絶望を払う者~狂気の神々vs愉快で〇〇な仲間達~   作:葉月華杏

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一一八話

双夜

 

 

気が付くと、見知った天井が目に入って来た。

月村家にある、天井から真っ白な布が吊り下げられているタイプの天蓋付きベットの上に寝ている様だ。

こう、何度も似た様な事ばかり起こると、段々嘆くのも馬鹿らしくなってくる。

それにしても、何で俺はここにいるのだろうか?

さっきまで、神崎と翼と一緒にいたはずなのだが……と、経緯の記憶を辿って行くが、今一良く覚えていない。

何か、とても怖い体験をしたような気がしたのだが?

ふと、視線を上から左下に落とすと黒化すじゅかママがいた様な気がする。ガバッと起き上がって、ベットの周辺を確認するが黒い人影は愚か人っ子一人見当たらなかった。

ホッと胸を撫で下ろし、ベットから降りるとトテトテと部屋の扉の前まで来る。以前は、ここを開けるとファリンが歩いていた訳だが、出来るなら誰もいない事を祈りつつ恐る恐る開けた。

当然、そこにファリンはいなくて廊下の先にも人影はない。反対側も確認して、俺はコソコソと移動を開始。

おや?何で、俺はこんなにもコソコソしているのかな?

色々と疑問に思う事はあるけれど、今はこの魔境から逃げ出さなければならない。

玄関のあるホールまで来て、漸く人の姿を確認する。

後ろ姿から見て、すぐに判別がついた。ノエルの様だ。

ここは、機械特有のセンサー等に気を付けてそれ専用のステルス魔法を展開。『いざっ!』と意気込んだ所でアルカリアの裏切りに遇う。

 

「はい、マスター逃げちゃダメですよ?」

 

「あら、起きたの?」

 

「あ、師匠!お目覚めになられたん……って、なんで俺だけそんなに睨むんッスか!?」

 

後ろから、羽交い締めにされて逃げ出す機会を失う。

全力全開で、魔力強化を自身に施せば逃げられなくも無かったが、その前に会いたくなかった人が現れてしまった。

 

「双夜!」

 

「に゛ゃ!?……しゅ、しゅじゅかママ……」

 

パッと見た感じ、黒化は治まったみたいだが……俺を拉致った挙げ句、幼児後退化を強要してきた人だ。今すぐにでも逃げないと、また任務に支障をきたしてしまう。

だから、一歩身を引いた。

 

「あ……ま、待って、双夜っ!!」

 

「あぅ……」

 

すじゅかママが一歩前に出て来たから、俺は慌ててアルカリアを振り払い近くに寄って来ていた翼の後ろに隠れた。

 

「そ、双夜……」

 

「うっ……ううっ……」

 

悲しそうな、ショックを受けた様な声が聞こえて逃げられなくなってしまう。どれだけ、怖くてもすじゅかママは俺にとって拾ってくれた恩人だ。何処の誰かもわからない俺に良くしてくれた人なのである。無下には、出来ない。

悲しそうな声を聞いた以上、その悲しみを取り除いてあげたいと思うのは仕方のない事だ。

それに、かつて俺を救ってくれた養母が俺にある事を言ったんだ。元々は、俺が救ってくれた恩をどうしたら返せるのかわからなくて聞いたのが始まりだったけど。

病室のベットの上で、幼い俺を優しく介抱してくれるあの人に『どうすれば、このオンを返せる?』と質問した。

まだ、初期の病院生活で自力では動けなかった頃の話だ。

子供心に、助けてくれた人の力に成りたいと考えた結果だろう。例え、ベットの上から動けない状態であってもあの人から貰ったモノを少しでも返したかったんだ。

 

『オレ、いっぱいいっぱい幸せになった。だから、ソレくれたアンタに返したい』

 

自分が得た、たくさんの幸福を言ってどうしたら良いのかを問う。だけど、養母は苦笑いを浮かべるだけで答えてはくれなかった。それでも、しつこく問うと……『私は、十分幸せだよ?君と、私の娘が元気でいてくれるなら……それだけで十分だよ!』と答えが返ってくる。

