理解出来た。

流石に、この状況を作り出した人物が何を目的として、こんな事をしているのかわからないけど……この状況が、異常事態である事は考えなくてもわかる。

 

「あー……ああ。あぁー……」

 

多分、この状況を作り出した人物に取っても、これは想定外の出来事では無いだろうか?何とか冷静になった俺は、空から市街地を見回して状況把握に勤める。

だが次の瞬間、ピンクの極光が海鳴市に落ちて来て俺をも呑み込んで全てを薙ぎ払って行く。それが、誰かが穿ち放ったスターライトブレイカーである事は察しが付いた。

 

ーーちょ、マジで止めてぇ……。

 

そんな事を思いつつ、俺の意識は暗転して行った。

 

 

……………………。

 

 

そして、次に目を覚ますと……海鳴市は、薙ぎ払われる前の状態に戻っていて……人々もゾンビではなく、普通の人間でいつも通りの平和な日々を謳歌している。

 

「……………………」

 

そして俺は、道端に大の字で倒れていて周囲の人々から迷惑そうな白い目を向けられていた。

ヤバイ。泣きそうだ。そそくさと起き上がり、その場から足早に立ち去った俺は精神的に大きなダメージを受ける。

こんな仕打ち……酷い。意識的にヤったんじゃ無いにしても、SLBで意識を刈り取ってそのまま放置だなんて……。

リインフォースが、消滅した丘に戻ってきた俺は再度《時空石》に魔力を注いで【門】を開ける。きっともう、如月双夜は……この世界軸にいないだろうから泣く泣く俺は《時渡り》を実行に移した。

合流できる日が、何時になるかはわからないが……必ず、合流して文句の一つでも言ってヤらなければ気が済まない。

 

「必ず、追い付いてやるっ!!」

 

目標を新たに、俺は《時渡り》を実行した。

 

 

 

 

 

 

 




いきなりだったから、別のお話がUPされたのかと思われたと思いますが場所が違うだけでした♪
零次元・セフィロト……ユグドラシルにある、図書館……ではなく【始まりの魔法使い】の『書斎』です。ドーム状の施設内にある、地平線の見える『書斎』なんて普通は、ありませんけどね!!

鮮血のは、スパロボ終わらせて来たのではなくアンドロイドに任せて戻って来ていたけだねw
しかし、案内人がセイビヤとかw組織一番のキチガイが来てしまったw凍真が、ワーム(触手)の群れに飛び込むのかで迷ったけど……【鮮血の】で回避しましたよ?w
因みに、【鮮血の】は時間跳躍して戻って来たんですよ。次の世界に行くまでの、束の間に凍真を助けたって感じです。

誤字・方言あれば報告をお願いします。
m(_ _)m

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いつも読んでくれる方々に感謝を……。
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