だけど、そんな答えが欲しかった訳ではない俺は別の答えを求めて何度も食い下がった。

 

『オレは、雫さんが喜んでくれる事がしたいんだ!!』

 

そんな、押し問答が続き根負けしたあの人……雫さんは、俺にとってのとんでもない事を口にした。

 

『んー。だったら、私以外の誰かにその優しさを分けてあげなさい』

 

『え……?』

 

『私が、君にあげた優しさをね……困っている誰かに分けてあげるの……』

 

『雫さんは、オレがそうしたら喜んでくれるのか!?』

 

『ええっ!だって、私があげた優しさが誰かの為になるんだよ?すごい事だと思わない?』

 

あの人は、胸を張って誇らしそうにそう言った。

 

『ん。わかった……困っている人には、優しくする!』

 

そう、俺はその言葉を心に刻んだ。

あの当時の状況を今考えると、かなりの無茶振りである。

治る見込みなしで、長くはないだろうと医者が匙を投げた俺にそんな事を言ってのけるんだから。

その言葉のせいで、俺は厄介事に首を突っ込んで行く訳だが……今思えば、俺の人生はあれで決まってしまったのかもしれない。当人は、良い事を言ったつもりなんだろうけど……実行する方の身にもなって欲しかった。

 

「って、どうしたのよ?何で、床に寝転んでいるの!?」

 

「……………………ノーコメント…………」

 

現実逃避に走ったつもりが、思い出にバッサリ斬り捨てられる事になろうとは思わなかった。

 

「雫さん……酷過ぎるよ……」

 

「ああ、現実逃避が現実直視になったんですね……」

 

「雫さんって?」

 

「マスターが、本物の幼児の頃に誘拐をした犯人です」

 

「はあ!?」

 

「それじゃあ、伝わらないッスよ!?ちゃんと、師匠を虐待していた両親の元から連れ出した人って言わないと!!」

 

「あ……ああ!……でも、何で今そんな事を?」

 

「現実逃避しようとしたのではないですか?」

 

「成る程。って、そんな事してないで、現実を直視しなさい!先ずは、はい!!」

 

翼にグイッと押し出されて、俺はすじゅかママの前に躍り出た。見上げれば、少し怯えた様な表情のすじゅかママが立っている。

 

「そう言えば……すずかさんも今回、マスターを誘拐された訳ですが……雫さんと違って、私利私欲の為でしたけど。そんなに子供が欲しいなら、その辺にいる方にお願いして子種をいただけば良かったモノを……」

 

『何て猛毒を……』

 

「アルカ、お前ちょっと黙ってろ……つーか、この世界の事を調べて来いよ!?何でまだ、こんなところでサボっていやがるんだ!?」

 

「おおっと、やぶ蛇になってしまいましたね……では、使い魔の統括権をいただきます……」

 

「おう。あ!【次元消滅術式搭載型爆弾】もあるかもしれないから、念入りに頼むぞ?」

 

「はい。心得ております……では……」

 

アルカリアは、丁寧にお辞儀をすると消えていった。

 

「ふぅ。ん?……そういやぁ、神崎。聞き忘れていた事何だけど……お前の世界軸で、EP事件起きた?」

 

「は?EP……エクリプス事件ですか?だから、起きてないって言ってるじゃないッスか?」

 

「……込みだったのか!?じゃあ、翼の死亡って僕の?」

 

ヤバイ。何がヤバイかって?神崎の記憶が、全く変化していないって事は俺の改編が折り込みだった可能性が出てきたって事だ。つまり、テスタロッサ版《時渡り》がまだ開発中である事を意味しているのがヤバイ。

アリシア、何度俺の手を煩わせたら気が済むのだろうか?

段々、俺自身の記憶を封鎖した方が良くなって来たぞ?

だからと言って、平行世界へ行かれると平行世界の【重なり消滅】の危機があるし……失敗したら失敗したで、『外界』から厄介事の種を取り込む事になるからやっぱり危険な行動になる。

 

「師匠?」

 

「いや、また後にするよ。今は……」

 

今は、目の前にある問題から着手する事にする。

即ち、私利私欲に走ったすじゅかママだ。

前回、会った時は変な別れ方をしたもんだから黒化させたままだったけれど、アルカリアの態度を見る限り色々と辛辣に当たったのだろうと推測される。

だからこそ、すじゅかママは本来のすじゅかママに戻り暴走していた事を反省しているのだろうと考えられた。

だが、その後の対応が全くされていないので俺に丸投げしたと思われる。全く、手間の掛かる事を……。

 

「すじゅかママは、僕に意地悪したかったの?」

 

「え?……そ、そんな事しないよ!?」

 

「でも、自分の為に僕を幼児後退化させようとしたんだよね?ちょっと、ショックかな……」

 

「あうっ…………」

 

「だって、そうでしょう?知らなかったのならまだしも、ワザと幼児後退化させて……自分の寂しさをまぎらわせようとした訳なんだから。言い逃れは出来ないにょ……」

 

「そ、それは……」

 

「そりゃあ、知っていると思っている人達が『見た目だけの存在』で中身や記憶が違っているのも知っている。だけど、だからといってその寂しさを『知っている人』にぶつけて晴らすのは違う事だよ?」

 

「……………………」

 

「ママ達やあの変態が、様々な平行世界で『絶望して、自分の将来や未来を諦めた』自身に憑依する現象が確認されている。でも、それは僕の邪魔をする為なんかじゃ無いはずなんだ!この現象は、ママ達に対する救済処置なんだと僕は思う……まあ、僕が思っているだけで本当は違うのかもしれないけれど……それでも、そういう希望があったて良いはずなんだ!!」

 

「双夜……」

 

「師匠……」

 

「……………………」

 

「だから、寂しいからって自分を見失わないで欲しい…………って訳で、僕は行くよ?」

 

『うぉい!!』

 

少し、しんみりとした空気が流れる。

だから、それを吹き飛ばすつもりで俺は『逃げ』の発言をした。その発言をするのと同時に、神崎と翼から『感動を返せ!』的なツッコミが入る。だから、冗談だって。

 

「双夜っ!……この世界の事なら、少しだけかもしれないけど私でわかる事なら教えられるよ?」⬅必死

 

「……………………」

 

「師匠。ここは、月村さんの御言葉に甘えましょう!」

 

「ここで、情報が得られるなら手間が省けるじゃない。ほら、行くわよ?」

 

「ううっ……」

 

「拠点も必要ですよ?ほら、ここの庭先でも借りれれば万々歳じゃないですか!!」

 

「…………ユーリ。いつまで、紫天の書の中で様子見してるのさぁ!?ほら、出番だよ!?魄翼で、神崎を握り潰してっ!!」

 

「え?……良いんですか?」

 

『お前(あんた)、何やったんだ(の)!?』

 

「何もやってません!?無実です!!」

 

「え……でも、超乗り気なんだが……」

 

「ユーリにしては、珍しいわよ!?あんたが、気が付いてないだけで何かしたんじゃない?」

 

「潔白です!!ちょ、月村さんまで『疑惑!』な目を向けないで下さい!!」

 

「え……あ……えっと、神崎大悟くんだよね?」

 

「え?あ、はい、そーですが……あ、何か嫌な予感が……」

 

「私に、『すずかは、俺の嫁だ!!』って言ってた……」

 

「ゴフッ……」⬅精神ダメージ9999

 

「暗黒歴史再来ね!!」

 

「悪夢の黒歴史。ママ達に会う度に、神崎が吐血する結果に……え、神崎くん。そんなに、嫁が欲しかったの?でも、ごめんね?君、もう……結婚出来ないから(笑)。あ、なんならサキュバス呼ぼうか?どんな変態でも、嬉々として食ってくれるよ?」

 

「サキュバス?」

 

ちょっと、イラッと来たので吐血(演技)して倒れている馬鹿をペシペシと物理的に叩きながら言葉でもディスっておく。というか、何故【転生者】はアニメの存在を『嫁』等と称するのだろうか?転生し、現実となった『今』であるならばわからなくも無いが……生前とか意味不明である。

まあ、ロック・ウォーの例もあるので抵抗とかは余り無いけど。

 

「ハーレムが、作りたかったんだってさ……」

 

「ハーレムッ!!…………男の子ねぇ……」

 

「ハーレムですか?」

 

いつの間にか、出現していた忍がニヤニヤしながらこちらを見ている。というか、男の子だとハーレムを考えるのは当たり前なのだろうか?

ジィーと恭にぃを見ていると、こちらに気が付いた後しばらくしてから首を横に振っていた。

 

「タイムセールやバーゲン見てからも、ハーレム言えたら強者だよね!!」

 

「タイムセール?」

 

「バーゲン?」

 

「…………恐怖の時間ですね!」

 

恭にぃが、少し青くなっているので意図は伝わったもよう。ただし、忍とすじゅかママは首を傾げているので伝わっていなかった。瞬間、ニヤリと浮かべそうになった邪悪な笑みを子供らしい笑顔に変えて忍とすじゅかママに進言しておく。

 

「すじゅかママ、わからないのなら……恭にぃに聞くと良いよ?どうやら、正確に伝わったみたいだから……」

 

「なっ!?」⬅驚

 

「そうなの恭也?」

 

「え……あ、いや……」⬅困

 

「にゃはははは」

 

「???」

 

そこで、ハッキリと告げられないのが恭にぃである。

ほら、首を傾げて可愛らしく『?』出してる忍に言ってやれば良いんだよ。おばちゃん級の娘達が、暴徒と化したハーレムがどれだけ怖いかを語れば。 

 

「何時かは、必ず通る道順だ。その時になって、絶望するのも良いんじゃないか?まあ、僕にはただの恐怖体験でしかないけどね……そう言えば、神崎に負けたんだってね。武器を持ってたのに、素手の神崎に……」

 

「……彼は、とても強かったからな……」

 

「そぉう?ウチの弟子が、とても強かったんだね?……でも、掠り傷負っちゃダメだったんだろう?テオルグ、ラヴォルフ……よろしくぅ~♪」

 

『はい、お任せを!』

 

「嫌だぁ!!まだ、死にたくないんだぁ!!」

 

「暴れるな!さあ、修行の時間だ!!」

 

「そう言えば、まだ完全に使いこなせてないのに【岩鋼二式《金剛》】を使ってましたね。ちゃんと、合格ラインを超えてからでないと変な癖が付くんですよ?そちらの矯正もしてしまいましょうね?」

 

「あーーーーーー……………………」

 

神崎は、足首を二人に捕まれドナドナと連れて行かれた。

余りにも、魔法適性のない神崎は最近『気』の訓練をさせられているらしい。まあ、魔法習得は時間が掛かるモノだから仕方がないけど。とは言え、魔力操作だけに飽き足らず『気』にまで手を広げるとは……どんな化け物になる予定なのだろう?

 

「目指せ、恭にぃノーダメージ撃破!!」

 

「流石にそれは、無理なんじゃないかしらね?」

 

「残念だけど、さっきの奴等……テオルグやラヴォルフ。それに、僕も可能だよ?」

 

「ほぉう……」

 

「じゃあ、殺ってみようか?これから、僕が恭にぃを攻撃するから全力で防御してね?それで、恭にぃが最後まで立っているか僕を撃破したら僕の負け。逆に、恭にぃを撃破したら僕の勝ちだ……OK」

 

「良いだろう」

 

「じゃあ、誰か合図をよろしく!」

 

「それじゃあ、このコインがテーブルの上に落ちたら開始よ?床は、カーペットがあって音も鳴りそうにないし……」

 

「OK。問題ないよん♪」

 

「ああ。それで構わない……」

 

「そう。じゃあ……」

 

翼が、コインをテーブルの上で弾く。

コインが、真上に跳ね上げられてゆっくりと落ちてきた。

その時点で、俺は神速へと移行。その上で、ゆっくりと普通の動きになるようにしつつチラッと恭にぃを見る。

すると、俺の方に油断なく視線を向けていた。

それを確認した俺は、恭にぃの評価を下げる。

試合前に相手を見続ける行為は、《神殺し》達の間では自殺行為とまで言われているからだ。

基本的に神速で戦う《神殺し》は、仲間内で決闘をしても一瞬で勝敗を付ける事が多い。理由は簡単。神速同士での戦いになるからだ。スピードが大体同じならば、後は個人の経験値や技術量によって勝敗が決まる。他は、運?

故に、試合前から相手を見ていると相手の姿が視覚に残ってしまって動いても直ぐにはわからず、その結果負ける事がある。だから、試合が始まるまで相手を見ない。

視線を反らしたり、別の事をして視線を向けない等の対策を講じている。だけど、相手の位置と気配・魔力気配はガッチリ確保して置くのが《神殺し》達の間では当たり前だった。魔力波レーダーもみんな習得してるし。

その中でも、特に《神威》が使える者には視線を向けてはイケない。何故なら、絶対的死角扱いであるからだ。

神速の神速、その先の奥義たる《神威》では視覚に残る残像度は高い。

 

《キィン!》

 

テーブルの上に落ちた硬貨が、音感の高い金属音を鳴り響かせる。

 

「……………………」

 

「おっと、と……てっ!」

 

踏ん張り切れずに、俺は尻餅を付いてしまった。

やっぱり、小さいこの身体では戦闘に向かない様だ。

立ち上がり、ポテポテとすじゅかママの元へ歩み寄る。

 

「え?あれ?恭也?どうーーー」

 

意味がわかっていない忍が、恭にぃに駆け寄りその体に触れるとゆっくりと恭にぃは傾いて行き倒れてしまった。

 

「え?ちょ、きょ、恭也!?」

 

神速で、恭にぃの背後へと回り込んで意識を刈り取り元の場所へと戻った……訳なんだが。まあ、踏ん張り切れずに尻餅付いでしまう。

 

「……嘘っ……恭也が、こんな小さな子に負けた?」

 

「神速使い同士の戦いに置いて、相手を最初から見続けるのは基本的に命取りなんだよ。さて、恭にぃが寝ている間に忍……悪戯をしようじゃないか!!」

 

「い、悪戯!?」

 

「パンパカパーン!悪戯専用薬品《アヴァフーラ》!!別名、一発必中の秘薬!!何が、一発必中なのかと言うと……これを飲んで、男性とヤると…………妊娠します!」

 

「是非、いただくわ!!」

 

即答だった。

先程までの驚愕もそこそこに、一発必中妊娠するという薬品の方が恭にぃよりも優先順位が上になったらしい。

まあ、わからないでもないので深くは突っ込まないけど……俺は、恭にぃの首を絞めてトドメを刺した形だ。

高町恭也敗れたり!完全勝利だった。

 

「ちょっと、そんな事して良い訳!?」

 

「敗者に慈悲はない!」

 

「そうよ。恭也は、負けたの。敗者は、勝者の言い分を聞かなければならないのよ!!」⬅w

 

「…………まあ、良いけどね……それで、それ渡すの?」

 

「渡すよ?ついでに、一つお願いが……」

 

「お願い?」

 

「軒先貸して下さい!」

 

「……軒先だけで良いの?部屋くらい貸せるけど……」

 

「軒先で問題ない。翼は、部屋の方が良い?」

 

「秘密基地を設置するんでしょう?なら、そっちの方が快適だわ……オーバーテクノロジーの塊だし」

 

「って訳で、軒先で良いです!!」

 

「そう……後で、見せて貰っても?」

 

「いーよ♪って事で、拠点GET!」

 

ヒャッホー!っと、庭に飛び出て屋敷の外周に沿って移動。手頃な場所に長方形の箱を設置して、魔力を流し込むと長方形の箱が消えて階段が出現した。

 

「へぇ……便利なモノが、あるわね……」 

 

忍の言葉を聞きつつ、階段を下りて広間にあるソファーにダイブした。何時もの弾力と、包み込むようなふんわり感が俺を包み込んでくれる。このまま、眠ってしまいたいという欲求を跳ね退けて起き上がりソファーに身を預けた。

 

「それじゃ、すじゅかママ。話を聞こうか?」

 

「一緒しても良い?」

 

「…………嫌にゃ……」

 

「え?どうして……!?」

 

「何となく?背後や隣にいられたくないかな?」

 

「危機感知能力が、危険を知らせてるのね……」

 

「ちょ、翼ちゃん!酷いよ!?」

 

次元航行艦での生活の中で、真黒に歪んだ愛情を披露してくれたすじゅかママ。また、『ハァハァ、カワイイヨ。ソウニャタン…ワタシのソウニャタン…』と壊れた様にユラリ…ユラリ…と歩み寄る様を見たい訳じゃない。

ここには、アリちゃママも最強のなのはママもいない。

身代わりに出来そうな八神も、チャ姉もいないので出来るだけすじゅかママの黒化は避けたかったが……今は、身の危険を感じるのでちょっと避けておいた方が良いという判断だ。前みたいに、『ウフフ,ソウニャタン。ハァハァ……ソウニャタン。ペロペロシタイナァ…一緒ニ,オ風呂入ッテ,ペロペロ…ペロペロ…』等と恐怖の時間を作る必要もない。

 

「兎に角、状況を教えてくれるんだろ?なら、早く教えてよ!別にこっちは、月村家の敷地内じゃなきゃイケない訳じゃないんだから。また、神社の軒先ででも良いんだよ?」

 

「ううっ……じゃあ、異変だよね?えっと、アリサちゃんがアリサちゃんじゃ無くなっちゃったかな?」

 

「は?アリちゃがアリちゃじゃない!?」

 

「うん。何時だったか、突然人が変わっちゃったみたい。ああ、これはなのはちゃんが言ってたんだよ?私は、その後で直ぐ『私』になったらしくて……今一、わからないんだけど……」

 

すじゅかママが、すずか本人では無いと言っているのに忍がノーコメントを貫いている。

不思議に思ったので、訊ねる事にした。

 

「…………あれ?忍、その事を知ってた?」

 

「知っているわ。すずかも、それまでとは変わってしまったもの……だから、本人に直接確認したわ」

 

「あー……じゃあ、すずかがすじゅかママになった理由に心当たりは?」

 

「……この現象に、理由があるってこと事態初耳よ?」

 

「ふむ、そりゃそうか。まあ、簡単にいうとすずか本人が絶望して将来を諦める様な事になると、すじゅかママが自分に上書きされるみたいだね……」

 

「絶望して……そう。そういうことだったのね……ええ。すずかが、ある事に絶望して未来を諦めたというのであれば……心当たりがあるわ……」

 

「聞いても?」

 

「すずかが、9歳くらいの頃に氷村遊っていう……」

 

「ああ、あのボケな。二、三度、平行世界で関わったよ。拷問したりもしたねぇ……最終的に、自我を失っちゃって白心状態になったんで、綺堂さくらって子にのし付けて返しておいたよ?」

 

サキュバス達に、寄って集って食われた挙げ句……どうも、サタンに心を奪われてしまったらしい。

惚れた腫れたではなく、言葉通りの意味で取られた訳だ。

あれをされると、正に『肉人形』と称される状態になる。

二度と、生物らしい事は出来なくなるので要注意だ。

 

「……………………」

 

「ハクシンって?」

 

「心を失うのではなくて、完全な意味で空白になるんだよ。多分、二度と自我を得る事も人として再誕する事もないだろうね……正に、『肉人形』だ。」

 

「……………………」

 

「文句は、僕の影の中に住んでる魔王サタンに言って欲しい。気が付いたら、氷村遊の心を取り上げてたんだ……ああなると、二度と氷村遊に心は宿らないから、綺堂 さくらは苦労したんじゃないかなぁ?」

 

「心が宿らないって?」

 

「だから、市販されてる人形があるだろう?あれと、同じになるんだよ人間が。人形は、食事もしないし生理現象も起きない……まあ、それと同じになるんだ。生体反応はあるんだけど、それだけのモノに成り下がるかな?」

 

「『肉人形』って、そういう意味な訳!?恐っ!それ、物凄く恐っ!!」

 

『……………………』⬅月村家一同

 

翼が、得体の知れないモノを見るような目を向けてくるけど気にせ忍を促す。

 

「……遊が、すずかとアリサちゃんを誘拐したのよ……何とか、二人を無事に助け出せたんだけど……アリサちゃんに、すずかが吸血鬼だってバレちゃってね?」

 

「ああ、成る程。拒絶されたんだ……」

 

「ああ。だから私は、絶望して【私】になっちゃったんだね……うん。何となく、わかってたかな……アリサちゃん、私に対してだけは妙に他所よそしかったもの……」

 

「ふーん。アリちゃママかぁ……それ以外は?」

 

「……本当に、私達が吸血鬼だって知ってるのね……」

 

「???何を今更……」

 

「ちょ……この世界では、今初めて聞いた事よ!?」

 

「ん?ああ、そうだったね。うわービックリー!」

 

「ビックリ要素皆無ね……ってか、貴方に取って吸血鬼って珍しい生き物なのかしら?」

 

「猛獣区……ティラノサウルスが、飼育されてる区画で野良猫を見掛ける方が珍しいんじゃね?」

 

「ティラノサウルス!?どんな状況よ!?」

 

「いや、僕が所属してた【組織】では……普通にティラノサウルスが追い駆けてくるんだよ」

 

「ちょ!?ティラノサウルスに追い掛けられるの!?」

 

「まあ、僕の場合は……目が合った瞬間に、逃げられるけど。前に逆追いしたら、超必死に逃げるんで面白くなってヒャッハーしてたら、そこを管理してる人に怒られた……」

 

『……………………』

 

微妙な沈黙が、広間に充満する。

 

「……まあ良いや。それで、アリちゃが別人で吸血鬼である事を拒否されたすずかがすじゅかママになったんだね。他には?」

 

「神崎くんみたいな人が、一人いるかな?えっと、黄泉岸航くんて人。アリサちゃんの恋人だね……」

 

「フムフム。馬鹿が一人、アリちゃ(?)が落ちた……と」

 

「黄泉岸くんは、一言で言うなら『不誠実』な人かな。アリサちゃんがいるのに、なのはちゃん達にまでアタックしてるの……」

 

「ふーん。翼は、今の話をどう考える?」

 

「そうね。神崎に聞いてみないとわからないけど……アリサを落とした事で、自分が主人公だと勘違いした馬鹿なんじゃないかしら?」

 

「じゃあ、アリちゃ(?)は(仮)憑依転生をされたって事でOK?」

 

「憶測の段階では……ね。憑依転生者が、他の転生者と恋仲になったって事なのかしら?その目的は?……また、神々の嫌がらせ?」

 

「さあ?実際に会ってみない事には何とも……他に変わった事はあるかい?」

 

「最近は、鳴宮海沙姫ちゃんが私達のグループに加わったかな?中学に入ってからの友達なんだけど、スッゴクキレイな女の子だよ?翼ちゃんくらいの……」

 

「ふふふ。ありがとう♪」

 

「ん。じゃあ、フレールくんみんなに伝言。アリサ・バニングス。黄泉岸航。鳴宮海沙姫の三名を調べるように……」

 

「きゅ!!」

 

フレールくんが、敬礼をしてから消えていくのを見送っていつの間にかティーセットを用意していたノエル達から紅茶を受け取る。今、出来る事はやった。ならば、次にやらなければならない事をやろう。

 

「さて……月村忍。君に商談だ。僕達は、これから活動資金を得なければならない。本来なら、犯罪も辞さないのだが……先程の秘薬に、見事食い付いた君にこれらを売り付けた方が良いと結論付けた……」

 

「……………………何かしらね?とても、誉められている気がしないわ……」

 

「???一発必中薬は、御近付きの印として……【瞬間補充・増血薬(C級)】とかどうよ?他には、【超精力バリバリ三日三晩楽しめます!(C級)】とか(笑)……後、【決して尽きない白濁イッパイ(D級)】何てモノもあるよ?」

 

「……………………何故かしら、説明されなくても効果がわかる気がするわ。……それじゃあ、増血とイッパイの方をいただこうかしら?」

 

「おや?精力剤的なのは、いらないのかな?」

 

「そんなモノ無くても、私の魅力で幾らでもさせてみせるわよ?」

 

「ふーん。疲れると、どれだけ魅力的であっても力が入らなくなるんだけどね?滋養強壮剤じゃないけど……【瞬間体力回復薬・妖精の癒し(C級)】・【超継続回復・体力の泉(C級)】何てのは?」

 

「……継続かしら。それにしても、色々あるわね……」

 

「フムフム。何となく見えてきたかな……まあ、魔法薬は劇薬なんでこういうのには向かないけど、妖精の秘薬や錬金術には使えそうなモノが沢山作れちゃうんだよ……」

 

「錬金術は、わかるとして妖精の秘薬?」

 

「悪戯専門薬品。色々、あるんだよ?」

 

「あー……双夜らしいね……」

 

最初からは、ガッツリ買って貰えなかったけれど効果がわかればまとめ買いもあるらしい。流石、商売には厳しい忍だった。まあ、恭にィと夜を過ごした後にまとめ買いがあるだろうから少し作り置きをしておく必要があるだろう。

そこそこ程度売って、出来た資金は神崎に渡しておけば問題ない。これで、活動資金は得られた。

 

「じゃあ、翼はそっちの住居区向かって右側の手前から三番目を使ってくれると良いよ。左側は手前からユーリ、ディアーチェ、僕の順。左側は、前回と同様で禍焔凍真や夜鏡皇也が使ってたのがそのままなんで、君が前に使っていた場所で問題ないだろう?」

 

「ええ、ありがとう。遠慮なく、使わせていただくわ……でも、他の部屋はどうするのかしら?」

 

「もちろん、使わないんだから掃除するよ?因みに、神崎は右側の四番目を使っているから。前に、修行もかねて一番奥を推奨したんだけど……嫌って言われた……」

 

「…………一番奥って、嫌がらせじゃない……ここの住居区って、無茶苦茶深いんでしょう?」

 

だから、修行には持って来いなんじゃないか。

住居区、別名【人が住んでる迷宮区】。

奥行きだけなら、残酷な迄に深い巨大な迷宮と化している。唯一、救いがあるとすれば……エレベーターに動く床完備ってところだろう。まあ、電源は入っていないけど。

 

 

 

 




双夜、悪夢の部屋からスタート!段々、この部屋が恐怖の対象になりつつあるなぁ……www月村家もwwww
そして、『雫さん』……双夜に影響を与えた養母のお話。これが無かったら、双夜はただの悪人でしたので載っけw
アリシアの件が混在しているのは、アレです……前回のsts話を書く前に書いていた物語だったので、その名残みたいな感じです。もう一回、平行世界1のアリシアに会いに行くフラグだと思ってください。

今回のターゲットは、憑依転生者アリサ・バニングス(?)でしたー♪転生者が、転生者に恋愛中!?それによって、周りへの影響があるみたいですね!
はてさて、どうなっているのやらww

妖精薬品が……錬金術薬品が……ヤバイwwww

後、前回双夜の両親の事で書き忘れていた事が……まあ、どうでも良い事ではあるんですが……双夜の実の親族がニートをやっている期間についての記実ですw
まさかの、600年オーバーww即ち、2000年代~双夜が死ぬ頃(2683年)まで、ずっとニートなんですよ!!
普通に社会復帰は、出来ないレベルww
まあ、双夜の死後彼等は全世界を敵に回して逮捕されて斬首刑となりましたけどねww

誤字・方言あれば報告をお願いします。
m(_ _)m

感想もあれば、お願いします!
いつも読んでくれる方々に感謝を……。
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